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日蓮大聖人・池田大作

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「ダメな人」なんていない  

「希望対話」(池田大作全集第65巻)

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1  中学時代は「第二の誕生」の時
 池田 さあ、始めましょう! 「希望対話」ですね。
 ―― どうか、よろしくお願いします!
 池田 中学生の「三年間」は、人生で、特別に大切な時代です。一生の「土台」をつくる時だからです。
 ところで、蝶が「さなぎ」の殻をパカッと割って出てくるのを見たことがありますか?
 ―― 写真ではあります。
 池田 蝶は、幼虫のときの自分とは、「まったく違った自分」になっている。冷たい空気に身をさらしながら、しおれた羽を、だんだん広げていく。
 やがて、美しい大きな羽が完成します。羽は色とりどりです。そして二度、三度、羽を動かすと、あっという間に大空へ羽ばたいていく。これは、いわば「第二の自分」の誕生です。
 人間にも「第二の誕生」がある。お母さんから生まれたときを「第一の誕生」としたら、自分が自分の羽で飛び始めるときがある。それが多くの人の場合、十三歳、十四歳の中学生時代かもしれない。
 「成長」のときだからこそ、いっぱい「悩み」があるのです。走れば「風」が起こる。山に登れば息がきれる。それと同じで、成長しているから「悩み」がある。
 「希望」と「悩み」との戦いが青春時代です。自分の心の中で、どっちが勝つか、その競争です。私は、中学生のみなさん全員が、晴ればれと「勝利」してもらいたい。
 「すばらしい日々だった!」と満足できる青春であつてもらいたい。
 そのためなら、何だってしてあげたい。「希望」を贈りたいし、「勇気」を贈りたい。全力で応援します。聞きたいことがあれば、何でもいい、自由に聞いてください。
 もしかしたら、話の内容に、少しむずかしいところもあるかもしれない。しかし、中学生といえば、もう「一人の大人」です。そのつもりで話します。
 私は、一人の「人生の先輩」として、中学生のみなさんに、本当のことを語り残しておきたいのです。もし、読んでわからないところがあったら、そこは飛ばして読んでください。今わからなくてもいい。わかるところだけ読めばいい。
 それでは、さっそく始めましょう。
 ―― この春、中学一年生になった男子生徒からの相談の手紙です。彼は、東京在住で、一人っ子です。地元の公立中学に進学しました。
 「ぼくは小学校のときから、勉強が、苦手でした。中学になると勉強のスピードが上がり、内容も、むずかしくなった気がします。最初は、がんばらなきゃいけないと思っていましたが、なかなか、ついていけません。
 だけど、クラスの人たちは授業内容をわかっているようで、かなり、あせってしまいます。
 どんどん、みんなに『おいてけぼり』をくっているようで不安です。やっぱり、ぼくは頭が悪いんだと思います。どうすればいいでしょうか」
 池田 悩みを話してくれて、ありがとう!
 たしかに、小学校と中学校では、全然、違う。ある意味で「別世界」かもしれないね。小学校では、担任の先生がたいていの教科を教えてくれた。中学になると、教科ごとに先生が違う。だから、気が合う先生もいれば、おっかないなと思う先生もいるでしよう。
 ―― 彼の言うように実際、授業のスピードも速くなります。新しく「英語」も始まり、算数は「数学」という、いかめしい名前に変わります。中間試験とか期末試験という言葉にも、とまどいます。
 なかには、「中学の先生は声が大きくて、すぐ、どなるんです」と、びっくりしていた新入生もいました。
 池田 学校の先生も、新入生に対しては、いちだんと気合が入るのかもしれないね。(笑い)
2  たくさんの疑問をもつ人が頭のいい人
 新入生はだれもが不安
 池田 そういう新しい環境では、だれもが「不安」になる。不安になるのが当然なんです。
 自分より、よくできる友だちを見ると、自分がダメに思えてしかたがない。打ちのめされたみたいな気持ちになる。だけれども、それは君だけじゃないのです。みんな同じように悩んでいる。それが現実です。
 一見、自信満々のように見える友人だって、何かで悩んでいるものです。
