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日蓮大聖人・池田大作

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心臓病 心臓は全身に生きるエネルギーを

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

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1  池田 心臓の病気は怖いですね。突然、襲ってくる。がんに次いで、今、日本人の死因の第二位ですか。
 森田 はい。欧米でも日本以上に死亡率の高い病気とされています。
 ″突然死″の多くも心臓病と言われています。
 池田 心臓がご専門の今関先生に、いろいろうかがいたいと思います。関心も高いと思いますから。
 今関安雄千葉総県副ドクター部長 こちらこそ、よろしくお願いします。
 池田 医師のシンボルと言えば、白衣と聴診器です。「心臓の音(心音)」も、やはり聴診器で聴こえるのですね。
 今関 そうです。心臓の弁が聞いたり閉まったりする音が聴こえます。また心雑音と言われる異常な音が聴こえることもあります。簡単な道具に見えますが、心臓の異常を調べるのには欠かせません。
 池田 だれが発明したのですか。
 豊福 十九世紀の初め、ラエネク(一七八一年〜一八二六年)が発明しました。フランスの医師です。
 今関 これについては、おもしろい話があります。そのころ、心臓の診察は、患者さんの胸に直接、耳を当てて心音を聴いていました。
 ところが、あるとき、心臓病の疑いのある女性がやってきたのですが、あいにく、彼女は太っていた――よく聴こえないわけです(笑い)。しかも、若い女性だったので、青年医師は、直接、心音を聴くのを、ためらった。
 森田 紳士だったんですね。
 今関 そこで考えついたのが、聴診器(の原形)だったというわけです。
 池田 女性への心づかいが、偉大な発明を生んだわけですね。ほかに心臓の異常を調べる方法はありますか。
 今関 脈でもわかります。
 池田 ふつうは手首で調べますね。
 今関 はい。しかし、もっとよくわかるのは「心電図」です。不整脈、狭心症、心筋梗塞といった、おもな心臓の病気も診断できます。
2  心臓は一日に八トンの血液を送る
 池田 心臓は英語で「ハート」と言いますが、やはりトランプのハートのマークのような形をしているわけですね。
 今関 そうです。とがったほうを下にして収まっています。
 池田 「心」という漢字も、心臓の形を表したものです。古代インドでは、心臓は蓮にたとえられていました。当時の医学書にも「心臓は蓮のつぼみの形をして、先端を下に向け、ぶら下がっている」と記されています。大きさは、どれくらいですか。
 今関 その人の「にぎりこぶし」より、やや大きいくらいですが、その仕事の量はすごい大きさです。心臓は、血液を全身に送り出す働きをしています。一日に送り出す血液の量は、約八千リットルで約八トンと言われています。
 豊福 八トンというと、ドラム缶で四十本くらいです。
 池田 まさに″小さな巨人″ですね。心臓が縮むと血液が送り出される。広がると血液が入ってくる、ということですね。
 今関 そうです。心臓から送り出された血液は、全身に「酸素や栄養を運ぶ」一方、「二酸化炭素などの老廃物を受け取る」わけです。
 森田 心臓のポンプは、一分間に約六十〜八十回、一日にすると約十万回、筋肉を休みなく規則正しく動かしています。
 豊福 一生を八十年とすれば、三十億回近くになります。
 池田 生まれてから死ぬまで、休みなく働き続けて、よく疲れませんね。もちろん、休まれると大変ですが(笑い)。心臓は「特別製」なんですか。
