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日蓮大聖人・池田大作

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高齢者介護 愛情と智慧にあふれた長寿社会を

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

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2  自分で気づかない体調の変化
 稲光 体調の変化を見逃さないでください。高齢になると、「自分では気づかない」ことが多いんです。見ていて「どうも元気がない」と思い、体温を測ったら熱があったということも珍しくありません。
 また、病気にかかっていても熱が出ないことがあります。食事の量や手足のむくみなどに注意してください。
 小島 入浴のときなど、さりげなく全身を観察することですね。皮膚炎を起こしているのに気づかないこともあります。放っておいて化膿すると大変です。
 稲光 「ひんぱんにトイレに行く」「便秘が続いているようだ」「外出しなくなった」「言葉数が減った」などの変化があったら、注意が必要です。病気の初期症状のこともあります。
 松本 とくに、糖尿病や高血圧などの持病がある方は要注意です。症状が軽いうちに治療を受けてください。
3  家庭での転倒事故を防ぐには
 池田 高齢者の転倒事故も、よく聞きますね。家の中での事故も多い。高齢になると片足で立っていられなくなるし、体のバランスが悪くなるんですね。
 松本 はい。玄関やトイレ、浴室などの入り口などは、できるだけ段差をなくしたほうがいいと思います。
 小島 電気のコードや新聞・雑誌も、つねに整理しておくことです。室内の照明は明るくし、階段には滑り止めテープを張るのもいいと思います。足元も明るくしてください。
 松本 服装も動きやすいものにします。スリッパは、滑るので気をつけてください。外出のときには、ぴったりあったズックが安全です。
 稲光 買い物のときは、できればリュックを使うなど、両手が自由に使えるようにしておくことも大切ですね。
 松本 こうした注意にもかかわらず、病気や事故が原因で、一人で日常生活ができなくなると、本格的な介護が必要になります。
4  清潔・食事・排泄がポイント
 池田 日常の介護で大切な点は何でしょう。
 稲光 「清潔」「食事」「排池」がポイントです。体を清潔にすることは、感染症などの病気を防ぐばかりでなく、心身を生き生きとさせます。
 小島 「入浴」は、体調がよいときにしましょう。週二回が目安です。
 お湯の温度は三九度前後のぬるめにし、手足に「かけ湯」をしてから、ゆっくりと湯船に入ります。入浴は十五分くらいですませ、入浴後は、すぐに体をふいて、湯冷めを防ぎます。
 稲光 体力が落ちた高齢者にとって、入浴は山登りと同じくらい、体力を使うと言われています。ですから、声をかけて、体の調子を確かめながら入浴するといいですね。
 松本 入浴の介護は力がいります。不意の事故も起こりやすいので、できれば男性に協力を、お願いしたほうがいいと思います。高齢者の腰に、さらしやタオルを巻いて支えてあげると安心です。
 池田 入浴できない場合は、どうすればいいですか。
 稲光 布団やベッドに横になったまま、体をふいてあげてください。蒸しタオルで全身をていねいに、手ぎわよく、ふきます。マッサージ効果もあり、床ずれの予防にもなります。
 小島 結構、大変です。介護するほうも、されるほうも疲れるので、一度に全身をふくよりも、きょうは上半身、明日は下半身と分けたほうがよいかもしれません。
 松本 洗髪もベッドや布団の上でできます。蒸しタオルやアルコールで地肌をマッサージするようにしてふいてあげてもいいです。週に一度は、きれいにしてあげたいですね。
 小島 女性の場合、髪を洗った日には、「お客さんでも来ないかしら」と、急に元気になる方もいるようです。(笑い)
 稲光 手や足はベッドの上でも、部分浴ができます。深めの洗面器に、少し熱めの湯を入れ、ひたしてあげます。
 とくに「足浴」は、寒い夜には、体全体が温まり、快い睡眠をもたらす効果もあります。
