Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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本が苦手  

「希望対話」(池田大作全集第65巻)

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2  平均、月に一・七冊
 ―― はい。中学生の平均読書量は、月に一・七冊とも言われています。(「毎日新聞」の一九九九年六月の調査)
 活字離れが進んでいるので、中等部でも、どんどん本を読むよう呼びかけてはいるのですが……。つい、マンガやテレビやコンピューターのほうにいってしまうのです。
 池田 じつは私の小さいころは、子どもは今のように「本を読みなさい」と言われなかったんだ。
 ―― そうなんですか?
 池田 人によったら「本なんか読んでないで、家の手伝いをしなさい!」とか、「本を読みすぎると、なまいきになるから、あんまり読むな」とか言われたものです。小説とか、「教科書以外の本」を読んでいたら、取り上げられた人もいる。
 ―― 信じられないくらい、今と違いますね。
 池田 子ども向けの本なんか、ほとんどない。図書館だって、ろくにない。
3  「読む楽しさ」は生涯の宝
 本は「ごちそう」
 池田 だから、そんな時代に育った私たちの世代から見たら、「本がつまらない」と言う人は、まるで「食べ放題のごちそうを目の前にして、『食べたくない』と、そっぽを向いている人」のように見えるのです。
 ―― 本当に、もったいないですね。
 池田 そう。「もったいない」としか言いようがない。「本を読む楽しさ」を知らないということは、人生の巨大な損失です。こんな不幸なことはない。いっぱいの宝物に囲まれながら、その価値を知らないために、貧しい暮らしをしている人のようだ。
4  本はタイムマシン、万能飛行機
 池田 「本を読む楽しさ」を習ったら、それは「タイムマシン」か「万能飛行機」を手に入れたようなものです。
 本は、どんな時代の、どんな国へだって、連れていってくれる。五千年前のピラミッドの王国にだって、ルネサンスのイタリアにだって、信長や秀吉がいた戦国時代にだって行ける。時を超え、空を超え、どこへでも行ける。いや、「その時代に、そこにいた人だって知らなかった」ようなことまでわかる。
 ―― 考えてみたら、本当にすごいことですね。
 池田 しかも、本は逃げない。いつでも、どこでも、開きさえしたら、たちどころに飛んでいける。電車の中でも、バス停でも、学校の休み時間でも、トイレの中でも。(笑い)
 ―― 魔法みたいですね!
5  人類最大の発明
 池田 そうなんだ。自分の経験だけだと「一人分の人生」だが、本を読むことで、無数の人の経験や知識や、ドラマを学ぶことができる。一生の「心の友だち」もできる。もう死んでしまった大偉人や大文豪と「会話」もできる。
 「本の発明」は、人類の歴史の中で、最大の発明の一つです。この発明品の「使い方」「楽しみ方」を覚えたら、もう人生は、最大の武器を手に入れたようなものだ。
 本は知識をくれる。本は感動をくれる。本は勇気をくれる。本は思いやりをくれる。本を読む習慣さえ身につけておけば、その人の道に「希望」が消えることはないのです。一冊の本が、人の命を救うこともあるんだよ。
 ―― 人の命を?
6  テレビとマンガだけでは想像力が衰える
 本に励まされて
 池田 クラスでいじめにあって、来る日も来る日も死ぬことを考えていた中学三年の女の子がいた。ふと、自分の本棚に埋もれていた一冊の絵本を手にとった。それは、幼稚園のころに読んだ『はなをくんくん』という絵本でした。
 森で冬眠していたクマ、リス、ネズミ、そしてカタツムリまで……森中の生きものたちが、何かのにおいに誘われて、次々に目が覚めた。はなをくんくんさせながら、みんな、雪の中を一斉に走っていく。何が、みんなを、こんなに走らせているんだろう? そのわけは、最後のページでわかる。
 雪の中に咲いた「黄色い一輪の花」を見つけて、動物たちが笑い、踊りだしているんだ。みんなで「春の訪れ」を喜んでいる絵だったのです。
 彼女は、動物たちが笑顔で、自分に、こう語りかけているように思った。今は、どんなに心が寒くても、いつかきっと花が咲くんだよ! だから、死んじゃいけない。君は、これから「心の春」を迎えるんだから――と。(NHK―BS「週間ブックレビュー」編『本という奇跡』メディアパル、参照)
 本に救われたのです。本って、すごいね!