 今関 そのとおりです。心臓は、体の中でただ一つの「特別な筋肉」でできています。手足の筋肉は、こちらが思ったとおりに能率よく働きますが、疲れやすいのが特徴です。一方、胃腸など内臓の筋肉は、自分の意思で動かしたり止めたりできませんが、疲れにくいわけです。しかし、心臓の筋肉(心筋)は「能率よく働き」「疲れない」という二つの長所をあわせもっているのです。
 池田 整理しますと、他の内臓の筋肉は、「つねに淡々と働き、疲れにくい」。手足の筋肉は、「瞬発力はあるが、疲れやすい」ということですね。人間にも、両方のタイプがいますね(笑い)。その両方の長所をもっている心臓は、やはり生命維持の″要″なのですね。
 森田 しかも、心臓の筋肉の細胞は、一生の間、新しい細胞との交代も、ないんです。
 豊福 これほど疲れを知らない心臓も、異常をきたすことがあります。それが「心臓病」です。
3  狭心症と心筋梗塞――心臓の血管がつまる
 池田 おもなものには、どんな病気がありますか。
 今関 やはり多いのは「狭心症」と「心筋梗塞」です。心臓の筋肉に血液を送っている血管(冠動脈)が狭くなったり、つまったりして、「心臓の筋肉に必要な酸素や栄養が不足する」病気です。
 豊福 血管が狭くなり、流れる血液が一時的に少なくなるのが「狭心症」です。もっとひどい症状で、血管がつまって血液が流れなくなり、つまった部分から先の細胞が死んでしまうのが「心筋梗塞」です。
 池田 「梗塞」は「ふさがる」ということですね。
 森田 はい。血管がふさがって、脳に血液が行かなくなると「脳梗塞」です。
 池田 端的に言うと、狭心症は「心臓の呼吸困難」心筋梗塞は「心臓の窒息」ということでしょうか。
 豊福 酸素や栄養を全身に送っている心臓自体が、「血液不足」「酸素不足」「栄養不足」になるのは皮肉です。
4  狭心症の痛みは周辺に広がることも
 池田 では、どうして血管が狭くなるのですか。
 今関 おもに「動脈硬化」を起こすからです。動脈硬化というのは、血管が狭くなって血液が通りにくくなった状態を言います。その原因は、動脈の壁にコレステロールなどがたまったり、さまざまな変化が起こって、壁が厚くなることとされています。
 森田 動脈硬化を起こす代表的なものは、高脂血症(高コレステロール血症)・糖尿病・高血圧や喫煙・肥満などです。
 豊福 動脈硬化以外に、血管のけいれんで、血管が狭くなる場合もあります。
 池田 狭心症は、どんな症状がありますか
 今関 胸に圧迫感や鈍い痛みを感じます。運動をしたり、階段を上ったりするときに起こることがありますが、安静にすればやわらぎます。血管のけいれんが原因の場合は、眠っているときや、朝、起きたときに起こることが多いとされています。
 豊福 「心臓がしめつけられるような」苦しさがあるので「狭心症」と呼ぶのです。
 森田 「胸の痛み」といっても、心臓のあたりだけとはかぎりません。胸の広い範囲におよびます。
 今関 狭心症の場合は、みぞおちや背中、肩、あご、歯、のどまで痛みが広がることもあります。
 池田 症状は、どれくらい続くのですか。
 今関 じっとしていれば二〜三分、長くても十〜十五分で治まります。しかし狭心症は心筋梗塞の前ぶれです。「いつ心筋梗塞が起きてもおかしくない」という信号と考えて、信頼できる医師の診断を受けることが大切です。
5  心筋梗塞は朝に起こりゃすい
 池田 心筋梗塞は、どんな症状ですか。
 今関 やはり胸の痛みを感じますが、狭心症よりも痛みが激しく、″死の恐怖″を感じる苦しさです。痛む時間も長く、ときには数時聞におよびます。一刻を争って、設備の整った病院で治療を受けるべきです。急性の心筋梗塞は、発作の起こった直後に亡くなることが多いのです。
 池田 心筋梗塞が起きやすい時間帯というのはありますか。
 今関 もっとも起こりゃすいのは、朝の六〜十時ごろです。また夜の八〜十時ごろも注意が必要です。また心筋梗塞は、たしかに強い痛みが特徴なのですが、まったく痛みが表面に表れないこともあります。