5  食べ物が気管に入ると肺炎に
 池田 「食事」の注意は、どうですか。
 稲光 食事の内容は、カロリーを低めに、種類を多くします。脂肪や塩分は、肥満や高血圧の原因になってしまいます。高齢者は、便秘になりやすいので、繊維質の多い野菜が十分にとれるようにします。
 また、水分やカルシウムの補給も、脱水症状や骨折を防ぐ意味から欠かせません。
 小島 高齢になると、かんだり、飲みこむ力が弱まります。飲みこむ力が弱いと、とくに寝たきりの場合は、食べ物やだ液が気管のほうへ入ってしまい、肺炎を引き起こします。寝たきりの人でも、なるべく布団から出て、座って食事をしたほうがよいと思います。
 松本 大事なことは、家族と同じ食事を食べられるように心がけることです。調理法も工夫ができます。食物は「焼く」「揚げる」「炒める」と硬くなりますが、「煮る」「ゆでる」「蒸す」とやわらかくなります。肉や野菜は小さく切ったり、かくし包丁を入れると食べやすくなります。
 稲光 そぼろ状のものは、のどにつかえたり、むせたりするので注意してください。
 池田 年をとると、お餅をのどにつまらせることがありますね。
 松本 はい。とくに、つきたてのお餅は粘り気が強いので気をつけてください。お餅を食べるときは、小さく切ると、のどを通りやすくなります。
 小島 ふつうの食事のときも注意が必要です。口の中に食べ物が入っている場合は、声を出そうとして、のどにつまらせることがあるんです。
6  自尊心を傷つけない
 池田 「排泄」のお世話も大変ですね。
 稲光 排泄は、いちばん、私的な行為で、その人の尊厳にかかわる問題です、お世話をしてもらうと迷惑がかかると思い、遠慮がちになるんです。ですから、できるだけ自分で努力しようとする人が多いのです。
 池田 本人に遠慮をさせない気配りが大切ですね。
 松本 それでも自分ですませたいという人もいると思います。可能なら、トイレに手すりをつけたり、和式の場合は腰掛け便器をとりつけたりして、少しでも楽になるように考えてあげたいですね。
 小島 自力でトイレに行けない場合は、できれば携帯用トイレを用意したほうがいいと思います。歩ける場合でも、夜、トイレに行くのは暗く危険な場合が多いし、トイレ自体が寒い家が多いので、携帯用トイレなら安全です。
 稲光 便秘がちな方には、おへそを中心に「の」の字を描くように、おなかをマッサージしてあげると効果的です。
7  尿意がなくてもトイレに行く習慣を
 小島 失禁がある場合には、一度、病院で検査を受けたほうがいいと思います。何かの病気が原因の可能性があります。また失禁は定期的にトイレに行く習慣をつけることで防ぐこともできます。
 稲光 「尿意がなくてもトイレに行く」よう習慣づけるわけです。
 池田 簡単に老人用おむつ等に頼らないということですね。
 稲光 本人の自尊心にかかわることですから、できるだけ失禁がないように努力することが先決です。しかし、お手洗いに間に合わなくてもらしてしまうこともあります。いちばん、情けない思いをしているのは本人ですから、「また失敗して!」と追い打ちをかけるのは絶対につつしむべきです。
 松本 高齢者の介護の一つのポイントは、「自尊心を傷つけない」ことです。子どもや目下の人を相手にするような態度もつつしむべきでしょう。障害が起こる以前と同じように接するべきです。
 小島 「老化」によって起こる、さまざまな障害は、本人にとって受け入れがたい現実です。「あれができない」「これもできなくなった」と、気にしていることが多いんです。
 池田 だからこそ「尊敬」をもって接することが大事ですね。長年、家族と社会のために働いて年をとったのだから、老化が進んだときこそ、周囲が「今こそ恩返しをするときだ」と思ってあげてほしい。高齢者にとって、孤独ほど生命力を弱らせるものはありません。温かい愛情と心の幹、そして楽しい会話が、何よりの元気のもとです。
8  寝たきりは治せる
 稲光 そのとおりです。訪問看護師のKさんから、こんな話を聞いたことがあります。Kさんは、二十年近く寝たきりのHさんの介護にあたりました。初めてHさんの家を訪問したとき、Kさんは、びっくりしてしまいました。Kさんの部屋は、雨戸が閉まったままで暗く、枕元に汚物入れが置きっぱなしでした。子ども夫婦、お孫さんと同居していたのですが、生活は別で、言葉をかわすことも少なくなっていたそうです。
