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住まいと健康 住居は健康生活の基盤

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

前後
1  森田 今回から、中泉関西ドクター部長と、白樺会の副委員長で、総埼玉委員長でもある笹川さんに加わっていただきます。
 中泉明彦関西ドクター部長・笹川二三子白樺会副委員長 よろしくお願いします。
 池田 遠いところ、また忙しいなかを、ありがとう。ご苦労さまです。
 5・3「創価学会の日」を記念して関西ドクター部が作成された冊子『ひとくち健康アドバイス』を拝見しました。
 毎日の歯の磨き方から、生活習慣病やがん予防にいたるまで、「だれもが心身ともに健康で、長寿の人生を送れるように」との真剣な思いが伝わってきます。「患者中心の医療を考える」と題したセミナーのビデオも、すばらしい内容ですね。
 中泉 ありがとうどざいます。関西、ドクター部の中心メンバーが、原稿作成に挑戦しました。
 池田 冊子には、お年寄りの家庭内での事故を防ぐ具体的なアドバイスがありました。たしかに家庭内での事故は、よく聞きます。
 森田 厚生労働省の統計によると、六十五歳以上の高齢者の場合、交通事故よりも家庭内の転倒・転落などで亡くなる方が二倍近くに上ります。
 池田 そんなに多いのですか。家の中も、気をつけなければいけない場所ですね。そこで、今回は「住まいと健康」をテーマにしてはどうでしょう。
2  勤行のあとはゆっくり立つ
 森田 わかりました。「住まい」は健康生活の大切な基盤だと思います。
 池田 家庭内での高齢者の事故には、具体的に、どのようなものがありますか。
 笹川 転倒、骨折が多く、階段や廊下で、つまずいたり、イスやベッドからずり落ちたりするだけで、骨折することもあります。また、浴室で転ぶと大事故になりやすく、浴槽で滑っておぼれるケースも多く見られます。
 池田 そうした事故を防ぐには、どうすればよいか――関西ドクター部のアドバイスを紹介していただけますか。
 中泉 部屋は、(1)日ごろから整理整頓する*(2)じゅうたたんやマットのヘリは、つまずかないように固定する*(3)電気器具のコードは、足を引っかけないように固定する*(3)敷居の段差は、くさびなどで斜面を作り、なくしてしまう*(4)階段や廊下ではスリッパをはかない。
 階段には、(1)手すりをつける (2)すべり止めをつける (3)足元を明るくする。
 玄関は、(1)手すりをつける (2)玄関マットは滑らないように固定する (3)踏み台は固定して使う。
 トイレは、(1)照明を明るくする (2)手すりをつける――以上です。可能な範囲で実践していただきたいですね。
 森田 高齢になると、片足で立っていられなくなるし、体のバランスが悪くなる。ですから、たとえば勤行が終わったあとも、無理して急に立ち上がらないことです。ねんざしてしまう場合がある。
 とくに太った人は気をつけてください。ゆっくりと立ち上がるなど、とかく注意が必要です。
 池田 これは、深夜、お手洗いに行くさいに、布団から立ち上がる場合も、いっしょですね。ちょっとした用心、工夫で、大きな事故を未然に防ぐことができるものです。
3  「賢人は安全なときも危険に備える」
 中泉 私の病院では、患者さんがつまずかないように床の凹凸をなくしています。また、個々の患者さんの足腰の状態をスタッフ全員が把握し、つねに適切な介助ができるよう注意しています。
 笹川 一人暮らしのお年寄りの方も、ご自分で、いろいろと工夫されています。高い所に物を置かず、手すりは自分がつかみやすい位置に。浴室には、すのこを敷いて浴槽との段差をできるかぎり小さくされている方もいます。
 森田 お年寄りの場合、急に環境を変化させると混乱することがあります。納得してもらいながら、少しずつ変えていくことが大切でしょう。
4  清潔第一の心がけを
 池田 大聖人は「賢人は安全な状態にあっても危険に備え、心の曲がった人は危険な状態にあっても、それに対処しようとせず安穏を願う」(御書九六九ページ、通解)と仰せです。
 これは、仏法者はつねに用心して悪知識を見きわめ退けて、正法正義を貫く賢者であらねばならないことを教えられた御文です。そのうえで、人生万般に通ずる道理です。
 長年暮らした家だから、大丈夫と油断していると、防げる事故も防げなくなってしまう。必要に応じて、環境を点検し改善して、事故防止に万全を期していきたいものです。
