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日蓮大聖人・池田大作

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胃腸病 「胃」の病は「意」の病

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

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1  池田 今度は「胃」の病気についてですね。これは悩んでいる人が多い。また「胃病は″意″病」と言われるくらい、心の状態が反映されるようです。上東先生は胃腸がご専門ですね。読者のために、いろいろ教えてください。
 上東ドクター部副書記長 こちらこそ、よろしく、お願いします。夏の季節は、暑さのために「胃腸の調子がすぐれない」季節でもあります。
 池田 原因は「冷たい物の飲みすぎ」「冷房のききすぎ」「寝冷え」などでしょうか。
 上東 はい。それに、暑いと胃腸の働きがにぶると言われています。
 森田 そうしますと、夏は消化によいものを食べる――というのは昔の人の知恵ですね。もちろん栄養の偏りには気をつけるべきですが。
 池田 よく「胃が痛い」「もたれる」「重い」という場合がありますが、どんな病気の可能性がありますか。
 上東 多くは疲労やストレスが原因です。また胃炎、あるいは胃や十二指腸に潰瘍ができているケースがあります。
 池田 「胃炎」と「胃潰瘍」は、どう違うのですか
 上東 簡単に言うと、胃炎は文字どおり、胃の中の炎症です。胃の粘膜がただれたり、すりむけたような状態です。
 胃潰傷は粘膜が深く削り落とされたような状態です。
 池田 胃の病気でもっとも多いのは胃炎ですか。
 豊福 そうです胃炎にも急性と慢性があります。
 池田 どう違うのですか。
 上東 「急性胃炎」の多くは痛み止めの薬や急激なストレスなどが原因です。それに対して、「慢性胃炎」の多くは、最近、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)という胃の粘液と粘膜の聞に住む細菌が原因であることがわかりました。ただ自覚症状は、ほとんどありません。
 池田 では「胃潰瘍」に特有の症状はありますか。
 上東 空腹のときに、みぞおちのあたりが痛み、食事をすると痛みがやわらぎます。また、かえって食後に痛む場合もあります。
 森田 胃潰揚がひどくなると、口から血を吐いたり、コールタールのような黒光りした便が出たりします。
 池田 日本人には胃がんが多いので、胃が痛むと、胃がんではないかと心配になる人も多いと思いますが。
 上東 実際に検査をしてみると、軽い胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などのことが多いのです。
2  胃がんの初期は自覚症状がない
 豊福 胃がんは、胃の粘膜の細胞が、がん細胞に変化し異常に増える病気で、胃炎や胃潰瘍とは違うものです。
 上東 ただし、胃がんの初期は、自覚症状のないことが多く、症状があっても胃炎や胃潰瘍と区別できません。
 池田 素人判断は危険ですね。
 森田 定期健診がが絶対に必要です。
 池田 「胃下垂」は病気ですか。
 上東 胃下垂は病気ではありません。以前は、やせ型の女性に多い体質的な病気と考えられていましたが、今では、たんに胃の位置が低いことをさす場合がほとんどです。
3  胃は感情の共鳴箱――心臓病で「胃が痛い」こともある
 池田 「胃の病気ではないのに、胃が痛む」ことはありますか。
 上東 胆石症、膵臓炎といった消化器の病気のほか、狭心症や心筋梗塞などの心臓病が考えられます。
 池田 まったく別の病気がひそんでいることがあるわけですね。これは怖いですね。
 上東 はいだから「私は胃が弱いからだ」と思って、胃のせいではないのに、胃の責任にされていることがあるわけです。
 森田 胃は″無実の罪″まで着せられている。(笑い)
 豊福 それだけ胃は心身の調子を敏感に反映するということですね。
 池田 心の状態も、すぐ胃に出ますね。「胃は心の反射板」とか「胃は感情の共鳴箱」という言葉も聞いたことがあります。そもそも、日本語でも「腹」は「心」そのものを表す場合が多い。「腹を決める」と言えば「心を決める」ことだし、「腹にすえかねる」と言えば「怒りを心に置いておけない」ということです。
 森田 「腹黒い」というのもあります。(笑い)
 豊福 「腹が立つ」も、そうですね。
