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日蓮大聖人・池田大作

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腎臓病 腎臓は体内浄化の工場

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

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1  池田 よく「肝腎かなめ」と言いますね。この「肝」と「腎」は、ともに人間の活動力の源なので、あわせて「肝腎(大切な)」という意味だと言われています。
 この場合の「肝」「腎」は、中国の伝統医学でいう「五臓」からきている言葉ですね。
 森田 そうです。中国の伝統医学では、「心・肝・肺・脾・腎」の五つの臓器を「五臓」と呼んでいます。
 そのなかでも、「肝」と「腎」はとくに大切な臓器とされています。
 池田 ここから「大事なこと」を「肝腎」というようになったのですね。腎臓が二つあるのも、特別大切な臓器だからでしょう。一つがだめになっても大丈夫なようになっているわけです。
 そこで二人の腎臓病の専門家に入っていただきました。よろしく、お願いします。
 藤乗嗣泰ドクター部副書記長・成見正作神奈川総県ドクター部副書記長 こちらこそ、よろしくお願いします。
2  尿がパロメーター――古代ギリシャにも尿の検査
 池田 さっそくですが、日常生活のなかで、腎臓の異常を知る方法はありますか。
 藤乗 尿の異常から、ある程度は自分で判断できます。
 池田 古代ギリシャの昔から、尿は「健康のバロメーター」だったようですね。麦わらで尿をかきまぜて、尿の粘り気を調べる方法もあったそうです。たしか医聖ヒポクラテスも尿の異常について指摘していたと思いますが。
 藤乗 そうです。″尿の色調がうすいのはよくない″″尿が泡立つのはよくない″と忠告しています。(「箴言」石渡隆司訳、『新訂ヒポクラテス全集』1、エンタ.フライズ、参照)
 池田 現代医学から見ても、それは正しいのでしょうか。もちろん、素人判断だけで決めてはいけませんが――。
 成見 正常な尿は、淡い黄色で、きれいに澄んでいます。ただ、うすいからといって、いちがいに異常があるとは言えません。
3  タンパク尿・血尿・濁った尿に注意
 池田 なるほど。「尿が泡立つ」のは、どうですか。
 藤乗 なかなか泡立ちが消えない尿は、タンパクが混じっている場合もありますが、簡単に検査でわかりますので、心配するよりも、原の検査を受けることが大切です。
 成見 ただ健康な人でも、激しい運動をしたときや、熱が出たときには、一時的に尿にタンパクが出ることがあります。
 池田 血尿というのもありますね。
 藤乗 はい。血尿といっても、真っ赤な尿はごくまれです。ほとんどが紅茶色です。もちろん血が混じっているのが肉眼で見えない場合も多いんです。
 池田 血尿は、どんな病気の危険がありますか。
 藤乗 急性腎炎、慢性腎炎、尿路結石、膀胱炎、腎臓がん、また、前立腺がん、膀胱がん、などが考えられます。
 池田 濁った尿の場合は、どうですか。
 成見 腎臓や膀胱など尿の通り道に炎症があることを意味しています。
 池田 尿の量が少なすぎて問題になるのは、どういう場合ですか。
 成見 あるときから急に減ったような場合は、急性腎不全などの恐れがあります。反対に、尿の量が多い場合は、糖尿病、尿崩症、慢性腎炎、などの可能性があります。
 池田 トイレが近いと気に病んでいる人もいるようですね。
 成見 急にトイレに立つ回数が増えた場合、女性では膀胱炎、中年以上の男性だと前立腺肥大などの疑いが出てきます。
 藤乗 膀胱炎の多くは、排尿後の残尿感や、一時間もしないうちに、すぐまたトイレに行きたくなるような症状が特徴です。排尿時の痛みをともなうこともあります。
 森田 中年以降の男性の場合は、勝脱の出口をとり囲んでいる前立腺が肥大して、尿の排出に時間がかかるようになったり、夜間にトイレに立つようになります。
 また、高齢になると腎機能がしだいに低下してくるので、その傾向が強くなります。
4  「いらないもの」を排泄、体内の環境を整える――尿のもと(原尿)の九九パーセントを再利用
 池田 腎臓は「尿の製造工場」と言われていますが、体のいらなくなったものを排泄するわけですね。どんな仕組みになっているのですか。
 藤乗 腎臓には、心臓が送り出す血液の約四分の一が流れ込みます。一日に約千五百リットルもの量です。腎臓は、この中から老廃物などをこし出し、一日に約百五十リットルの原尿、いわば″尿のもと″をつくっているんです。
 池田 百五十リットルというと、平均的ドラム缶一本の四分の三ぐらいですね。
 森田 これを全部、尿にして出していたら、一日中トイレにかけこんでいなければなりません。(笑い)
 成見 ですから、実際には、そのうちの1パーセントの約1.5リットルだけが尿になるんです。あとの九九パーセントの水分や栄養分などは、「まだ使える」ということで、腎臓を出る前に、ふたたび血液中にもどされ、「再利用」されます。
 池田 「九九パーセントを再利用」ですか。それは効率のよい工場ですね(笑い)。腎臓では、どうやって、そんなにうまく血液を尿に変えるのですか?
