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日蓮大聖人・池田大作

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肥満 余分の死亡が寿命を縮める

「健康対話」(池田大作全集第66巻)

前後
1  森田 連載が始まってから、多くの反響をいただいています。なかには「どうすれば、やせられるか教えてほしい」という要望までありました。(笑い)
 池田 いやいや、笑いごとではなく、大事な問題です。「健康」の大きなバロメーターです。そこで「肥満」をテーマに話を進めてはどうでしょう。
 森田 わかりました。読者の方の関心も高いと思います。
 豊福 それにしても、肥満とは思えない若い女性までが、よりスリムになろうと、極端なダイエットに走るのは気がかりです。
 池田 たしかに現代人のグやせたい願望は、すごいですね。少々、スリム志向に傾きすぎているかもしれません。肥満かどうかを決める医学的な基準はどうなっているのですか。
 豊福 「標準体重」の求め方では、次のような方法が、広く用いられています。身長(メートル単位)を二回、かけ合わせた数に22をかけます(男性・女性とも同じ方法)。
 私の場合は、身長が1メートル61センチなので、1.61×1.61×22=約57キログラムが「標準体重」になるわけです。実際の体重が、この計算の結果出た「標準体重」を20パーセント以上オーバーすると、「太りすぎ」とされます。
2  「見かけ」よりも「体脂肪」が問題
 池田 「ベルトの穴が一つ増えるたびに寿命が何年か縮む」と言われますが、太りすぎは、なぜいけないのですか。同じように太っているように見えて、骨太、筋肉質、脂肪太りなど、″中身″の違いもあるようですが。
 豊福 おっしゃるとおりです。健康にとっていちばん問題なのは、見かけの肥満よりも、体の中の「脂肪が増えすぎる」ことなのです。
 森田 体脂肪が増えすぎると、高血圧、糖尿病、高脂血症、心臓病にかかりやすくなります。
 豊福 さらに、脂肪が体内のどこにつくかによっても、事情は違います。最近は″リンゴ型肥満(上半身型肥満)″″洋ナシ型肥満(下半身型肥満)″が話題になります。
 森田 ″リンゴ型″では脂肪が内臓のまわりに、″洋ナシ型″では皮下に、たくさんついています。おヘソのところで、腹部のCT(コンピューター断層撮影)で写真を撮ってみると、よくわかります。″リンゴ型肥満″のほうが、高脂血症になり、さまざまな成人病を引き起こす危険が高いと言われます。
 池田 子どもにも″生活習慣病″が増えてきたと聞きますが、肥満とも関係が深いのでしょうね。
 豊福 そう思います。
 池田 要するに、肥満の「原因」は何でしょうか
 豊福 直接の原因は、ずばり「食べすぎ」です(笑い)。吸収されるエネルギーが消費されるエネルギーよりも多いと、余ったぶんが、脂肪となって体内に蓄えられるわけです。当然、日ごろの「運動不足」も原因になります。
 森田 ただし、ホルモンが異常に分泌される病気が隠れているケースもありますから、注意が必要です。
3  ″心が満たされない″から食べすぎて太る場合も
 豊福 ″やけ食い″という言葉がありますが、ストレスも深くかかわってきます。精神的に満たされない思いを″食べる″″飲む″ことで手軽に解消しょうとするわけです。それで、ついつい食べすぎるという例は珍しくありません。
 森田 今、若い女性の間に「やせ形」の体型が、もてはやされる傾向があります。こうした社会的要因も食生活に影響していると思います。
 池田 人間が十分な食物を得られなかった時代では、丸みをおび、ややふっくらした体が「福々しさ」や「富」の象徴でした。皆の憧れであり、「美」でもあった。世界には、まだまだそういう地域も多いのですが。
 豊福 「ふとっちょ」が敬意ある愛称とされている地域もあります。