 池田 それは要注意ですね。
 今関 とくに、高齢者の場合、胸痛がない人も多く、何となく、だるいとか、息苦しいとか、食欲がない、などの症状が、じつは、心筋梗塞だったということもあるのです。先ほど狭心症は心筋梗塞の前ぶれだと、お話ししましたが、「心筋梗塞になる前に、必ず狭心症になる」とはかぎりません。何の前ぶれもなく、突然、心筋梗塞になる場合もあります。
 ですから、「何か症状が出たら気をつければいい」というのではなく、何も症状がなくとも、定期的に健康診断を受けていただきたいと思います。
 森田 症状があるのに放っておいて検査を受けない人もいるのです。
 豊福 それは、ずいぶん「心臓が強い」。(笑い)
 池田 自分の体は自分で守るしかない。恐がったり、面倒に思わず、検査だけは受けるべきでしょう。大切な人生です。「使命」のある人生です。「自分は大丈夫」という油断や慢心で、使命を果たさずに死んだのでは、悔やんでも悔やみきれない。
 日蓮大聖人は、門下の四条金吾が危険のなかを生きぬいたことを、「前前の用心といひ又けなげといひ又法華経の信心つよき故に難なく存命せさせ給い目出たし目出たし」と喜ばれ、そうできた理由として三つあげられています。
 一つは「前前の用心」。二つは「勇気(けなげ)」。三つは「強き信心」です。
 信心しているからこそ、ふだんからの「用心」と「勇気」が必要なのです。
6  心不全と不整脈――心不全は「心臓ポンプ」の機能低下
 池田 心不全というのも、よく聞きますね。
 今関 「心不全」は、心臓の″ポンプ″の機能が弱まった状態をさします。全身に十分な血液が送れなくなり、体内の酸素や栄養が足りなくなるのです。
 池田 何が原因ですか。
 今関 心筋梗塞などで心臓の筋肉が異常を起こし、心臓の働きが弱まるんです。
 豊福 高血圧も大きな原因です。血液を送り出すために、″ポンプ″の勢いをふだんより強くしなければならないので、心臓に負担がかかるのです。
 今関 「心臓弁膜症」も心臓に負担をかける原因になります。心臓は、血液を送り出すときに、それにあわせて四つの弁が開閉します。心臓弁膜症は、この弁の開閉がうまくいかなくなる病気です。弁の開閉がうまくいかなくなると、心臓から血液が十分に流れなくなるのです。
7  手足のむくみ、体重の増加は要注意
 池田 「心不全」は、どういう症状がありますか。
 今関 初めは「息切れ」や「せき」が目立ちます。運動しているときだけに起こっていたのが、しだいに安静なときにも起き、呼吸が困難になってきます。
 豊福 「疲労感」「倦怠感」「食欲不振」などの症状もあります。これは、血液が全身へ十分送られなくなったことが原因です。
 森田 全身の血のめぐりが悪くなり、体の各部に血液がたまってしまうと、「手足のむくみ」や、それにともなう「体重の増加」などの症状が現れます。
 今関 このような症状が出た場合は、早めに医師の診察を受けてください。
8  「不整脈」とは
 池田 よく「脈が飛ぶ」と聞きますが、どういう症状ですか。
 今関 いわゆる不整脈のことです。
 「不整脈」は、心臓の収縮のリズムが、不規則になったり、通常より速くなったり、遅くなったりする状態です。
 森田 もちろん、運動をしたり、驚いたりして、脈が速くなる場合はふくめません。
 池田 優秀な性能の心臓も、リズムをくずすことがあるんですね。
 今関 長年、あきずに規則正しく動いていれば、たまには間違えることもあるかもしれません(笑い)。脈の乱れは気になるものですが、必要以上に恐れることはありません。不整脈は、治療を必要としない場合が多いのです。大切なのは、本当に治療を必要とするものかどうかを、きちんと見きわめることです。
 池田 どんな場合に注意が必要なのですか。