 小島 「寝たきりは治らない」「家族といっしょに生活なんてできない」と、あきらめていたんですね。
 稲光 そうです。Kさんは、まず家族の先入観を変えるように指導しました。雨戸を開け、換気を十分にして、布団も干すように教えました。
 また、昼と夜の区別をつけるために、Hさんには、昼間は寝間着の上から、白い割烹着を着てもらったそうです。
 家族の方には、さんに積極的に声をかけるように話したそうです。「おはよう」「お休みなさい」「体の具合はどうですか」「きょうはすごく天気がいいから雨戸を開けるよ」「早く、食卓でいっしょにごはんを食べたいですね」と。
 家族との心の交流を通じて、Hさんにも「寝てばかりじゃいけない。起きよう」という決意が生まれました。部屋の中を、きょうは一周、明日は二周と這う練習をするようになったんです。
 二十年も寝たきりだったので、「もう疲れた」「いやだ」「どうせ歳なんだから」と、あきらめることもありました。そのたびに、家族が励まし、協力してあげたそうです。
 半年後、とうとうHさんは、杖をついて歩けるようになりました。もちろん、家族といっしょに食卓を囲むこともできます。
 Hさんは家族に感謝の思いを、こう語ったそうです。「ごはんが、こんなに、おいしいとは思わなかったよ。ありがとう!」と。
 池田 いい話です。一度、寝たきりになっても、ふたたびもとの生活にもどれるんですね。
 小島 そうです。寝たきりの方は、介護の仕方と高齢者の自立心しだいで起き上がることができます。また、それを目標として介護することが大切だと思います。
9  寝たままだと体の機能が衰える
 池田 そもそも、なぜ「寝たきり」になってしまうのですか。
 小島 脳卒中や神経などの病気で、体が自由に動かせなくなると、寝たきりになってしまいます。
 また、骨折や風邪などで寝とんでいるうちに、寝たきりになってしまったということも少なくないんです。
 松本 寝たままの状態でいると、「一日に筋力が三パーセント低下する」と言われています。関節が硬くなり、筋肉なども縮んできます。心臓や肺の機能も低下してきます。
 すると、起きるのがつらくなり、気持ちも沈みがちになって気力や意欲を失います。その結果、寝たきりになるとされています。
 稲光 「寝たきりは寝かせきりからつくられる」とも言われます。必要以上の介護は、かえって自立心を失わせます。しだいに能力も衰え、自分でできることまで、できなくなってしまうんです。
10  寝たきり予防は「座る」ことから
 池田 そうすると、寝たきりにし、ないためには、どんな工夫をすればいいですか。
 松本 まず「座る」ことが寝床を離れる第一歩です。「歩けないから」とあきらめ、ないで、座って食事をしたり、テレビを見たりしてみましょう。
 「座る」ことは、床ずれの予防にもなります。
 稲光 半身にまひがある場合は、自力で座っていることがむずかしいので、背もたれが必要になります。座イスを使ったり、かけ布団などを折りたたんで背もたれにします。
 小島 寝床から離れるためには、可能であれば、「車イス」もいいと思います。家族といっしょに食事をしたり、テレビを見たりできるからです。車イスがない場合でも、寝床とは別の場所に、背もたれのあるイスを用意して、そこで、一時を過ごすなどの工夫ができます。
 松本 先ほども話題になりましたが、寝たきりの人の介護の大きなポイントは「自分でできることは自分でしてもらう」ことです。
11  口は出しても手は出さない
 小島 障害があったり、高齢でも、できることは自分でしてもらい、できなくなったことを補う。「口は出しても手は出さない」というのが、介護の基本的な考え方です。
 とくに食事や着替えなど身のまわりのことは、できるだけ自分でしてもらうほうがいいと思います。
 稲光 「時聞がかかる」「二度手間になる」からと、こちらの都合で、さっさとやってあげることが多いんですね。一見、親切に見えますが、じつは、これほど冷たい介護はないんです。
