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日蓮大聖人・池田大作

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全国最高協議会(3) 君よ! 諸葛孔明の名指揮を

2003.8.4 スピーチ(2003.7〜)(池田大作全集第95巻)

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1  孔明の将軍学に学ぶ
 諸葛孔明――恩師戸田先生が、こよなく愛した英雄であった。
 先生を囲んで『三国志』を学んだ青春の日々が本当に懐かしい。
 諸葛孔明が活躍した三国時代金(三世紀)、中国では、大国の「魏」が全土を支配する勢いであった。そこで孔明が考えだした有名な戦略が「天下三分の計」である。
 曹操の「魏」、孫権の「呉」、そして孔明が仕えた劉備の「蜀」――三国がせめぎ合う嵐の時代のなかで、孔明は、蜀の国の命運を担い、勇敢に戦いぬいたのであった。
 きょう、ここに集った皆さんは″創価の諸葛孔明″ともいうべき指導者の方々である。
 これまでも何度か、お話ししてきたが、さらに孔明の将軍学、人材育成法、戦いに挑む姿勢などを、孔明に関する諸著作から紹介したい。
2  孔明いわく。
 「為政の道は、多聞に努むるにある」(『諸葛亮集』中華書局)
 皆の意見に耳をかたむけよ――これが孔明の将軍学の一つであった。
 大勢を指導する立場の人は、一方的に話すだけではいけない。
 皆の意見を聞き、さまざまな問題点を吸い上げ、知恵を結集していく。そこから、新しい前進の大波が広がっていくのだ。
 孔明自身、「参署」という機構を設け、そこに各方面の代表を集め、会議を開き、多くの意見に耳をかたむけている。(章映閣『《史伝》諸葛孔明』村山孚編訳、徳間書店、参照)
 孔明は、率先の人であった。「上の為すところは人のる(見る)ところ」(前掲『諸葛亮集』)と語っている。
 指導者は皆の模範でなければならない。
 時を逃すな――これが孔明の連戦連勝の勝負哲学であった。
 「貴重な璧(=玉)を惜まないで僅かの時間を惜むのは、〔物事の〕機会は遭遇し難く〔逆に〕失い易いものだからである」(中村史朗『諸葛孔明語録』明徳出版社)
 好機を逃せば二度とやってこない。ゆえに、時を逃すなと。
 さらに次のように語っている。
 「立派な指揮官がチャンスにおもむく時は、衣の帯を解くような〔のんびりとした〕ことはしないし、くつが足跡を残すような〔ゆっくりとした〕こともしないのである」(同前)
3  戦いにおいては、積極果敢であった。
 彼は言う。
 前線の人間はじっと立っていてはいけない――。
 「〔先頭の兵は〕(中略)決して立ち上ってそのままじっとしていてはいけない。立ち上ってじっとしていたならば〔後方から撃つ〕石弓の邪魔になる」(同前)
 戸田先生もよく、「前線の幹部は、ぼやぼやするな!」と叱咤された。
 先頭の幹部が一歩でも二歩でも前進してこそ道は開ける。幹部がぼ!っとしていれば、後に続く人の邪魔になるだけだ。それでは、幹部失格である。
4  リーダーは断じておごるな
 国の繁栄をリードする指導者の条件とは何か。彼は断言している。
 指導者は断じて驕るな――。
 「指導者は、決して驕ってはいけない。驕ってしまえば、礼を失う。礼を失えば、人が離れていく。人が離れれば、民衆が背く」(前掲『諸葛亮集』現代誤訳)
 リーダーが傲慢になり、礼を失えば、やがては民衆が背いていく――いかなる国家にも、団体にも当てはまる方程式であろう。
 また孔明は、小人(徳のない人)を遠ざけよ、と教えている。
 「賢臣に親しみ、小人を遠ざくる」(『出師表』)――それが国を興隆させる道なのである。
 一方、指導者にふさわしくない者として、八種類の人間を挙げている。(普穎華・華名良主編『運■帷幄―諸葛亮兵法』参照)
 (1)財産に貪欲で飽くことを知らない者。
 (2)賢く有能な人を嫉妬する者。
 (3)人を中傷することを喜び、おべっかを使う人を近づける者。
 (4)人のことは、あれこれ分析するが、自分のことは、何らわきまえない者。
 (5)ぐずぐずして、自分で決断できない者。
 (6)酒におばれ、その状態から抜けだせない者。
 (7)虚偽で、臆病な者。
 (8)言葉巧みに狡猾で、傲慢無礼な者。
 戸田先生は、幹部に対して、いつも厳しく語っておられた。