 今関 簡単に言うと、安静にしてもご「一分間に百回以上」の脈を打つ場合、「一分聞に四十回以下」の場合、また交互に脈が、速くなったり、遅くなったりする場合です。
9  心臓は身体(小宇宙)の″太陽″
 池田 何が原因ですか。
 今関 心筋梗塞、狭心症などの心臓の病気が原因の場合、それから、甲状腺の病気や貧血など心臓以外の病気でも起きます。
 森田 生活習慣も大きく関係しています。「過労・睡眠不足」「たばこの吸いすぎ、コーヒーの飲みすぎ」「ストレス」などが、起こす原因になることがあります。
 池田 日常生活では、どんな症状がありますか。
 今関 「動悸」や「気が遠くなる」こともあります。不整脈があるということで、必要以上に怖がる方がいます。しかし、検査を受けて、信頼できる医師から「心配ありませんよ」と言われたら、あまり気にしないことです。
 「このまま放って、おいたら、死ぬんじゃないか」と深刻に考えて、不安が高まり、かえって症状を悪化させることがあるからです。
 池田 心臓は、いわば「身体」という小宇宙の「太陽」ではないでしょうか。太陽は万物に、生きるエネルギーをあたえます。太陽の光が弱まっただけでも、生きとし生けるものが致命的な影響を受ける。心臓も、全身に酸素を送り、栄養を送る中心の存在です。心臓が元気であれば、全身の細胞も生き生きと活動できる。
 仏法では、心臓が二つの肺に包まれた姿が、ちょうど八葉の蓮華の形に似ていると説いています。そして、五体を「妙法蓮華経」に当てはめると、「胸は蓮なり」と日蓮大聖人は言われている。
 この「蓮華」は、じつは、古来、「太陽」の象徴でもあるのです。
 「身体の太陽」「生命の太陽」――心臓を生き生きとさせ、心臓病から身を守るためには、どうすればよいのですか。
10  心臓病と他の病気の見分け方
 今関 そうですね。まず、心臓病の症状があるかどうか、自分でチェックしてほしいと思います。
 池田 心臓病には、どのような症状があるのか、もう一度、整理していただけますか。
 今関 おもに「胸の痛み」「動悸」「息切れ」「むくみ」「めまい」があります。もちろん心臓以外の病気の可能性もあります。
 池田 それぞれの症状について、「心臓病と他の病気の見分け方」を教えてください。
 今関 はっきりと区別するのはむずかしいです。あくまでも大まかな基準として考えてください。
 まず「胸の痛み」ですが、狭心症では「心臓がしめつけられる」圧迫感や鈍痛が特徴です。心筋梗塞では、痛みの程度がより激しく、不安感をともなうことが多いようです。また手のひらより広い範囲にわたって胸の奥が痛みます。
 森田 それも、「ここ」とはっきりさし示せるものではありません。「だいたいこのあたり」というような漠然としたものです。
 豊福 心臓病以外の場合は、「瞬間的にピリッとくる痛み」「表面がチクチクするような痛み」「ズキンとする痛み」など鋭い痛みが多いのです。
 今関 また左の胸が痛いからとい心臓病とはかぎりません。よく神経痛が原因で「左の胸が痛い」と、「心臓が痛い」と勘違いする方がいます。狭心症や心筋梗塞の場合は、胸が痛むと同時か、少し遅れて腕や肩、首、あど、歯、耳の後ろなどに「痛い」「だるい」「しびれる」といった症状をともなうこともあります。
 池田 「動悸」は、どうですか。
 今関 それまで何でもなかったのに、少し速く歩いたり、階段を四、五段上がっただけで動悸がするようになったら、心臓病の可能性があります。安静にしているとき、急に動悸を感じたら、不整脈が考えられます。もちろん健康な人でも、寝ていた状態から急に立ち上がたり、疲労や運動不足から動悸を感じることがあります。
 森田 「息切れ」も同じです。ふだん、何でもなかった階段や坂道をすいすいと上れなくなったら、心不全の可能性があります。症状がひどくなると、安静にしていても息切れすることがあります。
 池田 心不全の症状には「むくみ」もありましたね。