5  こまめに換気を
 池田 ところで、「病人が出やすい家がある」と言われることがありますが、医学的にはいかがでしょうか。
 森田 科学的根拠の一切ない、
 いわゆる迷信の類は、信用する必要はありません。ただ″衛生的″な観点から言えば、換気や日当たりの悪い家にいては、やはり病気になりやすいと思います。
 笹川 訪問看護で訪ねたお年寄りで、高いビルが家の両側に建ち、それから病気がちになった方がいました。日当たりや風通しが悪く、気持ちも沈みがちになったようです。励ましの声をかけるとともに、こまめに換気と掃除を行い、部屋を明るく保つようアドバイスすると、健康を取り戻すことができました。
 中泉 病人を出さないためには、湿度も大切です。湿度が高いと体が冷えたり、壁や床、家具の裏などはにカビが生えやすくなります。
 池田 カビが原因となる病気には、どんなものがありますか。
 森田 カビの種類によって、いろいろですが、悪性腫瘍や糖尿病などによって、免疫力が低下している場合、肺炎を起こすことがあります。また、カビに対するアレルギー反応により、せき、呼吸困難、発熱や鴨息のような症状を引き起こすことがあり、なかでもカビの多い夏場になると症状の出るものとして過敏性肺炎があります。
 池田 薬で治りますか。
 中泉 薬で治療できますが、免疫力の低下した方の肺炎の場合、難治性のことも多くあります。アレルギー反応による症状の場合は、原因となる家の中のカビを取り除かないと再発することがあります。夏近くになると風邪の症状が長びくという方は、一度、家の中のカビを点検するとよいでしょう。
 森田 そのほか家に生えるカビが原因で、アレルギー性皮膚炎や喘息を起こすこともあります。
 池田 カビ退治のポイントは何ですか。
 中泉 カビは、ホコリなどを栄養にして、適度な湿度と温度があれば、どとでも繁殖します。こまめな掃除は欠かせません。
 森田 生えているカビは、カビ取り剤でふき取ります。天気のよい日に、換気をよくしながら行ってください。
 池田 「換気」は大事ですね。ナイチンゲールは「換気の状況を本当に知るには、朝、寝室や病室から戸外へ出てみることである」(薄井坦子代表編訳『ナイチンゲール著作集』2、現代社)とアドバイスしています。帰ってきたときに、少しでも息苦しく感じたなら、その部屋の換気は不十分だと言うのです。
 笹川 そのとおりだと思います。病棟では毎朝、窓を開け、よどんだ空気をサッと入れかえます。眠っている間に、かなりの汗をかいて湿度が高くなっているので、短時間でも風が流れると、大きな効果があります。
6  室温で三時聞置いた料理は注意
 池田 食べ物にもカビは生えやすい。食中毒にも十分、注意したいですね。
 中泉 ひと目で腐っているとわかるものは食べないと思いますが、食中毒菌が繁殖しても、色、味、においは変化しないことがほとんどです。
 池田 安全か危険かは、どこで判断すればよいですか。
 笹川 調理してからの時聞が目安になります。梅雨の季節は、肉、卵、魚を使った料理を、室温で三時間以上放置したものは、注意が必要です。夕食の残りを翌朝に食べるときなどが、そうです。ちょっとでも怪しいと思ったら食べないことが原則ですが、温め直すときも、セ氏七五度以上に十分に加熱してから食べるようにしてください。
 中泉 サルモ、ネラ中毒の発生もあとを絶ちません。卵は賞味期限内でも、ひび割れがあるものは危険です。生で食べる場合は、できるだけ、新鮮で傷のない卵を選ぶことが大切でしょう。
 森田 いずれにしても湿度の高い家は、いろいろな病気を起こしやすい。換気をよくしたり、エアコンなどを上手に使って、健康的な環境を整えることが大事です。
7  ダニやホコリが病気の原因に
 池田 ほかに住環境が原因となる病気はありますか。
 森田 最近、増えているのが、ダニやホコリによるアレルギー疾患です
 アレルギー体質の人に多く見られるもので、喘息やアトピー性皮膚炎が代表的な病気です。
 池田 子どものアトピーで悩んでいるお母さんが多いと聞きます。ダニはどうすれば防げますか。
 森田 まず「清潔第一」です。人間の皮膚から、はがれ落ちるフケなどがダニの栄養源になりますから、こまめに掃除を行い、ダニが増える原因を減らすことです。
 中泉 とくにクッションやカーペットなどは、小さなホコリやゴミがたまりやすいので、掃除機をかけて、ダニを吸い取ってください。裏面も同じです。布団にも掃除機をかけ、天気のよい日には干すようにします。