 池田 「腹が立つ」の「立つ」というのは「動き始める」という意味でしょう。怒りで腹が、ぐらぐらわきたつ感じでしょうか。上東先生、怒りやイライラは、胃に影響が大きいのでしょうね。
 上東 それはもう、なまなましく結果が出ます。怒りや恐怖、不安などは胃の働きを悪くします。また、ふだんは、胃の活動が活発になると、胃腸の壁に血液が十分流れるように血管が広がります。
 ところが、感情が激しく揺れたり、ストレスがきついと、自律神経などが乱れて、その調節がうまくいかなくなる。そうすると、胃腸の血液の循環が悪くなって、必要な酸素や栄養を血液が運んでくれなくなるわけです。
 池田 それが重なると、ひいては胃潰瘍になることもありますね。
 上東 胃潰蕩というのは、わかりやすく言いますと、「胃液が胃自身まで消化してしまった」状態です。
 豊福 聞くからに痛そうです。(笑い)
 上東 胃液というのは、強力で、手のひらに乗せたままにしておくと、水ぶくれができるくらいです。これだけ強いからこそ、たいていのものは消化できるわけです。問題は、どうして胃そのものは溶けないのかということです。
 森田 昔、小説で「何でも溶ける薬」を発明した博士が、結局、薬を入れる容器がなくて大失敗に終わるというのがありました。(笑い)
4  胃の″防衛″と″攻撃″のバランス
 上東 じつは、胃の内部は「粘液」の膜で覆われていて、これが″防壁の壁″になっているのです。健康な胃は、(胃液による)″攻撃″と″防御″のバランスがとれているわけです。
 池田 まさに生命の「妙」です。「人体」という「小宇宙」は、絶妙な運行を続けていますね。攻撃と防御といえば、「矛盾」という言葉の由来を思い出します。
 昔、中国の楚の国で、ある男が矛と盾を売っていた。「この矛はどんな盾でも突き破れるし、との盾はどんな矛でも防げる」と自慢した。すると、ある人が「その矛で、その盾を突いたら、どうなるかね?」と尋ねた(笑い)。ここから、つじつまのあわ「矛盾」というようになったわけです。
 胃の場合は、胃液が″矛″、粘液の膜が″盾″。ふだんは″盾″のほうが強いわけですね。それが″矛″のほうが強くなると胃潰瘍ということになる。
 上東 そのとおりです。″矛″が強すぎるというのは、胃液が必要以上に出るということです(胃酸過多)。″盾″が弱くなるというのは、粘液が出にくくなるということです。血行が悪くなると、粘膜が弱くなり、弱くなった部分に、″矛″が襲いかかって、潰瘍を起こすわけです。
5  阪神・淡路大震災のあと、胃潰瘍が急増
 森田 胃腸の正常な活動には自律神経が重要な働きをしていますが、ストレスはそのバランスをくずすことがあります。
 豊福 阪神・淡路大震災(一九九五年一月十七日)のあと、二カ月間に、血を吐いたりする胃潰瘍になった人が被災地に急増した、という調査結果があります。震災による恐怖や不安がストレスになって潰瘍をつくったようです。
 森田 反対に、温かい言葉が心に働きかけ、病状をよくするケースもあります。食欲がなく、胃がんを心配して検査を受けた患者さんに、「何も心配ありませんよ。胃炎だけです」と教えると、心配が消えて、それまでの症状まで消えてしまうことが、よくあるのです。
 上東 逆に、健康な人が、「胃に異常があるかもしれない」と言われただけで、痛みが出てくることもあります。
 池田 やはり、「ストレスに負けない」ということがいちばんですね。ストレスを減らすことは大切ですが、生きている以上、ストレスがまったくないということはありえない。ならば、ストレスに立ち向かうしかない。犬も、怖いと思って逃げると、かえって追いかけてくるものです。悩みも、逃げれば、ますます追いかけてくるものです。こちらから、悩みをまっすぐ見すえて、堂々と立ち向かっていけば、ストレスに負けないし、勇んで戦ったぶん、自分が強くなるのです。健康になるのです。
 豊福 ストレスを生かす――プラス思考ですね。
6  ピロリ菌も関係
 池田 ストレス以外に、″防御″と″攻撃″のバランスをくずす要素はありますか。
 上東 先ほどお話しした、ピロリ菌があります。この菌は、胃炎や胃潰瘍などの胃の病気に、かなり深く関係していることがわかってきました。
 池田 あれほど強力な胃酸にも負けない細菌なのですか。
 上東 ピロリ菌は、尿素から「アルカリ性」のアンモニアを作る酵素を持っています。その酵素で、自分の周囲の胃酸を中和して生き延びるというのです。
 豊福 ピロリ菌が作るアンモニアは、胃の粘液にも影響し、″防御″の力を弱めるとも言われています。