 森田 考えてみれば、人類の歴史は、飢餓との戦いでした。そのため、「余分なエネルギーは脂肪で蓄えでおく」という仕組みは、たいへんに好都合だったと思われます。
 また、女性の腹部の皮下脂肪は、胎児を衝撃から守る役目も果たしています。
 池田 エネルギーを脂肪の形で蓄えていく仕組みは、いわば生命を維持するための知恵でもあったわけですね。
 しかし人間をとりまく環境は大きく変化してきた。わが国も″飽食の時代″と言われ、栄養のとりすぎが、かえって健康を損ねています。
4  遺伝よりも生活習慣の影響が大
 池田 ところで「やせの大食い」などと聞くと、肥満に悩む人には、うらやましいかぎりかもしれませんが(笑い)、こうした体質も遺伝するのですか。
 森田 太りやすい素質は遺伝すると思われます。しかし、決定的ではありません。生まれてからの食事や運動など日常生活の習慣こそ重要です。
 豊福 肥満の害は内臓の病気だけではありません。余計な脂肪とい″荷物″をつねにかかえて生活しているようなものですから、腰やヒザに負担をかけ、故障しやすいのです。階段を上がるにも、すぐに、ふうふうと息がきれて。(笑い)
5  釈尊も「食べすぎはいけません」と
 池田 釈尊の信者の中にも、似たような王さまがいました。(笑い)
 仏典に、こんなエピソードがあります。
 あるとき、コーサラ国のハシノク王が釈尊のもとにやってきました。肥満の体をかかえ、ふうふう息をきらしていた。大王は大食家であり、きょうも、おなかいっぱい食べたあとで、すぐにやってきたのです。
 それを見て釈尊は、にっとり微笑み、こう教えました。「つねにみずから気をつけて、量を知って食をとらなければいけません。そうすれば、苦しみは少なく、老いることも遅く、寿命をたもてるでしょう」
 そのとき、大王のうしろに、おつきの少年が立っていました。名前をゼンケンと言いました。
 大王は、少年に言いました。「ゼンケンよ、おまえ、今の釈尊の教えを暗唱して、おいて、私の食事のたびに、いつも唱えておくれ。そうしたら、毎日、お小遣いをやろう」
 そこで少年は、釈尊の教えをそらんじ、毎日、王の食事のたびに、それを繰り返しました。食べるたびに、釈尊の教えを聞かされたため、大王は、しだいに食べすぎがなくなり、スマートで健康な体になっていったというのです。(「栂応部経典・有偈篇」、『南伝大蔵経』12所収、大正新修大蔵経刊行会、参照)
 豊福 「食べすぎに注意して、若さをたもち、長生きしなさい」との教えは、医学の眼からも、じつに的確なアドバイスです。
6  「もう少し……」でやめておく
 池田 それでは、肥満の具体的な解消法を、ここでドクターお二人にぜひうかがっておきたい。読者の皆さんの最大の関心事でしょうから。(笑い)
 森田 ただし、すぐに効果が現れる方法ではありませんので、どうかご了解ください(笑い)。まず、食事については、″腹八分目″の心がけが基本ということでしょうか。
 豊福 ″もう少し食べたい″というところでやめておく――これが、なかなかできない(笑い)。しかし、実践できれば、かなり違います。
 森田 「いくら減食してもやせない」と嘆く方がいますが、じつは、無意識のうちに食べていることが多いのです。果物などのデザート、間食のおやつ、アルコールもふくめた飲み物も、計算に加える必要があります。
 池田 夜食はどうでしょう。
 森田 間食と同様に、控えてほしいですね。夜はエネルギーを使うことが少なく、吸収した栄養が脂肪の形でたまっていくのです。
 豊福 「栄養の偏り」も肥満を助長しますから、注意していただきたい。各種の栄養素を満遍なくとりながら、全体のエネルギーは、とりすぎないことが大切です。
7  ダイエットには″方針″の意味が――食事は頭でする
 森田 「朝食をぬく」とか、「夕食にカロリーの高い物を食べる」といった習慣はさけ、朝食・昼食・タ食の三食を規則正しく、バランスよくとる。これが、健康的なダイエットの基本でしょう。