 今関 はい。むくみは腎臓病などでも起きますが、心臓病のむくみは、下半身から始まることが多いのです。
 池田 「めまい」には、どんな特徴がありますか。
 今関 めまいは、立ちくらみやメニエル病(耳鳴りや難聴をともなった、めまいを繰り返す病気)などによるものが多いのです。心臓病の場合、不整脈から起こることが多く、何の前ぶれもなく突然起き、ふらふらしたり、気が遠くなったりします。
11  危険因子を減らす努力を
 池田 心臓病のなかでも、やはり怖いのは狭心症と心筋梗塞ですね。
 豊福 そうです。狭心症と心筋梗塞は、心臓の筋肉(心筋)への血液が不足することから「虚血性心臓病」と呼ばれています。心臓病が原因の″突然死″も、七割ぐらいが虚血性心臓病によるものです。
 池田 どうすれば防げるのでしょうか。
 今関 虚血性心臓病を引き起こす「危険因子」というのがあります。
 森田 簡単に言うと、心臓に負担をかける″有害なもの″のことです。
 池田 どんなものがありますか
 今関 (1)高脂血症*(2)喫煙*(3)高血圧*(4)糖尿病*(5)肥満*(6)ストレス、などです。先ほどお話しした自覚症状がなくても、これに思い当たる項目があれば注意が必要です。一つだけでも問題ですが、二つ三つと重なるほど、心臓病の危険が大きくなりま
 す。
 豊福 しかし多くの危険因子は「生活習慣の改善によってとりのぞくことが可能」です。一つでも心臓の負担を減らすことができれば、危険は小さくなるのです。
12  タバコは有害
 今関 高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満は、どれも虚血性心臓病のおもな原因である「動脈硬化」を引き起こします。
 池田 動脈硬化は、おもに血管の中にコレステロールなどがたまって、血管の壁が厚くなる状態でしたね。
 今関 そうです。血管の中が狭くなって、血液の流れが悪くなるのです。
 豊福 タバコも動脈硬化を進めます。
 池田 そうすると心臓病の人は、やはりタバコを控えたほうがいいですね。
 今関 はい。「タバコを吸う人」は「吸わない人」の二、三倍も、狭心症や心筋梗塞になりやすいと言われています。ですが禁煙すれば一年で、虚血性心臓病の発生の危険は、それまでの半分になると言れています。
 池田 狭心症や心筋梗塞は遺伝するのですか。
 今関 遺伝する病気ではありません。ただ、両親や兄弟に虚血性心臓病を起こした人がいる場合は、自分も起こしやすいと考えたほうがいいと思います。生活習慣や食生活が似ているからです。
13  「Aタイプ」とは
 森田 ストレスも心臓の大きな負担になります。虚血性心臓病は、ストレスを感じやすい「Aタイプ」の人がかかりゃすいと言われています。
 池田 「Aタイプ」とは何ですか。血液型とは違いますね。
 今関 はい。血液型とは関係ありません。人間の性格を「Aタイプ」と「Bタイプ」二つに分類したものです。
 池田 具体的に言うと、「Aタイプ」の人とは、どういう人ですか。
 今関 「責任感が強い」「負けず嫌い」「いつも時間に追われている」「社会的評価を気にする」「イライラしがち」などの特徴があります。
 豊福 「Aタイプ」の人は、「頑張らなくては自分の価値が下がってしまう、自分の存在を証明できない」と思っているんです。だから「他の人に負けたくない」と、つねに競争心を秘めているわけです。
 森田 古い言葉で言いますと「モーレツ社員」型です。「企業戦士」タイプです。
14  「無理」や「不安」が心臓に負担を――「自分は満足だ」と言える生き方
 池田 もちろん、仕事や多忙それ自体が体に悪いのではないでしょう。問題は、その動機というか、「何のため」ということではないでしょうか。当然、限度を超えた無理な」仕事は別ですが。