 池田 胃の調子を整えるには、どんな注意が必要ですか。
 上東 まず食生活では、「規則正しい食事をとる」「よくかんで食べる」「栄養のバランスをとる」「八分目を心がける」という点だと思います。
 豊福 ″朝食ねき″とか、″遅い夜食″は、消化・吸収の働きや、排泄のリズムを狂わせます。
 池田 昔はおなかをとわすと、「おかゆに梅干し」とメニューが決まっていましたが……。
 上東 はい。胃の働きが弱っているときには、おかゆはいいと思います。ただ、ふつうのご飯と同じように、よくかんで食べることが大切です。
 池田 やはり、「よくかむ」ことが大事ですか。
 上東 食物が細かく砕かれ、だ液と十分に混ざりあうと、だ液にふくまれた消化酵素が十分に働くので、胃にかかる負担も少なくなります。また、ゆっくりかんで食べれば、腹八分目で満足しやすいと言われています。
 池田 症状や年齢によっても、注意事項は違ってきますね。
 森田 そうです。年輩者の場合は、胃酸が減り、だ液の出も悪くなる。胃の働きも衰えてきます。ですから、料理は薄味を心がけ、煮たり、蒸したりして″やわらかく″する工夫は必要です。
 上東 消化のよしあしは、同じ食品でも調理の仕方で違ってきます。
 たとえば卵では、「硬ゆで」より「半熟」のほうが消化しやすいと言われています。
 豊福 症状のひどいときや、医師から特別に指示されている場合は別ですが、卵、牛乳、肉や魚、など、タンパク質を、きちんととることが大切です。
 上東 タバコ、強い香辛料などの刺激物、過度の飲酒はさけたほうが賢明です。コーヒーも飲みすぎはよくありません。
 森田 「あれもいけない」、「これもいけない」と自粛すると、かえって、ストレスがたまるかもしれませんが。(笑い)
 池田 「楽しく、和やかに食事をする」ことも大切ですね。これは心ひとつで、いくらでも工夫できると思う。
7  ″困難を楽しむ″ぐらいの強さを
 池田 胃の調子は悪いが、病院に行くほどではないと思う場合、市販の胃腸薬や消化薬を使う人も多いようですが。
 上東 急場の助けとしてなら、まず問題ないと思います。ですが、たとえ軽くても、気になる症状が続いている場合は、早めに信頼できる医師の診察を受けて原因をはっきりさせることが大切です。
 池田 夏目激石も胃が弱くて悩んだようです。
 『吾輩は猫である』には、苦沙弥くしゃみ先生(猫の飼い主)が生来の胃弱を治すために、さまざまな素人療法をやってみる様子が描かれています。この小説が書かれた当時から見ると、胃の病気にも、たいへんよく効く薬が次々に開発されています。しかし胃の調子を整えるためには、生活習慣を見直すこともに、やはりストレスなど心の問題の解決が大きなカギになってくるのではないでしょうか。
 豊福 そのとおりです。仕事と休養のメリハリをつけるなど、自分なりの工夫が必要です。
 池田 かつて、アメリカの微生物学の第一人者ルネ・デュボス博士(故人)と会談しました(一九七三年十一月)。博士は、著書でこう語っています。
 「心配のない世界でストレスもひずみもない生活を想像するのは心楽しいことかもしれないが、これは怠けものの夢にすぎない」
 「人間は(中略)戦うように選ばれているのだ。危険のまっただなかで伸びていくことこそ、魂の法則であるから、それが人類の宿命なのである」(『健康という幻想』田多井吉之介訳、紀伊国屋書店)
 人生は戦いなのだ、ならば困難をむしろ楽しんでいこう――こう「腹を決める」ことが、結局、「腹(胃)を守る」ことになるのではないでしょうか。
8  腸は「活力を生む」源
 池田 「現代人の腸は弱っている」と聞いたことがありますが、本当ですか。
 森田 病原性大腸菌「O157」の流行の一因として、腸が弱っていることを指摘する人もいますね。
 上東 流行との関係はわかりませんが、たしかに現代人に腸の病気は、増えたのではないかと言われています。
 池田 腸は「栄養を体に吸収する」ためにあるわけですから、腸が弱ると元気は出ませんね。どうして弱くなったのですか。
 上東 「強いストレス」と「食生活の欧米化」などの影響とも言われています。
 池田 具体的には、どういう影響ですか。
 上東 腸には約百種類、百兆個もの細菌が住みついています。その中には、人間にとって有益な働きをしているものや、明らかに病原性を持っていて、増えすぎると病気を引き起こすものなどがあります。
 豊福 そうした腸内の細菌がバランスを保っていることが大切なのです。
9  バランスのよい食事を心がける
