Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第三章 ブラジルの大地とともに  

「太陽と大地開拓の曲」児玉良一(池田大作全集第61巻)

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4  池田 苦しいとき、児玉さんを支えたものは何でしたか。
 児玉 私は独りぼっちでしたものね。「構成家族」ですから、自分だけ弱音吐くわけにいかないし。だれか一人でも身内がいれば、だいぶ心強かったでしょうけれど。
 池田 休日は……。
 児玉 日曜日も働きづめです。辛くて夜など、涙があふれて寝られないようなときもありました。でも、私は父母やおじいちゃんに反対されたのを押し切って来ましたからねえ。ほかの人を恨むわけにはいかなかったです。やっぱり頼れるのは「自分」だけでした
 。あの当時、みんな、「頼れるのは自分だけ」という自覚で生活してましたよね。
 池田 よくわかりました。今でいえば、まだ中学一年生の少年の偉大なる「冒険」です。児玉さんのお話にふれて、多くの青少年もきっと勇気づけられると思います。
 しかし児玉さんは、ふだんそうした苦労をまったく顔に出されない(笑い)。本当の苦労をした人は皆そうです。すがすがしい人生の年輪を私は感じます。
 児玉 あの当時は皆、本当に苦しかったですよ。山田さんも、池町さんも……。皆、生きるのが戦いだったもの。あんまり辛いので、しばらくして耕地を脱走した人もいたほどでしたから。それでもまだ、身内で来ていた人たちは、一緒に励ましあえた。私は独りぼっちで、慰めてくれる人もいなかった。
 池田 コーヒー園の耕地に入って二週間たったころ、四人の青年――いずれも独身だったようですが――が脱耕してサンパウロ市内に流れたという事件が記録されています。まさに“生きるのが戦い”のなかで、児玉さんは、たった一人で生きぬいてこられた。それ自体が、すばらしい「勝利」のドラマです。
 しかし、新しい生活に慣れるまでには、いろいろあったんでしょうね。
 児玉 はい。家も皆と相部屋でした。ろくに寝つかれず、朝はいつも機嫌を悪くしてました(笑い)。炊事や洗濯なんかも、最初は山田さんたちと一緒にやってましたが、のちに別れましたから、その後は自分でやりました。
 池田 それで、コーヒーの収穫は。
 児玉 その年は凶作でね。一人あたま、一俵分も穫れなかったんです。もう、初めの宣伝の四分の一でした。収穫がないから皆、収入もない。一日平均五十銭だけで、とても食べていけない。おまけに耕地主には支払いをしなければならん。労働は激しいし、肉とか野菜も足りない。生活環境には慣れないし、言葉も通じない。その鬱憤を通訳の人にぶつけたので、通訳と移民も仲が悪くなってしまってね。
 どうしようもなくなって、夏ごろ、移民会社の水野社長と、引率で日本から来ていた上塚周平さんとが耕地にやってきたので、皆で賃上げの交渉をしましたよ。みんな積もりに積もっていた怒りをぶつけ、さんざん文句を言いました。それでも結局、埒があかず、“もうこれ以上、生活できない”と言って、全員がコーヒー園を出ることにしたんです。
 二回に分かれて、最初に半分が一カ月半で出た。一緒に来た山田さん一家もその時、出ていきました。それで私は本当に独りぼっちになった。私は子どもでしたし、頑張ったけれど、三カ月でそこを出ました……。
 池田 仕事を失って、その後の生活は皆さん、どうされたのですか。
 児玉 皆、必死でした。そこを出てから、散らばったんです。ほかの農場に移ったり、若い人たちはリンスやトゥパンのほうへ鉄道工事に行きました。また沖縄の人が多かったみたいですが、サントスで働いた人もいました。日本船が来るからといって、サントス港からアルゼンチンに旅立った人もいます。私も「アルゼンチンに行こう」と誘われました。一緒に農地にいた人に相談して、行くのをやめたんですが。大半は、職にあぶれて乞食同然の生活に落ち込みましたよね。
 池田 ほかの耕地に行っても、たいへんな不作で、やはり逃亡者が出たりストライキを起こしたりしたと聞きました。
 さんざん苦労して、やっと穀物が実っても、大発生したバッタの大群に食いつくされたり……。想像もしなかった困難に、“金を返せ。日本に戻せ”ということになり、あまり騒動がひどいので“日本移民追放”の事態になった農場もあったそうですね。
 それでも、児玉さんは、日本に帰りたいと思わなかった。
 児玉 私はまったく思いませんでした。帰ろうと思っても、費用は莫大で、絶対に手が届かないし、航海にはまた五十日もかかる。現地で頑張るほかに道はありませんでした。
 池田 でも実家のお父さん、お母さんは児玉さんが帰ってくることを望んだでしょう。
 児玉 母からは再三、手紙を送ってきました。「帰ってこい。帰ってこい。旅費も送ってやるから」とそのことばかり。でも私は帰る気がありませんでしたから。

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