 笹川 忘れがちなのがカーテンです。静電気でホコリがつきやすく、とくに日の当たらない窓では、細菌が繁殖しやすい環境といえます。定期的に洗濯するとよいでしょう。
 池田 ナイチンゲールも語っています。「ほこりは病気の温床であり、病気の前ぶれである。(中略)それらに対して、どれほど清潔を心がけようと、決して心がけすぎるということはない」(同前)と。神経質になりすぎる必要はありませんが、こうしたこまかいことも大事ですね。
 森田 また、ダニは湿気のある場所を好みます。押し入れや、たんすなどの換気にも気をつけ、室内の乾燥を心がけてください。
 笹川 じつは、私は、八年前、乳がんで入院したことがあります。そのとき、ベッドで横になっていることのつらさを味わいました。背中に湿気と熱がこもるのです。看護師さんに、うちわであおいでもらいましたが、それだけでも背中と布団の間の空気が入れかわり布団が乾燥し、快適になりました。
 寝たきりの方の場合も同じだと思います。布団にダニが発生しやすく、かゆみや他の病気も引き起こしかねません。また、湿気が高い場所で長時間、同じ姿勢で寝ていると、床ずれも起こしゃすくなります。
 畳の上に布団を敷く場合は、すのこを入れて、通気をよくしてあげてください。
 池田 健康な人には、我慢できるようなことも、病気の人には悩みの種になることがある。
 そうしたことにこまかく気を配り、不安を取り除き、安心と希望をあたえてあげる――これがポイントですね。
8  体調の悪いとき、夜の勤行は?
 池田 ともあれ、どんなに健康な人でも年配の方は、無理をすると、健康を害してしまう場合がある。休養や睡眠を賢く十分にとっていくべきです。
 勤行も、夜遅く疲れているときや体調の悪いときは、題目三唱だけで、早めに休む。大切なのは、聡明な信心即生活です。そして、翌朝、朗々と勤行し、一日の出発をする。一日一日を、はつらつと、希望に燃えて生きていくための信心です。
 森田 夜遅くの大きな声での勤行は、近所迷惑の原因になる場合もあり、気をつけるべきだと思います。
 池田 もちろんです。良識ある行動が大切です。
 戦後の青年時代、大田区の青葉荘に住んでいたころ、勤行がうるさいと隣の住人から怒られた経験があります。私も気をつけていたつもりでしたが、それほど近隣は過敏な場合がある。同じアパートの幾人かは信心しましたが。(笑い)
 それはともかく、御書には「智者とは世間の法以外に・おいて仏法を行ずることはない」(一四六六ページ、通解)とあります。聡明にいくことです。
 笹川 私は、看護学生時代、寮生活でしたので、勤行は、近くの学会員のお宅でさせていただきました。
 池田 そうですね。どうしても小さな声では元気が出ないという場合は、会館や個人会場をお借りするなど、工夫してはどうでしょう。
 ただ、会館等を使用するさいも、近隣へのこまやかな配慮を忘れてはならない。仏法は道理です。常識ある行動に、正しい信仰があることを銘記していただきたい。
9  シックハウス
 池田 話は変わりますが、最近「シックハウス」という言葉を耳にしますが……。
 森田 住宅の改築や新築をしたあとに、使われた建材などから発生する化学物質によって、体調不良や健康障害を起こす、化学物質過敏症のことです。
 池田 具体的には、どんな症状がありますか。
 中泉 頭痛、のどや目の痛み、鼻炎、おう吐、息がつまる感じ、ぜいぜいする、めまい、皮膚炎などがあります。
 風邪に似た症状も多く、見すごしてしまうケースもあるようです。
 笹川 職場や学校でも同じような症状を訴える「シックピル」「シックスクール」も問題になっています。
 森田 問題解決のためには、何より根本原因を断つことが重要であり、二〇〇三年七月には、二大原因とされる化学物質の使用を規制する「改正建築基準法」が施行されました。
 池田 施工者や建材メーカーが注意するのは当然ですが、私たちも意識を高め、正確な知識を得て対応していかなければなりませんね。
10  妙法の人の家は″寂光の都″
 中泉 はい。その意味でも、ふだんと違う体の異常を感じたら、まずは医師の診察を受けていただきたいと思います。そのさい、家を新築したばかりであるとか、発症したときの状況をくわしく医師に伝えてください。
 池田 日常的に考えられる対策はありますか。
 笹川 化学物質を室内にためないよう、やはり換気することです。高温多湿の季節は、化学物質の濃度が高まりやすくなります。
 最近の建物は気密性が高いので、冷暖房を使用していても定期的な換気を心がけてほしいですね。
11  家相とは?
