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日蓮大聖人・池田大作

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後記  

2010.5.3 メッセージ集(池田大作全集第67巻)

前後
1  かつて、詩人の大岡信氏が染色家を訪れた折のこと。淡く美しいピンク色の糸で織られた着物を見て、尋ねる。
 「この色は何から取り出したんですか」
 「桜からです」
 氏は、きっと花びらを煮詰めて色を取り出したのだろうと思うのだが、そうではなかった。実際は桜の皮から取り出したものだという。しかも開花の直前のものが最も美しい色になるそうだ。
 この話を聞いて氏は思う。
 「桜の木が、花びらだけでなく、木全体で懸命になって最上のピンクの色になろうとしているしている」
 そして、それは言葉の世界と同じではないか、と考える。
 言葉の一語一語が桜の花びら一枚一枚だとすれば、人が発する言葉は、桜の木と同じように、その人そのものが表現されたものだ、と。(『ことばの力』花神社、引用・参照)
2  池田名誉会長が友に贈ったメッセージを読み進める作業のなかで、創価学会員のみならず、すべての人々に対する深い思いが、生きた言葉になって胸に迫ってきた。
 『池田大作全集』第120回配本となる本巻は、全国各地で行われた創価学会員の会合や研修会などに名誉会長が贈ったメッセージのうち、一九九六年(平成八年)一月から二〇〇三年(平成十五年)十二月までに贈られた主なもの四十九編を収録している。メッセージ編としての発刊は初めてとなる。
 収録されたそれぞれのメッセージは、名誉会長自身がその集いに出席していないものの、会員の深き慈愛と感謝、万感の期待、そして未来への指標が魂魄として留められた濃密な内容である。本部幹部会など各種の会合に名誉会長が出席して行うスピーチと同等の意義が込められていると言えよう。
 メッセージを贈る相手もじつに多様である。
 ある時は師弟の精神を継ぐ青年の友、またある時は人生の年輪を車ねた同志の集いである「多宝会」(東京は宝寿会、関西は錦宝会)の友、あるいは組織現場の最前線をリードする地区部長・地区婦人部長、聖教新聞の配達員である「無冠の友」、そのほか医師や看護師、教員、農業従事者など専門的な分野で活躍しているメンバー、そして海外の同志であるメンバーなど、国内外の創価学会を構成するあらゆるグループの友に真心からの言葉を届けている。全国総県長会議等への指針もある。
3  一般にメッセージというと、儀礼的な表現であったり、文章が短いものが多いかもしれないが、名誉会長の場合はそうではない。
 万般の知識を縦横無尽に展開しながら、仏法の視点から人生の羅針盤となる指針を示している。そこには古今東西の歴史や人物論があり、信心即生活の幸福論があり、一念三千の生命論がある。また、地域と社会をリードし、勝利しゆくための将軍学があり、人類が希求してやまない恒久平和への哲学がある。ゆえに、メッセージを贈ったグループのためだけではなく、万人に通じる普遍の真理がその行間に込められている。
 特筆すべきは、その論調が決して難解なものではなく、その場にいる誰もが理解しやすい言葉でやさしくつづられ、そして、どこまでも相手に最大の敬意を表しながら、温もりと慈愛、また時には厳父のごとき力強い言葉で記されていることである。
 メッセージを読んで感じられるのは、どこまでも会員のなかに分け入り、一人も残さず励ましたい、握手を交わしたい、という熱い思いにあふれでいるということだ。
 自分はそこに行けない、だけれども、心は皆さんと一緒なのだ、どうか全員が幸福を勝ち取り、正義と平和の人生の大道を歩みぬいてほしい、という思いが満ちているそうした生命のほとばしりから紡ぎ出された言葉の一つ一つが会員の心を揺さぶり、苦難の人生を切り開きゆく糧となるのであろう。
 名誉会長はつづっている。
 「どんなに深い悲しみの闇に包まれても、妙法とともに生きぬくかぎり、わが生命の奥底から、尊極の”希望の太陽”が必ず昇りゆく。ゆえに、何があろうとも、どこに行こうとも、絶対に負けない。今いる、その場所を寂光土に変えていける」(本巻230㌻)
 人間関係が希薄になり、人との深いかかわりを敬遠しがちな時代世相だからこそ、こうした励ましの力が強い光を放ち、読む人々の生命に勇気と希望を喚起する。
 「要するに、民衆が現実に幸福になるかどうかである。この一点に仏法の焦点はある」(本巻87㌻)
 この信念に貫かれた名誉会長の間断なき言論闘争は、時代を超えて、人々の幸福への道標となりゆくことであろう。
 二〇一〇年五月三日

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