Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第一章 アジアと西欧  

「文明・西と東」クーデンホーフ・カレルギー(全集102)

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12  深刻な人種問題
 池田 アメリカといえば、黒人と白人の、いわゆる人種問題が深刻になっていますね。
 クーデンホーフ この問題の解決は、非常に困難です。
 池田 私は、人種問題は、人類にとって、重要な課題だと思います。これを解決するためには、生命の平等観を実現する、新しい宗教理念を根底にしなければならないと考えますが、いかがでしょうか。どのような対策も、そうした精神的基盤があってこそ、初めて生きてくるものです。
 クーデンホーフ あなたの言われる生命の平等観というのは、人種、民族といった、起源などの異なる人たちに、すべて平等の権利、平等の機会を与える、仏法の生命観だろうと思いますが、私も同感です。私は、人間同士、心と頭脳に判断の基準を置くべきだと考えているからです。
 池田 私は、人種問題は、たんなる皮膚の色の相違によって起こるのではなく、深く立ち入って言えば、結局は人間の内部にある差別意識によって、引き起こされるものと考えます。
 アメリカやヨーロッパには、長い間、アジア人やアフリカ人などを軽蔑する考えが定着してきたように思えますが、こういう偏見は、まつたく是正されるべきですね。
 クーデンホーフ そのとおりです。白人が他の人種に比べて、優れている、という意識は、今世紀初めあたりから、徐々にですが衰えてきています。その最初の打撃が日露戦争だったわけです。今日では、多くのコーロッパ人が、黄色人種の優秀性を理解するようになってきました。
 私は、シンガポールに住んでいたヨーロッパ人の何人かに会ったことがありますが、彼らはヨーロッパ系の銀行よりも、中国人の銀行と取り引きするほうが良い、と言っていました。中国人のほうが正直だから、ということでした。
 現在、教養あるヨーロッパ人で、黄色人種がヨーロッパ人よりも、知的に劣ると信じている人はおりません。
 しかし、いまだに変わっていないのは、白人と黒人との関係です。なぜ、白人は黒人を蔑視するのかと言いますと、それは、白人はセッセと働いて、人類の文明を築いてきたのに比べて、黒人は何もしなかった、という意識が一般にあるからです。もちろん、将来は、黒人ももっと文明に貢献することになるでしょう。
 忘れてならない事実は、白人と黒人の混血であるエジプト人が、西洋文明の基礎をつくったということです。また最近では、ガストン・ムネルビイルという人が、フランス上院の議長になりましたが、この人は黒人です。アフリカの黒人国、セネガル共和国のレオポルド・サンゴール大統領は、最も知性の優れた人物の一人として、フランスでは高く評価されています。
 今後、人種的偏見は、しだいに姿を消していくと思いますが、現在はまだ、根強いですね。アメリカでは、人種的偏見が原因で、内乱さえ起こりかねないありさまです。
 池田 ユダヤ人問題については、どう考えますか。
 クーデンホーフ アメリカの黒人問題と反ユダヤ主義とは、大きな違いがあります。というのは、反ユダヤ主義というのは人為的なもので、人種問題ではないからです。
 ユダヤ人は白人系で、そのなかでも最も知性的に優れた民族です。ほとんど毎年といってよいくらい、ユダヤ系の人がノーベル賞を受賞していますね。ユダヤ人は、何世紀にもわたって迫害されてきたので、優秀な人だけが生きのびてきたのかもしれません。アメリカとヨーロッパでは、反ユダヤ主義は、もはや深刻な問題ではありません。
 けれども黒いアメリカ人と白いアメリカ人の争いは、現在および将来にわたって、最も深刻な問題でしょう。その意味で、アメリカの将来はヨーロッパの将来よりも大きな危機をはらんでいる、と言えます。ヨーロッパでは、皮膚の色による人種問題は解消されつつあるのです。
 池田 私は、人種差別は、人間の内部にある差別意識が引き起こすものと考えていますから、ユダヤ人問題と黒人問題は、本質的には同じ根だと思います。
 アジアとヨーロッパの融合、また異なった民族や人種間の接触は歴史上、さまざまな紛争や戦争を生んできました。
 しかしこれからの世界は、異なった民族や文化土壌をもつ人々が、あくまで平和的に、地球上の運命共同体の一員として、共存していくものでなければなりません。私は、そうした世界平和への理念として″地球民族主義″をかかげたいと思います。

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