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日蓮大聖人・池田大作

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予兆と対応 治療の時代から予防の時代へ

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

前後
1  森田 今回から、ドクター部の豊福救護運営室議長、白樺グループ(女子部の看護者の集い)の浅川副委員長に加わっていただきます。
 豊福裕幸ドクター部救護運営室議長・浅川知恵白樺グループ副委員長よろしくお願いします。
 池田 こちらこそ、よろしく。お二人とも、読者の皆さんのために遠慮なく語ってください。
2  兆しを敏感に察知
 池田 さっそくですが、御書には「一つの花が咲くのを見て春の訪れを推察せよ」(二二二ページ、通解)とあります。
 仏法では、何ごとにも″兆し″があり、″現れ″があると説きます。その兆しを敏感に察知して、手を打っていくその人が賢者であり、勝利者となるのです。
 健康も同じです。ある程度の年齢になれば、体に現れる小さな兆しにも、的確に対応していかなければならない。
 では、具体的に、どんな予兆に注意すべきか、教えていただけますか。
 森田 病気の初期症状は、さまざまあります。症状の現れにくいものもあります。
3  脳卒中の症状
 池田 脳卒中の場合は、どうでしょう。
 浅川 急に舌がもつれて、うまくしゃべれなくなった。片方の手足に、軽いしびれや、まひを感じた。こういう症状があって、十分くらいで治まった患者さんがいました。
 豊福 それは一過性脳虚血発作です。放っておくと、脳梗塞の大きな発作が起こることがあります。
 池田 そういう場合は、症状が消えても、病院に行ったほうがいいですね。
 森田 はい。脳の血管が、一時的に微妙な血栓(血の塊)でふさがって現れた症状ですから、血栓をできにくくする薬で、脳梗塞を予防する必要があります。
4  小さな症状を見逃さない
 池田 何度となく強調していることですが、「小さな事」こそ「大事な事」なのです。日蓮大聖人は「しっかりした田のあぜでも、アリの穴ほどの小さな穴があったならば、たまっている水も必ずそこからもれて、ついには、なくなってしまう」(御書一三〇八ページ、通解)と教えられています。
 「小さな事」のうちにしっかりと対応をすれば大きな事故を防ぐことができるのです。
 健康の問題も「小さな症状だから大丈夫」と素人判断するのではなく、とくに年配者は大きな病気の予兆かもしれないと、とらえていくべきです。
 豊福 どんなささいな症状でもかまいません。気になることがあったら、遠慮なく診察を受けてください。
5  心臓病の現れ
 池田 心臓病にも気をつけたいですが、狭心症や心筋梗塞は、どんな初期症状がありますか。
 森田 やはり胸の痛みですが、胸のあたりの漠然とした不快感のこともあります。
 豊福 さらに息苦しさや冷や汗が出る場合は、迷わず救急車を呼んでください。
 池田 痛み以外に、心臓病の症状は、どんなものがありますか。
 豊福 脈が乱れることもあります。
 池田 不整脈ですね。
 森田 はい。おもに脈がドキンと感じたり、ドキドキドキと急に続けざまに打ったりします。頻繁に感じるようなら、検査が必要です。
 浅川 不整脈も、種類によっては脳梗塞の原因になります。
 豊福 不整脈のなかの心房細動という病気は、脈が不規則に乱れます。
 そのとき、心臓に血栓ができることがあり、それが血流に乗って脳へ運ばれ、血管をつまらせて脳梗塞を起こすのです。
6  信仰者だからこそ注意を
 池田 そういう知識を少しでも知っておくことが大事ですね。どれだけ生命が守られるかわからない。
 豊福 そうなんです。
 ところで、症状が治まると、病院に来なくなる患者さんがいます。心臓病、脳卒中は経過をよく見なければならない病気です。状態によって薬の量や種類を変更します。
 継続して診察を受けてください。
7  仏法は道理、医学を価値的に活用
 森田 昔、「信心しているから、病院には行かなくてもいい」、「お題目をあげているから、薬はいらない」と言っている人もいましたが、的はずれもいいところですね。
 池田 「宗教のための人間」ではない。「人間のための宗教」です。
 また仏法は道理です。自身の生命のリズムを調節し、生命力を高め、医学も最大限、価値的に使って病気を克服していくのです。ですから、信心しているからこそ、人一倍、健康に注意するのが本当です。「信心しているから大丈夫だ」というのは、ある意味で慢心です。何か症状があったら、病院に行くのが当然です。
 戸田先生も「医者にかかって治る病気は、医者にかかるべきである。それを、折伏で治すなどというのは、偏ったものと言わねばならぬ」と、よく言われていた。
 森田 学会員の方々は、仕事や家事、活動にと忙しく働いているのですから、疲れて当然です。一懸命な人ほど、疲れも大きいでしょう。
 ゆえに自分自身で注意し、何かあったら医師に相談しながら、健康を守っていっていただきたいと思います。
 池田 御書には妙楽大師の言葉として「必ず心が堅固であることによって諸天善神の守りは強いのである」(九七九ページ等、通解)とあります。
 「広宣流布のために健康になろう」――そう一念を燃やせば、医師や薬も諸天善神の働きに変わり、健康の方向へと進んでいけるのです。
8  ふだんからの用心が大事
 豊福 実際、脳卒中や心臓病は、高血圧や糖尿病、高脂血症などを、そのままにしておいた結果、起こることが多いのです。ところが、こうした生活習慣病は、ほとんど自覚症状が現れずに進行していきます。