 ―― すごい力があるんですね。でも、どうして、テレビとかマンガではダメなのでしょうか?
 池田 私は、ダメなんて言ってないよ(笑い)。テレビでもマンガでも、たくさんのすばらしい作品があります。
 ―― 池田先生は、これまでも、アニメの王様のディズニーや手塚治虫さん、マンガの『あしたのジョー』について、スピーチされたことがありました。
 池田 そうだったね。「一流のマンガ」もあれば、「三流の本」もある。料理でも「一流の大衆食堂」もあれば、「三流の高級レストラン」もある。どんな分野でも、そうでしょう。
 ―― それでは、どうして「読書」ばかりが強調されるのでしょうか。テレビやマンガと、どこが違うのでしょうか?
 池田 いろいろな見方があると思うが、わかりやすく言えば、テレビやマンガだけでは「想像力」が育たないのです。
 ―― 「想像力」ですか?
 池田 そう。英語でいうと「イマジネーション」。「目に見えないものを思い浮かべる力」のことです。
 テレビやマンガは、はじめから映像や絵がある。だから、みんなが自分で努力しなくても、そのままイメージができる。だけど、本は活字だけ。もう見てるだけで眠くなったり、息苦しくなっちゃうという人もいる。(笑い)
7  読書もスポーツも何でも「練習」!!
 活字が動きだす
 池田 でも、少し慣れてくれば、活字の一つ一つが、生きもののように、姿を変える。黒いだけの文字が、緑の樹々になり、赤や黄の花壇になり、純白の雪の結晶になり、青い海にもなる。音だって聞こえてくる。
 生まれたばかりの赤ちゃんの感動的な産声も、悪と戦う勇者の叫び声も、ベートーヴェンの名曲の調べも。
 それが本です。「想像力」の力です。「活字を読む」ことによって、「想像力」が、どんどん鍛えられていくのです。
 ―― たしかに読んでいるうちに、主人公の顔とか、声の感じとか、頭の中にできてきますね。
 私の愛読書だった『若草物語』が、ある時、テレビ・アニメになりました。楽しみにしていたのですが、私の好きだった次女のジョーが、顔も声も、本のイメージと全然違うのです。「これはジョーじゃない!」って、がっかりしたことがありました。(笑い)
 池田 本の場合、百人が読めば、百とおりのジョーができる。自分の心にぴったりだから、一生、自分の「心の友だち」として、しまっておける。
 それに、想像力の豊かな人は、同じ絵を見ても、感動の大きさが違う。マンガやテレビ、コンピューターだって、より豊かに使いこなせると思う。
 「どれほど有益な書籍でも半分は読者自身によって作られる」という言葉がある。(フランスの哲学者ヴォルテールの言葉。『哲学事典』高橋安光訳、法政大学出版局)
 どんなよい本でも、読者が「想像力」を働かさないと、全然、おもしろくない。
 読書も、一種の「技術」だから、「練習」がいるのです。楽譜だって、楽譜を読めない人にとっては、ただの無意味な記号です。しかし、音楽家の人たちは、楽譜を見ただけで、頭の中で、オーケストラだって鳴り始める。
 ―― 訓練の結果ですね。
 池田 本も、読み慣れるまでは、そのおもしろさがわからない。スポーツだって、芸術だって、練習しないと、そのおもしろさはわからない。
 だから、まず、自分が気の向く本から始めて、何か「一冊、読み通した」本をつくることがいいんじゃないだろうか。
8  ちょっと我慢すると、おもしろくなる
 池田 もちろん、本には「決まった読み方」はないから、拾い読みでも、何でもかまわないんだが、覚えておいてもらいたいのは、「ちょっと我慢して読んでいくと、おもしろくなる」場合が多いということです。
 とくに西洋の古い小説は、最初が退屈な場合が多い。えんえんと風景描写とかね(笑い)。そこは、ざっと飛ばし読みしておいて、あとから、ゆっくり読んだっていいのです。
 そうやって、がんばって読んでいって、それでも、いつまでたっても心に響いてくるものがなければ、別の本に移ってもいいと思う。
