Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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四 地球生態系との共存  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

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2  科学に取り戻すべき誠実さ
 博士 そこで、私たちの最優先すべき課題は、環境の現状を客観的に査定することです。事実をありのまま受け入れ、独断を排さなければなりません。
 私の見るところ、科学は全体としてあまりにも独断的な意見に満ちており、そのため一つの危機に直面しています。現在の状況はきわめて悪く、一般に普及している独断的な意見に合わない事実が出てくると、その事実は無視されてしまうのです。
 これはきわめて危険な傾向です。科学は常に実験の裏づけのある事実を尊重しなければなりませんし、そこでは誠実さということが最も重要です。
 真実の陳述と虚偽の陳述を区別できなくなった社会は、短期間のうちに消滅する運命を免れません。ローマ帝国の崩壊の原因は、まさにこの事実の無視に帰することができます。
 まず西ローマ帝国の指導者たちが、増大する貧困とますます悪化する経済危機という事実から目をそらすようになり、西のほうが先に滅ぶことになりました。東ローマ、すなわちビザンチン帝国のほうは現実と事実をよくふまえていたので、中世に至るまで存続することができたのです。
 池田 環境問題への現状認識や、そこから導きだされる科学的予測については、まだ不十分な段階にあるように思われます。
 今後、気候変動のメカニズム、地球環境を維持するための森林・大気・海洋の役割、生物の現状と減少の状況、また人類の地球環境への影響等をより正確に認識することが、ますます重要になるでしょう。
 たとえば一九八九年の秋、国連で開催した私どもの「戦争と平和展」の中で、科学物質による環境汚染の一例として、くちばしの曲がった水鳥のデータを示しました。この水鳥は自分で餌をついばむことができない。水にもぐって餌を捕ろうとしてもくちばしが閉じられないために溺れてしまう。その奇形化した水鳥の姿は、人間の近い未来を暗示しているようで深く考えさせられた、と若い友人が語っていました。
 科学の発展によってつくりだされた化学物質は一千種近くに達しているそうですが、その毒性が確認されているものはごくわずかです。なかにはPCBのように、生物の体内に蓄積されつづけ、その生存を脅かしたものもあります。かつて日本で発生した有機水銀による水俣病においても、一部の科学者が企業側に有利なようにデータを隠したり、改竄したりすることもありました。また製薬企業で、医薬品のデータの捏造といった事件もときどき発生しています。たしかに科学にとって最も重要なことは、事実に対して誠実であることです。
 博士 科学をその本来の軌道に戻す唯一の方法は、真理の追究を断念することの危険性を科学者たちに気づかせることだと思います。いま奇形化した水鳥の話をされましたが、これほど強く心に訴える例はほかにあまりないでしょう。
 こうした事実は、もっともっと世間に知らせるべきです。この種の環境災害がエスカレートして、人間を初めとするすべての生物に、そして地球全体におおいかぶさるのを防がなければなりません。そのためには私たちの力の及ぶ限りなんでもしなければならない。それが人間としての義務です。
 池田 前にふれましたが、ジェームズ・ラブロックの〈ガイア〉仮説では、地球上の全生命圏が無数のフィードバックによって相互に関連し、絶対的な均衡をおりなしているとともに、そのうえに大気・海・土壌のすべてを含んだ地球そのものが、生命に最適の状態をホメオスタシスとして維持しています。
 現代文明における人類の行為は、このように幾重にも複合し重層化した地球の生命システムを分断し、修復不可能な状態になるまで追いこもうとしているのです。
 博士 自然界と生物の微妙な均衡についていえば、実は、この均衡を保つための仕組みが自然の中に出来上がっているのです。ですから、どこか少しでもおかしくなると、この仕組みがそれに気づきますし、またそれを食い止めることもできます。そこに人間の知性が割りこんできたときにも、同じ矯正の仕組みが働くはずです。