 松本 寝たきりでなく、比較的健康なお年寄りには、洗濯物の取り入れや玄関の掃除、食器の片づけなどをしてもらうといいと思います。運動にもなるし、「家族に役立っている」という気持ちになります。
 池田 「張り」ができるね。大事なことは、毎日を、どう「張り」をもって生きるかです。何らかの「喜び」を見いだし、何らかの「希望」を見いだし、人生の立派な完成に向かって前進していくことです。何事も仕上げが大事です。
 人生も総仕上げが大事です。体は病んでも、否、体が病んだときこそ、豊かな精神生活を味わうことができるのです。心豊かな人は、体が衰えても、そのぶん、心が澄み、いろいろなことが見えてくるものです。
12  「床ずれ」を防ぐために
 池田 寝たきり状態の人の介護で、いちばん苦労が多いのは「床ずれ」ですか。
 松本 そうです。長時間、同じ姿勢で寝ていると、骨などの出っ張った部分の血の流れが悪くなって起こります。
 ビタミンやタンパク質の不足なども原因になります。
 池田 どのあたりにできやすいのでしょうか。
 松本 後頭部、肩、ひじ、背中、腰骨の下、おしりの上部、くるぶし、かかとです。
13  二時聞に一度を目安に寝返りを
 池田 どうすれば予防できますか。
 小島 二時聞に一度くらい、上向き、右向き、上向き、左向きと、順番に寝返りを打たせてあげることです。
 池田 深夜でも二時間に一度ですか。
 小島 基本的にはそうですが、それでは、介護する側が大変です。寝る前に、床ずれが起きやすいところを十分にマッサージしたり、その部分に柔らかいクッションを当ててあげると効果的です。
 稲光 肌の乾燥を心がけ、おむつを使っている場合は、濡れたら、すぐに交換してあげることが大切です。
14  入浴も効果的
 池田 床ずれができてしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。
 松本 床ずれができると、入浴できないと思っている人が多いようですが、反対です。「入浴して清潔にし、体を温める」ことが治りを早めます。ただし、入浴後は、乾燥させ、きちんと消毒して軟膏を塗っておきます。一度できたところは再発しやすいので、油断しないようにすることです。
 池田 私の義父は八十五歳で亡くなりました。三年間、病気を患い、亡くなる前の一年聞は寝たきりの状態でした。
 義母は真剣な介護を続けました。義父は体格が大きかったので、それを支えた小柄な義母の腰は曲がってしまいました。しかし、そのおかげで、一度も床ずれができませんでした。
 稲光 看護師の問では「床ずれは看護の恥」と言われています。
 病院では「床ずれをつくらない」のは献身的な介護の証です。ただし、どんなに懸命に介護をしていても、体全体の調子が悪くなると起こることがあります。床ずれができたときは、医師に往診してもらったほうがいいと思います。
 池田 義母は、よく「聖教新聞」も、一般紙も、義父に読んであげていました。それで社会の情報も、いつも知ることができました。介護するほうも、されるほうも、少しも苦ではなかったようです。お嫁さんと、お孫さんも同居していましたが、皆で、義母を支えていました。寝たきりの義父をかかえながらも、ますます朗らかで和楽の家庭になっていったのです。
15  長寿社会を「生きる喜び」の社会に――介護は家族全員で役割を決めて
 池田 介護には、家族の協力が不可欠ですね。
 稲光 そうなんです。とくに、介護のほとんどをになう、お母さんは大変です。本来、介護は家族のだれか一人がやるべきものではありません。お母さん一人に負担をかけないように、家族一人一人が、自分のできることを明確にし、役割を分担することが、大切だと思います。
 池田 そう。それが子どもたちをはじめ、介護する側の「豊かな心」を育てることにもなる。大事なことです。
 小島 Aさんの体験を思い出します。Aさんのお母さんは、頸椎の病気で胸から下がまひして寝たきりの状態でした。二十四時間、つきっきりの介護が必要なのですが、ほとんどAさんの奥さんがになっていました。Aさんは、心の中では、いつも奥さんに申しわけないと思いながらも、仕事も忙しく、十分な配慮ができなかったそうです。まったく力の入らない、お母さんの体を支える介護は、重労働です。とうとう奥さんは、腰を痛めてしまいました。
