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日蓮大聖人・池田大作

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家庭看護 家族の連帯が最高の癒し

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

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1  池田
 池田 炊事や洗濯、掃除、家族の語らい――それらが全部、「看護」と言えるのではないでしょうか。全部、家族が毎日、元気で暮らせるためですから。家庭は「健康を創造する場」です。
 松本 そうしますと、やっぱりお母さんが看護師長さん、いや院長さんでしょうか。(笑い)
 池田 家庭にあって、お母さんは医師であり、薬剤師であり、栄養士であり、主任看護師であり、総合病院長です。
 だから、子どもも、ご主人も、お母さんの言うことを聞くべきです。お母さんの言うことを軽く考えてはいけない。
 稲光 健康には「生活習慣」が大事なんです。糖尿病、高血圧といった生活習慣病など、とくにそうですね。その意味でも、家庭での看護、健康管理が大事です。
 松本 「ナース(看護師)」という言葉も、もともとは「子どもを育てる」という意味からきています。お母さんは、本来、看護師なんです。
 小島 私の母は、職業も看護師でした(笑い)。だから、手洗いや、うがいなどは厳しかったです。「絶対に病気をさせない」という親心を、今、深く感じます。
 こうして健康でいられるのも″母がいたからこそ″と感謝しています。
2  母の思い出
 池田 母親は家族の健康を、だれよりもよく知っています。
 私が子どものとろの話です。押し入れにあった羊かんを見つけて、こっそり食べ、夜、おなかが痛くなってしまった。母が「熊の胆」を飲ませてくれて治りました。そのとき、母に原因を問いつめられたのですが、初めは黙っていた。しかし母の追及は終わらない。(笑い)
 「みんな、あなたと同じものを食べているのに、だれもおなかが痛くなっていない。どうして、あなただけ痛くなったのか」と、検事以上に厳しい追及でした(笑い)。
 また、私は小さいとろ胃腸が弱かったので、母が腹巻きをさせてくれました。
 松本 「母は偉大」ですね。家庭の「健康度」も、お母さんで大きく決まってしまいます。お母さんが暗く沈んでいたり、イライラしていると、家族みんなが影響を受けます。
 池田 食べもの一つとっても、お母さんが心をこめて作ってくれたものは、おにぎりでも何でも、おいしいものです。私も幼いころ、おなかがすくと、母がよく、サツマイモをふかしてくれました。食糧の乏しい時代でしたから、最高のごちそうでした。その味は今でも忘れられません。
 最近の子どもは、お母さんが手をかけて作ってくれたものを、食べる機会が少なくなったと聞きますが。
 稲光 今の若いお母さんのなかには、忙しいと店屋物やフアストアードなどに頼る人も多いようです。それも度を越すと、栄養が偏ってしまいます。
 池田 お母さんは忙しいからね。家族みんなで工夫して、お母さんを疲れさせないようにしてあげてほしいですね。
 松本 「白樺」のKさんの話です
 ご主人は仕事の都合で帰宅時聞が不規則。高校生と中学生の二人の息子さんは、クラブ活動などで帰宅が夜七時ごろ。Kさんも夜勤などがあり、なかなか家族そろって食事ができないんです。
 そこでKさんは夜勤のときは、温めるだけで食べられるように準備をして、メモをつけておいたそうです。「三人分の食事です。お父さんのぶんまで食べないように」「肉は残しても野菜は全部食べてくださいね」「歯磨きを忘れないように」と。
 小島 「メモ」って、なかなかできないことですね。でも大事なんですよね。
 松本 あるとき、さんが夜勤から帰宅すると、子どもたちが自分の使った食器を洗っていたというんです。少しでもお母さんを疲れさせないようにって。
 以来、Kさんが夜勤のときには必ず、子どもたちが自分で食器を洗うようになりました。
 また、食べ残しや、ソースなどのかけすぎは洗いにくいことがわかり、偏食やむだも少なくなったといいます。
3  知識が人を守ることに――母は無理をする
