Nichiren・Ikeda
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皮膚病
皮膚は人体最大の器官
「健康対話」(池田大作全集第66巻)
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1 池田 佐藤先生、西山先生は、皮膚病がご専門ですね。どうして皮膚科を選ばれたのですか。
佐藤喜美子副ドクター部長 医学生のときに腎炎にかかったのがきっかけです。一時は、「医師になるのは無理」と言われたくらいでした。そこで体力的に無理がない分野を考え、皮膚科を選びました。
西山千秋副ドクター部長 私の場合は、医学生のときに、解剖実習でホルマリンにかぶれてしまいました。父も医師だったのですが、あいにく皮膚科ではなかったんです(笑い)。それで一年半くらい苦しんだでしょうか。ところが皮膚科に行ったら、二週間で治ってしまいました。(笑い)
それが、皮膚科医になろうと思ったきっかけです。
池田 私も子どものころ、あどの下に、おできができたことがあります。
ものすごく腫れて骨にまで影響が出るくらいでした。いろいろな薬も試しましたが、効き目がない。
近くに皮膚科の医師もいない。最後は地方の病院に行って切ることになったのですが、治るのに、ずいぶんとかかりました。
痛いし、腫れるし、学校に行くのもいやになりました。(笑い)
昔は、子どもの、おできも、多かったのですが、最近は、あまり見かけなくなりましたね。
西山 栄養状態がよくなり、いい薬も開発されたせいでしょう。今では、ぐんと減っています。
2 皮膚の重さは四キログラムもある!
池田 ところで体の中で「いちばん大きな器官」は、肺臓でも、肝臓でもなく、皮膚だと聞きましたが?
佐藤 そうなんです成人の場合、全身の皮膚を広げると、たたみ一畳分の面積(約一・六平方メートル)があります。
また重さは成人で、心臓が約〇・三キログラム、肝臓が約一・五キログラムなのに、皮膚は体全体で約三キログラムから四キログラムにもなります。
3 厚さたった二ミリの働き者
池田 よく「面の皮が厚い」と言いますが、皮膚の厚さに個人差はあるのですか。
西山 医学的には、性格と、皮膚の厚さは関係ありません。(笑い)
厚かましい人でも、そうでない人でも、顔の皮膚の厚さは平均一ミリくらいです。また全身の皮膚の厚さは平均約二ミリです。
池田 皮膚には、どういう役目がありますか。
佐藤 身体の「保護」「分泌・排泄」「体温調節」「知覚」「吸収」などの働きがあります。
池田 たった「2ミリ」で、ずいぶん、働き者ですね!
佐藤 そうなんです。まず「体を守る(保護)」役割があります。
ぶつかったり、押されたり、こすれたりして加わる力を吸収する、クッションの役目をしています。傷ついても、自分で治してしまう能力もあります。
西山 細菌や、洗剤などの化学物質、また紫外線などの侵入も防ぎます。いわば″バリア(防御壁)″の役目です。
池田 「分泌・排泄」というのは、汗のことですか。
佐藤 はい。汗には水分や塩分のほか、体の中のいらないもの、つまり老廃物がふくまれています。
西山 汗以外にも、体内にたまった有害な物質を外に排出するという働きが、皮膚にはあります。以前、米ぬか油に混じった有害物質による食品中毒が起こりました。(「カネミ油症事件」、一九六八年)
患者さんには、年齢に関係なく″ニキビのようなもの″ができていました。地元・大学病院の皮膚科の診察をきっかけに、「毛穴から有害な物質が出ている」ことがわかったんです。
池田 それは有名な事件です。たいへん、心配もしました。汗を出すのは、「体温を下げる」意味もあると思いますが。
佐藤 そのとおりです。汗をかくと、汗が蒸発するときに体温が下がります。こういうふうに、皮膚には「体温調節」の機能があります。寒いときには、縮まって熱の発散を防ぎ、暑いときには、広がって熱の発散を助けます。
池田 それを意識しないで、きちんとやっているのだから、生命は、まさに妙用――不可思議の働きをもっていますね。
佐藤 痛み、熱さ、冷たさなどを感じるのも皮膚の働きです(知覚)。また、最近は皮膚から薬を吸収させる方法も行われています(吸収)。
4 皮膚病の二大原因――皮膚病の三分の一は「湿彦」
