Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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一 詩と科学と  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

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9  強く引きつけられた仏教
 博士 人間には、自分の存在理由は何なのか、どのような方向に向かっているのか、を見定めようとする基本的な欲求があると思います。方向の定まらない人生は、ドライバーなしで走る車のようなものだからです。人間の性質として、宇宙の中での自身の位置を知ろうとするのは当たり前のことです。また、そうした探求の中から宗教が生まれてくるのも当然のことといえます。
 また知性をもつゆえに、宇宙を考え、他の生命の存在にも配慮していける唯一の生物が人間です。地球に限っていえば、他の生命に寄生せずに自給自足できるのは植物だけです。人間も多くの生物のおかげで生存することができるのです。そのことを自覚し、他の生命への思いやりをもつところに、人間性の究極の証明もあると思います。
 池田 その意味でも、生命を慈しむ心、宗教心の復活が大切ですね。
 博士 そのとおりです。宗教心や倫理観の欠如が、今日、暴力の横行や弱者への冷酷さとなって表れています。今こそ生命の尊厳が、ぜひとも確立されなければならないと思います。ですから、私は仏教に強く引きつけられるのです。
 池田 生命の尊厳の確立といっても、生死の問題を解き明かした正しい生命観に立脚してこそ可能となります。これから順次、論じ合いたいと思いますが、生死の問題こそ人間にとって最重要の課題です。
 しかも生死の問題は人間ばかりでなく、動物や植物においても、さらには宇宙でも星の誕生と死の壮大なドラマが繰り返されており、生死の法則は宇宙に共通する法則であります。
 中国の天台大師は「起はこれ法性の起、滅はこれ法性の滅」(『摩訶止観』巻五上、大正四十六巻)と説き、現象の生起もその消滅も、ともに宇宙永遠なる〈法〉の顕在化と潜在化にほかならないことを示しております。日本の伝教大師は「生死の二法は一心の妙用」(『天台法華宗牛頭法門要纂』、『伝教大師全集』巻五上)と説きました。生も死も「一心」という人間内具の生命の働きであることを示しました。
 さらに日蓮大聖人は、「天地・陰陽・日月・五星・地獄・乃至仏果・生死の二法に非ずと云うことなし」と結論されております。
 わが生命の内奥に宇宙と人間とを貫く不滅の〈法〉を自覚し、その〈法〉にのっとって生き抜いていく。そこに一切を希望・価値・調和の方向へと回転させていく生き方が開かれていきます。最高に福徳に満ちた生命の軌道を歩んでいくこと――それが仏教の実践なのです。
 博士 興味深いことですが、今日、西洋の科学者の大半は、キリスト教の諸教義に対して本能的とさえいえるような拒絶反応を示しています。なかには東洋の哲学に知的な刺激と洞察力を求めようとする人もおります。例えば、フレッド・ホイルの信念はキリスト教と合致したことは一度もありませんが、仏教の教えるところとはほぼ一致しております。
 池田 ホイル博士と響きあうものはもともと備わっていたのですね。宇宙と生命とを貫く永遠なるものを探求する道程において、真実の師に出会い、師との深い思い出をもつ人生ほど、美しく充実しゆく幸福の境涯はないといえましょう。
 いみじくも博士は、十九歳のときホイル博士とイギリス湖水地方を散策した至福のときのことを語られましたが、私も人生の師と決めた戸田第二代会長に出会ったのが、十九歳のときなのです。
 師との思い出を大切に温め、師を誇りとし、師の理想を実現していく。そこには人間としての至高の〈道〉があり、いやまして英知の光が輝きわたってくると思うのです。

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