 悩むのが人間です。みんな同じ人間なんです。同じ中学一年生です。不安があって当たり前なんです。
 不安があることが、いけないのじゃない。不安に負けてしまうことがいけないのです。
 ―― 私は、どちらかというとマイペースでした。
 ただ私の通ったのが「荒れている中学」で、とくに「先輩と後輩の上下関係がうるさい」と聞いていました。
 それに「中学に入ると勉強が大変だよ」とか言われると、プレッシヤーを感じました。
 池田 そんななかで、勉強がどんどんむずかしくなったのでは、ますます苦しいだろうね。
 ―― なにか、もう初めから、「あきらめムード」の人もいるようです。
 手紙の彼もそうですが、中学生のみんなと話していると、「自分は頭が悪いから」と、すぐに言う人がいます。
 「何で、そんなこと言うの」と聞くと、「だって、小学校のときから悪かったから」って。みんな、まわりの人から、いろいろ言われて苦しんできたのかなと思うと、私も、つらくなります。
 池田 みんなが言う「頭のいい人」って、何だろう。
 昔、こんなことを聞いた。「頭のいい人というのは、いっぱい『疑問』をもっている人だ」と。
 ―― 「いろいろなことを知っている人」じゃなくてですか。
 池田 「これもわからない」「あれもわからない」「あれは、どうして、ああなったのだろう?」「なぜ、こうなったのだろう?」……。
 そんなふうに、自分で「これが、わからない」と、疑問をもち、「不思議だな」と思う人。この人が「頭がいい」という見方です。
 ―― そうしますと、「成績がいい」からといって、必ずしも「頭がいい」とは言えないということですね。
 池田 もちろん、成績はよいほうがいいに決まっている。だけれども、「今まで成績が悪かった」から、自分は「頭が悪い」なんて絶対に思ってはいけないということです。それは、自分に対する「冒とく」です。
 君たちは、だれでも、いっぱいの可能性をしまってある「宝の箱」なのだから。
3  君自身が希望 だれもが何かの天才
 「うのみにする人」になってはダメ
 池田 頭がいい、悪いと言っても、頭のよさには「記憶力」もあれば、「思考力」もある。アイデアを生みだす「発想力」や「独創力」もある。「直観力」もある。「理解力」もあれば「表現力」もある。それぞれ、違っている。
 それは、たとえて言えば、「走る速さ」と「ボールを遠くに投げる力」が全然、別のものだということと同じです。
 ―― 学校のテストでわかるのは、おもに記憶力ですね。
 池田 じつは、「記憶力がいい人」「知識がいっぱいある人」だけを「頭がいい人」と見るところに、今の社会の大きな「ゆがみ」があるのです。
 それは「本に書いてあること」や「人の言っていること」を″うのみにする人″を、たくさんつくってしまうからです。
 ―― たしかに、日本では、自分で「事実」をたしかめようともせず、うわさ話なんかに乗せられてしまう人が多いですね。
 池田 そういう人を「頭がいい」とは言わないでしよう。
 そもそも、人間の脳には、「生まれつきの違いはない」と言われています。もちろん、「向き不向き」はあるでしょう。また才能にも個性がある。
 学校の勉強だけではありません。脳の中には、絵をかく才能もあれば、人を笑わせる才能も入っている。人と仲良しになる才能、整理整頓の才能、人を思いやる才能、手紙を書く才能、スポーツや音楽の才能も当然、入っています。
 ―― みんな個性が、違っています。
 池田 みんなが、違っていて、みんなが何かの「天才」なんです。それを「使命」という。
 だれもが自分だけの、自分にしかできない使命をもっている。使命があるから生まれてきたのです。そうじゃなかったら生まれてこない。
 星を見てごらん。いっぱいある。無数の星がある宇宙の中で、「この地球」に、「この今」という時を選んで、君が、あなたが、生まれてきた。
 それは絶対に「偶然」なんかじゃない。何か「意味」があるから生まれてきた。生まれてくることが「いいこと」だったから生まれてきたのです。
 自分にしかできない「使命」があるのです。必ず、何かの「天才」なんです。今、それが何なのか、わからないだけです。
 だから、絶対に自分をダメだとか、頭が悪いなんて思っちゃいけない。
4  頭がよくても犯罪者では……