 池田 温かい家庭の雰囲気が伝わってきますね。母親は、私たちが想像する以上に無理をしているものです。
 母親のなかには、持病のある人もいます。年齢とともに、体調をくずすこともある。だから家族は、母をいつも見守っていてあげなければいけない。
 少しでも具合が悪いようなら、信頼できる医師や病院を探してあげることです。また、正しい医学知識をいっしょに勉強するとか、まわりが応援してあげてください。
 稲光 はい。家庭の健康管理でいちばんの基本は、やはり「正しい知識を身につける」ことだと思います。
 小島 私の母も「知識が人を守ることになる」というのが口癖でした。
 池田 そのとおりですね。では、さっそく正しい知識を教えてください。家庭での健康管理のために「ふだんから用意して、おいたほうがよいもの」は何ですか。
 松本 体温計、血圧計、体重計、氷枕、絆創膏、また、湿布薬、消毒薬、うがい薬、痛み止めなどの常備薬があれば十分だと思います。
 池田 一般の人は注射をしてはいけないのですか。
 小島 注射は、一般の方はできません。ただし糖尿病の患者さんのように医師から許可を得て自分で注射をする場合は別です。
4  家庭でできる工夫
 池田 家庭に病気の人がいる場合、どんな点に注意すればいいですか。
 稲光 病気の種類や症状の程度によって、対応は変わってきます。あくまでも一般的な注意としてあげてみます。
 まず、(1)できれば部屋は、家の中でいちばん明るく、日当たりのよい部屋を選んでください。可能なら、台所や玄関から離れた、安静を保てるところがいいですね。いつでも人を呼べるように、手元に呼び鈴などを置いてあげると安心です。
5  病人がいる家に夜分、電話しない
 小島 病気の人がいる家庭に、夜遅く電話することは控えるべきだと思います。
 稲光 (2)室内の照明は、電気スタンドだけにするなど、光が直接、目に入らないように工夫したほうがいいと思います。
 (3)温度や湿度も快適に保ってあげたいですね。しかし、個人や病気によって温度の感じ方が違うので注意が必要です。
6  長期療養の人はベッドが楽
 稲光 (4)長期療養の人は、ベッドのほうが楽です。畳の上に布団を敷く場合は、湿気に注意してください。できれば布団は毎日、干したいですね。また布団は「軽くて温かいもの」を選んでほしいと思います。
 松本 (5)病気の人の周囲は、いつも整理整頓を心がけてください。(6)掃除のときは、病気の人を、ほかに移して、ほこりをたてないように念入りに行います。
 (7)部屋の換気も大事です。冬でも毎日、朝と夕、掃除のときなどを利用して、最低十分間は空気を入れかえてください。(8)食事は栄養が豊富で、消化のよいものを心がけます。
 病気によっては、食事制限が必要ですし、食欲のないことも多いでしょうから、楽しく食事ができるように工夫してください。
 小島 (9)入浴できないときでも、体は毎日、熱めのお湯でふいてあげてほしいですね。清潔にし、血行をよくするためにも大切です。
7  周囲に花や絵を
 小島 (10)気分転換をはかる意味でも、花や絵を飾ってあげたり、音楽を聴くことができるようにしたほうがいいと思います。
 稲光 要は、病気の人が気持ちよく療養できるように工夫することがいちばんです。
 松本 お題目は、横になってしでもいいのでしょうか。
 池田 もちろんです。日蓮大聖人も体調の悪いときには、「読経はいいから、ただ題目を口ずさんでいなさい。御本尊に向かわなくてもいいのですよ」(御書一二〇三ページ、趣意)と仰せです。
 題目の数や時聞についても、決して形式ではなく、自分の体調がいちばんよくなるように、自分で判断すればいいのです。
8  「安心感」が回復の力に――「笑顔」が薬
 池田 病気の人に対しては、精神面も大切ですね。人間は機械ではないから、「安心感」があるかどうかで、ぜんぜん体調も違ってしまう。どんな配慮が考えられますか。
 小島 「いつも笑顔で接する」ことではないでしょうか。ある評論家の方が入院したときのことです。その人は自分の病室のドアに「このドアを聞ける人は笑顔になって入ってきてください」と張り紙をしたそうです。すると、それまで忙しさのあまり無表情になりがちだった看護師もみんな笑顔に変わりました。また、その話が、ほかの病棟にも伝わり、病院全体に笑顔が広がったと聞きました。これは病院だけでなく家庭にも通じる話だと思います。