 池田 ところで「家相」という言葉もありますね。
 森田 どう考えても科学的根拠の思いつかない、迷信のようなものがあるのは事実です。たとえば「鬼門に玄関があると不幸になる」とか、「どの方角に何色の花が咲く木を植えるのはよくない」などは、その類でしょう。
 中泉 「鬼門に水回りをつくると病人が出る」とか、「道具類を置くな」「蔵を建てるとよい」というのもありますね。
 森田 「鬼門」とは、北東の方角のことです。建物の北東側は、一般的に日当たりが悪く、湿度が高く、気温が低い。そこにトイレや風呂といった水回りを配置すると、カビや病原菌を媒介する虫が発生しやすくなり、病気になる可能性も高いと思われます。
 中泉 北東側は道具類も錆びたり、木の部分が腐ったりしやすいですね。蔵を建てるのは冷たい北風を防ぐ意味があるのかもしれません。
 「裏鬼門(南西)に台所を設置するのも、よくない」と言われますが、これは日当たりがよく、気温が高くなりがちで、食べ物が腐りやすく、食中毒を起こしやすいことの言い伝えともいえます。
12  智慧を発揮し、賢明な生活を
 中泉 古くからの言い伝えには、″暮らしの知恵″がこめられている場合があります。これを参考にすることは価値的なことですが、明らかに非科学的なことに紛動されては愚かですね。
 池田 よくわかりました。大切なのは智慧である。聡明さですね。
 大聖人は「われらが住んで法華経を修行する場所は、どこであれ常寂光の都となる。われらの弟子檀那となる人は、一歩を行かずに、法華経が説かれたインドの霊驚山を見、永遠の寂光土へ、昼夜に往復されることは、うれしいとも何とも言い尽くしがたい。言い尽くしがたい」(御書一三四三ページ、通解)と教えられている。
 御本尊を安置したわが家は、福徳に満ちあふれた宝処であり、寂光の都となる。その使命の舞台で聡明に智慧を発揮し、賢明な生活のリズムを刻みながら、法のため、人々のため、社会のために行動していくことです。
 笹川 訪問看護では、そのことを実感します。病気で寝たきりでも、学会員の方は本当に元気があり、こちらが励まされることのほうが多いくらいです。
 池田 もちろん、生身の体です。だれでもときには体調をくずしたり、思わぬ病気を患う場合がある。
 仏でさえも、みずから「少病少悩」(法華経三八三ページ等)と言われています。
 いわんや、われわれは凡夫です。病気になったり、人生に悩みがあるのは当然です。大切なのは、それらに負けないことです。題目をあげて、満々たる生命力で乗り越えていくことです。
 大聖人は、病気の家族をかかえた南条時光を、こう励まされています。
 「あなたの家の内に病気の人がいるというのは、まことでしょうか。もしそれが本当であったとしても、よもや鬼神の仕業ではないでしょう。十羅剃女が、信心のほどを試しておられるのでしょう」(御書一五四四ページ、通解)
 「何も心配いらない。強い信心を貫けば、必ず乗り越えていける」との仰せです。妙法は、生命の大良薬です。すべてを変毒為薬できる。
 「南無妙法蓮華経は獅子吼のようなものである。どのような病が、障りをなすことができようか」(御書一一二四ページ、通解)との御金言を確信し、朗らかに前進していきましょう。

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