 ただ「他人に認められたい」というだけでは、厳しく言えば、他人の目の奴隷です他人の目にふりまわされていて、自分自身というものがない自分自身に生きていない。そういう生き方は、たとえ社会的に成功したとしても、年齢を重ねるにつれて、心の奥のほうからむなしさが、にじみ出てくるのではないだろうか。
 また、あてにならない他人の評価を基準に生きているかぎり、根本的に「不安」な人生です。「安心」がないでしょう。そして、心身の健康を壊すのは、「忙しさ」そのものよりも「不安」や「イライラ」ではないだろうか。
 「機械がだめになるのは、『いつも回転しているから』ではなく、『いつも摩擦しているから』だ」という言葉がある。この「摩擦」に当たるのが、「不安」であり、「ストレス」でしょう。要は、強い「信念」をもって、自分で自分の人生をコントロールしていくことです。
 社会で成功することは、もちろんよいことです。しかし根本は、「だれが評価しようがしまいが、自分はこれをやった、これで満足だ」と言える人生かどうか。そう言える生き方をしているかどうかです。
 そういう「信念」「使命感」をもっているかどうかで、同じように忙しく行動していても、心身への影響はまったく違ってくるのではないだろうか。
 森田 まさに「心こそ大切なれ」と日蓮大聖人は言われている。
 心臓病について、興味深い話を聞いたことがあります。アメリカのある町(ペンシルベニア州のロゼットー)の話です。
 その町は、一九三〇年代にイタリアからの移住者によってつくられました。町の人々の多くは、大食いで、肉や脂肪の多い食事を好み、喫煙者が多かった。しかし、虚血性心臓病で亡くなる人が少なかたというのです。
 原因を調べたところ、町には、家族のように仲良く助けあう風潮があり、また井戸端会議のような交流の場がさかんに設けられていたそうです。つまり、人間と人間との強い鮮が、心臓病の抑制につながっていたのではないかというのです。
 時代が移り、彼らの子どもたちの世代になると、核家族化が進み、一人一人が地域社会とも縁遠くなり、町のよき伝統はうすれます。
 その結果、食生活は昔と変わらないのに、虚血性心臓病の死亡率は、アメリカ人の平均なみまでに増えたと言います。(アンドルー・ワイル『癒す心、治る力』上野圭一訳、角川書脂、参照)
 池田 この話だけで決めるわけではありませんが、孤独感や疎外感、絶望感などは心臓に悪影響をあたえるようです。
 ほかにも多くのデータがあります。人と人との心の交流、まさに「ハートを開いた」結びつきが、強い癒しの力となるのではないでしょうか。
 豊福 その意味で、学会の世界は、大きな「癒しの場」だと思います。
15  日常生活の注意点――食生活を見直す
 池田 危険因子をとりのぞくためには日常生活の、どんな点に注意すればいいのですか。
 森田 食生活は、いつもお話ししているように、「食事は規則正しく」「栄養のバランスをとる」「腹八分目を心がける」「塩分を控える」などが基本です。
 池田 「肉を多く食べると、心臓によくない」と言われますが、本当ですか。
 今関 問題は、動物性の脂肪です。とくに牛や豚の脂肪ですね。しかし肉はタンパク源としては、すぐれた食品です。動物性タンパク質が不足すると、血管がもろくなり、老化を早めます。
 ですから肉は、赤身の部分を使ったり、網焼きにするなど、「脂肪を落とす調理法」を工夫したほうがいいと思います。
 森田 魚の場合は、動物性タンパク質もとれるし、脂肪も問題ないとされています。
 豊福 そうですね。イワシやサバなどの青魚は、脂はのっていますが、かえってコレステロールを下げるのに効果があると言われています。
 池田 「魚の脂肪にふくまれる物質(EPA=エイコサペンタエン酸、DHA=ドコサヘキサエン酸)が血栓を防ぐ」という説もありますね。
 「タバコはだめ」とのことでしたが、お酒はどうですか。
 今関 適量であれば、動脈硬化の予防になると言われています。
 池田 そうですかそれは喜ぶ人が多いでしょう。(笑い)