 ただ、「ちょっとだけがんばって読んでいく」くせをつけていけば、だんだん想像力や理解力が鍛えられて、読むのが楽しくなってくるはずです。
9  人間らしく生きるために想像力が大切
 池田 人間が人間らしく生きるために、何が大切か。私は、「想像力が絶対に大切だ」と思う。
 マンガだって、テレビだって、もとは人間の「想像力」から生まれたのです。だから、一流の本を読まないと、一流のマンガだって、テレビだって、映画だって生まれてこない。コンピューターだって、「こんなものがほしい!」と思った人の頭と心の中から生まれたのです。
 想像力こそが、人間を進歩させてきた。想像力は、創造力です。あのアインシュタイン博士も、「想像力は、知識よりも大切だ」(ジェリー・メイヤー、ジョン・P・ホームズ編『アインシュタインの150の言葉』ディスカヴァー・トゥエンティワン)と言っています。
 ヨーロッパのある学者が言っていた。「テレビだけだと、『与えられたものを受け入れるだけ』の人間、『深く考えない』人間をつくってしまう」と。
10  強制収容所を生きのびた力
 池田 いろいろな困難にぶつかったとき、どう乗り越えていくか。それも「想像力」です。
 ナチスの「ユダヤ人強制収容所」を知っていますか。六百万人もが犠牲になったとされる、あの地獄の中で、何とか生きのびた人たちがいた。いったい、どんな人だったか。
 それは、必ずしも″体が強い人″ではなかった。むしろ、どんな苦しい状況になっても、想像力を失わなかった人だったといわれている・(ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』池田香代子訳、みすず書房、参照)
 ―― ……苦しくても、「想像力」があったから希望をもち続けられたのですね。「いつか、きっと自由になれる!」と。
 池田 そのとおりだ。「希望」は、日の前の現実に負けない「想像力」から生まれる。
 また、想像力の豊かな人は、人の心の痛みがわかるようになる。こんなことをしたら、相手はイヤだろうな。苦しむだろうな――そう想像をめぐらせる「心の力」がある。
 反対に、みんなが「活字離れ」になった社会は、「思いやりのない社会」になると私は思う。それを今、心配しているのです。
 ―― なかには「本を読もうとは思うのですが、自分に合った本を見つけるには、どうしたらいいんでしょうか」という人もいますが……。
 池田 そんなことを考えているひまに、一ページでも読むことだ。(笑い)
 別に、机に向かって読むだけが「読書」じやない。ちょっとした時間に読んだものが、案外、心に残っているものです。
 だから、まず「いつも本をもち歩く」ことでしょう。ポケットやカバンに入れるとか、肌身離さない。読まなくてもいいから、とにかくもっている。(笑い)
 私も青春時代、本を手放さなかった。夏の暑い時など、涼しい墓場に行って読んだものです(笑い)。
 当時は、クーラーはないから。蚊が多くて、困ったけどね。(笑い)
 ―― 大学受験のセンター試験で、最近十一年間で上位に入った人たちに、「小・中・高で何に熱中したか」を調査したそうです。すると、多くが「読書」という答えでした。長い日で見ると、受験にも、読書は大きな武器になるのですね。
 今、「朝の十分間読書」運動が、全国の三千五百の小・中・高の学校で取り入れられています。一日の授業が始まる前の十分間に、全校生徒と教師がいっしょに読書をするんです。「みんなでやる 毎日やる 好きな本でよい ただ読むだけ」が、モットーだそうです。
 池田 とてもいいことだね! 夏休みには、「わが家の朝の十分間読書」をやってもいいかもしれないね。お母さんもいっしょに。(笑い)
 ともかく、みなさんは若い。頭と心の柔らかな今こそ、思うぞんぶんに、本を読んでもらいたい。
 本の世界は「第二の宇宙」です。その広大な世界を、自由自在に旅行できる人になってください!

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