Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

第五章 日本の進むべき道  

「文明・西と東」クーデンホーフ・カレルギー(全集102)

前後
2  仏教による宗教ルネサンス
 池田 日本が進むべき道としてあなたの言われた「世界平和のためにベストをつくすこと」と「太平洋文明を築くリーダーシップをとること」は、非常に貴重な示唆であり、また、この二つは表裏一体をなすものとして考えなければならないと思います。
 なぜなら、過去において、一つの文明が興隆するということは、必ずといってよいほど、戦争、すなわち武力侵略と結びついてきたからです。
 ギリシャの文明がアジアに大きい影響をおよぼすにいたった機縁は、アレキサンダー大王による征服戦争でした。古代の地中海沿岸の諸文明が、その頂点に達したのも、ローマが武力によって広大な帝国を築きあげたことによってでした。
 また、近世ヨーロッパの文明が、世界にひろまり、世界を制覇するにいたったのも、その植民地主義、帝国主義的侵略の結果なされたものであることは否定できません。
 したがって、そうした歴史的事実から考えると、太平洋文明を築くという課題と、世界平和のためにベストをつくすという使命とは、およそ両立しがたいようにも思われるのが普通でしょう。
 しかし、だからこそ、これを両立させることに大きい意味があると思うのです。このことは、日本がめざすべき″明日の文明″の実体が、これまでの″文明″とは異なったものでなければならないということではないでしょうか。
 クーデンホーフ そのとおりです。日本が世界に向けて輸出すべきものは、たんなる物や技術だけではありません。もちろん、それらについても優秀なものをめざすべきであり、この点、すでにヨーロッパの水準に達している日本にとっては、不可能なことではありません。
 しかし、もっと大事なことは、偉大な思想を外国に向かって、世界に向けて紹介することです。私は、その時が、すでに来ていると信じております。
 その偉大な思想とは、インドに起こり、中国を経て、日本で大成した、平和的な、生命尊重の仏教の思想です。
 池田 それは、私自身、これまでも真剣に取り組んできた問題です。これからも、生涯の念願として、世界の平和のため、人類の幸福のために、微力をつくす決意でおります。
 クーデンホーフ 平和的な文明の興隆にとって、欠かすことのできない条件は、力と調和の両方を統合することです。
 日本は、これまでも、アジアの伝統である調和を犠牲にすることなく、西洋世界の技術革新の力を自分のものとすることに成功しました。その成果は、今日、経済大国の一つとして成長をつづけていることに現れていると思います。この成果こそ、明日の平和な太平洋文明の指導理念となるべきです。
 池田 力と調和の両面を統合していくことが、平和的な文明の興隆の、不可欠の条件であるというお考えには、まったく賛成です。
 ただ、現在の日本が、はたして、この困難な仕事に成功しているかどうか、私は疑問視せざるをえません。むしろ非常に深刻なアンバランスにおちいっているというのが、日本国民の大多数のいだいている実感ではないでしょうか。
 確かに、近代以前の日本には調和をなにより大事にする、良い伝統がありました。あまりにも調和を重んずるあまり、停滞的でさえあったようです。その反動として明治以後の日本は、調和を犠牲にして″力″を追求してきました。
 ただ、希望がもてることは、国民の多くが、このアンバランスに対して、今、深い反省を始めていることです。もし、たんなる反動に走るのでなく、力と調和を見事に統合できたなら、それはあなたの言われるように、新しい文明の興隆にとって、偉大な指導理念となりうるでしょう。それはわれわれにとって、今後の大きな課題ですね。
 クーデンホーフ なるほど、その社会の内部に入った場合、さまざまな矛盾や苦悩があることは十分わかります。
 しかし、大局的に、他の文明と比較してみた場合には、日本は、やはり、最も成功をおさめた国であると思います。また、今、さまざまの苦悩をかかえているにせよ、それを乗り越える可能性を、十分にもっていると私はみています。
 日本は、ヨーロッパ文明を師匠とした、この百年より以前は、インドの仏教と中国の儒教の弟子でした。日本人は、これら三つの道場で修行を積み、インスピレーションを受ける一方、それを太古の昔から伝えられてきた独自の伝統に融合させることによって、ヨーロッパよりも優位にさえ立つにいたっています。
 ヨーロッパはいわゆる民族大移動の時代以来、過酷な歴史を切りぬけてきました。しかし、その基盤となったキリスト教は、近代科学との衝突の結果、みじめな敗北を重ね、今では文化と社会をリードする力を失ってしまっています。
 こうしたヨーロッパの文明は、大海原の真っただ中で魚雷に当たった豪華船に、なぞらえることができます。船客が、ぜいたくに酔いしれている間に、船体は徐々に、しかし、一瞬の休みもなく沈んでいく――。キリスト教の哀退につれて、それに由来する道徳も崩壊しているのです。
 ヨーロッパにおいても、アメリカにおいても、その道徳の基礎となってきたキリスト教が、現実逃避の泥沼にはまり込んでいるときに、日本において、仏教による宗教ルネサンスが勃興していることは、偉大なことだと思います。
 池田 その日本人自身が、まだ仏教を形骸化した宗教としてとらえています。これは非常に残念なことです。仏教哲学の真髄を知ったならば、その生き生きとした哲理の永遠の新しさに驚くにちがいありません。明日の人類文化の興隆をもたらす″生の躍動″の源泉は、まさにここにあると信じております。
