Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

認知症 生きている「心」に向かって語る

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

前後
1  「認知症」と「ぼけ」は違う
 池田 今回は「認知症」に話を移しましょう。よく、物忘れがひどくて、ぼけたと言いますが、「認知症」と、一般に言う「ぼけ」は、どう違うのですか。
 稲光 「ぼけ」は、老化現象の一つです。年をとればシワが増えるように、ある程度は、だれにでも起こるものです。それに対して、「認知症」は、おもに脳に起こる病気です。
 松本 「ぼけ」は、体験したことの一部を忘れるだけです。ところが「認知症」は、体験したこと自体を忘れてしまい、しかも「忘れた」ことを自覚できません。
 池田 そうすると、朝食を食べたことは覚えているが、何を食べたか忘れたというのは「ぼけ」ですね。朝食を食べたことすら忘れてしまうのが「認知症」ということになりますか。
 小島 そのとおりです。ですから、認知症になると日常生活に支障が出てきます。放っておくと、しだいに「忘れる」という症状自体もひどくなっていきます。
2  アルツハイマー病、脳血管性の認知症
 池田 「認知症は病気」ということですが、「アルツハイマー病」が、有名ですね。
 稲光 そうです。代表的なのが、アルツハイマー病と、脳卒中などによる脳血管性の認知症です。
 松本 世界的にいちばん多いのが、アルツハイマー病ですね。これは、脳の細胞そのものが変化していくものです。原因は、はっきりしていません。
 池田 「アルツハイマー」は、発見した医師の名前ですか。
 松本 そのとおりです。ドイツの医師で、二十世紀の初め(一九〇七年)に、この病気について論文を発表しました。
 小島 脳血管性の認知症は、脳の血管がつまったりして、脳の働きに障害が起こるものです。
3  「ぼけ」の症状は軽くできる
 池田 老化による「ぼけ」は治りますか。
 稲光 多くの場合、対処しだいで、よくなります。
 池田 それでは「認知症」は治りますか。
 松本 アルツハイマー病や脳血管性の認知症は、現在の医学では、治療が困難ではあります。
 稲光 ただ介護の仕方で、進行を食い止め、症状を改善することはできます。その結果、介護の負担もぐっと減ります。症状が軽いうちに適切な介護を始めることがポイントです。
 池田 「認知症」に、老化による「ぼけ」が加わっていることもあるのではないですか?
 小島 そうなんです。実際は、そこのところが複雑にからみあっています。ですから、「認知症」は今のところ治せなくても、老化による「ぼけ」を軽くすることによって、ずいぶん、状態がよくなることがあります。
 池田 その意味では、認知症への対処法を学べば、ふつうの「ぼけ」の予防や治療にも参考になりますね。まず認知症は、どんな症状が出てきますか。
 松本 「ひどい物忘れ」が特徴です。とくに「置き忘れ」や「しまい忘れ」が目立ちます。暗算や簡単な計算もできなくなります。
 稲光 同じことを何回も言ったり、尋ねたりするのも大きな特徴です。「あの」「それ」「あれ」といった代名調が増えて、具体的な物や人の名前が出てこなくなります。
 小島 好きなテレビ番組を見なくなるなど、以前に関心のあったことに興味を示さなくなるということもあります。
 稲光 こうした「いつもと違う言動」を見逃さないで、早めに信頼できる医師に診てもらうことです。
 池田 しかし、「認知症のようだから、病院に行きましょう」と言っても、本人がいやがる場合もあるでしょう。
 小島 問題はそこです。認知症の初期では、ほとんどのお年寄りが障害を自覚していません。「私は病気ではない」と思っています。また他人に「病院に行きなさい」と指示されると、反抗する方もいます。
 松本 そういう場合は、「健康診断」といって納得させたり、かかりつけの医師や保健師などから受診を勧めてもらうといいと思います。
 池田 なるほど。知恵が大切ですね。知恵は愛情の表れですから。ふけてきたとか、ぼけてきたとかいっても、これまで皆のために働いてきた「苦労とひきかえ」にそうなったのだから、何とか軽くすむよう、皆で真剣に考えてあげてほしいものです。
