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日蓮大聖人・池田大作

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睡眠 最高の滋養

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

前後
1  池田 暑い毎日が続くと、「夜、寝苦しい」という人も多いでしょう。「夏の健康管理」でも話題になりましたが、やはり熟睡できるかどうかが、夏の疲労回復のポイントですね。
 森田 はい。本格的な暑さを迎えて、読者の皆さんも実感されていると思います。
 豊福 私も、医師として、アドバイスさせていただきながら、今、あらためて実感しています。(笑い)
 池田 「睡眠は健康の始まり」という言葉もあります。ところで、どうして人間は眠らなければいけないのですか。
 豊福 いちばん大事なのは、脳の疲労を回復する役目です。筋肉の疲れは、眠らなくても休息すれば回復します。しかし、脳の疲れは眠らないと回復しません。
 池田 たしかに、寝不足が続いたり、徹夜したりすると、ボーッとして頭がよく働かなくなりますね。
2  睡眠は成長ホルモンを増やす
 豊福 そうなんです。睡眠を邪魔すると、人間は落ち込み、イライラし、精神的に不安定になるという実験結果もあります。
 森田 もちろん睡眠には、脳だけでなく、体の疲労を回復させる役目もあります。また、睡眠は、免疫力にも関係しています。「風邪をひいたら、よく眠りなさい」というのは、睡眠が病原体を退治する働きを強めるからです。
 池田 シェークスピアは、睡眠をこう表現しています。「心労のもつれた絹糸をときほぐしてくれる眠り、その日その日の生の終焉、つらい労働のあとの水浴、傷ついた心の霊薬、大自然が用意した最大のごちそう、人生の饗宴における最高の滋養」(『マクベス』小田島雄志訳、『シェークスピア全集』2所収、白水社)
 疲れた心身を、はつらつと蘇生させる――まさに「睡眠は最高の滋養」です。
 ところで、人間には睡眠時間が、どれくらい必要なのですか。かつて対談した″現代化学の父″と呼ばれるポーリング博士は「七時間から九時間が理想的」(『「生命の世紀」への探求』本全集14巻収録)と言われていましたが。
3  睡眠時聞は年齢で変わる
 森田 日本人の平均睡眠時間は七〜八時間と言われています。
 睡眠時聞は年齢によっても変わってきます。生後まもない赤ちゃんで十八時間、十歳児で九時間、大人になると八時間前後です。そして年をとるにつれて、ふたたび延びてきます。
 豊福 睡眠は非常に個人差が大きいものです。同じ八時間でも、十分だと感じる人もいれば、寝不足だと感じる人もいます。
 池田 たしかに、同じく″天才″と呼ばれた人物でも、エジソンは短眠でしたが、アインシュタインは長眠の人だったと言われています。
 森田 睡眠の「満足度」は、時間だけでなく、眠りの「質」も関係しているのです。
4  「深い眠り」のノンレム睡眠
 池田 たしかに、そのとおりです。よく「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の違いが言われますね。
 「レム睡眠」とは「浅い眠り」のことですね。
 豊福 そのとおりです。「レム(REM)」とは「眼球の急速な動き(ラピッド・アイ・ムーブメント)」の略です。睡眠中に眼が速く動く――このときに夢を見ているとされます。反対に、「ノンレム睡眠」は「深い眠り」です。
 私たちが眠っているときは、この二つを交互に繰り返しているのです。
 森田 ですから、深いノンレム睡眠を、どれだけとったかで、睡眠の「満足度」は決まります。
 豊福 もちろん、レム睡眠にも意味があります。レム睡眠は、脳にとっては比較的浅い睡眠ですが、体にとってはいちばん深い睡眠なのです。
 ですから、「レム睡眠は体の疲労回復に」「ノンレム睡眠は脳の疲労回復に」役立っているとも言われています。
 池田 レム睡眠のときに夢を見るとのことでしたが、いい夢は心身をすっきりさせますね。