 池田 そもそも、いわゆる「頭がよくて」犯罪者になる人もいる。それよりも、「人を励ます天才」になったり、「人を元気にする天才」になったほうが、どれだけすばらしいか。どれだけ本当の意味で「賢く」「頭がいい」か、わからない。
 まわりの大人も、「この子は、自分よりも、ずっとずっと世界に大きな貢献をする人にちがいない。
 自分たちを大きく乗り越えていく人なんだ」と信じて、尊敬して、接してもらいたい。だれもが、二十一世紀の「希望」です。かけがえのない「未来の宝」です。
 ―― 本当に、まわりの人の目って大切だと思います。「この子は、できない子だ」なんて、絶対に決めつけてはいけませんね。私たち未来部の担当者も心していかないと……。
 アメリカで、こんな実験をしたそうです。小学生に知能テストを行い、その中から「将来、伸びる可能性のある児童」という名目で選んだリストを担任の先生に渡しました。じつは、テストの結果とはまったく関係なく、適当に選ばれた子たちでした。
 数力月後、同じテストを実施したところ、リストに上がった子は、明らかに他の子に比べて成績が上がっていたというのです。教師が″この子は伸びるんだ″という期待感をもって接すると、子どもたちもまた、その期待の方向に変わっていくそうです。
 (アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによる実験。「ビグマリオン効果」と呼ばれる)
5  ″やればできる″の自信で伸びる
 頭がよい悪いは「線一本」の差
 池田 「自信」が″脳力″を伸ばすのです。
 「頭がいいのと悪いのと、どのくらいの差があるか」――私の恩師である戸田城聖先生(創価学会第二代会長)は、筆をとって、半紙に、サッと一本の線を引いて言われた。「この線の『上』と『下』くらいの差しかないんだよ」と。
 この「線一本」の差とは何か。それは、いろいろに言えるだろうが、「さあ、やってみよう!」という挑戦の心とも言える。「さあ、勉強しよう!」という学びの心です。それさえあれば、だれが何と言おうと、「自分は頭がいい」と思っていいのです。
 ―― それでも、どうしても、そう思えない人も、いるのではないかと思うのですが……。
 池田 じつは、みんな忘れているけど、これまで、もうすでに「不可能」を「可能」にしてきたんだよ。
 自分で気がつかなければ、お父さん、お母さんに聞いてごらん。生まれたとき、何もできなかった君が、今、どれほどのことができるようになったことか! 君が初めて笑ったときのこと。君が初めて立てたときのこと。君が初めて言葉をしゃべったときのこと。初めて勉強机に向かって座ったときのこと。初めて教科書を大きな声で読んだときのこと。
 今、君は、こうして手紙まで書いてくれたじゃないですか。自分の悩みを立派に人に伝えることもできたじゃないですか。それはじつは、「ものすごいこと」なんです。自分の脳を「開発」してきた結果なんです。
6  人間の脳(大脳皮質)の細胞は、じつに百四十億個もあると言われています。その細胞の一つ一つが「神経線維」というコードで結びつけられて、脳のなかに複雑な「連絡網」がつくられている。でも、この脳の「連絡網」は最初から、つながっているわけではありません。自分の力で「つなげる」のです。
 たとえば、生まれたばかりの赤ちゃんにガラガラを見せると、最初はじっと見ている。少しすると、ガラガラを見て、笑うようになる。次には手を出すようになり、そして自分でつかみ、とうとう振って遊べるようになり、やがて、飽きちゃって、見向きもしないようになる。(笑い)
 ―― 新しいことができるようになることは、「脳が成長している」ということですね。
 池田 そうです。赤ちゃんがどんどん変わっていくのは、脳の中で、新しい「神経」のコードが伸びて、プラグをコンセントに差しこむように、細胞と細胞が、次々に、つながっていくからなんです。
 みなさんも同じです。新しいことに一生懸命に取り組んで、「できた!」と思ったときです。勉強していて、「わかった!」というときです。そのときが、「脳のコンセント」がつながった瞬間なんです。それを繰り返すことによって、回路が大くなります。頭を使えば使うほど、しっかりした脳の「連絡網」ができるのです。そうなれば、反応は速い。応用もきく。
 ―― 複雑な情報も、間違いなく伝わります。
7  ″ダメだ″と思うと脳にブレーキがかかる
 一番の敵は?
 池田 では、脳にとっての一番の敵は、何だろう?