 上東 バランスがよいときには、ばい菌や有害物質から腸を守ったり、ビタミンなどの有益な物質もつくります。逆に、バランスがくずれて有害な細菌が増えると、食物を腐敗させたり、有害な物質をつくりだすのです。
 たとえば、脂肪の多い食物は、このバランスをくずしやすいのです。また、ストレスを感じると有益な細菌が減少しやすくなります。ですから、ストレスが多く、肉食中心になってきた現代人の生活が、腸を弱める一因となっているとも言われています。
 池田 なるほど。有益な菌を減らさずに、バランスを保つにはどうしたらよいですか。
 上東 肉などの動物性脂肪の多い食品をとりすぎないようにして、「食物繊維」や「炭水化物」を多くふくむバランスのよい食事にすることです。もちろん「O157」に、ただちに効果、があるというわけではありません。
10  大腸ポリープ、大腸がんが増加
 池田 腸と言えば、大腸ボリープ」という病気が増えていると聞きますが、「ポリープ」というのは何ですか。
 上東 ポリープとは、粘膜にできたキノコのような″隆起″のことです。大腸ポリープは大腸の粘膜にできます。
 池田 がんと関係はあるのですか。
 上東 一般的には、良性のものが多いので、それほど心配はありません。しかし、なかには、小さくてもがんだったり、将来、がんになる危険性のあるものがあります。しかも小さいと自覚症状がありません。ですから、早めに発見し、とりのぞくことです。
 豊福 三十五歳以上の年齢に達した方は、毎年、定期健診を受けることが大切です。
 池田 予防の方法はありますか。
 上東 やはり、食生活を見直すことです。脂肪や動物性タンパク質を控え、野菜や、おから、いも・豆・海藻類など食物繊維の多い食品をとるようにしてください。
 森田 最近、大腸ポリープや大腸がんが増えているのも、食生活の欧米化」が関係していると言われています。
11  小腸は栄養分を吸収、大腸は水分を吸収――驚異的な小腸を伸ばした面積と機能
 池田 腸には、大腸のほかにも、十二指腸や空腸、回腸といった小腸がありますね。
 豊福 そうです。胃に続く十二指腸は、指を十二本並べたぐらいの長さなので、十二指腸と言います。
 森田 十二指腸に続く小腸は、伸ばすと六〜八メートルぐらいにもなります。その先の大腸は、一.六から一.七メートル、ぐらいの長さです。
 池田 ″小さな腸″のほうが長くて、″大きな腸″ほうが短いのですね(笑い)。「大腸」と言うのは、太いからですか。
 豊福 そうなんです。大腸のほうが二倍くらい太くて直径五〜八センチあります。
 上東 おもに小腸は栄養分を、大腸は水分を吸収します。栄養分を十分に吸収するために長くなっているわけです。
 池田 小腸の中のでこぼとを全部、平面に炉ばすとテニスコート二面分もの広さになると聞きましたが。
 豊福 小腸の壁は、「じゅう毛」と言う、じゅうたんの毛のような小さな突起で覆われています。三千万本もあると言われています。これらの突起の表面から栄養を吸収するわけです。この突起のでこぼこを全部伸ばすと、そのくらいの広さになります。
 池田 体の中に広大な″宮殿″がある感じですね。これほどの″広さ″をもって、栄養分をくまなく吸収する。人体の仕組みは本当にすばらしい。
 森田 われわれが意識しないところで、体そのものが一生懸命、宝の生命を守ってくれているんです。
12  スイカの種を食べると盲腸炎に
 池田 ところで、上東先生は、盲腸炎になったことはありますか。
 上東 残念ながら、ありません。
 豊福 別に残念ではないですよ。(笑い)
 池田 盲腸は、腸のどの部分を言うのですか。
 上東 小腸とつながった大腸の始まりの部分をさします。盲腸からは五〜七センチぐらいの細長い袋がぶら下がっています。虫のような形で垂れ下がっているので、「虫垂」と呼ばれています。この虫垂に起きた炎症が「虫垂炎」、いわゆる「盲腸炎」です。
 池田 よく「スイカやブドウの種を食べると盲腸炎になる」と言われますが、本当ですか
 森田 たしかに手術をすると、取り出した虫垂の中から、果物の種などが出てくることも、まれにありす。しかし、とれは炎症を起こしたから、虫垂に入った種を出せなかったのかもしれません。盲腸炎は、虫垂に異物が何も入つてなくても起こることがあります。ですから、果物の種を食べたからといって、必ずしも盲腸炎になるとはかぎりません。
 腹痛を起こす腸の病気は、盲腸だけではありませんね。
 もっとも多いのが「急性腸炎」です。暴飲暴食や、抗生物質などの飲み薬が原因で起きることもあります。
 豊福 食中毒、チフス菌や赤痢菌などの伝染病も原因になります。
 池田 急性でない「慢性の腸炎」というのは?
