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日蓮大聖人・池田大作

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「進路」が見えない  

「希望対話」(池田大作全集第65巻)

前後
1  池田 さあ、今回は「進路」についてだったね。
 ―― 中学三年生の女子生徒から、こんな相談がきています。
 「自分でやりたいことが何なのか、わからないんです。自分の将来のこともそうです。『人の役に立ちたい』とは思っているんですけど、具体的に何をしたらいいのでしょうか。
 三年生になって、そろそろ志望校も決めないといけないのですが、どんな高校が自分に合っているのかもわかりません。どうやったら自分の進路がわかるのでしょうか」
 池田 「人の役に立ちたい」なんて、すごいじゃないですか。偉い。その気持ちが尊い。その気持ちを忘れなければ、必ず「道」は開けます。具体的に、将来、何をすべきか――それは今、わからなくてもいいのです。わからなくて当然かもしれない。
 人間は本来、だれでも、「思いっきり活躍できる舞台」を求めている。自分がもっている力を、すっからかんになるまで出しきって生きたい――という本能をもっている。
 私は、青春時代、石川啄木の本を、よく読んだ。こんな歌があった。
 「こころよく/我にはたらく仕事あれ/それを仕遂げて死なむと思ふ」(『一握の砂』)
 自分は、これをやるために生まれてきたんだ! そういう仕事さえ見つかれば、命をかけてやるんだが……みんな、そう思うでしょう。
 しかし、見つからない。わからない。あなただけじゃないのです。そう悩み、もやもやしながら、「使命」がわからないまま、一生を終わってしまう人だって多い。厳しいけれど、それが現実です。
2  「目の前の山」を登れ!!
 ″逃げない″強さで夢は実現
 ―― すると……どうすれば「使命」がわかるのでしょうか。
 池田 私は「目の前の山を登れ!」「目の前の川を渡れ!」と言っておきたい。将来、どんな使命の山を登るにせよ、「目の前の山」を越えなければ、そこには行けない。避けたり、逃げていては、どんどん違う道に行ってしまう。
 苦しくても、いやでも、笑われても、「目の前の山」から逃げずに、登っていけば、だんだん大きく視界が開けてくる。遠くまで、見えてくる。自分がやるべき道が、はっきりしてくる。
 ―― 「目の前の山」というと、多くの人にとって、やっぱり「受験」がそうなのですが。
3  受験はチャンス
 池田 だから、受験も貴重な「チャンス」なんです。目標に向かって、これほど集中して勉強できる「時」は、人生のなかでも、あまりない。
 学校も、家族も、積極的に応援してくれるわけだし、それも上手に使って、思いっきり勉強に挑戦してみたらいい。
 自分が「どこまでできるか」――やってもみないで決めつけてはいけない。それは自分という「宝の生命」への″冒とく″です。
 「高校受験さえなければ、中学生活もバラ色なのに」と思ってる人もいるかもしれない(笑い)。しかし、受験がなくても、昔のように「いやでも親の仕事を継がなくてはいけない」という不自由な社会だったら、はたして楽かどうか。
 ―― それも、いやですね!
 池田 本当は、「楽な時代」「楽な社会」なんか、どこにもないのです。
 もちろん、今の社会には、いっぱい悪いところはある。しかし、今の日本は、じつは「やる気になれば、何でもできる」時代とも言える。
 国によっては、勉強する学校もない、先生もいない、食べるために働かなくてはいけない子どもたちも、たくさんいます。他の国の人の目で、みなさんを見れば、どんなにうらやましく見えることか!