 いちばん、責任を感じたのはお母さんだったのでしよう。以来、口を開けば、「私がいけないの」と、自分を責めてばかりいるようになったんです。「このままでは、家族みんなが犠牲になってしまう」と思い、夫婦で話しあった結果、夜は、できるだけAさんが介護することにしました。またAさんの妹さんも週二回、手伝ってくれるようになりました。中学生と小学生の子どもも、「おばあちゃん、何かしてもらいたいことない?」と、積極的に手伝うようになったそうです。
16  言葉と行動で母にねぎらいを
 池田 お母さんを大切にしてあげてください。家族とはいえ、″やって当たり前″というような気持ちでは、お母さんがかわいそうです。とくに、ご主人は、奥さんの苦労を理解してあげてほしい。″自分は無関係″と考えている人も多いようです。
 また、どんなに心の中で感謝していても、言葉に出さなければ、相手に通じません。「お疲れさま」「ありがとう」と、声に出して、ねぎらい、力づけてほしいものです。また、介護してもらっている人も、声に出して「ありがとう」と言ってあげてくだください。
 松本 同居していない家族も、同居の家族だけにまかせるのではなく、時々は手伝いに行ってほしいとかんしや思います。その日は、いつも介護している人は″お休み″にしてあげてください。
 池田 せっかく訪ねていっても、″お客さん″なってしまって、来てもらったほうが、かえって気をつかい、疲れてしまうのでは、しかたがない。ともかく、いつも介護している人を疲れさせないようにすることです。ふだんから睡眠もよくとれるよう、周囲が配慮してあげてほしいものです。
17  公的サービスを積極的に利用
 稲光 家族だけで介護をしていると、学会の会合や地域の行事への参加や、家族で出かけることもむずかしいこともあると思います。介護でわからないことや相談したいこともあると思います。こうした場合の助けになるものに、公的介護サービスがあります。
 池田 どんなサービスがありますか。
 小島 (1)携帯用トイレやベッドなどの介護用品の提供*(2)入浴サービス*(3)施設に送迎してくれ、日常生活の訓練などをしてくれる「デイケア」*(4)一時的にお年寄りを預かってくれる「ショートステイ」*(5)介護のアドバイスや食事、排泄、入浴などの介助をしてくれる「ホームヘルプサービス」などがあります。
 松本 費用は各自治体によって異なりますが、認知症の専門医や、保健師、「シルバー110番(高齢者総合相談センター)」、地域の福祉事務所在どに相談するとよいでしょう。
 池田 自分の親は自分で看るという責任感は大切です。しかし、社会的なサービスは、利用していくほうが価値的ですね。
 稲光 そう思います。もともと、欧米に比べて日本の介護は、家族の負担が大きいのです。現在、「白樺」のメンバーのなかにも、訪問看護ステーションを開設している方が増えています。地域のお年寄りを中心に、実際に介護の手助けをしたり、介護の相談を受けています。
 小島 介護は家族や身内の範囲で続けていくものではありません。広く社会的な、ネットワークを活用して行うべきです。
 松本 現在(一九九六年)、わが国では、介護が必要な人が二百万人を超えていると言われています。高齢化が頂点を迎える二〇二五年には五百二十万人になるとされています。(一九九六年度版「厚生白書」参照)
18  「お年寄りを大切にする文化」を育てる
 池田 大変な問題だが、決して後ろ向きにだけ考える必要はないと思う。この問題を契機に、社会全体が「お年寄りを大切にする文化」を育てることが大切ではないだろうか。それは即、「人間を大切にする文化」に通じる。家庭でも社会でも、そういう心豊かな文化を育て、具体的なネットワークとして結実していく努力が必要だと思います。
 若さには若さの、老年には老年のすばらしさがある。お年寄りのさまざまな人生体験も、かけがえのない社会の宝です。また「老人ほど人生を愛するものはなし」(ギリシャの作家ソフォクレス)という言葉もあります。確実にやってくる長寿社会を、「人生への愛情」と「人生の智慧」に満ちた社会にしたいものです。

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