 今関 もちろん、あくまで「適量」です(笑い)。日本酒なら一合、ビールなら中びん一本、ウイスキーの水割りなら二杯くらいの量を心がけてください。もちろん、週に一、二日の″休肝日″は必要です。
16  適度な運動を取り入れ、温度差には注意を
 池田 運動については、どうですか
 今関 運動は基本的に心臓の能力を高めます。しかし問題は運動の程度です。限度を超えた運動をすれば、かえって心臓病を引き起こす原因になります。
 森田 一般には、一日三十〜四十分の早歩きを、週に三〜五回やるくらいがいいとされています。虚血性心臓病の人は、どの程度の運動ならいいのか、医師と相談してみてください。
 池田 ほかに日常生活で気をつける点はありますか。
 森田 冬は、「急激な温度の変化」をさけてください。暖かい場所から寒い場所へ移るさいには、上着をはおるなどの工夫が必要です。
 池田 何度も言うようですが、年配の方は、風呂上がりやお手洗い、急に外に出たりするときは要注意です。
17  風呂はぬるめに
 豊福 お風呂もぬるめにしてください。熱いお湯は心臓に負担がかかります。
 また湯船には、一気に入らず、まず、腰まで入ってゆっくりと温め、それから首までつかることです。
 台所やお手洗いも、できるだけ暖かくすることですね。
 今関 はい。とくに、足元は意外に冷たいことが多いので、必ずスリッパなどをはいてください。トイレに、電気ストーブを置いて使う人もいるようです。
18  起き上がるときはゆっくりと
 森田 年配の方で気をつけていただきたいのは、お孫さんなど幼い子どもの相手をするときです。子どもは絶えず動きまわりますから、いっしょになって相手をしていると、知らずしらずのうちに疲れています。抱き上げるだけでも、かなり心臓に負担がかかるのです。
 池田 虚血性心臓病は朝、起こりやすいということでしたが、起きるときの注意はありますか。
 今関 目が覚めたら、まず布団の中で、軽く手足を動かしてください。それから、ゆっくりと起き上がります。決して跳び起きたりしないことです。
 豊福 夜も注意が必要です。一人で部屋に寝ていると、発作が起きても家族が朝まで気がつかない、という事態になりかねません。心臓病の人は、手元に呼び鈴を置いたりして、すぐ家族に知らせることができるように、工夫したほうがいいと思います。
 今関 先ほども話が出ましたが、心臓病にいちばんいけないことは、「無理をする」ことです。食べすぎ、飲みすぎはもちろん、″一週間の運動不足を日曜日だけで解消する″″朝食をぬいて昼食や夕食をどっさり食べる″など極端なことをすると、心臓には大きな負担になります。
 池田 「無理」は長続きしない。「道理」であってこそ長続きするものです。しかし、知らない間に無理をしていることもありますね。
 豊福 そうなんです。ですから心臓に不安のある人は、日ごろから、「自分の体の状態を知る手がかり」を見つけておくことが大切です。脈拍数、血圧、体重、睡眠時間などが一つの目安になります。
 森田 毎日、自分の体の状態を確認しておけば、何か変調があったときにも、すぐに気づくはずです。
 池田 前にも述べましたが、自分の健康は、ある意味で自分自身が″医師″となり、″看護師″となって、賢く守っていくべきです。
 今関 とくに心臓病の不安のある方は、疲れをためないことです。
 池田 疲れたら、よく休むことです。戸田先生はよく「あらゆる工夫をして寝なさい」と言われていました。寝ることも戦いです。気候の変わり目には、心臓病にかぎらず、病気になる人が多い。亡くなる方も多いようです。
 「かけがえのない人生」です。「使命の人生」です。自身と同志と一家一族の健康を祈りながら賢明に自分自身の「生命の操縦」を心がけていきたいものです。

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