4  症状が見つかったら
 池田 認知症の症状が見つかった場合、日常生活では、どんな配慮が必要ですか。
 小島 ほかの病気にならないように体の状態をよく見てあげてください。
 松本 集中力が弱くなるので、転倒事故の予防、薬など危険物の管理をしっかりしていただきたいですね。
5  生活環境や習慣を急に変えない
 稲光 かといって生活環境や習慣は急に変えないことです。室内の物の置き場所が違ったりすると、混乱して症状が悪化することがあります。また「少しぼけたから、もう何もしなくてもいいですよ」と、今までの生活を変えてしまうと、精神的なくずれを早めます。
 小島 身のまわりのことは、できるだけ自分でしてもらうようにします。できないところは手を貸してあげてください。
6  生活のリズムをくずさない
 松本 生活のリズムもくずさないようにしてください。睡眠時間と活動時間の区別をはっきりさせることです。高齢になると、睡眠のリズムがくずれ、昼間、居眠りをすることが多くなります。
 そうすると、夜、なかなか眠れなくなるという悪循環になってしまいます。
 小島 不潔なものを身につけさせないようにしてください。衣類はまめにとりかえないと、不潔さに鈍感になるだけでなく、日常生活自体がだらしなくなり、精神面にも影響します。
 稲光 可能であれば、食事の仕方、歩き方、あいさつなどをきちんとしてもらうのも、精神的な張りが生まれます。
7  短くはっきり簡単な言葉で話す
 池田 接し方にも注意が必要ですか。
 稲光 はい。まず話しかけ方です。認知症の方は記憶力や理解力が低下していますから、短く、はっきりと、簡単な言葉で話してください。
 松本 話す内容も一つの話題だけにします。たとえば「お風呂に入って、着替えをしてから、食事にしましょう」と言わずに、そのつど「お風呂に入りましよう」「服を着替えましょう」「食事にしましょう」と話しかけます。
 小島 お年寄りのぺースにあわせて、ゆっくりと話しかけてください。
 池田 病気が進むと、言葉を失ってしまう人もいるようですね。
 稲光 その場合は、手をつないだり、寄り添ったりしながら、ジエスチャーなどでコミュニケーションを図ってください。文字や絵でも交流できます。
8  理解、納得、安心が大切――知能・記憶は衰えても感情はふつう
 池田 ほかにも注意すべき点がありますか。
 松本 認知症になると、以前からは理解に苦しむ言動が現れると思います。しかし、大切なことは「あわてない」「怒らない」「明るく笑顔で接する」ことです。
 小島 「物忘れ」など多くのふるまいは、お年寄りが、わざとしていることではありません。病気で起こるのであって、本人は、どうすることもできないでいるのです。
 池田 それを、本人の責任のように叱られるのではたまりませんね。
 稲光 そうなんです。しかも、知能や記憶に障害が起きても、感情や自尊心といった心の働きは、ふつうであることが多いのです。それだけに、介護する人の感情は、敏感に伝わります。
 松本 認知症だから何もわからないし、すぐに忘れるから何を言ってもいいというのは大変な誤りです。注意の内容はすぐ忘れても、「責められた」という気持ちは残るのです。
 池田 「心」は生きているんですね。だから理屈で押さえつけるのではなく、相手の感情を尊重してあげてほしい。
 稲光 そのとおりだと思います。認知症の介護では「説得よりも納得」が大切だと言われています。言いきかせて「わからせよう」というよりも、望んでいることを「わかつてあげて」対応することです。
 池田 言うはやすく、実行はむずかしいでしょうが、認知症の人も、病気をかかえながら、一生懸命に生きようとしている。いろいろな症状の奥には、不安とか孤独とか、これまで長い間、我慢してきたこととか、何か背景がある。何らかの「心の叫び」がある。その「心の痛み」をわかろうというのが、介護の原点ではないでしょうか。
 他の介護とは違って、どんなに献身的に介護しても、感謝もされないし、わかってもくれないと、がっかりすることが多いでしょう。しかし、心は不思議です。わかっていないようで、相手はわかつていることが多いんです。
9  「妻が認知症になって私は変わった」