 藤乗 まず「糸球体」という″ろ過器″でろ過されます。糸球体は左右の腎臓に、それぞれ約百万個ずつあります。
 池田 糸球体――「糸玉」の体ですか。
 森田 はい。毛細血管が糸の玉のようにからみあっているので、そう呼ばれています。
 藤乗 糸球体が「原尿」をつくり、そのあと「尿細管」でふたたび吸収します。
 成見 尿細管を通っているうちに、「まだ使える」水分やアミノ酸、ナトリウム、糖分などは管の細胞からふたたび「回収される」わけです。
 池田 生命には「むだ」がありませんね。むだなことをきらい、ぎりぎりまで一切を生かそうとしている。使い捨てもしない。いつも価値創造をめざしている。すごいことです。この価値創造の力が生命力です。この生命力を強めるのが仏道修行です。
 ところで腎臓には、ほかにも機能がありますか。
 成見 今お話しした(1)尿を生成し、老廃物を排泄するほかに、(2)体内の水分や塩分のバランスを保つ*(3)血圧調節④赤血球の造血ホルモンをつくる*(4)カルシウムの吸収を助けるビタミンDを活性化する、といった働きがあります。
 池田 ずいぶん、たくさんの機能があるんですね。
 森田 そうなんです。一つが握りこぶしくらいの大きさですが、水分や塩分など「体の中の環境」をつねに一定に保つ重要な役割を果たしています。形はソラマメの形をしています。
 池田 腎臓は働き者なのですね。血圧にも関係するのですか。
 藤乗 腎臓からは血圧を調節するホルモンが出ます。
 また腎臓が悪くなると、余分な水分や塩分を尿として排泄できなくなり、血管内に水と塩分がたまり、高血圧になるのです。
5  腎臓が悪いと顔色が悪くなる
 池田 「腎臓の悪い人は顔色が悪い」という話も聞きますね。
 成見 はい。腎臓が悪くなると、貧血になったりするからです。また骨がもろくなりやすいんです。これは、エリスロポエチンという造血ホルモンをつくったり、ビタミンDを活発にする働きが低下するからです。
 池田 腎臓はじつに幅広い仕事をしている。古来、「腎は生命力の貯蔵庫」とされたそうですが、うなずけるような気がします。
 だから腎臓を悪くすると、他の臓器にもいろいろと影響をおよぼし、人体という小宇宙全体がマヒしていくわけですね。
 藤乗 そのとおりです。
6  急性腎炎は風邪でも始まる
 池田 では腎臓の病気には、どういうものがありますか。
 森田 まず、急性あるいは慢性の腎炎があります。
 藤乗 急性腎炎の多くは、風邪などをきっかけに起こります。「のどが痛い」「熱が出る」などの症状がおさまったころ、突然、まぶたや手足がむくんだりします。また尿の量が急に減ったり、血尿が出ます。血圧も上がります。
 成見 下肢の「むくみ」は健康な人でも、長時間、立ったまま仕事をしたりすると起こることがあります。ただ、朝からむくみが見られる場合は、注意が必要です。
 森田 「むくみ」は腎臓病のほかに、心臓病や肝硬変などの場合もあります。
 池田 「むくみ」と「太っている」のは、どう違うのですか。
 成見 指で押してみて、へこんだままで、もとにもどらなかったら「むくみ」です。
 池田 急性腎炎の原因は何ですか。
 成見 いちばん多いのは、細菌(溶連菌)の感染後に、糸球体の働きに異常をきたすことです。
 森田 腎臓の病気の多くは、この糸球体の障害で起こります。″ろ過器″の目が粗くなり、ふつうならもれるはずのない大きさのタンパクや赤血球などが尿に出てしまうのです。
 藤乗 ただ急性腎炎は、適切な治療を受ければ、十分に治せる病気です。
7  自覚症状のない慢性腎炎の怖さ
 池田 慢性腎炎は、どうですか。
 藤乗 やはり糸球体の障害によって起こるのですが、障害の違いによって何種類かの病気に分かれます。
 また残念ながら、必ずしも原因がはっきりしていないんです。
 池田 やはりタンパク尿や血尿、むくみなどがあるのですか。
 成見 そうです。ただ病状がゆっくりと進むため、自覚症状はほとんどありません。健康診断で見つかることが大部分です。腎臓は肝臓とともに「沈黙の臓器」と呼ばれています。気がついたときには、もう、かなり病気が進んでいたということが多いので、定期健診が大切です。
 池田 かつては、慢性腎炎は一生治らない病気と言われていましたね。
 藤乗 慢性腎炎には、「腎臓の働きなどに大きな変化のないタイプ」と「障害が進むタイプ」があり、変化のないタイプは自然に治ってしまう場合もあります。ただ、進行するタイプは放っておくと腎臓の働きがいちじるしく低下し「腎不全」になります。
 池田 腎不全になると、人工透析ですか
 成見 腎臓移植もありますが、日本ではまだ人工透析が中心です。
 週のうち二日、ないし三日、一回あたり四、五時間かけて透析の治療を受けなければなりません。大変な負担です。