 上東 潰傷性大腸炎、クローン病が代表的な病気です。
 「潰傷性大腸炎」は、大腸の粘膜に、たくさんの小さな潰揚ができて、そこから出血する病気です。「クローン病」では、大腸だけでなく小腸や胃にかけても、かなり深い潰瘍ができることがあります。どちらの病気も、血液や粘液の混じった下痢をともなうことが多いのです。
 池田 原因は何ですか
 上東 はっきりした原因は、まだわかっていません。ただストレスや疲労をきっかけに悪化することがあります。
13  腸も胃も心を敏感に反映
 豊福 腸も胃と同じように、心の状態を敏感に反映します。旅行などで環境が変わったり、受験などを控えて強い緊張が続くようなときには便秘になりがちです。また、子どもの場合、ちょっと強く叱られただけで、下痢を起こすことがあります。
 池田 たしかストレスが原因で、腹痛や下痢、便秘が続く病気もありましたね。
 森田 はい。「過敏性腸症候群」というものです。
 池田 大腸は精神の鏡である」という言葉もあります。また日本語の「はらわた」という言葉は、「大腸」をはじめとする内臓の意味ですが、「心」そのものを表す場合が多い。
 「腸が腐る」と言えば「精神が堕落している」ことであるし、「腸がちぎれる」と言えば「耐えられないほど悲しい、苦しい」ということです。
 森田 「断腸の思い」というのも同じ意味ですね。
 池田 そうです。「断腸の思い」と言えば、本来の故事とは違いますが、こんな話を思い出します。
 昔(紀元前七世紀)、中国の衛の国に、弘演こうえんという忠臣がいた。
 弘演が他国に使いに行っている間に、主君である懿公いこうは異民族に攻められ殺されてしまう。その死体は荒らされ、内臓も散乱した。弘演が帰国すると、主君の肝だけが残っていた。弘演は号泣しながら、主君の肝に語りかけ、主君の恥を隠そうとして、自分の腹を切って腸を取り出し、かわりに主君の肝を入れて死んだという。
 日蓮大聖人も、″忠誠の鑑″として弘演の故事を引かれ、「かかる日蓮にともなひて法華経の行者として腹を切らんとの給う事かの弘演が腹をさいて主の懿公がきもを入れたるよりも百千万倍すぐれたる事なり」と説かれている。ともに大難に死のうとした門下の四条金吾の信心をたたえらています。
14  リズム正しい生活が肝要――食物は平均四十八時間は体内に
 池田 ところで、食べたものは食道を通り、胃を通り、小腸を通りと、ずいぶん、長い道のりを行くわけですが、どれくらい体の中にあるのですか。
 豊福 健康な人だと、平均四十八時間くらいとされます。
 森田 そのリズムが狂うと「下痢」とか「便秘」ということになるわけです。
 池田 「下痢」のときは、どうすればいちばんいいのですか。
 上東 ひどい下痢が続いた場合、水分が体の外に出てしまい、脱水状態になる心配があります。体温に近いぬるめの湯茶などで「水分を十分に補う」ことが大切です。
 豊福 食事は、腸を刺激しないものを心がけてください。控えたほうがよいのは、食物繊維や脂肪、香辛料・アルコールなどの刺激物、炭酸飲料などの冷たい飲み物などです。
 池田 下痢止めなどの薬で、注意する点はありますか。
 上東 下痢には、「有害な物質をできるだけ早く外に出してしまおう」という場合もあります。ですから、食中毒などによる下痢や、食べすぎ・飲みすぎなどによる下痢の場合は、薬で無理にとめようとすると、かえって悪化することがあります。
 森田 熱が出たり、吐いたりした場合や、下痢が繰り返して長く続く場合は、早めに病院に行って、原因をつきとめるようにしてください。
 池田 「便秘」に悩んでいる人も多いようですね。排便が何日ないのを、便秘と言うのですか。
