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日蓮大聖人・池田大作

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応急手当 「冷静」が命を守る

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

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1  池田 夏になると、海や山へ出かける機会も多くなりますね。
 森田 大自然とのふれあいは、日ごろのストレスや疲れをいやし、浩然の気を養ってくれます。
 豊福 ただ、夏の時期は、水や山の事故、そして交通事故も多いです。
 池田 そうですね。開放感による油断が事故をまねく。この季節を有意義に過どすためにも、「絶対無事故」を心に期していただきたい。「無事故でいくんだ」と強く自覚することが、事故を防ぐ防波堤になるのです。
2  事故:万一に備え、正しい知識を――救急車が着くまでの数分で決まる
 森田 そこで、万一の場合に備えて、ここでは応急手当の方法を取り上げたいと思います。
 池田 大事なことです。知っているのと、知らないのとでは、天地の差が生まれますね。
 森田 はい。人間は、呼吸が停止してから十分、心臓が停止してから三〜五分ほどで脳に障害が起こります。
 豊福 ですから、事故や病気で倒れたとき、救急車が到着するまでの数分間をいかに対応するかが、生死に大きく影響するのです。
 池田 生死を分ける重要な時間ですね。
 森田 そうなんです。ですが、日本の救急医療システムは、欧米に比べると、遅れています。
 池田 欧米では、一般市民レベルから真剣に取り組んでいると聞きます。日蓮大聖人は「命と申す物は一身第一の珍宝なり」と仰せです。
 かけがえのない命を守るために、社会として積極的な取り組みが必要でしょう。その意識を高めるためにも、「応急手当」を皆の「常識」にしたいですね。
3  まず意識・呼吸・脈の確認から
 池田 緊急時には、いちばん最初に何をすればいいのですか。
 豊福 「意識があるか」「呼吸があるか」「脈があるか」の三つを確認することです。第一に意識があるかないかです。まず大声で呼びかけて、反応を見ます。意識があれば、すぐに答えたり、目を開けたりするはずです。
 森田 反応がない場合には、ほおを手のひらでたたいたり、つねったりしてみてください。それでも反応がないときは、周囲の人に協力を求め、救急車を呼びます。
 池田 「迅速」が大事ですね。
 豊福 そうです。迅速でないと、助かる命も助からなくなります。
 池田 いざというときに、その人の人間性が現れるものです。迅速といっても、ふだんから「人に尽くし」「人を助ける」心を鍛えていなければ、とっさに体が動くものではありません。
 森田 その意味では、学会員の方は、日ごろから鍛えられていると思います。
4  倒れた人の体は揺さぶらない
 池田 ところで、倒れている人にさわっても大丈夫ですか。
 森田 はい。ただ絶対に「体を揺さぶらない」ことです。脳卒中で倒れた場合は、強く揺さぶると悪化する恐れがあります。
 池田 なるほど。うっかりできませんね。正しい知識を持っていないと、取り返しのつかないことになる。
 豊福 そうなんです。何とか反応してもらおうと、つい強く揺すってしまいがちです。
 池田 救急車が来るまでの問、何をすればよいですか。
 森田 呼吸しているかどうかを確かめます。
 池田 どうすれば確認できますか。
 森田 耳を相手の口や鼻に近づけて、息が出ているか確かめます。胸が上下しているかを見てもわかります。
 豊福 呼吸をしていれば、楽な姿勢に寝かせます。
5  人工呼吸と心臓マッサージを
 池田 呼吸をしていない場合は、人工呼吸ですか。
 森田 まず口の中を見てください。意識を失うと、舌がのどの奥に落ち込み、のどや気管などの空気の通り道(気道)を塞いでいることがあります。
 豊福 その場合、相手のあごを持ち上げ、頭を後ろにそらして、空気の通り道を確保します。肩に上着などを丸めてあてがうと、スムーズにできます。
 森田 それから、ただちに人工呼吸を行います。鼻から息が漏れないように、親指と人さし指で鼻をつまみ、約二秒くらい、患者さんの口へ思いきり息を吹き込んでください。人工呼吸を行った後、今度は脈を確認します。
 池田 脈はどこでわかりますか。
 豊福 のどぼとけの横のあたりがよくわかります。
 森田 脈がない場合は、心臓マッサージを行います。相手のみぞおちより少し上のほうに、片手の親指の付け根を当て、その上にもう一方の手を重ねます。
 ひじをまっすぐ伸ばしたまま、胸が四〜五センチくらい沈むように垂直に押してください。
 池田 なかなか、むずかしい。やはり訓練・練習が必要ですね。
 豊福 そうですね。あとは人工呼吸を二回、心臓マッサージ三十回を一セットとして、繰り返します。
 池田 では傷口から出血しているときは、どうすればいいでしょう?
 森田 すぐに止血する必要があります。軽い出血なら、きれいなハンカチやタオルを出血している部分に当てて、強く押さえます。
 池田 血を見ただけで、手当てするほうが、あわててしまう場合もありますが。
 森田 とにかく「冷静になる」ことです。緊急時には、だれでも気が動転するものです。あわてていては適切な処置はできません。
 池田 いざというときは、女性のほうが、ハラがすわっている場合が多いようですね。(笑い)