 池田 ″言うは易く″で、いざ実行するとなるとむずかしいですね。(笑い)
 豊福 中断して、以前より太った体に、ためいきが出てしまうとか(笑い)。そこで必要になるのが具体的な知恵だと思います。たとえば、急いでかきこんだりせず、「ゆっくり食べる」ことです。そうすれば、より少ない食事量でも満腹感が得られます。野菜や海藻類などをまず十分にとることで、胃袋を満足させるというのも一つの工夫でしょう。
 池田 なるほど。「食事は、口でなく頭でするものだ」という言葉がありますね。よく考えて食べるということです。食生活をどう正していくか。必要以上に食べたいという欲望を、どうコントロールしていくか。どう自分を律していくか。そこに教養と人格があらわれます。
 豊福 はい。かつて池田先生は健康法の一つとして「教養のある食生活」と教えてくださいました。「ダイエット」の語源には、「国会」「議会」という意味もあり、″方針″″政策″といった趣旨もふくんでいるという説もあります。
 池田 ダイエットの本義は、賢明な「生活方針」にある――と言えるかもしれませんね。
 森田 そこをとり違えて極端な食事制限に走ったりすると、貧血、脱毛などの健康障害を引き起こしかねません。ときには心の痛手を残す心配もあります。それでは、健康的な″やせ″の達成どころか、かえって病的な″やつれ″をまねいてしまいます。
8  自分を律し、心豊かな″満足″の日々――早足が効果的
 池田 大切なのは、人が自分をどう見るかということではない。自分を律しつつ、自分として″これで満足だ″と思えるかどうかです。そういう心豊かな生活を送るのが「ダイエット」ということではないだろうか。根本は「何のために」という生き方の問題になりますね。
 ところで肥満の解消には、運動も欠かせませんね。
 豊福 はい。「適度な運動」が大事なんです。筋肉は、運動したぶん、太く強くなっていきます。食事制限だけに頼ってダイエットしていると、脂肪よりも先に筋肉が使ってしまい、健康を損ねてしまう心配があります。
 池田 ダイエットに適さない運動というのはありますか。
 森田 競いあうような種目、短距離のダッシュなどは、脂肪以外のグリコーゲンなどが先にどんどん消費されてしまいます。ですから「脂肪を消費する」という目的に向いているとはいえません。
 ふつうに呼吸しながら、徐々に体が温まる、全身運動が望ましいのです。
 豊福 具体的には、早足の歩行などでしょうか。酸素を十分に取り入れながら、ゆっくりと全身を動かしていく運動を一定の時間以上、毎日、続けていくことです。そうすると、体の中の脂肪はエネルギーとなって消費されていきます。
9  「牛乳を飲む人より配る人が健康」
 森田 私の身近に″健康づくりのためにも″と、「聖教新聞」の配達員をすすんで引き受け、長年、続けておられる壮年の方がいます。早起きと適度な運動の持続で、少々肥満ぎみだった体も見事にひきしまり、健康診断の結果でも「実際の年齢より十歳は若い。健康体そのもの」と太鼓判を押されたと喜んでいらっしゃいました。
 池田 尊い姿です。くれぐれも無事故で、長生きしていただきたい。西洋にも、「牛乳を飲む人より、牛乳を配達する人が健康である」とのことわざがあります。たんに体のことだけではなく、仏法を人々に伝えよう、人のために尽くそうという、その「心」が何より「健康」だと思います。
 ガンジーも言っている。「他人への奉仕に生きるために食べるべきであり、自分の放縦(=気まま)のために生きてはならない」(『ガンジーの健康論』岡芙三子訳、編集工房ノア)
 太っている、やせているという外見のことよりも、「人のために尽くそう」「そのために少しでも健康で長生きしよう」という心が大切だと思う。そこに仏法の眼から見た「ダイエット」の意味があるのではないでしょうか。

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