Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

はじめに  池田 大作  

「宇宙と人間のロマンを語る」チャンドラー・ウィックラマシンゲ(池田大作全集第103…

前後
1  チャンドラ・ウィックラマシンゲ博士と初めてお会いしたのは、一九八八年八月の、暑さも峠を越した晩夏の午後であった。来日された博士と東京・渋谷で、宇宙と生命について意見を交換したのを懐かしく思いだす。博士の簡明で率直な話しぶりは、まことにさわやかであった。以来、東京で一回、ロンドン郊外のタプロー・コートで二回、対談を重ね、最近では長野県の霧ヶ峰で、本書の出版の打ち合わせを行なうなど、親しく懇談する機会をもった。
 博士とのご縁は、博士がイギリスの出版社の依頼を受け、私の対談集『生命と仏法を語る』の英語版に、序文を寄稿してくださったことに始まる。その後、博士から会見の要望が寄せられ、前記の会談となった。
 ウィックラマシンゲ博士は、星間粒子の宇宙塵と有機理論の先駆的な研究で世界的に有名な天文学者である。
 その博士が天文学を志す決定的な動機となったのは、祖国スリランカからイギリスのケンブリッジ大学へ留学し、そこでフレッド・ホイル博士に出会ったことである。ホイル博士は、「定常宇宙論」を提唱し、恒星における化学元素の合成を解明した、世界的な天文学の権威である。また『暗黒星雲』というSF小説を著すなど、幅広い活躍をされている。ホイル博士は、自身が教導する数少ない研究生のなかに、ウィックラマシンゲ青年を受け入れてくれたという。
 イギリスに渡った、この青年の胸に今も焼きついて離れない光景がある。それは、十九歳のとき、ホイル博士といっしょに、少年時代から愛読したワーズワースが詠んだ湖水地方を散策した思い出である。この、青年時代に築かれた師弟のきずなを、ウィックラマシンゲ博士は生涯大切にし、師弟の共同研究で天文学に独自の道を切り開いてこられたのである。
 博士は、天文学と数学を専門とされているが、イギリスの文学はもちろん、スリランカの仏教美術や日本の俳句にも深い関心をもち、俳句風の英詩を二冊出版されている。人類と地球の未来に熱き思いをはせ、「いま私たちは何をなすべきか」を思索されている。どこまでも科学的な眼をもって事象を見つめる半面、科学の限界にも思いをいたし、〈真理の追究者〉として人生を歩まれているように思う。
 その博士が四年前、私との最初の出会いの折に、「ぜひとも対談をつづけましょう」と提案された。私も喜んでお受けした。私は仏教を学び、釈尊や日蓮大聖人の説かれた宇宙観・生命観に感銘を深くし、かつ人類の平和と幸福を願い行動してきた人間である。天文学者である博士と語り合うことによって、科学と仏教の接点を探るとともに、恒久平和への道を展望することができれば、と考えたのである。
 一九九一年六月二十八日、タプロー・コートで博士と会談したときには、幸いにも、博士の恩師であるホイル博士も遠路、ご多忙のなか、お見えくださり、楽しく有意義な語らいをもつことができた。そうしたご縁で、ホイル博士に、この対談集への序文を寄稿していただいたことを、心から感謝している。
 『「宇宙」と「人間」のロマンを語る――天文学と仏教の対話』と題する本書では、上巻で宇宙と人間を、下巻で人間と生命と文明を中心に論じたことをお断わりしておきたい。
 本書は、現代社会がかかえる諸問題に、結論を提示するものではない。その解決のための一つのアプローチを示したにすぎない。本書を手にされた方々が、科学と仏教の知見から、なんらかの示唆を得ることができ、東洋の仏教のもつ英知にふれる一助ともなれば、幸いである。

1
1