9  「あせり」や「不安」を取ってあげる
 池田 そうですね。とくに病気の人は、「自分が病気になって、皆に申しわけない」と思って気に病んでいる場合がある。
 家庭で療養していると、なおさら、その思いが強くなる人もいます。病院だと、まわりが皆、病人で、「自分だけじゃないんだ」と思えるけれども、家にいると孤独感やあせりが強まる場合がある。だから、安心して闘病できるようにしてあげてほしのです。
 どうすれば安心するかは、人によって違ってくると思いますが、家族の「笑顔」は、たしかに何よりの薬ですね。
 松本 「安心感」は本当に大事なんです。手術の場合でも、患者さんに「必ず治る」という確信があり、心が安定していると、麻酔も効きやすくなります。同じ手術でも、通常の半分の量で効果が出ることもあると言われています。
 小島 「安心」のためには、病人の心配ごとを具体的にとりのぞいてあげることも必要ですね。
 とくに治療が長引く場合は、仕事や学校、友人との約束などが心配の種になります。母親の場合は、家計や家事、子どものことが気になります。
 稲光 家庭での看護とは違いますが、乳がんになったAさんもそうでした。手術で三週間、入院したんです。Aさんには、小学校一年生をはじめとして三人の娘さんがいました。周囲は「心配しないで」と言います。実家の両親も応援に来てくれましたが、それでも不安は消えません。
 食事や幼稚園の送り迎え、お弁当の用意、さらには着替えの置き場所、銀行の振り込み、学校の行事など不安はつのる一方だったそうです。そこで、ご主人がどうしたかといいますと、毎日、病院に寄り、奥さんの心配ごとをメモしました。そして帰宅後に、その一つ一つを解決して、翌日、奥さんに結果を教えたそうです。また病状を連絡した親類や友人からの励ましのメッセージも伝えました。
 ご主人との綿密な連携で、Aさんの不安は軽くなったと言います。
10  「病気が皆の絆を強めてくれた」と言える努力を
 池田 「病気をきっかけに、家族の紳が強まった」という話をよく聞きますね。そうなればすばらしいことです。反対に、病気は治ったが、家族はバラバラになったというケースもあります。それでは不幸です。
 人間、生老病死はさけられない。だからこそ病気になったときは、お互いさまだし、支えあうしかありません。
 病気になること自体は、恥ずかしいことでもなんでもない。恥ずかしいのは、病気に負けることです。個人でも、家庭でも。
 御書にも「病によりて道心はをこり候なり」とあるけれども、「病気になって、初めて人生について考え始めた」という人は多い。病気になって、初めて家族の大切さ、愛情の大切さに目覚めることも多い。
 たとえば、「家族会議」を聞いて、一人一人の役割分担を決め、子どもたちも成長したというケースもあります。家族の団結した姿が、病気の人を安心させます。また病気の人の安心した姿を見れば、家族も安心できます。
11  「退院後」の注意
 池田 退院後、家庭で療養する場合の注意というと、どうなりますか。
 稲光 一つは、医師との連携です。心臓弁膜症のご主人をもつTさんの体験です。ご主人は手術が成功し、幸いにも早期に退院することができました。
 しかし、退院するときに、医師からは「今後、体調を維持していくことのほうが大変ですよ」と忠告されたのです。Tさんは、何が起きても大丈夫なように、対応の仕方を徹底して医師に尋ねました。「病状によって心臓の音はどう変わるのか」「どんな物を食べたらいいのか」「緊急のさいの医師への『確実在連絡方法』は」と。
 退院後、医師の指摘どおり、病状はいろいろと変化しました。医師の説明になかった症状も起きたそうです。そのたびさんは医師に言われたとおりに対応しました。自分で判断できないときは、医師に相談し、そのさいのアドバイスは必ずメモしました。
 Tさんの懸命な看護に支えられて、ご主人は社会復帰を果たしたあとも、定年まで仕事を続け、第二の職場にも勤めたそうです。
 池田 退院したとたんに、「やれやれ、これで病院とは縁を切った」(笑い)ではいけないわけですね。
 松本 退院したといっても、しばらくは病人と同じです。健康な人と同じに考えては大変です。手術をした場合には、一年間は無理をさせてはいけないと言われています。
