Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第七章 「触発」のドラマが結ぶ絆  

「子供の世界」アリベルト・A・リハーノフ(池田大作全集第107巻)

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7  「入魂」と「和気」と「触発」
 池田 文学作品に範をとれば「因縁生起」をいろどる「触発」のドラマが、もっともドラマチックに展開されているのが『レ・ミゼラブル』の中の、ジャン・ヴァルジャンと警視ジャヴェルの葛藤でしょう。
 私は、少年のころ、「善」の道を必死に生きようとするジャン・ヴァルジャンを、蛇のように執念深く追い回すこの冷酷な警視が、憎らしくてたまりませんでした。その分、ジャン・ヴァルジャンの「善」の心が、ついに残酷無比なジャヴェルの心を打ち負かすくだりは、まばゆいばかりの光彩を放っていました。
 ジャヴェルの心境を、ユゴーは、こう綴ります。
 「彼の最大の苦悶は、この世に、確実なものがなくなったということだった。彼は自分という人間が根こそぎにされたのを感じた。(中略)彼は暗黒のなかに、まだ知らなかった道徳の太陽が恐ろしくのぼってゆくのを見た。それは彼をおびえさせ、彼を眩惑させた。彼はまさしく、鷲の目をもつことをしいられた梟だった」(齋藤正直訳、潮出版社)と。
 リハーノフ そのとおりです。
 池田 さて、あなたが引用されたフロイトの論文「ある幻想の未来」は、「ある幻想」、つまり宗教の未来を論じ、その幻想性をはぎとることを、趣旨としたものでした。
 その中で、彼は、自分以外のものに頼らず、自分の力を正しく使うべきだと強調します。そして、「氷河時代いらい科学は、人類に多くのことを教えてくれたし、今後とも人類の力をいっそう増大してくれることだろう」(前掲『フロイト著作集』3所収)と述べ、宗教に代わる支えを、科学に求めていました。
 周知のように、その後の近代科学の歩みは、フロイトの言う意味での人間の支えには、とうていなりえないことを明らかにしたと言っても、過言ではないでしょう。ゆえに、私は、真実の宗教こそ、善く生きようとする人々の「入魂」と「和気」と「触発」のドラマの、よき演出者とならねばならないと、深く期しています。
 リハーノフ じつは無神論的世界観は、わが国には、もう生きていないのです。
 ですから、池田さん! 私にとっては、博識の方であり、偉大な仏法の実践者であるあなたの世界観、人間観がとても大事なのです。

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