 藤乗 「一生続けなければならない」という精神的な負担も大きいんです。
 池田 病気ほど苦しいものはない。健康ほど、ありがたいものはない。
 「絶対に、よくなっていくんだ」と決めて、決してあせらず、「今、自分にできることは何か」を見きわめて生きぬいてほしい。他の人と同じように働けなくても、そのぶん、内面を充実させて、深い人生を生きよう。病気であったとしても、「あの人の生きたように私も生きたい」と言われる人生を創っていこう――こういう決心で生きぬけば、その人こそ、真の健康人生ではないでしょうか。また職場の人や地域の人も、温かな励ましを送ってあげていただきたい。
 森田 腎臓病の人は、あせらず、リラックスした生活が大事です。
8  最近増えている糖尿病性の腎障害
 池田 ほかに腎臓の病気には、どういうものがありますか。
 藤乗 「ネフローゼ症候群」というのがあります。糸球体の障害で、一日三・五グラム以上の多量のタンパク尿が出て、血液中のタンパク質・アルブミンが減少し、むくみがひどくなるのが特徴です。小児では、微小変化群といって治癒しえるものが多いですが、成人の、ネフローゼは治療がむずかしく、厚生省の指定する「難病」の一つにあげられています。
 成見 また最近、とくに増えて、注意が必要なのが「糖尿病性腎症」です。これは、長く糖尿病にかかっている人に見られ、糸球体の毛細血管に障害が起き″ろ過器″が故障します。その結果、タンパク尿が出たり、腎不全になったりします。新たに透析を適用する患者のいちばん多い原因は、糖尿病となっています。
 池田 「腎結石」というのもありますね。
 藤乗 はい。いらない尿の成分が固まり、石のように硬くなったものを結石と言います。結石のある場所が腎臓であれば「腎結石」、腎結石が尿管に落ちてくると「尿管結石」です。
 池田 結石の痛みは、「痛みの王様」と呼ばれているそうですね。
 森田 そうなんです。とくに石が尿管に入ると腰からわき腹にかけて激痛が起こります。まさに七転八倒の痛みです。血尿も出ます。
 成見 予防としては、十分に水分をとるよう心がけることです。
9  予防のポイントは血圧、体重の管理――疲労・寒冷も要因に
 池田 腎臓病の予防や治療のポイントは何ですか。
 藤乗 一般に腎臓の働きを悪くする生活上の要因としては、(1)風邪*(2)疲労・ストレス*(3)寒冷、があげられます。
 成見 先ほども話題になったように、腎炎などは風邪をきっかけに発病したり、悪化や再発をしたりします。
 また、疲れやストレス、寒さは、腎臓の血液の循環を悪化させます。
 藤乗 ですから安静と保温が非常に大切です。また、夜ふかしや睡眠不足に注意することです。
 池田 運動はどうですか。
 藤乗 適度な運動はいいと思いますが、腎臓病の人は、マラソンなどの激しい運動はさけてください。とくに年配者は注意が必要です。
 森田 「血圧の管理」は腎臓病の予防と治療に欠かせません。血圧が高いと、腎臓の機能に負担がかかりますから、つねにコントロールする必要があります。
 成見 腎臓病は、高血圧や糖尿病、肥満など、その他の生活習慣病と深い関係があります。ですから血圧とともに体重のコントロールも大切です。
10  塩分・タンパク質をとりすぎない
 池田 腎臓の悪い人は、食生活で注意する点はありますか。
 藤乗 まず塩分を控えることです。塩分をとりすぎると、体内にナトリウムが多くなり、水分をためこみやすくなります。また血圧も高くなります。
 成見 タンパク質も、控えめにしてください。ただ体に不可欠な栄養素なので、減らしすぎもよくありません。
 森田 腎臓の病気の場合は、治療は長期にわたります。また病気のタイプや、症状の程度によって治療の内容も変わってきます。信頼できる専門の医師と相談してほしいと思います。
 藤乗 何度も繰り返すようですが、自覚症状がなくても、定期的に尿検査などを受けることが第一です。
 池田 冒頭、「五臓」の話をしましたが、仏法ではこの「五臓」を「五大」と対応させる場合があります。五大とは、一切の現象は「地・水・火・風・空」の五つの要素からなるという世界観です。そして日蓮大聖人は、「今阿仏上人の一身は地水火風空の五大なり、此の五大は題目の五字なり」――年はますます若くなり、福運はますます重なっていくでしょう――と説かれています。
 妙法を根本にした信心即生活は、五臓をはじめとした「生命という小宇宙」を生き生きと働かせます。「妙法の軌道」こそ、根本的な「健康の軌道」であり、「幸福の軌道」なのです。

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