 そういうことも、わからなくちゃいけない。
4  「学歴社会」から「実力社会」ヘ
 ―― やはり、高校や大学へは行ったほうがいいのでしょうか。
 池田 私としては、みなさんが高校はもちろん、大学をめざすことに大賛成です。
 とくに高校には、ぜひとも行ってもらいたい。そのほうが、実力をつけやすい環境になるし、幅広く人生を選んでいく機会ができる。より多くの人のために働くうえでも、役に立つ。夜間でもいい。私も、高校、大学とも夜学だった。働きながら学んだのです。
 もちろん、自分の道を行くことも自由です。日本社会は、〈学歴社会から実力社会へ〉と大きく変わってきています。君たちの時代は、ますます、そうなるでしょう。
 だから「実力」をつけることです。「実力」とは、知性も、健康も、創造力も、思いやりも、心の強さ、明るさも、あらゆる点が含まれます。
 ―― 努力していけば「進路」は見えてくるのでしょうか。
 池田 何か、いい例はあるかな……二人は「日本一の車イスのランナー」を知ってる? 畑中和さんという女性です。「パラリンピック」(身体障がい者のオリンピック)のマラソン選手です。
 ―― テレビでやっていましたね。私は見ていませんが、友だちから聞きました。(=畑中さんは、一九九六年のアトランタ・パラリンビックのマラノンと一万メートルで「銀」、五千メートルで「銅」と三つのメダルを獲得。『車椅子の挑戦者たち』〔高橋幸春、東林出版社。以下同書より引用・参照〕でも紹介され、九八年、テレビドラマにもなった。さらに、二〇〇〇年のシドニー大会のマラソンでも銀メダルを手にした。その後、引退をしていたが、二〇〇四年のアテネ・パラリンピックで復活。マラノンで念願の金メダルを獲得した)
5  「一生、歩けない」
 池田 畑中さんは、子どものころ(小学五年生)、交通事故で脊髄を傷めてしまった。両足とも動かない……。それでも、いつかは歩けると信じていた。
 ある時、彼女は、思いきって医師に「私はいつになったら、歩けるようになるんですか」と聞いた。医師は言いました。「君はもう歩けないんだ」と。
 それが中学一年生のときです。二、三日間、ショックで泣き続けたという。
 ―― つらかつたでしょうね。
 池田 「夢とか希望、そんなものは思い浮かばなかった」という畑中さんです。本当に、つらかったと思う。
 彼女は、高校卒業後のある日、体育館で、バスケットボールをする車イスの人たちを見つけた。「(車イスでも)こんなことができるんだ!」。感動した彼女は、すぐにバスケットを始めた。その後、マラソンに挑戦したんです。
 ―― すごいですね。たしか、マラソンの最初の試合は″だんとつのビリ″でしたね。
6  「ビリ」からの出発
 池田 そう。「それで、あきらめた」んじゃなくて、彼女は、かえって「それだから燃えた」。「ビリ」から出発した人は強いよ。見栄を張る必要もないし。気どったり、格好をつけると、力は出ない。
 「勉強」だって、「できない」自分から逃げちゃいけない。勉強をやり始めると、とたんに「できない」「わからない」自分と向き合わないといけなくなる。それがいやで逃げる。逃げるから、ますます、わからなくなる。いつまでたっても、人生を逃げ続けなくちゃならなくなる。それがいけないと言うのです。
 成績や結果は、ある意味で、たいしたことじゃない。大事なのは「目の前の山」から「逃げないクセ」をつけることだ。
 畑中さんは、車イスで毎日、周囲二キロメートルの池のまわりを走った。腕立てふせもした。三キログラムの鉄アレイで筋肉を鍛えた。(専用の)ルームランナーを部屋に入れて、走る練習もした。大粒の汗をかき、髪をふり乱して、練習に打ちこむ姿は、″見ているほうがつらくなるほど″だったという。それで、めきめきと力をつけて、翌年、なんと「日本最高記録」で、優勝したのです。
 ―― すごい! 最高の気分だったでしょうね。
 池田 でも彼女は、そこで満足しなかった。「日本一」という「山」を登ったら、もっと「高い山」が見えてきたのです。それは「世界一」という「山」だった。
 目の前の「山」を必死に登ったから見えたのです。死にもの狂いで、岩に爪を立てる思いで、よじ登った。登ってみれば、その上から、次の平原が見えてきた。自分の「進む道」も見えてきた。「使命」も見えてきた。
 「使命」とは、「命を使う」と書く。「命」と「引きかえ」にしても惜しくないもの。それが「使命」とも言える。そんな大事なものが、ちょっとやったからといって、簡単にわかるわけがない。
 畑中さんは言う。「事故で足の自由は失いましたが、私は失っただけではなくて、何かを手に入れたような気がします」と。
 ―― なんだか、勇気がわいてきます。
 池田 大勢の人に「勇気」を贈っているのだから偉大だ。偉ぶっている有名人よりも、お金持ちよりも、スターよりも、権力者よりも、ずっと立派だ。
 自分ががんばったら、それは自分だけのことじゃない。今、成績が「ビリ」なら、「あいつは、ビリから、ここまで登ったのか!」と驚かれ、感動される自分になればいいのです。そうすれば、たくさんの後輩にも勇気を贈れる。
 ―― 「やる気」はあっても、質問の彼女のように「何から手をつけていいか、わからない」という人も多いのですが……。
7  まず「一歩」前進する勇気を!