 それは、「ダメだ!」と、あきらめてしまうことです。「ダメだ」と思うと、脳に「ブレーキ」が、かかるのです。
 あきらめてしまうと、脳自身が、せっかくコードを伸ばそうとしているのに、「ダメだ」という信号に「邪魔」されて、肝心のコンセントに接続されない。だから、わからないものは、わからないままになってしまう。
 ―― すると、「頭が悪い」んじゃないのですね。プラグをコンセントに差しこまないようにしているだけなんですね。
 脳は勉強好き
 池田 脳はもともと「勉強」が好きなんです。「学ぶこと」が好きなんです。それなのに、「ダメだ」という気持ちによって、自分で自分の脳が動かないように、縛りつけてしまっているのです。
 ―― しかも、「自分は生まれつき頭が悪いから」と言って、努力せず「言いわけ」にする人もいます。それでは本当に頭も心も錆びついてしまいます。
 池田 「生まれつき頭がいい」ように見える人も、人の見えないところで努力しているものです。
 だから結論を言えば、「頭がいい人」というのは、「絶対にあきらめない人」です。わからないことから逃げるんじゃなく、「何としても、わかろう」と「攻めていく人」です。その「強い心」の人が、頭のいい人なんです。
 社会に出ても、「わからないこと、苦しいことから逃げない」という心がある人は、必ず勝っていきます。そのために今、みんなは頭脳と心のトレーニングをしているのです。
 ―― 「わからない」と思ったときに、「あきらめるか」「一歩前へ進むか」の差ですね。
 池田 今、手紙の君が「取り残されているんじゃないか」と悩んでいる。その悩みが尊い。私は、そう思う。「前に進もう」としているから「壁にぶつかる」のだから。
 前進しようとしていない人は、壁にぶつからない。だから悩まない。悩まないから成長がない。
 勉強がわからない――つらい。苦しい。だけど、そこが忍耐のしどころです。逃げちゃいけない。
8  何か一つ得意なものを
 池田 できるところから始めることです。できれば、がんばって「自分はこれが得意だ」というものを「一つ」つくってください。
 「自分はやればできるんだ」という自信が、「頭がよくなる最高の薬」です。
 体育とか音楽とかクラブでもいい。人間の脳というのは、何か一つのことをやりとげられたら、他のことにも、自然と応用できるようにつくられているのだから。
 「わからない」ことや、「勉強のやり方」を、勇気を出して、学校の先生に質問するのもいいんじゃないだろうか。授業中がダメなら、休み時間や放課後でも。最初は、恥ずかしいかもしれないが、まわりは内心、「あいつ、たいしたもんだな」と思っているものです。
 先生方も、質問してくれる生徒は、かわいいんです。だまって、わかったふりをしているより、何倍もかわいい。
 ―― 「ある程度、わかっている」と思っていることでも、質問したら、もっとはっきりするし、思いもよらなかった「発見」があるかもしれません。
9  へこたれず「全力で努力する習慣」を
 学校の勉強は「義務」ではなく「権利」
 池田 勉強は苦しい。苦しいからこそ、「わかった」ときに楽しい。苦しみと喜びは一体です。何でも、そうです。
 こんなことを言うと、ご両親や先生に叱られるかもしれないけれども、一生懸命に努力して、それでも成績が上がらなかったら、それはそれでいいと私は思う。
 一時の結果よりも、大事なのは、「努力するくせ」をつけることだからです。勉強でも何でも、全力を出す「くせ」をつけることだからです。
 もっている力を出しきる「くせ」をつければ、どんどん「力」が出てくるのです。そういう「くせ」をつければ、自分の「使命」も、やがてわかってくる。
 自分という「宝の山」の鉱脈を掘り出す「シャベル」――それが「全力で努力する習慣」なんです。「へこたれない」習慣がつけば、時間がかかっても、必ず、「結果」は出ます。結果が出るまで、あきらめないことです。
 そもそも勉強は、自分の「権利」です。「義務」ではない。世界には学校で勉強したくても、できない中学生も、たくさんいるのだから。
 ―― 「義務」と思うと「受け身」になって苦しくなります。しかし、「権利」と思うと「攻め」になって、気持ちが楽になりますね。
10  人と比べず自分の道を
 池田 ともかく中学の三年間には、いろいろなことがあるでしょう。楽しいときは、一瞬のうちに過ぎ去っていく。反対に、苦しいときは、「永遠に続くのではないか」と思うかもしれない。
 しかし、振り返ってみれば、中学三年間は、あっという間に過ぎ去ってしまうものです。だから忍耐です。「耐えたものが勝つ」と思ってください。
 他人と比べても、しようがない。「うさぎとかめ」で、「かめ」が勝ったのは、別に相手が「うさぎ」だったからじゃない。
 「かめ」は、相手がだれであろうと、ただ自分の道を、自分の全力で、休まず、あせらず、一歩一歩、歩んだのです。その人が最後に勝つ。
 「他人に勝つ」ことよりも、「今までの自分に勝つ」。それでいいのです。「きのうの自分」よりも、きょうは一歩、前へ進んだ。「きょうの自分」よりも、あすは、これだけがんばろう。
 そういう一日一日であってほしいのです。

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