 小島 そう言えば、認知症の奥さんを介護した、Hさんの体験が、かつて「聖教新聞」に掲載されました(一年十月三日付)。Kさんが奥さんの異常に気づいたのは、自分が病気で入院しているときでした。病室の机の上の簡単な整理が、一時間かかってもできなかったのです。しかも、自宅までの帰る道順もわからない。
 稲光 認知症の症状が現れたのですね。
 小島 そうです。病院の検査で、脳血管性の認知症であることがわかりました。やがて、昼夜を問わず、五時間、六時間と、何かを求めてさまよい歩くようになったそうです。鍵をかけてもむだでした。奥さんは二階から屋根に出て、ハシゴを踏み外し、頭にひどいけがをしたのです。華道と茶道の教授として、一時は五百人もの生徒をかかえていた奥さんの変わり果てた姿でした。
 「夫婦とは?」「人生とは?」と思い悩み、Hさんは創価学会に入会します。奥さんの回復を祈るなかで、Hさんは、強いいびきをかきながら眠る奥さんの寝顔を「かわいい」とさえ思うようになりました。自分でも思いもかけない感情の変化に驚いたそうです。そして「外に出られないことが、病人にとってどんなにつらいことか」と胸に迫るものがあり、以来、一日も欠かさずいっしょに外出するようになりました。
 松本 深い愛情を感じますね。
 小島 ところが、ある日、いっしょに電車に乗ったところ、「こんな所へ連れてきて!」「みんなに言ってやろうか!」と奥さんにののしられてしまいました。もちろん認知症特有の症状です。乗客の好奇の視線を感じながら、怒りと恥ずかしさに一瞬、カッとなったそうです。心の葛藤が続きます。そして、深々と祈るなかで、「私は、私をののしる妻の心を考えたことがあるだろうか?」と思い始めたのです。
 「生命は私たちの一瞬一瞬に生き続けていることを強く感じました。ならば、妻の一瞬一瞬を大切にしてやらなくては……。大切にするとは? 妻が少しでも喜び、楽しい気持ちでいられるようにすることだ」「妻への愛情の奥に御本尊の大慈悲を感じ、祈れば祈るほど、私の心は清められ、妻への愛情が深められていったのです――と。
 以来、Hさんは、奥さんが亡くなるまで、奥さんの心を知る介護を心がけていきます。
 発病以来、六年後に、奥さんは安らかに亡くなられました。今にも話しかけそうな顔で、死に化粧しようと思ったけれども、周囲の人が「化粧しないほうが美しい」と言ったほどでした。Hさんは「四十五年間の夫婦生活で、妻が病に倒れて初めて心が通いあった、そんな気がします。夫婦としていちばんよかった時期じゃないかと思っています」と述懐されています。
 池田 感動的な体験ですね。祈りがわが心を深めます。認知症の問題にかぎらず、相手の思いが身にしみてわかってくるまで、自分の心の鏡を磨きたいものです。
10  徘徊・独り言・暴言・被害妄想・過食……
 池田 今の体験にもありましたが、認知症が進んでいくと、外に出たがるなどの症状が出てくるのですね。
 松本 はい「徘徊」「独り言」「暴言」「せん妄(錯覚や幻覚をともなう軽い意識障害)」「被害妄想」「異食(石けんなど食べ物でないものを口にすること)」「過食」「失禁」など、さまざまな症状が出ます。
 池田 具体的には、どう対応すればいいですか。
 小島 Hさんの奥さんが、「さまよい歩いた」のは、「徘徊」という症状です。事故にあったり、迷子になってしまうことがあるので危険です。かといつて、無理に外出するのを制限すると、症状を悪化させます。
11  衣服に名前、住所、連絡先を
 松本 衣服に名前や住所、連絡先を書いた布を縫いつけておくと、いざというときに役立ちます。事故防止や安心感をあたえるためにも、できれば「一人にしない」「目を離さない」ようにしたいですね。
 稲光 地域の人や交番によく知ってもらい、歩いている場合には連絡してもらうようにすることも大切です。
 池田 認知症の人がいることが恥ずかしくて、家の中に閉じ込めてしまう家庭もあるようです。しかし認知症は病気です。何も恥ずかしいことではありません。
 むしろ、地域の人に、きちんと説明したほうが、周囲も「ああ、そうか」と安心するのではないでしようか。そのほうが協力も得やすいと思います。
 小島 そうなんです。認知症の介護に地域の協力は欠かせません。勇気を出し、ある意味で開き直って、ちゃんと説明したほうがいい場合が多いと思います。
 池田 Hさんの奥さんが電車の中で、突然、怒りだしたのは「暴言」ですか。
