Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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「希望対話」(池田大作全集第65巻)

前後
1  ―― 中学二年生の女子から、こんな質問が送られてきました。
 「私は、ほとんどの友だちが持っている携帯電話を買ってもらえません。両親に、どんなにお願いしても反対されます。携帯電話がないので友だちの話題についていけず、ときどき悲しい気持ちになります。どうすればいいでしょう?」というのですが。
2  持っていないと仲間はずれになる?
 ―― 携帯電話や、携帯音楽ブレーヤーなど、欲しがる中学生は多いですね。
 聞いてみると「みんな持っているから」と言うのです。実際には「みんな持っている」はずはないのですが……。
 ある中等部担当者の話です。家の近くに遊園地があったので、友だちから「いっしょに行こうよ」と、よく誘われました。しかし、行くお金がない。「みんなと行きたい」と母親に頼んでも、「そんなこと言っても、しかたないでしょ。うちには、お金がないんだから」と相手にしてもらえません。
 お兄さんが私立高校に通っていたこともあって、家計が大変なことは頭では理解していました。それでも「お金さえあれば、みんなといっしょに行けるのに」「もっと裕福な家に生まれたかった!」と思っていたのです。
 池田 今も、そう思ってるの?
 ―― いえ、全然、変わったそうです(笑い)。今、考えれば、「みんなと同じ」でなくてよかったと言っていました。「みんなは、みんな」「自分は自分」だと。
 池田 そのとおりだね。しかし、そう思えるようになるまで、時間がかかったわけだ。
 ―― そうですね。やはり中学時代は、「みんなが持っている」ものを持っていないと、グループのなかで「話題についていけない」とか、「仲間はずれになる」と思って、悩んでしまうのですね。
3  物を欲しがらせる宣伝に振りまわされるな!!
 みんながそうだから
 池田 こんなジョークがある。「タイタニック号」を知ってるでしょう?
 ―― はい、映画も大ヒットしましたし、中学生も知ってる人が多いと思います。
 池田 豪華大客船が、沈んでいく。みんな、大急ぎで、逃げ始めた。しかし、女性と子どもを先に避難させなければならない。
 そこで船長は、男性の乗客に説得を始めた。どう言って、納得させるか。船長は考えた。イギリス人には、こう言った。「あなたは、ジェントルマン(紳士)です。女性と子どもに先を譲ってくださるにちがいない」。アメリカ人には、こう言った。「あなたは『ヒーロー』になりたくありませんか」。ドイツ人には、こう言った。「女性と子どもに先を譲るのが『規則』になっております」
 それぞれの国民性が、どう見られていたか、よくわかるね。
 それで船長は、日本人には、何と言ったか?
 「みなさんが、そうしておられますから、あなたも同じようにしてください」
 ―― 強烈ですね!(笑い)何か、恥ずかしいです。
 池田 まあ、これはジョークだから、深刻に考えることはないが、言いたいことは、わかるでしょう。
 とくに今の社会は、広告社会です。あの手この手で、いろいろなものが「買いたくなる」ように仕向けられている面がある。よく見ると、「それがなくては生きていけないもの」は少ない。そういう必需品は、ほとんどの人がもっているし、宣伝しなくても買うからね。
 ―― たしかに、たいていのものは、もうそろっています。
4  物があふれているのにいつも不満
 なくてすむ物も「必要」と思わせる
 池田 だからこそ、その分、「なくてもすむ物」まで売らないと、会社は、ものが売れなくて困る。だから何とか、みんなが欲しくなるよう宣伝するわけです。「便利ですよ」「新しいですよ」「持ってないと、遅れますよ」とね。
 ―― そういう仕組みになっているのですね!
 池田 そういう仕組みを「知っておく」ことが大事です。そのうえでどうするかは、個人の問題だ。しかし「知らない」と、広告や流行に振りまわされてしまう。
 もちろん必要な広告も多いし、携帯電話が、いいとか悪いとか言っているのではありません。今の社会の経済の仕組みを、ちゃんと理解しておかないと、永久に「あれが欲しい」「次は、これが欲しい」というふうに、引きずられていってしまうということです。
 ―― たしかに、物があふれるほどある割には、いつも「あれが欲しい」「これが欲しい」と欲求不満な状態かもしれません。
 そういう「不満な状態」を、宣伝によって作り出しているのですね。
 池田 だから、よほどしっかりしていないと、「欲しい」という気持ちの奴隷になってしまう。まわりがどうとかではなくて、「自分自身にとって、本当に必要なのか」「それはなぜなのか」と自問しないといけない。
5  「買ってくれない親は、愛が薄い」?
