Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

ア卜ピー性皮膚炎 体質以外にも多様な要因

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

前後
1  森田 「子どもの病気」には、たくさんの反響をいただきました。その中に、ぜひ「アトピー性皮膚炎」を取り上げてほしいという要望が、かなりありました。
 池田 そうですか。アトピー性皮膚炎で悩む人は多いですね。
 豊福 厚生省の調査では、三歳児の約三人に一人が、医師からアトピー性皮膚炎と告げられたことがあるそうです。
 池田 子どもだけでなく大人にも増えていますね。
 森田 ふつうは、生後六カ月ぐらいで発病し、思春期のころまでに自然によくなることが多いんです。しかし最近は、大人になっても症状が続いたり、成人になって初めて発病するケースが目立っています。
2  「アトピー」の語源
 池田 「ア卜ピー」はギリシャ語で「奇妙な(不思議な)という意味だそうですね。
 豊福 そうです。最初は、喘息、鼻炎、結膜炎、花粉症などを起こしやすい、遺伝的要素の強いアレルギー体質のことをアトピーと呼びました。発症の原因がよくわからない「特別な体質」という意味で、「奇妙な」と呼んだようです。
 森田 ただアトピー性皮膚炎の原因は「体質」だけではありません。しかし、原因や仕組みは、まだ十分に解明されていないのです。
 池田 今なお、よくわからない病気なのですね。原因にも、諸説あるわけですか。
 豊福 そのとおりです。ただ多くの場合、(1)住環境*(2)食生活*(3)ストレス、などが要因とされています。
3  かゆみの悪循環
 池田 なるほど。三つの要因については、あとでうかがうとして、症状としては、アトピー性皮膚炎は、ひどく「かゆい」わけですね。
 森田 はい。年齢にかかわらず、皮膚に湿疹ができて、激しいかゆみがあります。かゆくて、夜も眠れないときがあるほどです。
 豊福 いくらかいても、かゆみがおさまらないので、皮膚を傷つけるほどかいてしまいます。皮膚に傷がつくと、細菌などが繁殖しやすくなり、ますますかゆくなります。症状も悪化するばかりです。
 池田 悪循環を繰り返すのですね。
 森田 そうなんです。もともとアトピー性皮膚炎の人の皮膚は、乾燥していることが多い。うるおいが少ないので、皮膚の細胞と細胞の間にすきまができています。ですから、細菌や、細菌が出す毒素などが侵入しやすい状態に、なっているわけです。
 豊福 かゆみは、皮膚の下にある神経が感じとります。アトピー性皮膚炎の場合、その神経がふつうより敏感になっているとされています。
 池田 つまり、ふつうの人より、「かゆみ」を感じやすいのですね。
 森田 はい。ですから、治療も、かゆみの原因となる細菌などを入れないよう、「肌の念入りな手入れ」が第一なんです。
4  塗り薬は医師の指示を守
 池田 具体的には、どんな方法がありますか。
 森田 ぬるめの湯に、じっくりとつかるのがいいとされています。朝夕、二回入ったほうが効果的です。熱いお風呂は、かゆみを強めるのでさけてください。
 豊福 入浴には、皮膚の表面についている細菌を洗い流す効果もあります。湯から上がった後は、保湿クリームなどを塗って、皮膚にうるおいをとりもどすことです。
 池田 石けんやシャンプーなどは使ってもいいですか。
 森田 かまいませんが、ごしごし洗うと必要な脂まで落ちてしまいます。また、十分すすぐことが大切です。石けんやシャンプーなどにふくまれる香料は、皮膚の刺激物になります。
 豊福 衣服を洗濯するときも、洗剤の十分なすすぎが必要です。
 また下着、靴下など直接、肌にふれるものは、木綿のほうが刺激が少ないとされています。
 池田 塗り薬もあるようですが。
 森田 炎症がひどい所だけ、医師の指示にしたがってステロイド軟膏などを塗ります。
 豊福 ステロイド剤は、体の部分によって、使う種類が違います。勝手な判断で使ったり、中止したりすると、副作用が出るので、絶対に医師の指示を守ってください。
5  (1)住環境 (2)食生活 (3)ストレスがおもな要因――布団はよく干し掃除機をかける
 池田 肌の手入れをしてもよくならないとしたら、先ほどあげられた三つの要因((1)住環境*(2)食生活*(3)ストレス)を考えなければならないわけですね。
 まず「住環境」というのは。
 豊福 アトピーはダニが大敵なんです。
 池田 ダニですか?
 森田 はい。ダニは暖かく湿気のある場所を好みます。アルミサッシの普及で、日本の住宅は風通しが悪くなりました。また暖房が普及し、部屋の暖かさも保たれています。
 池田 人間も暮らしゃすくなったが、ダニも暮らしやすくなったのですね。(笑い)
 豊福 そうなんです。目には見えませんが、いっしょに生活しているのです。(笑い)
 池田 どうすればいいのですか。
 森田 とにかく、ダニのすみかを少なくすることです具体的には、布団は、よく日に干して叩きますまた表面に掃除機をかけて、ダニを吸いとります。
 豊福 じゅうたんを使うのはさけたほうがいいのですが、やむをえない場合は、裏側も掃除機をかけてください。
 池田 徹底することですね。
 豊福 ほこりやカビも、よくありませんから、掃除はこまめにすることです。カーテンや家具の後ろなど、すみずみまできれいにします。ぬいぐるみやクッションも置かないほうがよいでしょう。できるだけ、室内でペットを飼うのもさけてください。