 稲光 そうです。それに家が壊れるとか、殺されるといった幻覚などが加わると「せん妄」になります。
 こうした行動には、必ず理由があります。表面に表れた言動に反応するのではなく、その「心」に対応すると、症状が和らいだり、消えたりします。
 松本 認知症の症状は、信頼している人に対して、強く表れるのが特徴です。いつもお世話してくれる人だからこそ、お年寄りは甘えてわがままを言ったりするんです。
 小島 「暴言」や「せん妄」などは、過去と現実が混乱して起こることが多いようです。そのきっかけは現実の生活の中にあります。「大きな音で戦争を思い出して避難する」といったことです。
12  大きく受けとめ、敬意で接する
 池田 どういう対応が考えられますか。
 小島 あわてずに、いっしょに行動します。また不安のきっかけになっていることが多いので、テレビや掃除機、洗濯機などを止めて静かにします。手を握ったり、背中をさすってあげて、やさしく話を聞いてあげるといいでしょう。
 松本 食事をすませてしばらくすると、「ごはんはまだ?」と言うことがあります。原因は、神経の異常で満腹感がない、食べたことを忘れているなどが考えられます。その場合は「メニューは何にしましようか」と聞き、好きなものを想像してもらったり、調理法を教えてもらい、「もう少し待ってくださいね」と対応することで、満足することがあります。
 池田 介護はなみたいでいの苦労ではありませんが、できるかぎり、気のすむようにしてあげることでしょうね。無視したり、バカにしたり、矛盾を指摘して追い込んでも何にもならない。むしろ、昔のことでもいいから、お年寄りが誇りにしていることとか、得意だったこととかを話題にしてあげるなど、「尊敬」と「愛情」で接する努力が、自分の人間修行ですね。
13  「あなたはだれ」と言われた
 池田 自宅にいるのに「家に帰る」と言う人もいるようですが。
 稲光 はい。「もう一晩、泊まっていけば」「明日、家まで送ってあげますから」と話してみるのもよい方法です。
 小島 それでも家を出ていとうとする場合には、「送っていきましょう」と言って、町内を一回りしてもどってきます。そのとき、家族の人が「お帰りなさい。待ってましたよ」と声をかけると安心します。
 池田 家族の名前を忘れる人も多いようですね。
 小島 いきなり「あなたはだれ」と言われたりするので、家族はびっくりしてしまうんです。そう聞かれたら、はっきり名前を口に出して、たとえば、「お父さん、私は息子の太郎です」と、自分との関係をふくめて、きちんと答えることです。
 稲光 日ごろから、「おはようございます! 朝すよ」「お昼ごはんですよ」「夜ですから休みましょう」と話しかけたり、カレンダーに印をつけて、日付を知ってもらうことも現実を知るよい方法です。
 松本 認知症の症状には、薬が効果的なこともあります。薬に頼ってしまうのはよくありませんが、症状を悪化させないために一時的に使うのはよいと思います。
14  医師や保健師に相談して公的サービスも
 池田 認知症の場合にも、高齢者介護のような公的サービスを利用できるのでしょうか。
 稲光 認知症の状態にもよりますが、基本的には利用できます。医師や保健師などに相談してみてください。とくに、「デイケア」のような日常生活の訓練をしてくれるところや、一時的に預かってくれる「ショートステイ」は、症状が軽い時期から利用すると、症状の悪化予防になります。介護の専門家に、アドバイスを受けることもできます。
 小島 これからの長寿社会では、大きな問題なのですが、日本では社会的対策が、まだまだこれからという段階です。
15  認知症の予防
 池田 認知症は、どうすれば予防できますか。
 稲光 「脳血管性痴呆」の場合は、脳卒中などを防ぐことです。塩分や脂肪を控えるなど、高血圧や糖尿病などの成人病に注意することが大切です。
 池田 「手足を使う」ことや「人に会う」のも、脳の刺激になりますね。
 松本 はい。絵画や手芸といった創作的な趣味をもったり、日記や手紙など「文章を書く」ことは脳細胞を活性化させます。対話、歌を歌うなど、「声を出す」ことも大切です。
 稲光 「適度な運動」も予防には欠かせません。散歩もいいのですが、買い物や家の掃除、洗濯など、しっかりとした目的をもって体を動かせば、家族に貢献しているという「張り」も強まります。