 しかし人間には環境に手を加え、それを根こそぎ変えてしまうだけの力があります。ですから、なにか間違いが起きたらすぐそれに気づくことができるように、人間の側の意識を高めなければなりません。なかでも絶対に必要なことは、科学技術の成果を誠実に評価するということです。人間や他の生物が今後とも長期にわたって絶滅せずに存続するためには、短期的な個人の利益は犠牲にしなければなりません。
 私は、究極的には真理は勝つものと楽観視しています。科学の分野における不誠実や自己欺瞞もある程度はがまんできます。しかし、その線を超えた不誠実や欺瞞はやめてもらわなければなりません。水鳥の奇形化のような災難がほかの多くの種に及ぶようになってから、やっとなにか手を打つ気になる――そうした事態にならないよう願わざるをえません。
 もう一つ望ましいことは、新しい精神的な力、新しい倫理観があらわれ、その介在によって科学に誠実さを取り戻すということです。これが実現可能になるのは、科学がますます一般大衆の関心事となったときです。一般の人々は当然のことながら本来誠実であり、なにが真実なのかを知りたがっているからです。
3  「依正不二」が重要な視点
 池田 新しい精神的・倫理的な力を生みだす源泉となるのが、人間の価値観や自然観ですが、私は、東洋的な自然観の大切さを強く訴えたいと思います。
 現代科学文明によってもたらされた生き方が、ともすれば便利さのために欲望を拡大し、貪欲と化して、自然を支配し征服するという自然観・価値観に傾きがちなのに対して、東洋の価値観は、自然生態系にも尊厳性を認め、人間自身の物質的欲望を肥大化させることなく、それを精神的なものに昇華することによって自然と共存し、自然の中で生きる自然観を養ってきました。
 東洋においては、インドやスリランカでも、東南アジアや中国でも、そして日本でも、それぞれの民族はたんに物質的・本能的欲望を充足させる生き方ではなく、大自然・大宇宙の神秘に憩いつつ、芸術や学術・文化の華を咲かせる生き方をつくりあげてきたのです。
 仏教では大宇宙、自然界に生きる人間のあり方を種々の法理として理論化し、人生の指針として提示しています。たとえば中国の妙楽大師は、仏教の自然観にのっとって「依正不二」という法理を体系化しました。「不二」は「而二不二」ということですが、このうち「而二」とは、環境(依報)と生命主体(正報)が相互に関連しあい、作用を及ぼしあっている創造的な状態を示しています。
 人類はその誕生以来、自然環境との交渉の中で文化・社会環境を創出してきました。しかし、生命主体と環境とは、現象面においては区分できても、その基盤においては「不二」であり、一体をなしています。人間も環境もともに、その内面においては融合しつつ、宇宙究極の法に根ざしているのです。ゆえに現在、地球生態系が重大な危機に直面しているとき、外的環境(依報)の破壊はそのまま自分自身の生命(正報)の崩壊であり、自己破壊にほかならず、また、人間の内なる崩壊は必ず環境破壊を引き起こしていくとの「依正不二」の法理は、生き方そのものの変革を迫る重要な視点を提示しているといえましょう。
 大宇宙の神秘に思いをはせ、地球生態系の妙なる調和の中で人間が生きていることを考えれば、進むべき道は明らかです。
 博士 おっしゃることに私も大賛成です。この人間生命と環境の相互破壊という深刻な問題は、私たちが環境を無視しつづけた結果として自ら招いたものです。「依正不二」について話されましたが、簡潔で明快な説明だと思います。この原理は、手遅れにならないうちに私たちがなんとしても確立しなければならない世界観を要約しています。
 私たちはもはや、これまでのような無神経な行為、倫理観をもたない極悪の略奪者のような振る舞いをつづけることはできません。そうした〈無分別な生き物〉がこの地球を破壊し、人間やその他の生物をも絶滅させることになるからです。
