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日蓮大聖人・池田大作

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はしがき――人生の一先輩からのアドバイ…  

「希望対話」(池田大作全集第65巻)

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1  私は少年と語りあうのが大好きだ。
 希望に燃えている君たちと会い、清らかな瞳の君たちと語らうたびに、だれもが、君にしかない独特の個性と、未来への無限の可能性を秘めていることに、新鮮な驚きを感ずるのです。
 そして、そうした君たちが、すくすくと伸びゆく姿を見ることほど、うれしいことはありません。日本の、いや、全世界の少年少女のみなさんが、その清らかな瞳の輝きをいつまでも失わず、平和で幸福な世界を築いてくれることを、心から願っています。
 その願いをこめて、私は今まで、いろいろな機会に、たくさんのみなさんと語りあってきました。質問も、かぞえきれないほど受けてきました。学校や勉強のこと、友だちや両親の問題、さらには、人生論や社会の事柄までさまざまでした。
 なかには、専門家ではない私にとって、答えにくい質問もありました。問題の核心を突いた鋭い質問を浴びせられて、驚いたことも何度かありました。
 しかし、私は、どの質問にも、答えられるかぎり、真心こめて答えてきたつもりです。
 この本は、そのなかから、この数年間、主に中学生の諸君から受けた質問に対する答えをまとめ、質問した人だけでなく、他の人にも通ずるように筆を加えたものです。
 私は、諸君を、大人と変わらぬ、立派な一個の人格として尊重し、尊敬もしています。紳士とも思い、淑女とも思っておつきあいしています。それが最も正しい態度だと思うし、これからもそうしていくつもりです。
 それは、少年であっても、人間としての生命の尊さは、大人と異なるはずがないからです。男性と女性が本質的には平等であり、職業の貴賤、身分の上下などがないのと同じように、年齢によって、人間の尊厳の度合いに違いがあるはずがありません。
 もちろん、大人と子どもがまったく対等だとはいえない面もあるでしょう。社会に対する役割や、責任の違いという点からいえば、子どもが大人と、同じ権利を主張することはできない場合もあります。
 しかし、それは、人生の先輩と後輩という違いによるものであって、本質的な違いではないと思うのです。
 私は、そうした信念と姿勢から、同じ人間どうしとしてみなさんに接し、質問にも答えてきたつもりです。
 また、私はとくに頭のよい人間でも、偉い人間でもありません。海苔屋の息子として生まれ、戦時中は、同世代の人たちと同じように戦火の下を逃げまわり、いろいろな悩みをいだいて少年時代を送った、ごく平凡な庶民の一人です。
 ですから、この本に書かれていることは、人生の一先輩からのアドバイスだと思ってください。
 聖人君子ぶって賢げにお説教するより、それで私はいいと思うのです。人間の社会というものは、平凡な人たちが集まって成り立っているものです。天才や、特別な才能をもった人はほんの例外で、大部分は平凡な庶民です。考えようによれば、平凡な人であってこそ、諸君のよき相談相手になれるのではないでしょうか。
 ただ、諸君に訴えておきたいことは、この本全体を貫いている考え方でもありますが、人間の生命を、何よりも大事にし、どんな人でも、その人格を尊ぶ考え方だけは、どこまでももち続けてほしいということです。
 大は、戦争や公害から、小は、個人と個人のささいないがみあいまで、その根本的な原因は、すべて生命を軽視し、相手の人格を軽んずることにあるといえます。
 理想的な社会をつくるには、社会のしくみを改善することも必要でしょうが、どんなに立派なしくみをつくってみても、一人一人が生命を軽んずるような人々だったら、内容は少しもよくならないにちがいありません。むしろ、生命を大事にし、人間の尊厳に最大の価値を認める人々が英知を結集してこそ、しくみ自体も理想的なものとなり、みんなが平和と幸福を楽しめる社会になると思うのです。それは、君たちのこれからの仕事ですが、人生の土台をつくる少年少女時代にこそ、その根本的な考え方をしっかりと身につけてほしいのです。
 また正義感、勇気、誠実、思いやりなど、人間らしい人間としての要件も、源をたどれば、生命、人格を尊重する考え方から出てくるものです。したがって、その根本の考え方が確立されたとき、本当に人間らしい人間として、人格の完成もあるといえましょう。
 この本が、諸君の満足のいく答えになっているかどうか、具体的な問題については自信がありません。しかし、そうしたものの考え方の基準だけは示しておいたつもりです。
 最後に、諸君が、明るくたくましく成長し、未来の日本と世界を担う力ある青年に育たれんことを心から祈っています。
    一九七二年七月二十五日
                  池田大作

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