池田 人類は昔から、皮膚病に悩まされていたようですね。古代エジプトのパピルスにも皮膚がんや湿疹、癰(おでき)などの皮膚病が記されているそうです。皮膚病は、何種類くらいあるのですか。
佐藤 こまかい病気までふくめると、九百種類以上あります。
池田 最近は、どんな病気が増えていますか。
佐藤 「アトピー性皮膚炎」など、免疫、アレルギーが関係した病気です。
池田 アトピーは、以前にも取り上げました(本巻一二五ページ)。ほかには、どういう病気が多いのですか。
西山 一般に″かぶれ″と呼ばれる「接触皮膚炎」など、「湿疹」のグループに入る病気が多いです。皮膚病全体のほぼ三分の一を占めています。
佐藤 ″かぶれ″は、何かにふれることが原因で起きます。多いのは、ネックレスや時計バンドなどの金属製品、ウルシやギンナン、ハゼ、サクラソウなどの植物、治療に使う消毒液、外用薬や湿布薬などの医薬品、また工業薬品などです。ふれた部分の皮膚が赤くなって腫れ、激しいかゆみをともないます。
工業薬品などでは、一度ふれただけで出現する場合もありますが、大半は、何度目かの再接触後に発症(アレルギー性)します。かぶれは、汗でも症状を悪化させます。
池田 手湿疹というのは、どういう病気ですか。
西山 手湿疹は、家庭の主婦に多いので主婦湿疹とも言われています。家事は手を使い、あらゆる物にふれます。これが原因で湿疹ができます。
手のひらや指の皮膚が荒れてザラザラになり、指紋がなくなってしまう場合があります。手の甲や爪のまわりが赤くなり、強いかゆみが出るタイプもあります。
池田 「湿疹」と「じんましん」は違うのですか
佐藤 どちらも、かゆくて、皮膚が赤くなりますが、じんましんは症状が数時間で消えてしまいます。中高年の方には、「皮膚そう痒症」というのも、よく見られます。これは″発疹がないのに全身がかゆくてしかたがないゆくてしかたがない病気です。
西山 ウイルスが原因の皮膚病もあります。たとえば「帯状庖疹(帯状へルペス)」です。子どものときに「水痘(水ぼうそう)」にかかった人が、中高年になって抵抗力が落ちてきたときなどに、なりをひそめていたウイルスがふたたび活動を始め、発疹をつくるのです。神経痛をともなうのが特徴です。
佐藤 手足にできる「イボ」の多くも、ウイルスが原因です。ただし、老人性のイボは老化による症状です。
5 ナポレオンも「疥癬」で悩んだ
池田 「疥癬」というのも皮膚病ですね。
佐藤 疥癬虫というダニが寄生して起こる病気です。
池田 ナポレオンも、部下にうつされて悩んでいたようです。こんな話があります。当時、ヨーロッパでは、疥癬が流行していましたが、病気の実体は、わかっていませんでした。ですから多くの医師は、原因不明の病気は、すべて疥癬のせいにできた。(笑い)
あるとき、ナポレオンは戦地で風邪をひきました。ふつうの風邪の症状とは違っていたためか、軍医は原因がわからず、結局、いつものとおり「内臓が疥癬に侵されています」と診断しました。軍医は、ナポレオンが本当に疥癬にかかっていたことを知らなかったのです。するとナポレオンは、医師が、でまかせを言っているにすぎないのを見破ったのでしょう。苦笑まじりに、こう言ったそうです。
「貴官は余が疥癬にかかっているのを知らないはずなのに、内攻性疥癬であると診断するとは、あっばれ天下の名医である」(大熊房太郎『からだと薬のウソのようなホントの話』パシフィカ。引用・参照)
西山 名医は名医でも、迷っているほうの″迷医″ですね。(笑い)
池田 何でも、正しい知識がないと損をします。まされてしまう。まして病気は生死にかかわってくる重大問題です。
何度もお話ししていますが、自分の健康は、人まかせではなく、自分自身が″医師″となり、″看護師″となって賢く守っていかなければなりません。そのためには正しい知識を身につけ、医師から、きちんとした説明を受けることです。
ところで、皮膚の健康を保つには、どうすればいいですか。
佐藤 どんな病気の予防にも共通していますが、大切なのは「バランスのとれた食事」「規則正しい生活」です。
池田 肌の手入れは、具体的にはどうすればいいですか。
佐藤 一般的には、まず「肌を清潔にする」ことが基本です。外から帰ったら、手や顔をよく洗う習慣をつけることです。
西山 石けんでよく洗うことが大切です。石けんを使うと肌が荒れるという人がいますが、十分すすげば、めったに肌荒れは起きないはずです。
池田 ただ、お年寄りは、あまり石けんを使ってはいけないと言われていますが?