 法華経には、「是の経を読まん者は(中略)若しは夢の中に於いても但だ妙なる事を見ん」(法華経四四七ページ)とあり、正法を修行すれば、す、ばらしい夢を見ることができる、と説いています。
 仏典には、熟睡の効用も記されています。
 (1) 不眠で悩まされることがない (2) 目覚めがいい (3) 悪い夢を見ない――などです。(「十誦律」)
5  「充実の活動」が「快適な眠り」を生む――眠りすぎても疲労はたまる
 池田 では、眠りすぎて悪いということはありますか。ポーリング博士は「(睡眠は)七時間以下でも九時間以上でもよくない」と言われていましたが。
 森田 眠りすぎるとどうなるかという実験があります。結果は、注意力が低下し、仕事の効率も悪くなったそうです。たくさん眠ったからといって、それだけ疲労が回復するのではなく、かえって疲労を起こさせるようです。
 池田 病気の人は睡眠を十分にとるべきですが、それでも寝すぎると、かえって生命のリズムをくずしてしまう場合がある。自然のリズムにあわせた、睡眠の調節が必要ですね。
 天台大師は、睡眠が多すぎる場合を戒めてこう、語っています。「無常の火が世間を焼くことを思えば、早く生死の真実を見極めるため、(むだな)睡眠をしている暇はないはずである」(「小止観」)
 仏法で説く十種類の魔軍(仏道修行を妨げる働き)の中にも、「睡眠」が入っています。もちろん、「十分、眠つてはいけない」ということではありません。ただ惰眠を続けるような生活態度では、何も生まれません。眠りをさくような向上への努力もせず、要領よく生きているだけの人生では空しい。全生命をかけて「何かをつくろう」「何かを残そう」――この一念こそ、心身ともに健康な人生の土台になります。
 日蓮大聖人は「一生空しく過して万歳悔ゆること勿れ」と仰せです。
 レオナルド・ダ・ヴインチは「あたかもよくすごした一日が安らかな眠りを与えるように、よく用いられた一生は安らかな死を与える」(『レオナルド・ダ・ヴインチの手記』上、杉浦明平訳、岩波文庫)と言っている。「充実の一日」が大事です。「充実の一日」こそ永遠の宝です。
6  不眠の解消法
 豊福 たしかに「安らかな眠り」は万人の願いだと思います。しかし、これが、なかなかむずかしいのです。
 池田 そう。ヒルティでしたか、「眠られぬ夜は、堪えがたい災厄である。健康者も病人もこれを気遣う」(『眠られぬ夜のために』1、小池辰雄訳、『ヒルティ著作集』4所収、白水社)と言っています。もっとも彼は、不眠を気遣った、おかげで、名著『眠られぬ夜のために』を書けたわけですが。(笑い)
 森田 不眠の治療ですが、二、三日しか続かない不眠は、たいていストレスが原因なので、放っておいても治ります。ただ一カ月以上も続く場合には、病気がひそんでいる可能性があるので、医師の診察を受けることです。心身症、神経症、うつ病などの病気が原因で、不眠は起こることがあります。
 池田 快適な睡眠をとるためのポイントは何ですか。
 豊福 まず規則正しい生活のリズムをつくることです。眠れなくても、毎日同じ時聞に床に入り、同じ時間に起きることです。
 池田 平日の睡眠不足を解消しようと、休日に″寝だめ″をする人もいるようですね。(笑い)
 豊福 それでは、かえって睡眠のリズムをくずしてしまいます。
 池田 そういう人にかぎって、月曜日に遅刻する場合が多いようです。(笑い)
 豊福 休日でも、朝はいったん起きて、昼寝をするなど、できるだけリズムをくずさないようにすることが肝心です。
 池田 生命にはリズムが大事ですね。戸田先生は「夜は十二時までに休むことだ。十二時過ぎてから寝るのとでは、疲れのとれ方が違う」と言われていました。
 眠りは、いわば大宇宙に生命を溶け込ませて、宇宙の生命力を自分に″充電″する営みです。だから宇宙と生命のリズムにあっていることが大事なのです。
 森田 不眠の解消には、朝の日光浴や散歩も効果があります。太陽の光には、体のリズムを調節する働きがあるのです。とくに年配の方には適していると思います。
 池田 年齢が進むと、なかなか眠れなくなるのは、どうしてですか。
 豊福 睡眠は脳によってコントロールされているので、年をとって脳の働きが衰えてくると、睡眠を正常に保つ能力も低下していきます。