 森田 窓を閉めきると湿気もたまりやすいですから、つねに「空気の入れかえ」を心がけることです。
 池田 「食べ物」も悪化の要因でしたね。
 豊福 ええ。子どもの場合、卵や大豆、牛乳などでアレルギー症状が出たり、悪化することがあります。だからといって、それらを食べないと、栄養のバランスがくずれて、発育に悪影響が出る危険があります。
 森田 食事の内容については、医師や栄養士とよく相談してほしいと思います。
 池田 アトピーが増えた背景には、住環境や食生活の変化が影響しているようですね。その意味で、アトピーは現代的な病気かもしれません。アトピーも、大きく見ればアレルギーと言えますか。
 豊福 アレルギー性の疾患です。
 池田 「アレルギー」もギリシャ語から生まれた言葉ですね。たしか「違った反応」という意味ではなかったでしょうか。
 森田 そうです。
 池田 何がどのように「違った反応」なんですか。
 森田 人間には、「免疫」があります。体内に侵入したウイルスや細菌などの異物を無毒化し、排除する働きです。
 ですが、本来は「体を守る」はずの免疫が、過剰に働いて「体に害をおよぼす」場合があります。この本来とは「違った反応」を「アレルギー」と呼ぶのです。
 池田 サバや卵を食べて、じんましんが出るのも、アレルギーですね。
 森田 そうです。本来、反応しなくてよいものにまで、過敏に反応してしまうのです。
 池田 そのへんのことを言ったのでしょうか、「ある人には食物でも、他の人には毒」(古代ローマの哲学者ルクレチウス)という言葉があります。
 豊福 食物アレルギーが、まさにそうです。
 アレルギーの原因となるものは、個人によって違います。
6  「叱る」より「励まし」を
 池田 アトピーの要因には「ストレス」もありましたね。
 豊福 はい。ストレスがたまると症状が悪化しやすくなります。たとえば、アトピーの中学・高校生は、受験のときに症状がひどくなります。しかし、進路が決まったりすると治ってしまう場合があります。
 森田 アトピーで大きなストレスになるのは、「かく」という行為です。かいている間は、気持ちがいいのですが、かいたあとは症状が悪化します。ですから「また、かいてしまった」と自分を責め、落ちこんでしまうのです。
 池田 「かいてはいけない」と再三、注意しているのに、子どもがかいている姿を見ると、親もストレスを感じてしまいますね。
 豊福 そうなんです。そとで「また、かいたのね」と叱ると、子どものストレスはいちだんとたまります。
 池田 またもや悪循環ですね。結局、家族全員がイライラしてくる。いずれにせよ、子どもを叱ったからといって、症状がよくなるわけではない。むしろ、お母さんやお父さんが薬を塗ってあげながら、「だんだん治していこうね」「大きくなれば、よくなるよ」と励ましていくことが大切ではないでしょうか。
7  皮膚は「心」と「生活」を映す鏡――ストレスから皮膚病になった阿闍世王
 池田 「皮膚は心の鏡」と言います。とてもデリケートなものです。アトピー性皮膚炎とは違いますが、釈尊時代の王で、有名な阿闍世王の話があります。王は、重い皮膚病に苦しみました。母親がいろいろな薬を塗りますが、ますます悪化するばかりです。阿闍世は母に、こう語ります。
 「このできものは、身の病ではなく、心の病だから、治せる人はいないでしょう」
 広く言えば、深刻なストレスでしょう。
 阿闍世は太子であったとき、悪人の提婆達多とつきあった。彼に、そそのかされて、釈尊や仏弟子を、ひどく迫害しました。また、父親の王を監禁し、王位について、ついに獄死させてしまった。そのことが、彼の心の中に後悔の念を生み、重い皮膚病となって現れたと言われています。
 涅槃経によれば、阿闍世の後悔の姿を見た釈尊は「月愛三昧」と呼ばれる境地に入ります。体から清涼な大光明を放ち、その光明で阿闍世を照らしました。すると皮膚病は癒えていった。阿闇世は、ふたたび釈尊に会うことによって、皮膚病の原因となった「心の病」を治すことができます。阿闍世王は、これからは釈尊の仏法を弘めていきますと誓うことによって、心身ともに健康になったのです。(『涅槃部』1、『国訳一切経印度撰述部』所収、大東出版社、参照)
 森田 ストレスに負けない、強い心が大切だと思います。また周囲の励ましが大事ですねアトピーも、決定的な治療法がないため、なかなか治らず、そのストレスから、ますます悪化する場合が考えられます。
 豊福 たしかに、「こうすれば大丈夫」という療法がないのが現状です。アトピーは、症状も原因も複雑で、多様なため、治療の方法も患者さん一人一人によって違ってくるのです。
 森田 民間療法を否定するわけではありませんが、むやみに、いろいろな療法を試すのは危険です。なかには、金もうけもあると聞きます。時間はかかるかもしれませんが、信頼できる医師と二人三脚で、根気よく、自分にあった治療法を見つけることがいちばん大切なのです。
 池田 あせりは禁物ですね。あせれば、ものごとを正確に見られなくなる。いたずらに不安を育てても、病気がよくなるわけでもない。かえって悪化させてしまうかもしれない。
 本人も家族も「時間とともに、だんだんよくなるんだ。よくしてみせる」と決めて、じっくりと治療を続けていってほしいと思います。

1
1