西山 そうなんです。しかも、お年寄りといっても、三十代から皮膚の老化は始まります。
6 肌の脂肪まで落とすとガサガサに
佐藤 健康な皮膚では、水分をたっぷりふくんだ層を、脂肪の層が覆って水の蒸発を防いでいます。それでうるおいが保たれているのです。ところが、皮膚の老化が始まると、皮膚の脂肪の分泌が減って、皮膚が乾いてきます。
そのうえに石けんを使いすぎたり、肌をゴシゴシこすったりすると、脂肪がさらに落ち、肌はガサガサになります。
池田 お年寄りには入浴の好きな方が多いようですから、注意が必要ですね。
西山 熱いお湯は、脂肪を落としますので、なるべく、ぬるめの湯に短時間入るようにしてください。
池田 先ほどの手湿疹の場合は、どうすればいいですか。
西山 水仕事のとき、ビニール手袋をはめてみてください。ビニール手袋の下に薄い木綿の手袋を着けると、もっと効果的です。
池田 紫外線も皮膚によくないと言われていますね。
佐藤 はい。皮膚の老化を早めます。シワやシミが増えるだけでなく、あびすぎると老人性のイボや、皮膚がんもできやすくなります。
池田 予防の方法はありますか。
佐藤 長時間、直射日光に当たらないことです。日差しの強いときは、日傘をさすといいでしょう。もちろん仕事などで、そうはいかない方も多いと思いますが、日焼け止めクリームを塗ったり、長そでなどを着て、なるべく紫外線をさける工夫をしたほうがいいでしょう。
池田 昔は、「日光浴は健康によい」と言われていましたが。
西山 適度な時間であれば、皮膚の殺菌効果もあります。ただ長い時聞がダメなんです。海水浴などでも、三十分が限度ではないでしょうか。
池田 「水がきれいな地域の人は、肌がきれいだ」と聞きますが、どうでしょうか。
佐藤 秋田美人とか、京美人とか言われますが、こうした地域は、お酒の名産地としても知られています。お酒に適した水は、「新陳代謝をうながす」ので、肌もきれいになるとされています。
池田 なるほど。皮膚の健康には、精神的なストレスも影響しますか。
佐藤 はい。影響の現れ方は、いちがいに言えませんが、同じ性質の肌の人でも、精神的なストレスの大きい人のほうが肌の異常を起こしやすいと言えます。ですから、精神的に安定した生活を送ることが、肌の手入れに通じると思います。
7 皮膚は健康を映す鏡――異常があればまず度膚科に
池田 皮膚の異常に気づいたら、皮膚科に行ったほうがいいのでしょうか、それとも内科に行ったほうがいいのでしょうか。
西山 皮膚病は大ざっぱに言うと二つに分かれます。外からの刺激によるものと、内臓の異常によるものです。まず皮膚科で何が原因かを診断してもらい、必要があれば専門の科を紹介してもらえばいいと思います。
池田 その意味では、皮膚は体の外側だけでなく内側をも映す鏡ですね。体の健康状態も皮膚を見ればわかりますか。
佐藤 最近は、顔色が多少悪くても、お化粧で見事に隠していらっしゃることが多いですね(笑い)。しかし、健康な皮膚を保つことは、健康を維持する一つのバロメーターになります。日ごろから、皮膚の状態に十分に注意していただきたいと思います。
池田 とくに皮膚の場合は、異常があっても、甘く見る場合が多いようです。神経質になることはありませんが、気をつけたいですね。
釈尊の有名な弟子に、「智慧第一」の舎利弗がいます。御書に「今日蓮等の類い南無妙法蓮華経と唱え奉る者は悉く舎利弗なり」と仰せですが、舎利弗とは広げていえば、正しく仏道修行する人の代表です。
また、舎利弗の「舎」とは「皮膚」、「利」とは「肉」、「弗」とは「骨」と説く場合があります。
仏法による生命変革は、色心二法にわたる。つまり、身も心も骨の髄まで変わるのです。妙法の生命力は血肉にも骨髄にも皮膚にも染み通って、生き生きとさせていきます。旭日が昇るように、顔つやもよく、はつらつと毎日を送っていただきたいものです。そうなるための賢明な信心即生活こそ「智慧第一」の証明ではないでしょうか。