3  世界平和へ発信
 クーデンホーフ 二十一世紀の新しい太平洋文明の世紀を、現代の大西洋文明の世紀よりも、優れたものとするためには、なによりも日本が、世界平和のために貢献していかなければなりません。この新しい太平洋文明に向かって着々と準備することこそ、日本の果たすべき重要な役割です。
 そのためには、日本が、これまでのように西欧文明によりかかって、その西欧文明にのみこまれてしまっていたのでは、この重大な責務を果たすことはできません。日本は、アジア的でも、アメリカ的であってもならない――どこまでも日本的であるべきです。
 池田 まったく同感です。創造性と独自性こそ、これからの世界文明に貢献する道であるということですね。世界平和に寄与するということは、その創造性、独自性の上に立って、幅広い寛容の精神を貫き、人間対人間の真心の対話を繰り広げていくことではないでしょうか。
 クーデンホーフ そのとおりです。日本が世界に向けて輸出すべき思想は、あくまで日本人によって消化され、創造性を加えられた、生まれ変わった仏教でなければなりません。
 というのは、これまで、本当の意味で仏教がヨーロッパに受け入れられなかった理由は、それが、心情の面でヨーロッパと、あまりにも隔たりのあるインド、ネパール、チベットあたりから来たものだったからです。
 日本からの仏教であるならば、これらの国々からの仏教よりも、ヨーロッパにとって、はるかに受け入れやすいでしょう。
 池田 日本の将来の進むべき道として示された「世界平和のためにベストをつくす」という点について、具体的なお考えを聞かせてください。
 クーデンホーフ 日本が世界平和への使命を遂行するには、ちょうどスイスがヨーロッパで果たしている、偉大な先例にならうべきだと思います。
 今日、世界には、共産主義による世界革命と、民主主義の名において行われている反共主義との対立・相克が冷戦をもたらし、また、世界の一部では熱い戦争がつづいています。
 このなかにあって、日本は左右両勢力の、いずれの陣営にも絶対に加担することなく、断固、平和主義と完全中立と内政不干渉の原則を貫くべきです。
 また、アジア、アフリカなどのすべての諸国に対しても、民主主義たると共産主義たると、あるいは軍事独裁制たるとを問わず、他国の内政問題には、一切、くちばしをさしはさまない原則を貫くべきです。
 また、日本は、決して日本型民主主義を他国に押しつけるべきではありません。分割された二つの世界のなかで、日本は、あくまで中立を堅持すべきです。万一、将来、中ソ紛争が起こったとしても、厳に中立を守るべきです。不幸にして戦争になったとしても、日本のもっている文化的重要性のゆえに、厳正中立を守ることは、決して不可能ではありません。
 池田 完全中立を貫くということは、世界の平和を守るためにきわめて大事な点だと思います。過去の二度の大戦をみても、各国がいろんなつながりで、次々に参戦していったことが、惨禍を拡大した根本原因になっています。
 ふたたび大戦の惨劇を引き起こさないためには、他国にいかなることが起きようと、内政には干渉しない、また、いかなる紛争が起きようと、そのいずれにも加担しないという原則を各国が貫くことこそ大切です。
 完全中立というのは政治的・外交的姿勢だけを見れば、確かに消極的なようですが、平和にとっては、それが積極的な意味をもつし、より本源的には、対立・抗争の底流をつくりだしている思想・イデオロギーの対決を解消する、より高次元の思想の輸出が、平和を築く大きい力となっていくわけですね。
 クーデンホーフ 日本人が、世界平和建設に向かって進路をとり、その指導者としての役割を果たすとき、世界は初めて新しい時代の夜明けを迎えることができるでしょう。地球上の男女一人のこらず、生活の保障と福祉を与えられる、美しい平和な時代が到来することでしょう。
 池田 最後に、あなたが、今後成し遂げたいと考えていらっしゃることをお聞かせください。
 クーデンホーフ 日本とヨーロッパの関係を、より緊密にしていきたいと願っています。日本は、アジアやアメリカとの関係ほど緊密な関係を、ヨーロッパに対してはもっていません。
 したがって、私は、ヨーロッパに「日本の友」という委員会を設立し、日本に「ヨーロッパの友」という委員会をつくることを決めました。
 すでに述べたように、現在のヨーロッパは、沈みゆく客船のようなものです。それに対して、日本は新しい宗教ルネサンスのもとに、輝かしい未来に向かっています。やがて、これまでの大西洋文明の時代は、太平洋文明の時代へと移行することでしょう。
 ヨーロッパは、すべからくこの時代の流れを虚心坦懐に認め、日本に学び、日本と連携を密にしていくべきだと思います。
 そして、互いに結束して、資本主義の金権政治や、全体主義から人類を守り、同胞愛をもってする世界政府を建設していかねばなりません。
 人間的博愛と平和を推進することによって、自由と平等という二つの理想を和解させ、両立させつつ実現することをめざすべきです。「悲観的なビジョンを楽観的な行動で克服しよう」というのが私の座右の銘です。
 池田 どうも長時間にわたる有益な対談、大変ありがとうございました。ヨーロッパと日本のためにも、世界平和実現のためにも、あなたのますますのご健康とご活躍を祈ってやみません。
 クーデンホーフ 私も、日本のため、また世界のため、この重大な時に、あなたのご活躍を大きな期待をもって見守っております。

1
2