 「周りじゃないよ。すべては君で決まる。君の一念で決まるんだ」
 すべては、リーダーの一念で決まる。そのことを、聡明なる皆さんは胸に刻んでいただきたい。
5  一人も不幸にしないとの覚悟で
 ひとたび戦いを起こしたからには、断じて勝たねばならない。
 孔明は、戦いに臨む指導者の姿勢に厳しかった。
 すなわち自分に厳しかった。
 「一人でも犠牲者が出るならば、それは、すべて私(孔明)の責任である」(前掲『諸葛孔明語録』参照)とも言っている。
 絶対に、犠牲者を出さない! 落伍者を出さない! 断じて一人も不幸にしない!――孔明の指揮は、この覚悟と責任感に貫かれていた。
 また戦いにあたつて、指導者は、次の四つに心を確くべきだと論じている。(前掲『運■帷幄―諸葛亮兵法』参照)
 (1)敵の意表を衝いて、勝ちを制する。
 (2)計画は周到に、緻密に行う。
 (3)静かに、落ち着いて事を運ぶ。
 (4)全軍の心を一つに団結させる。
6  有名な「後出師の表」の言葉がある。
 「鞠躬きっきゅう尽力し、死して後已まん」(前掲『諸葛孔明語録』)――身をかがめて真剣に努力し、死ぬまで戦いをやめない。
 これは、「二十世紀の諸葛孔明」――周恩来総理が愛唱した名句である。
 また戦いの日々を、こう振り返る。
 「私(孔明)は、先帝(劉備玄徳)より大命を拝した日から、寝る時も、寝床でゆつくり休むことなく、食事をする時も、じっくり味わうことなく、一心不乱に使命を果たそうとしてきた」(同前、参照)
 さらに、指導者の不動の信念について、孔明は、こうも語る。
 「〔自分が〕尊重されても驕り高ぶらない、〔権限を〕委任されても自分一人で勝手にしない、〔他人に〕救助されても〔その不名誉を〕蔽い隠さない、〔地位を〕被免されても驚き恐れない。
 だからこそ立派な指揮官の行動は、ちょうどたまが〔どんな時でも〕汚れない〔と同様に、どんな状況に在っても決して動揺しない〕が如きである」(同前)
 不屈の闘志の指導者が勝つ。皆さまもまた、断じて、諸葛孔明の名指揮をお願いしたい。
7  勝利は執念と団結から
 何事にも、前兆がある。なかんずく敗北には、必ず前兆があり、原因があるものだ。
 孔明は、敗北する組織の前兆として、次の点を挙げている。(同前、参照)
 (1)指導者が弱くなる。
 これは決定的である。
 指導者に勝利への執念があるか。わが命を燃やしゆく覚悟で、同志を激励していけるか。幹部の戦う心に、勝敗の一切がかかっているといっても過言ではない。
 (2)皆が「私心」をもって「徒党」を組むようになる。
 皆が私心で動くようになれば、組織は目的を見失ってしまう。
 (3)「各々が利害によつて派閥を」つくる。
 戸田先生は、組織において、派閥をつくる者を絶対に許さなかった。厳しく叱り、その″傲慢な命″を切っていかれた。
 (4)「心がねじけて人にへつらうような」人間が上の立場につく。
 つまり、人にへつらい、おべっかを使う人間が上の立場につき、それに対し、周囲が恐れて何も言えないような雰囲気ができる。このような傾向は敗北の前兆と言うのである。
8  では反対に、必勝の組織の条件として挙げたのは何であったか。
 主に次のような点であった。(前掲『運■帷幄―諸葛亮兵法』参照)
 「有能で徳のある人材が高く用いられる」
 「全体が意気軒昂で団結がある」
 「上下の関係が睦まじい」
 「皆が指令にきちんと従う」
 「皆が勇敢に、真剣に戦う」
 「陣容に威風堂々たる雰囲気がみなぎっている」
 「賞罰を厳格に行う」
 わが創価の同志も「団結第一」であらねばならない。「意気軒高」であらねばならない。
 どこまでも勇敢に、真剣に、そして威風堂々と進んでまいりたい。
9  優秀な人材を埋もれさせない
 では、勝負を決する「人材」を、どう育て、登用するか――。
 孔明は、能力だけでなく「人格」を重んじた。身分などにとらわれることもなかった。
 「私の心は、天秤のように公平である。人によって、軽重の差を設けたりしない」(前掲『諸葛亮集』、現代誤訳)
 これが、孔明の信条であった。
 そして、人材の抜擢について孔明は語る。
 「立派な指揮官が〔軍〕政を行う時は、第三者に〔有能な人材を〕選択推挙させて、自分自身では抜擢しない。〔軍〕法によって人々の功績を裁定し、自分勝手には判断しない。だから有能な人材は〔その才能を〕蔽い隠すことができないし、〔逆に〕無能な人は〔その非才(=才能がないこと)を〕飾り立てることができない」(前掲『諸葛亮集』)
