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日蓮大聖人・池田大作

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第二章 国連の現実  

「文明・西と東」クーデンホーフ・カレルギー(全集102)

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13  日本を見る目
 池田 話をふたたび日本へ一戻しましょう。あなたを含めて、ヨーロッパの人々は、最近の日本をどのように見ていますか。
 クーデンホーフ われわれは日本を世界の大国の一つと見ています。とくに日本の経済成長はめざましい。
 戦前のヨーロッパでは、日本製品といえば、安物の三流品と考えられていました。今は違います。日本の製品は、ヨーロッパの製品と同等に見られています。その結果、日本の国際的地位と声望が高まっており、畏敬ともいうべき見方にさえ変わってきています。
 もっともその反面、ヨーロッパの経済界で、日本の輸出力に対する警戒心が強まっていることも事実ですが。
 池田 日本には″エコノミック・アニマル″という自嘲的な言葉がありますが……。
 クーデンホーフ 私の知る範囲では、ヨーロッパで日本人のことをエコノミック・アニマルと呼ぶ人はいないようです。日本に対しては、尊敬と警戒の念が確かに入りまじつていますが、軽蔑しているようなことはありません。
 池田 アメリカやカナダでは、日本が安売りで国内産業を脅かしたり、また資源を買いあさり、物価をつりあげ、自然破壊もお構いなし、といった敵意に満ちた対日感情も一部にあることは見逃せない事実です。
 経済交流が深まるにつれて、先進諸国の対日感情には微妙な変化が表れてきています。ヨーロッパにも、日本の経済発展を恐れる気持ちがある、ということは、日本にとって重大なことだと思います。
 われわれは、警戒が恐怖となり、憎悪に変わって、やがてそれが平和を脅かすものとならないように注意しなければなりません。
 かつて、ドイツ皇帝ウィルヘルム二世は、いわゆる黄禍論を説きました。今日でも″イエロー・キャピタリズム″といった敵意に満ちた見方が一部にあるようですが、それにあたるような対日感情が、今のヨーロッパにもあるのでしょうか。
 クーデンホーフ かつての″黄禍″という考えは、日本に対する警戒ではなくて、中国に対するものでした。
 ヨーロッパには、七億の人口をかかえる中国が、世界制覇をねらって、将来ヨーロッパと戦争を引き起こすのではないか、と恐れている人が事実かなりいます。だが、この黄禍という感情は、ヨーロッパに関するかぎりは、日本とは関係ありません。
 池田 そういう対中国観のような憎悪や恐怖をかきたてるイメージやアジテーションは、早くこの地上からなくしたいものですね。私は、中国は本質的には、攻撃的というよりは、むしろ防御的であると考えております。
 ところで、ヨーロッパからも注視され、警戒されている日本の経済成長ですが、GNP(国民総生産)はなるほど自由世界第二位になりましたが、同時にさまざまな歪みが国内でも対外的立場でも出てきているわけです。
 したがって、GNP第一主義については強い批判と反省があり、GNPに代わるべき新しい指標を探している状況です。
 その国内における歪みの第一として挙げられるのが、自然環境の破壊と汚染です。現実に、自然の美しさは無残にも破壊され、多くの人々が企業のまきちらす毒物によって、命を奪われたり、身体障害者になったりしている状態です。
 クーデンホ…フ 私は、ヨーロッパと日本は、地球上で最も美しいところだと考えています。私が自分の著述の中で、母の国であり私の生地である日本を「美の国」と名付けたのも、このためです。
 日本は、その美しい自然を守るために、あらゆる対策を講ずべきだと思います。
 池田 ヨーロッパでは、環境破壊の問題に、どのように取り組んでいますか。
 クーデンホーフ われわれもじつは、この問題の対策と研究に着手したばかりです。西ドイツ政府は、公害対策の熱心な提唱者ですが、ヨーロッパ各国の政府は概してまだ、問題を調査し、検討している段階で、根本的な解決策を講ずるまでにはいたっておりません。イギリスが、この分野では最も先進国でしょう。
 池田 私は、公害は本質的には現代文明のもつ矛盾の現れだと思います。とくに、それは人間による自然征服という論理のもたらした結果と言えるのではないでしょうか。
 人間の征服欲は、人間同士では戦争という形をとり、自然との関係では破壊という形で現れているわけです。樹齢幾百年の原始林も、開発という名のもとに、無残にも次々と切り倒され、野生の生きものは、日に日に姿を消しています。
 農薬のため、蝶やトンボが絶滅するさまを描いたレーチェル・カーソン女史の著書『生と死の妙薬』(=『沈黙の春』の一字一句が、私には今、現実となって胸に迫ってくる思いです。

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