 池田 まず、「できるところ」「手をつけやすいところ」から始めるのがいいんじゃないだろうか。
 「最初の一歩」が、勇気がいるのです。「ゼロから一までの距離」は、「一から百までの距離」よりも大きいと言ってもいい。「千里の道も一歩から」です。大切なのは「一歩」を踏み出すことです。
 ―― たしかに、勉強の場合も、帰宅して最初に机に向かうときって、本当に勇気がいります。だから、簡単な「漢字の書き取り」から始めたり、自分の好きな科目から始めたりと工夫することも大事です。
 また、受験勉強の相談を受けると、その人の「一週間」の家でのスケジュールをいっしょにつくってあげるようにしています。英語と数学は短時間でも毎日やったほうがいいとか、苦手科目の時間を多めにしたり。
 そうやってスケジュールを埋めていくと、「うわっ、これじゃあテレビを見ている時間はないですね」とか、自分で気がつくのです。
 池田 ともかく、「もう手遅れだ」なんてことはない。「今」始めることだ。
 勉強でも何でも、本当に「わかりたい」と心の底から思ったら、必ずわかるようになる。
 ―― 決意しても「三日坊主」になってしまうという人もいますが。
 池田 三日坊主でも、かまわない。三日」坊主も、「十回」やれば、「1ヶ月」やったことになる(笑い)。一日でも二日でも、やった分だけ、自分が得をする。
 自分が「実力」をつけているかどうかです。人と比べて一喜一憂しても、しようがない。
8  人の三倍やれば必ずできる!
 池田 本当の「自信」とは、「あいつよりは自分が上だ」というようなものではない。それは「もっと上」が出てきたら崩れてしまう自信です。そうではなく、「自分は、やるだけのことはやったんだ。『これ以上、やれと言われたって、できない』ところまで、やったんだ」という積み重ねから、真の自信は生まれるのです。
 ある大学の総長が、こんな言葉を残している。「他人が一回でできることは、自分は三回やれば必ずできる。他人が三回でできることは、自分は十回やればできないことはない」と。これが「自信」ということです。
 ―― 「目の前の山」は、受験とはかぎりませんが、ともかく何かの挑戦を始めてこそ、道が開けるということですね。
 池田 具体的には、先生とか、先輩に、よく相談してもらいたい。みんな、夢がいっぱいある未来が待っているのだから!
 ―― 夢をもって、すばらしいですね。
 池田 戸田先生が、おっしゃっていたよ。「青年は夢が大きすぎるくらいでいいんだ」と。
 みんなにも夢をもってほしい。自分らしい「夢」を。
 国だって、その国に、どんな立派な機械があるか、どんな高いビルがあるかよりも、その国に、どんな詩があり、どんな歌があり、どんな絵があるかのほうが、その国の「品格」を決める。国の「幸福」を左右する。
 人間だって、その人が、どんな成績なのか、お金持ちなのか、背が高いのかということよりも、心にどんな夢をもっているのか、どんな希望に向かっているのか、そのほうが、よっぼど大切なんです。
9  夢は努力で育つ
 池田 そして、夢を育てるものは、努力です。努力すればするほど、夢は大きくなっていく。
 「夢」という生きものは、「努力」という食べ物を食べて大きくなるのです。
 「夢」という宮殿は、「努力」という地道な石を重ねて、できあがっていくのです。

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