 また、こういう戒めも残している。
 「人材を推挙することより大きな忠益(真心を尽くして世に役立つこと)はない。しかし推挙にさいして、人は、自分の好みによって力をそそぐものだ」(同前、参照)
 独りよがりのリーダーのせいで、多くの人が苦しむことは、絶対にあってはならない。
 本当に一生懸命、戦っている人を、最大に讃え、真心から応援していく。皆さんは、そういう″私心なき″リーダーであつていただきたい。
 さらに孔明は「人間は皆が鋭いわけではない。馬は、すべてが良馬ではない。器械は、すべてが頑丈ではない。それに応じて生かすしかない」(前掲『諸葛亮集』、現代誤訳)
 一人の長所を生かすことだ――と言うのである。
10  孔明は、人間の本性を判断するには、次の七つの方法があると言う。(高畠穣『諸葛孔明の兵法』三笠書房、参照)
 (1)他人のうわさや評価によって、その士心や態度が変わるかどうかを見る。
 (2)あえて厳しい言葉を投げかけ、その人の態度が、どう変わるかを見る――厳しく叱られたときこそ、その人の心根が表れるものである。
 (3)計画や意見を尋ねて、その学識を見る――これは、その人の学識はもちろん、責任感をはかることにもなるだろう。
 (4)大災難がふりかかることを告げて、判断力や勇気を見る――たしかに、「臨機応変の力と勇気」はリーダーの必須条件だ。
 さらに(5)酒の席で、その本性を観察する。
 (6)利益や恩恵を与えて、その清廉さを見る。
 (7)仕事を与えて、信用できるかどうかを見る――である。
 孔明は、組織や国を乱す者として、次の五種類の人間は気をつけて遠ざけよと訴えている。
 後世への戒めとして紹介させていただく。
 (1)徒党を組んで、派閥をつくり、才能人徳の優れた人を妬んで、謗る人間。
 (2)虚栄心が強く、服装なども贅沢で、目立とうとする人間。
 (3)大げさなことやデマを言って、人々を惑わす人間。
 (4)自分の私利私欲のために、人々を動かす人間。
 (5)自分の損得ばかりを考え、陰で敵と結託する人間――である。
11  志を高くもて
 人間が人間として生きるために、失ってはならないものは何か。
 孔明は″信念への忠義″を強調している。
 「人に忠〔の心〕があるのは、ちょうど魚に水の流れが深くよどんだ淵があるのと同じである。
 魚は水を失ったならば死んでしまい、人は忠を失ったならば世を害したり人を傷つけたりする。だからこそ立派な指揮官は忠を守り、〔その結果〕志が立って名声が揚がるのである」(前掲『諸葛公明語録』)
 後継の世代に対して、孔明は″志を高くもて! むなしく生きるな!″と教えた。
 「もし意志が強固不屈でなく、感情も激しく高ぶらず、ただ何もしないで平々凡々と世俗の中に沈滞し、虚しい感情に拘束されてしまったならば、永久に普通の状態の中に逃れ隠れたまま、品行の悪い下位の状況から逃げ出せないであろう」(同前)
 苦労を避け、安逸に流されれば、いつしか生命は萎縮し、沈滞してしまうものだ。
 むなしく生きるな! 最高の善のため、使命のため、わが責任を果たすために生きぬけ!――これが、私どもの信心である。この戦いに、無限の希望と充実と価値創造がある。
 孔明は、わが子にも、こう戒めたとされる。
 「そもそも君子の行いというものは、〔心を〕清くして身を修め、〔身を〕引き締めて徳義を養うものである。
 あっさりとして無欲でなければ、志を明らかにすることはないし、安らかで静かでなければ、〔考えを〕遠方まで到達させることもない」(同前)
 志が人間をつくる。それを生涯、貫いてこそ、真に偉大な人生である。
12  逆境を越えて友情は強くなる
 結びに、孔明が語った「真の友情」について紹介したい。
 「勢力や利益を目的とした交際は、長続きさせることが困難である。
 真の男子たる者が互いに知り合って理解し合うということは、〔例えば〕温暖になっても〔とりたてて〕華を増すことはしないし、〔逆に〕寒雪の時でも〔とりたてて〕葉を改めることはせず、春夏秋冬を通じて決して衰えない〔というが如く、周囲の状況変化に応じて互いの友情関係が変質することは決してない〕。〔このような関係は〕、順境や逆境を経れば経るほどますます強固になる」(同前)
 この夏、われらも、大いに宝の友情を広げてまいりたい。
 (長野研修道場)

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