 池田 それで、質問のことだけれども、これは、ご両親と相談して決めるべきことです。私が、どうこう言える問題ではありません。家庭の方針も、状況も、それぞれ違うのだから。
 もしかしたら、ご両親は、買ってあげたいが、いろいろな理由で「だめだ」と言っておられるのかもしれない。
 「お金の問題ではなく、教育上よくない」ということで、「買わない」と言っておられるのかもしれない。
 いずれにしても、「買ってくれないのは、自分を大事に思ってくれてないからだ」とは思わないこと!。それでは「愛情を、お金で計る」ことになる。それは絶対に間違いです。これだけは強く言っておきます。愛情が、何かを買ってくれたとか、くれないとかいうことで、わかるわけがない。そんな考え方を今、身につけてしまったら、大変です。人間を見る目が狂ってしまう。
 同じ意味で、「これを持っていないと、仲間はずれになる」というのは、その気持ちはわかってあげたいが、厳しく言えば「友情を、お金で買おうとしている」のです。ちょっと、むずかしいかもしれないが。
 ―― 本人には、そんなつもりはないと思うのですが……でも、そうなりますね。
6  賢者の贈り物
 池田 どう言えば、わかるかな?
 たとえば……「賢者の贈り物」という話は、最近は読まれていますか?
 ―― O・ヘンリーですね。
 聞いたことのある人は多いんじゃないでしょうか。夫婦で贈り物を交換する話です。
 貧しくて、クリスマスにも何も買えなくて、たしか奥さんは、自分の髪の毛を売って、そのお金で、ご主人のために買い物をします。ええっと、何を買ったのでしたか。……。
 池田 金時計(金の懐中時計)に付ける「鎖」だね。
 ―― そうでした。でも、それをプレゼントしようとしたら、ご主人のほうは「櫛」を買ってきていたのですね。(長い髪に、ぴったりの縁飾りのある櫛)
 でも奥さんの髪は、すっかり短く切られていて、当分の間、櫛は役に立ちません。そして買ってきた「鎖」を渡すと、ご主人は金時計を売ってしまっていた……。
 時計を売ったお金で、櫛を買ってきたのです。だから、鎖もむだになってしまった。そういう話だったと思います。
 池田 そのとおりだね。では、どうして、この物語が「賢者の贈り物」という題になっているんだろう?
 実際には、いちばん、愚かな二人だったとも言えるんじゃないだろうか? どちらも「役に立たないもの」を買ってきたわけだから。
 ―― たしかに「お金がないのに、むだ遣いした」ことになりますね。それが、どうして「賢者」なのか……。
 題名のことは、全然、考えたことがありませんでした。
 池田 本当のところは作者に聞かないとわからないが、私は、こう思います。
 二人とも「いちばん大事なもの」を贈ることに成功した。「いちばん大事なもの」は、たしかに相手に届いた。しっかり届いた。どんな贈り物をするよりも、確実に届いた。だから「賢者」なのだ、と。
 「いちばん大事なもの」というのは、もちろん「愛情」です。「心」です。
 奥さんは、自分が大切にしている「自慢の髪の毛」を売った。決心がいったでしょう。髪がなくなると、ご主人に嫌われてしまうんじゃないかとも心配したでしょう。それでも、彼に「鎖」を贈りたかった。彼の家に代々、受け継がれてきた立派な金時計だったが、鎖がないから、人前では堂々と取り出せなかったのです。
 一方、ご主人は、奥さんの髪が大好きだった。髪に似合う櫛を欲しがっていることも知っていた。そのことを思うと、先祖伝来の時計も惜しくなかった。
 だから、二人とも、自分のいちばん大事にしているものを犠牲にして、贈り物をしたのです。その「心」がいちばんの贈り物だったのです。二人とも、それを贈り、それを受け取ったのです。
 ―― わかりました。二人とも「すごく、うれしかった」のですね! 今まで何となく、「二人とも、考えがすれちがって、がっかりした」話みたいに思っていました。
 池田 二人とも、最高の贈り物をしたし、最高の贈り物をもらったのです。金額じゃない、物じゃない、「心」です。
 二人には、相手を思う「心」だけは、あふれるほどあった。貧しくても、どんなに幸せだったことか!