 小島 高齢になってからの転居や改築などは、認知症の発症の原因になることがあります。刺激になるように思えますが、それ以上に高齢者を混乱させてしまうのです。
 池田 たしかに、お年寄りの場合、環境の急激な変化で、変調をきたすことがありますね。水が変わるというのでしょうか。池のコイでも自分にあった水がある。水が変わると、とたんに病気になってしまう場合がある。
 また人間の心はデリケートですから、思いもよらぬところで孤独感をあたえていることもある。孫と住むようになったのはよかったが、体がきかないのを孫にバカにされて落ち込む人もいるし、よかれと思って、いい部屋をあげたら、「自分は隔離された」と思い込んでしまった人もいる。
 松本 「安心感」をもってもらう温かい交流がいちばんですね。
16  定年後こそ「生き方」が問われる
 池田 何らかのショックや「わだかまり」が内向して、引き金になることもあるでしょう。男性の場合、定年退職をきっかけに認知症の症状が現れる場合も多いと聞きます。
 稲光 「仕事が生きがい」という人の場合、退職によって社会的役割を失い、充実感や緊張感がなくなってしまうようです。
 松本 女性の場合も、子ども夫婦と同居して、家事にたずさわらなくなるなど、やはり自分の「役割」を失って認知症になる人が多いと言われています。
 池田 学校時代が第一の人生、その後が第二の人生とすると、老年期は総仕上げの「第三の人生」です。体は衰えていく。しかし人生は心一つで、いつでも、どこでも自分を輝かせることができます。さあこれからだ、新たな目標を掲げ進んでいこう――こういう前向きな気持ちが脳細胞にも刺激をあたえ、新たな活力を生みだしていくのです。
 牧口先生は五十歳を過ぎてなお英語の勉強を続けられ、六十代、七十代でも、青年にまさる情熱で、行動されています。
 松本 すごい精神力ですね
 小島 たしかに、高齢になっても、生きがいをもっている人は、元気な人が多いです。
 池田 年齢とともに、たとえ記憶力は落ちても、総合的な判断力、人間理解力、人生への洞察力は若い人よりも鍛えられている。それらを、いよいよ発揮していく年代です。
 老年期は、それまで以上に「人間としての自分」が問われる年代でもある。社会的地位や立場等を離れでも、心に豊かな″何か″をもっているかどうか――それが問われてきます。その意味で、ぼけない予防は、若いうちから始まっている。生き方そのものに深く関係していると言えるでしょう。もちろん、認知症という病気の場合は別であることは言うまでもありません。
 一般に、「ぼけにくいタイプ」とは、(1)新聞や本などをよく読み、頭を使っている人 (2)物事に、くよくよしない人 (3)利己的でなく、世話好きな人 (4)喜びや感動など感受性の豊かな人 (5)自分なりの生きがいをもち、向上心の強い人、と言われていますね。
 松本 そうです。ですから学会活動は認知症の予防になると思います。
 池田 毎日、「聖教新聞」はじめ活字を読む。さまざまな悩みも、信心の実践によって打開していく。その体験を「語り」、「人々の幸福のために」奔走する。そして、友の蘇生に「感動」し、人生の醍醐味を思うぞんぶん、味わっていく――体も心も頭脳も、サビつきません。もちろん、その根本は題目です。題目にまさる生命蘇生の妙薬はありません。学会活動に一切、むだはないのです。最高の健康法ではないでしょうか。
 稲光 (6)話し相手がいる、人もぼけにくいです。
 小島 その意味でも、学会はありがたいですね。
 池田 そのとおりです。広宣流布のリズムのなかで、無理なく「健康のリズム」を整えながら、自分らしく、はつらつと生きぬいていただきたい。幸福に長生きしていただきたい。
 仏法では、「年は・わかうなり福はかさなり候べし」――年はますます若くなり、福運はますます重なっていくでしょう――と説かれています。
 妙法を行じる人の生命には、日々月々に「新しい太陽」が昇る。燦然たる、豊かな生命力がわいてきます。「三世の果てまで使命に生きる!」と希望が燃えます。
 心は年どとに若々しく、福運が満つる生活となっていくのです。最後の最後まで、「わが命」を燃やしながら、大空を荘厳な金の輝きで彩るような人生の総仕上げを生きぬきたいものです。

1
1