 豊福 止血のさい、脱脂綿を使ったり、傷口にタバコの灰を塗ったり、輪ゴムを巻いて血を止めることは、絶対にしないでください。細菌が感染したり、神経障害などを起こすことがあります。
6  炎天下の外出は、なるべく帽子を
 池田 ところで、炎天下で長い間、直射日光を受けると、めまいや吐き気、頭痛などが起こることがありますね。
 豊福 いわゆる「日射病」です。それに対して、気温や湿度の高い場所にいて熱が体内にともり、倒れるのを「熱射病」と言います。
 森田 部屋の換気が悪かったり、熱の逃げにくい服を着ていて、汗による体温の調節が追いつかない場合に起こります。
 最近では、日射病や熱射病などを総称して、「熱中症」と呼んでいます。
 池田 熱中症で倒れた場合、どうすればいいですか。
 豊福 まず「体温を下げる」のが先決です。
 風通しのよい部しい場所へ運んで、寝かせます。服のボタンやベルトをゆるめ、衣類などであおいで風を送ってください。
 池田 炎天下に外出するさいに、できうるものなら、帽子をかぶったほうがいいですね。
 森田 そうですね。直射日光をさけたほうが賢明です。
 豊福 熱がこもらないよう、風通しのよい、ゆったりした服を着るのも、一つの工夫です。
 森田 汗をたくさんかいたら、ときどき食塩水やスポーツドリを飲んで、水分や塩分を補給することも大切です。
7  油断なく絶対無事故を! 「小事こそ大事」と――子どもを車の中に置き去りにしない
 池田 熱中症で、毎年、夏に必ず聞くのが、車の中に置き去りにされた子どもが亡くなる事故ですね。じつに痛ましい。
 森田 そうなんです。子どもを車の中に置いたまま、買い物などに出かけるのは、絶対にやめてください。
 豊福 炎天下では、短時間でも窓を閉めきった車の中は、蒸し風呂状態になります。かけていたエアコンが切れてしまい、事故が起きたケ
 ースもあります。油断は禁物です。
 池田 何ごとも「小事」が「大事」です
 小さなことを軽く考えてはならない。日蓮大聖人は「なはて堅固なれども蟻の穴あれば必ず終に湛へたる水のたまらざるが如し」と仰せです。すなわち「しっかりした田のあぜでも、蟻の穴ほどの小さな穴があったならば、たまっている水も必ずそこからもれて、ついにはなくなってしまう」と指摘されているのです。
 小事をおろそかにするところに、思わぬ事故が起きるのです。
8  日焼けは皮膚の老化を早める
 豊福 ″日焼け″にも注意が必要です。
 池田 健康的なイメージがありますが、問題は紫外線ですね。
 豊福 はい。適度の量でしたら、皮膚の殺菌や消毒に効果がありますが、浴びすぎると、水ぶくれなどをともなう″やけど″を起こしたり、シミやシワなど皮膚の″老化″を早めたりします。
 池田 美容の天敵ですね(笑い)。防ぐ方法はありますか。
 森田 日差しの強い時間帯に外出する場合、「日傘をさす」「帽子をかぶる」「日焼け止めクリームを塗る」といった工夫をすることです。
9  やけどはすぐに水で冷やすこと
 池田 では、実際にやけどをした場合は、どうすればいいのですか。
 森田 とにかく、すぐに水で冷やしてください。いちばんよいのは、「水道の流れる水で三十分以上冷やす」ことです。すぐに冷やしたおかげで、軽くすんだり、早く治った例がたくさんあります。
 豊福 服を着ているときには、その上からでかまいません服をぬがすと、やけどした部分の皮膚がはがれて細菌が入りやすくなります。
 池田 昔は、やけどをしたとき、みそやしようゆを塗るといいと言いましたが。
 豊福 みそ、しようゆなどは絶対につけないでください。細菌に感染して、やけどがひどくなる恐れがあります。
 池田 やはり素人判断は怖い(笑い)。最近は、幼児が電気炊飯器につかまり立ちをして、蒸気でやけどするケースも増えているようですね。
 森田 子どもの手の届くところにお湯の入ったポットなどを置かない、ストーブの上にやかんをかけない、などの習慣をつけておいていただきたいと思います。
10  家の中でも事故は起きる
 池田 家の中も、決して安全な場所とは言えませんね。交通事故死の次に多いのが、家庭内での事故死だと聞きましたが。(=二〇〇六年度の警察庁、厚生労働省の統計資料によると、家庭内での事故死のほうが多くなっている)
 豊福 あまり知られていないことですが、そのとおりです。子どもや高齢の方がいる家庭では、とくに注意が必要です。
 森田 実際、事故の中身も、子どもや高齢者の「階段などでの転倒」「異物を飲んでの窒息死」「浴槽での溺死」などです。
 池田 安全な場所だと油断していると、防げる事故も防げなくなってしまう。大聖人は「賢人は安全な状態にあっても危険に備え、心の曲がった人は危険な状態にあっても(それに対処しようとせず)安穏を願う」(御書九六九ページ、通解)と注意をうながされています。
 ちょっとした気配り、用心。それがあるかないかで、百八十度違う人生行路になってしまう場合もある。賢人でなければならない。飛行機も飛び立つ前に毎回、入念に点検する。人生の使命を果たすためにも、生活のすみずみにまで心のサーチライトを当てて、「安全」を確保しなければならない。
 「とれくらい大丈夫だろう」「何とかなるだろう」「いつか、きちんとやろう」――そういう緩みを油断というのです。
 夏は、体力を過信して無理をする場合も多い。多くの事故の原因も疲労や油断です。「最高に価値ある夏だった」と言えるよう、強い祈りを根本に、賢明な信仰即生活を送っていただきたいと思います。

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