 稲光 とくに気をつけなければならないのが、心の回復です。一般に、「心の回復」は「体の回復」よりも遅いとされています。入院期間が長いほど、心の回復には時聞がかかるものです。
12  「心の回復」
 小島 「白樺」のHさんの体験を聞きました。Hさんのご主人は、髄膜炎で入院し、約一カ月間、意識のはっきりしない状態が続きました。やがて病状も落ち着き、幸いにも二カ月で退院することができました。
 退院後は、体力をつけるために、歩く練習をし、疲れたら無理せずに休むようにしていました。食事や着替え、入浴なども、不自由を感じさせないように、ご主人の希望を先回りして考え看護したそうです。
 池田 その点は、看護師さんだから心配ありませんね。
 小島 はい。ところが、体の回復とは反対に、将来や仕事への不安を日増しに口にするようになっていったんです。
 松本 心の回復は、医学的な知識だけでは、思うようにいかなかったわけですね。
 小島 そうです。そこでHさんは、今まで以上に、いたわりの言葉をかけるように心がけたそうです。「″人生八十年″という時代ですよ。まだ四十歳なんだから、今はゆっくり休んでください」と。
 地域の学会の方も激励してくれました。「必ずよくなるのだからあせらないことです」「人生に意味のないことは何もありません。貴重な体験をしましたね」
 周囲の励ましの積み重ねで、ご主人は元気をとりもどし、退院から約一カ月後に職場に復帰できたそうです。
13  追いつめない
 池田 あせらないことです。まわりの人も圧迫感をあたえないように、ゆったりと見守っていただきたい。「励まし」といっても、「早くよくなってください」と一方的に言うだけでは、かえって、追いつめてしまう場合がある。本人がいちばん「早くよくならなければ」と思って苦しんでいるわけですから。とくに、これまで挫折を味わったことがない人、全部、順調できた人は、病気になってふつうの人以上にあせるものです。
 また、ふだんは人に命令したり、指示をしている立場の人は、自分が病気で受け身の立場になって、神経的にまいる場合がある。屈辱感というか、みじめな気持ちに、なってしまう。
 稲光 本当に人の心はデリケートですね。
14  気持ちを理解
 池田 たとえば、我慢強い人は、自分の苦痛や不安を口に出せない。「心配ないから」と言って、「気分がいいふり」をする人もいます。
 小島 たしかに、そういう人は病気の回復が遅くなってしまいます。不安や苦痛を抑圧せずに、素直に口にできる相手が必要です。
 池田 そのほうが早く治るわけですからね。また周囲も、病人が不安を口にした場合、簡単に「大丈夫よ!」とか、「くよくよしないの!」とか、一笑に付さないで、よく聞いてあげることです。
 むしろ、「そうね。不安だよね。だからいっしょに頑張ろうね」と寄り添ってあげたほうが安心することもあるのです。
 松本 病院でも家庭でも、周囲が、そういう気持ちを、わかつてあげる必要がありますね。
 池田 そう。「自分の気持ちを知ってくれている」という安心がいちばん大事なことだと思う。病気の人の心は、いつも揺れ動いています。ちょっとした変化で一喜一憂したり、とかく悪い方向へと考えがちになります。
 健康な人には、ささいなことと思えることも、病気の人には気になることがあるのです。これは病気になったことのある人にしか、わからないかもしれない。
 ナイチンゲールも、「病人の神経は常に、あなたが徹夜したあとの神経と同じ状態にある」(前掲『ナイチンゲール著作集』1)と教えています。
 松本 そのとおりです。天井のシミが気になって眠れないという人もいます。9999
 小島 枕の高さやシーツの張り具合など、ささいなことが気になって、回復を遅らせることもあります。
 稲光 かなりストレスがたまりまずから、できれば、なるべく要望はかなえてあげたいですね。子どもの場合は、いつもより甘えさせてあげてほしいと思います。
 池田 「不安をあたえない」、そして「不安をとりのぞいてあげる」、また「安心と希望をあたえる」。これが、病気の人の生命力を高めるポイントですね。

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