 森田 とくに年配の方は寝入るまでに時間がかかります。また全体的に眠りが浅いために、どうしても睡眠に満足感を得られないのです。
 池田 南ヨーロッパや中南米には、「シエスタ」と呼ばれる昼寝の習慣が残っていますね。昼寝は、どういう効果がありますか。
 豊福 一般に、昼寝は午後一時間以内であれば、夜間の睡眠不足の解消に効果的です。かといって仕事中に居眠りをするのでは困ります。(笑い)
 森田 「長時間の昼寝」や「午後遅い時間の昼寝」は、夜になっても眠気が起きなくなり、かえって寝つきが悪くなります。
7  多量のアルコールは睡眠の妨げ
 池田 寝る前に心がけることはありますか。
 森田 寝る前は、できるだけリラックスするようにしてください激しい運動や、刺激の強いテレビなどはさけることです。
 池田 入浴もいいですか。
 豊福
 す。
 森田 冷え症の人は、冬は厚手の靴下をはいて寝たり、体を暖房器具で温めて眠るとよいと思います。
 豊福 もちろん、紅茶、コーヒー、緑茶などカフェインをふくんだものは飲みすぎないことです。カップ一杯の温かい牛乳は効果的です。チーズやヨーグルトなどの乳製品を少し食べるのもいいとされています。
 池田 「アルコールを飲まないと眠れない」という人もいますね。たんに″飲む″口実の場合もあるようですが(笑い)
 森田 少しならば緊張を解き、眠くする作用があります。ですが、量が多くなると、のどが渇いたり、お手洗いが近くなって何度か目がさめることになります。快眠のためには、控えたほうがいいと思います。
8  暑いときは昼食をしっかりとる
 池田 寝床に入っても、眠ろうと意識すると、かえって緊張して眠れなくなることがありますね。
 豊福 必要以上に眠ろうと、あせらないほうが、かえって眠れます。眠ろうという意識をそらすためには、刺激のない静かな音楽やラジオに耳をかたむけるのも効果的です。
 池田 枕は、どんなものがいいですか。
 豊福 枕は首筋から頭にかけての骨格のカーブが自然に保たれるくらいの高さで、あまり高すぎないほうがいいと思います。
 池田 「疲労は最大の枕である」(ベンジャミン・フランクリン)という言葉もありますが――。布団はどうですか。
 森田 布団は姿勢が自然に保たれ、寝返りが打ちやすい、やや固めのものを使うとよいでしょう。いずれにしろ、自分がいちばん寝やすいものを選ぶことです。
 池田 暑くて寝苦しいときの熟睡の工夫はありますか。
 豊福 体からの放熱がうまく進むように、水枕などで頭を冷やしてみてください。
 森田 夏場の食事は、とくに昼をしっかり食べ、夜は軽めにすることです。高カロリーの食事は、体温を上げ、睡眠を妨げます。
9  睡眠薬は医師と相談して
 池田 睡眠薬は服用しても大丈夫ですか。「くせになる」と心配する人も多いようですが。
 森田 現在、医師が処方している睡眠薬は、安全性が高く、くせになりにくいものがほとんどです。
 豊福 ただし、必ず医師の診断を受け、自分にあった薬をもらうことです。また決められた量は、絶対に守ってください。
 池田 勝手な判断はいけませんね。
 森田 はい。やめるときも、急にやめずに、医師の指示にしたがって少しずつ量を前らしていくことです。また薬を飲む前後にアルコールを飲むのは絶対にさけてください。
 豊福 年配の方の場合は、効きすぎてしまうことがよくあるので、できるだけ睡眠薬は使わないほうがいいと思います。
 池田 不眠を解消していくには、睡眠薬だけにたよらずに、「薬はあくまでも補助手段」と考えるべきでしょう。睡眠は、一見すると休息と静止の世界です。しかし生命それ自体は一時も休まずに活動を続けています。ですから、よき睡眠といっても、それだけを切り離して望むわけにはいきません。むしろ、起きている時間に、心身ともに充実した一日を送れるか否か――ここに健全な睡眠を生む大きなカギがある。そして健全な睡眠はまた、次の健全な活動を生んでいくのです。
 「眠りは、健康と我々の身体を結び合わせる黄金の鎖のようなもの」(トマス・デッカー)という言葉があります。すがすがしい快眠によって、「黄金の価値の日々」をつづっていきたいものです。

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