 池田 多くの環境問題のなかで、人口増加への対策も急務です。資源・エネルギー・食糧問題等の根底に、この人口問題があるからです。今日、とくに開発途上国における人口増加は、爆発的といっても言い過ぎではありません。その根本的な原因として貧困などの社会的問題があります。そのために、本来なら喜ばしいはずの医学の発達による乳幼児死亡率の低下が、人口爆発の原因として挙げられているのです。しかし、生きのびた子供たちは極度の栄養不良に苦しんでいます。
 博士 過去の歴史において、人口増加を抑制してきたのは戦争と疫病と飢饉でした。では今後、私たちが大規模な戦争をうまく回避できるとしましょう。またさらに、たとえ流行病が発生しても、適切な医療によって最悪の事態を克服できるとしましょう。そうしますと、その結果として人口が定常的に増加していくことは、どうしても避けられないでしょう。
4  人口爆発と途上国への援助
 池田 世界人口が地球の資源で支えうる限界に近づきつつあるということですが、博士はどのような見解をおもちですか。
 博士 世界の総人口は現在五十億を超えています。西暦二〇〇〇年までには六十億以上になると推定されます。現在の趨勢を見れば、世界人口は三十年ごとに倍増すると推測していいでしょう。ということは、二〇三〇年までには百二十億の大台を超えることになります。これは重要な数です。なぜなら、それはたぶん、地球が養うことのできる絶対的な限界に近い数だと思われるからです。
 地球の生物圏は本来、私たちの食物連鎖の出発点である藻類や植物が日光を利用することによって維持されています。百二十億の人間を適度の健康状態で生きつづけさせるだけでも大変なエネルギーを必要とします。ですから百二十億という数は、人類が存続できる絶対的な限界に近いものといっていいでしょう。もちろんこの計算は、資源が均等に分布していると想定したうえでのことです。
 だが、これは現実とはまったく違います。現実の世界では、世界人口のうち餓死寸前の人々の占める割合が、西暦二〇三〇年には現在よりもさらに増えるだろうと予想されます。このように見通しはまことに暗澹たるものです。
 池田 かつてローマ・クラブの創始者アウレリオ・ペッチェイ博士は、人口問題には深く浸透した産児の習慣、人間としての権利と義務の複雑な絡みあい等の難問がつきまとっていることを示されたうえで、次のように述べていました。
 「これらの複雑な要請があるからといって、現今の世界的な難局の中で人々が自ら採用しあるいは支持している、啓発的で効果的な家族計画や人口政策の必要性が排除されるわけではありません。そしてまた、これらの要請を口実に、どんな種も自らの生存が脅かされうるところまで増殖することはできないという、絶対的な生命の法則が忽せにされてもなりません」(アウレリオ・ペッチェイ、池田大作『二十一世紀への警鐘』読売新聞社)
 私も全面的に同意しました。私は、あらゆる人間の行動は生命の尊厳に立脚しなければならないという理念に立っておりますが、受胎前に出産をコントロールする家族計画は、生命の尊厳に背くものではないと思っています。
 博士 家族計画によって人口を抑制するために、もっと効果的な方策を考案し、全世界的な規模で、おそらくは強制的に実行しなければならないでしょう。
 世界の人口を制限するためには、すべての人の一致協力が必要です。それ以外に考えられる施策はみな、はなはだおぞましいものばかりです。もちろん将来、流行病(たとえばエイズ)によって人口が抑制される可能性もありますが、それは歓迎すべきことではありません。
 もう一つ学界等で論じられている可能性があります。それは、私たちは思い切って宇宙に進出し、そこに自給自足のスペースコロニーをつくる以外にないだろうということです。私に言わせれば、これはたんなる空理空論であり、厳しい現実との対決から逃避しているにすぎません。
 池田 さらに私は、人口爆発がつづいている地域が発展途上国であることを考えると、これらの諸国の貧困の解決のために先進諸国の援助が急務だと思います。
 発展途上国における貧困が労働力確保のために子供を必要とし、多産多死の状況が貧困を加速するという悪循環を断ち切らなければなりません。これらの諸国が豊かになるための援助――それには財政・技術・教育等が含まれます――が、結局は人口爆発をしずめる有効な手だてとなるはずです。

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