Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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七 二十世紀の技術の成果について  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

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1  全世界的な通信網
 池田 さて今世紀は〈技術の世紀〉ともいえます。たとえば、人類が初めて大空を飛んだのも今世紀で、それは一九〇三年のことでした。人類が原子の力を原子炉の中の核分裂によって手に入れたのは一九四二年のことです。DNAが二重螺旋構造をしていることが発見されたのは一九五三年で、その後、遺伝子組み替えの技術が大きく進歩しました。
 こうしたなかで最も人類に恩恵を与え、変化をもたらしたのは何でしょうか。
 博士 これは非常にむずかしい問題です。むずかしい理由は単純です。今世紀の発明・発見があまりにも豊富だからです。しかも、それが基礎物理学から生物学や天文学に至る広範囲の研究分野にわたっているからです。そのなかで、私個人としては、最大の発明としてコンピューターを挙げたいと思います。
 池田 あらかじめプログラムを機械に挿入して計算を自動的に行わせたのは前世紀のことだと聞いています。十九世紀の前半に、イギリスの数学者チャールズ・バベッジがエイダ夫人の力を借り、生涯をかけて、さまざまな積分を機械的に計算しようとしたのは有名な話です。もっとも、その当時の機械技術では複雑な微分方程式を解くまでにはいたらなかったようです。
 博士 そうです。バベッジが試験的に始めたのを皮切りに、今世紀における電子工学の発達により、コンピューターの進歩に拍車がかかりました。実際に働くコンピューターがつくれるようになったのは、一九四八年にブラッティン、バーディーン、ショックレーらがトランジスターを発明し、その後、今日マイクロチップと呼ばれている大規模集積回路(LSI)が発明されたからです。これらの発明によってコンピューターの分野にさまざまな革命が起こり、ついに一秒間に数百万の命令を実行できる全能のパソコンが出現したのです。
 今やマイクロチップは数多くの日常的な要請に応じています。たとえば、家庭用電気器具や銀行の自動預金引き出し装置(ATM)、航空機の航行用計器などに使われていますが、これらはほんの一例にすぎません。
 また、いうまでもありませんが、さらに開発が進んだ毎秒数兆の命令を実行できるスーパーコンピューターも現われました。これによって、科学者は宇宙の仕組みを計算で調べることができるようになりました。一般的にいえば、コンピューターはあらゆる職業の能率を高めることに役立っています。二十世紀末の今日、コンピューター抜きの生活はほとんど考えられません。
 池田 コンピューターは、情報通信との関連性も重要ですね。日本でも一九六四年に金融機関でオンライン・リアルタイム・バンキングが始まり、その速さに驚いたものです。今では世界のどこにいても一瞬にして信用が与えられます。〈緑の窓口〉で即座に列車の切符が予約できるようになったときも驚きました。
 電話(プッシュホン)の仕組みもコンピューターの働きそのものですから、さまざまな情報通信が可能になるとも聞いています。
 博士 コンピューターの開発を通信衛星の開発や光ファイバーの開発と関連づけて考えてみますと、私たちは電子機器による全世界的な通信網をもっていることになります。それはまさに目を見張るほどの大規模なものです。
 今や私たちは世界中どこにいようと、何千マイル離れていようと、お互いに会話することができます。ファックス通信やテレビの画像を送ることもできます。その容易さに私たちはすっかり慣れっこになっています。
2  知性輝くネットワークの拡大
 池田 こうした技術革新がどこまで世界を変えていくと博士はみていますか。
 博士 通信の動向がいつかは行き着く当然の結果として、人間社会は知性をもった一つの巨大な生き物のように機能し始めるにちがいないと思っております。
 個々の人間と下等動物を区別する最も重要な特性は、結局のところ、脳と神経系にあるのではないでしょうか。これによって人体の各構成部分が相互にすばらしく効率的な交信を行い、迅速に情報処理をしているのです。それと同様に、電子技術によって相互に連絡のとれた人間社会とそうでない社会とでは、前者のほうが比較にならないほど効率的で強力なものになると考えてよいでしょう。
 池田 そうしますと、今後、ますます各個人が対等の立場で、そのような緊密で有機的な社会に参加していけるように保証していくことが、重要になってくると思われます。個人個人が必要な情報をもち、それを急激に変化する社会の中で共有できることが大事です。一人ひとりが大事なのです。
 博士 こうしたさまざまな進展は、将来、必ずやいっせいに開花するにちがいありません。それもおそらく比較的近い将来のことでしょう。
 これについて思いだすのは、アメリカの小説家ナサニエル・ホーソーンの小説『七破風の屋敷』の中の一節です。これは、前世紀、一八五一年に書かれたものですが、次のように記されています。
 「電気の力によって、物質界が、あっという瞬間に数千マイルにわたって震動するひとつの偉大な神経となったということは、事実でしょうか(中略)いや、むしろ、このまるい地球そのものが、巨大な頭、知性に満ちあふれた頭脳にほかなりません!」(大橋健三郎訳、『世界文学大系』25に所収筑摩書房)
 池田 一八五一年といえば、まだ、電磁場の基本法則であるマクスウェルの方程式が見つかる十年も前ですね。そして、ハインリッヒ・ヘルツが電波の存在を実証し、電波を送ることによって、数千マイルにわたって電気の力を伝え、その力で物質を振動させることができたのは、はるかに後のことです。このようなときに将来の地球の姿を見ている作家の眼力には驚きます。
 今や地球上には情報のネットワークが張りめぐらされ、まさに地球そのものが複雑多岐で高度の神経系を備えた生き物のように活動しています。やがて来たるべき世紀には、この惑星から宇宙空間へと、知性に輝くネットワークを広げていくことでしょう。
 博士 私は、二十一世紀がどのようなすばらしい通信技術を提供して、どのような世界が現出するか、胸をわくわくさせて待っております。

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