 森田 ですから、「何か症状が出たら気をつければいい」というのではなく、何も症状がなくても、定期的に健康診断を受けていただきたいと思います。
 池田 「定期的」というのは、どの程度の頻度ですか。また何歳くらいから受けるべきでしょう?
 豊福 一年に一回といったところでしょうか。その場合、近所であれば、大きな病院でも町の診療所でもかまいません。
 森田 事業主には、雇用者に年一回の健康診断を受けさせることが義務づけられています。勤めていない主婦の方もふくめ、三十歳を過ぎたら、積極的に健診を受けたほうがいいでしょう。
 池田 とても健康そうに見えた人が、健康診断を受けて、初めて異常が発見されたと、よく聞きます。健康もふだんからの用心が大事ですね。
 豊福 症状があるのに、放っておいて診察を受けない人もいます。まだ研修医のころ、相次いで二人の胃がんの患者さんを診療しました。そのときは、どちらも末期の状態で、手の施しようがありませんでした。″なぜ、もっと早く病院に来られなかったのか″と悔やまれてなりませんでした。
 以来、定期健診の大切さを訴えながら、どんな小さな異常も見逃すまいと、日々の診療に取り組んでいます。
 池田 怖がったり、面倒に思ったりせず、健診は必ず受けるべきでしょう。尊き人生です。「使命」ある人生です。「自分は大丈夫」という油断や慢心で、体を悪くしたら何にもならない。
 健康診断を受けただけで安心されても困ります。(笑い)
 大切なのは、結果にもとづいた医師のアドバイスを受けることです。場合によっては、薬が必要になることがありますので、きちんと服用してください。
 豊福 薬の増減や中止については、医師に相談してください。
 浅川 指示どおりに飲んでいないのに、医師や看護師には、飲んでいる」と報告する人もいるようです。
 これも、医師の判断を誤らせるので、正直に伝えてください。
 池田 先ほども言いましたが、「題目をあげていれぼ、薬を飲まなくてもいい」というのは妄信であり、仏法とは相いれません。
 信心しているからこそ、人一倍、健康に留意する。賢明に生きていく。そして、はつらつと人々のため、社会のために働いていく――これが仏法の目的です。
9  積極人生こそ長寿の条件
 豊福 医学は、「治療の時代」から「子防の時代」に入りました。とくに、自覚症状のない生活習慣病は、ますます予防が大事になります。
 森田 高齢者の健康も、そうです。高齢になると、熱が出にくいなど、病気の症状が現れにくくなります。
 しかし、声の調子、顔色、食欲など、わずかな変化のなかに症状が現れていることがあるのです。
 浅川 外来の患者さんの、せきの感じがいつもと違うので、精密検査を勧めたところ、肺がんが見つかったことがありました。
10  お年寄りには、かかりつけ医を
 豊福 お年寄りは症状を自覚することが少ないので、家族の方は注意が必要です。
 また、かかりつけ医がいれば、日ごろの様子や病歴をふまえて診察できますので、強い味方になります。
 池田 そうですね。トインビー博士と私が対談したとき(一九七二年)、博士は八十歳でしたが、「かかりつけの医者」(ファミリー・ドクター)の重要性を強調されていました。「専門医と違って、患者やその環境を個人的によく知っているからです」(『二十一世紀への対話』本全集第3巻収録)と言われていました。
 また「彼(かかりつけの医者)は、自分が診察している家族全員の友人であり、信頼できる友なのです」「患者を人間として理解しており、互いに敬意をもち信頼し合うという人間的な関係にあるため、その技量を効果的に用いることができるのです」とも語っておられた。医師と患者がこうした人間的な信頼の絆を築いていくことが、ますます重要ではないだろうか。
11  老化で悪いのは無関心
 池田 そこで、もう少し具体的にうかがいたいのですが、高齢者の健康維持は、どんな点を注意すればいいですか。
 豊福 一つは筋力を落とさないことです。
 足の筋力が落ちると、つまずいたり、転んだりしやすくなります。おなかや背中の筋力が弱まると、腰痛も現れます。
 池田 筋力を保つには、何が大切でしょうか。
 森田 自分でできる日常のことは、自分でやる。そう心がければ、必要な筋力は保たれます。
 池田 散歩やラジオ体操など、適度な運動も大切ですね。
 豊福 はい。もう一つのポイントは「生きがい」を持つことです。長寿や認知症予防に不可欠であると、医学的にも証明されています。
 浅川 たしかに何かに打ち込んでいるときは、心身が生き生きとします。
 池田 「張り」を持ち、何かに真剣に取り組んでいくことですね。
 フランスの作家アンドレ・モロワは語っています。
 「老化にともなういちばん悪いことは、肉体が衰えることではなく、精神が無関心になることだ」(『人生をよりよく生きる技術』中山真彦訳、講談社学術文庫)と。
 「攻めの人生」というか、何かに挑戦する。希望に向かって進むことが大切です。
 浅川 「人づきあいがいい」というか「交際が広い」といった、周囲との積極的なかかわりも長寿者の要件です。
 森田 そうですね。自分の世界が、大きく広がる。人生を、何倍にも楽しむことができます。
 池田 世界的な経済学者であるガルブレイス博士も、私との対談で言われていた。「年配者の最大の誤りは、仕事から引退してしまうことです。やるべき仕事がなくなれば、肉体的な努力と精神的な努力をなくしてしまう。とくに、精神的な努力を止めることは、非常によくありません」(『人間主義の大世紀を――わが人生を飾れ』潮出版社)
 いわんや、私どもの信心に、「引退」はない。広布の活動は、生命力を増す。「最高の精神闘争」です。生命の根本的な健康法とも言えるのです。

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