7  心の豊かな人はたくさんの宝物が見える
 ガンジーの鉛筆
 池田 それから、もうひとつ、名城大学の森本達雄教授が、青年部主催の講演会(「マハトマ・ガンディーにみる政治と宗教」。「聖教新聞」一九九四年七月五日付)で語っておられた「ガンジーの鉛筆」の話を紹介しておきます。
 ある重要な会議を前にガンジーは着席していた。しかし、何かそわそわした様子で、あたりを見回したり、机の下をのぞいたりしていた。
 「何か、おさがしですか」。ある人が聞くと、ガンジーは「鉛筆をさがしているのだ」。それではと、その人はガンジーに自分の鉛筆を渡した。
 すると「その鉛筆は、私のさがしている鉛筆ではない」と。
 ―― 特別の鉛筆だったんでしょうか。
 池田 特別の鉛筆だった。
 これから大事な会合が始まろうというときに、どうしてこんな小さなことにこだわるのかと不思議だった。
 「どうして、この鉛筆ではいけないのですか」「その鉛筆ではだめだ」
 ガンジーは強く言った。
 しかたがないので一緒に机の下をさがした。やっと見つかったのは、三センチほどの、ちびた鉛筆だった。
 ガンジーは説明した。
 「私が以前、独立運動を呼びかけ、援助を求めて各地を演説して回っていたとき、ある会場で一人の少年が、この鉛筆を私に寄付してくれた。
 子どもにとって大事な鉛筆を、独立運動のために差し出してくれたのだ。そんな一人一人の国民の″思い″を忘れて、私の政治活動はありえない。
 こうした一人の少年の″心″を忘れて、いくら政治を論じたところで、それは空論にすぎないだろう。この気持ちを私は捨てることはできないのだ」(「聖教新聞」一九九四年八月二十日付。本全集第85巻収録)
 この話が、私は、とても好きです。私も、大切な会員の方の真心がこもったものを「紙一枚」「鉛筆一本」むだにはしていません。大事に大事にしています。それらは「物」ではなくて、「心」そのものだからです。
 「心」で見れば、たった三センチの″ちびた鉛筆″が何よりの「宝」なのです。ガンジーは「心」で見る人だったから、何億という多くの人の「心」をとらえることができたのです。
8  親の苦労を知る
 池田 だから、みんなも、お金のことを簡単に考えてはいけないよ。
 お父さんやお母さんが、みんなを育てるために、どんなに苦労しているか。みんなのために使うお金に、どれほどの「思い」がこもっているか。それがわからないと、自分が「貧しく、つまらない人間」になるよ。お金の苦労は、あまり子どもには見せないかもしれないが、大変なんだよ。
 ―― 先ほどの、子どものころ、遊園地に行けなかった担当者の方の家は自営業です。彼女が中学生のころは両親とおばの三人で、ビニール袋をつくっていました。
 家の一階部分が工場で、朝は八時ごろから夜は十時ごろまで、ずっと機械の音が絶えませんでした。懸命に働いている姿を見て、お金のことでわがままを言ったことを、反省したそうです。
 池田 そういう自営業じゃない人は、親の苦労が、なかなか見えないかもしれないね。
 ―― そうなんです。ふだんはお金のことを考えたことがなくて、私立高校に行きたいと親に相談して、「申しわけないが無理だ」と言われ、初めて自分のうちの経済状態がわかったという場合もあります。
9  欲望人間は「孔のあいたかめ
 池田 本当は、苦労したほうがいいのです。お金や物に不自由しないでいると、さっき言った「心で見る」力が衰えていくから。何でも「目に見えるもの」でしか判断できない人間になっていく。こわいことです。みんなには、そうなってほしくないのです。
 西洋でいちばん有名な哲学者は、ソクラテスという人です。この人は、欲しいものを我慢できない人について、「孔のあいた甕」(プラトン『ゴルギアス』加来彰俊訳、岩波文庫)に譬えた話を紹介している。
 ―― あの、飲み物とかを入れる「甕」ですか?
 池田 そう。たとえばミルクを、上から、どんどん甕に入れる。入れても入れても、孔(穴)から漏れていく。だから、いつでも注いでいないと、ミルクが足りなくなって、いらいらする。
 「孔」つまり「欲望」は、だんだん大きくなっていく。永久に満足できない。この人は、欲望に振りまわされているから″欲望の奴隷″状態になってしまうと、ソクラテスは指摘したのです。
 そういう人間になっては困るから、「子どもが何か欲しがっても、あえて買わない」という親御さんも多いと思う。
 買ってあげるほうが簡単だけれども、あえて我慢して「買わない」のが愛情の表現だという場合もある。そういうことも知ってください。
10  お金では「友情」も「幸福」も買えない
 「金持ち=人生の成功者」ではない
 池田 「金は、よい召使だが、場合によっては、悪い主人でもある」(フランシス・ベーコン)という言葉も有名です。
 ―― つまり、「お金を使う」のはいいが、「お金に使われてはいけない」ということですね。
 池田 そのお金で「何をするか」です。携帯電話も、それで、どんな価値あることをするかです。
 物やお金は、「自分しだい」で、「心しだい」で、善にも悪にもなる。不幸の原因にもなるし、幸福をつくる材料にもなる。
 お金だけでは、幸福は買えません。だから「お金持ち」=「人生の成功者」ではありません。絶対に、そうではない。今は、そう思っている人が多いようだが。
 お金があっても、本当にわびしく、苦しく暮らしている人は無数にいます。「心の大富豪」こそ幸せなんです。
 携帯電話から、話が広がってしまったが、大事なことだから……。
 最後に、チャップリンの言葉を伝えて終わります。
 彼は子どものころ、貧乏のどん底で苦労したから、「お金の大切さ」も、「お金のこわさ」も、骨身に徹して知っていた。だから、こう言ったのです。
 「人生に必要な物は、勇気と想像力と、少々のお金だ」(朝日ビデオ文庫『ライムライト』朝日新聞社発行、ヘラルド・エンタープライズ株式会社製作、日本語字幕・清水俊二)
11  「何もない」から本当の友情が
 池田 みんなは若いのだから、お金がなくて当たり前です。
 だから、仲間はずれになるとか言わないで、″お金がなかろうが、何がなかろうが関係ない友情″をつくってください。
 お金で買える友情は、それだけの軽いものです。むしろ、「何もない」からこそ、あの賢者の二人のように「深い心」が輝いていくのです。「お金がない」人ほど、すばらしい人生を切り開く「勇気と想像力」が伸びていくのです。

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