 上東 便秘と感じる状態は個人差があります。二、三日に一回ぐらいでも、きちんとしたリズムですっきりと排便ができるようなら便秘とは言いません。問題なのは、「おなかが張る」「食欲がおちる」「排便後もまだ便が残っているような感じがする」場合です。また「以前に比べて便が硬くなり排便に時間がかかるようになった」「日に一回あったのが急に三日も四日も出なくなった」という場合も注意が必要です。
 池田 慢性の便秘は、何かの病気が原因の場合もありますか。
 上東 はい。炎症や悪性腫場など、腸の病気の可能性があります。頑固な便秘は早めに病院に行ったほうがいいと思います。その結果、病気でないことがはっきりしたら、生活習慣を今一度、点検してみることです。
 池田 どんな点に注意したらいいのですか。
 上東 まず「生活のリズム」です。人間の体は、食べた物が胃に入ると、その刺激が腸に伝わり、便意が起きる仕組みになっています。このタイミングを逃さないように、排便するほうがいいのです。
 森田 とはいえ朝は何かと忙しく、朝食をぬいたり、また通勤・通学のため、便意が起きても我慢することがあります。
 上東 それが問題なのです。せっかく便意が起きても、それを我慢していると、そのうちに排便のリズムが狂ってしまうのです。ですから、三食を規則正しくとり、胃腸のリズムを整えていくことが、便秘予防の第一のポイントです。
 豊福 水分は便をやわらかくしますので、十分にとってください。朝、起きてすぐに水や牛乳を飲むのも効果があります。
15  薬はあくまで補助的な手段
 森田 運動不足も便秘の原因です。運動不足が続くと、胃腸の運動を調節している自律神経のバランスがくずれたりします。すると腸の運動がスムーズにいかなくなるんです。
 池田 食事の内容で気をつける点はありますか。
 上東 タンパク質やデンプン質ばかりを食べていると、便の材料になる食物繊維が不足して、腸の運動が鈍ります。
 下痢の場合とは反対に、野菜や果物、こんににゃく、海藻・きのと類などで食物繊維を多くとってください。
 池田 下剤などの薬を常用している人もいるようですね。
 上東 下剤や浣腸などを、必要以上に使い続けていると、かえって腸の働きが鈍くなる場合が多いのです。排便のリズムがもどつできたら、薬も必要なくなります。
 また中年以後、急に便秘が始まり、続く場合には、便の通り道にがんなどができている場合があります。そうすると、下剤が一時的に効いたとしても、そのために、かえってがんの発見を遅らせる場合があります。
 豊福 便秘の治療は日常生活の注意が基本で、「薬はあくまでも補助的な手段」と考えるべきです。
 頑固な便秘ほど、気長にコントロールしていく心構えが必要です。
16  はつらつたる喜びは腸を活発化
 「腸が世界を支配する」(フアーブル)という言葉があります。少しむずかしい表現ですが、「腸が人間を左右し、人間が世界を左右する」という意味でしょうか。腸は食物から生命活動のエネルギーを吸収するところです。いわば活力を生む源です。腸がはつらつとしていなければ、はつらつたる活力は出ない。そのためにも、健康管理とともに、はつらつたる一念が大事です。「喜びは腸を活発にし、憂鬱は腸を沈滞化させる」とも言われる。
 どうせ生きるならば、生き生きと生きたい。どうせ毎日を前進するのだから、喜びをもって前進したい。自分自身が、「自分自身の生命の医師」となって、上手に心身を整え、満々たる生命力で、すばらしい充実の日々としたいものです。

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