Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第7章 苦労は必ず喜びに  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

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10  「恩返し」の心で人材育成を
 大塚 私自身、忘れられない学校の先生がいます。高校時代の担任の先生です。
 生活が苦しくなって、もうこれ以上、母に負担をかけることはできないと思い、その先生に「学校をやめて働きに出たい」と相談したことがありました。
 職員室で、じっと私の話に耳を傾けてくださった先生は、こう言われました。
 「俺の小遣いは、月に三〇〇〇円だ。それをみんな、お前にやるから、なんとか高校を続けられないか」――。
 その先生は美術を教えていて、ふだんは物静かな方でしたが、この時は、熱心に、力を込めて語ってくださったのです。本気になって心配してくださる心が、ひしひしと伝わってきて、胸が熱くなりました。
 家に帰って、なんとか学校を卒業したいと、あらためて強く祈りました。母も、できるだけの応援をするから、頑張りなさいと言ってくれました。
 その後も先生が奔走してくださり、二つの奨学金をもらえるようになって、無事に卒業することができたのです。
 小野 すばらしい先生ですね。
 今は、そういう先生が少なくなったような気がします。
 大塚 先生の真心に応えたいと、それからはいっそう勉強にも頑張りました。
 その後、先生は若くして亡くなりました。葬儀には、大勢の教え子が集まり、男性も、女性も、みんな泣いていました。どれほど生徒たちから慕われていたかが一目で分かる光景でした。
 その先生のことを思うと、今も感謝の心でいっぱいになり、涙があふれてきます。
 池田 そういう、教育者に出会えたこと自体、最高の幸福だね。
 今、大塚さんが、学会の婦人部の中で、人びとのために尽くし、未来の人材を育成している姿を、きっと喜んで見守っておられると思います。
 自分を育ててくれた人への恩を忘れず、こんどは自分が、わが子や後の世代のために行動していく。それが何よりの「恩返し」なのです。
 恩を忘れない人は、美しい。恩を知り、恩に報いていくことこそ、「人間の道」であり、その人は豊かな人生を歩んでいける。反対に、恩を忘れるような人は、傲慢であり、最後はわびしい人生を送っていくことになる。
 戸田先生の生誕一〇〇周年を迎えて、私の心は、いよいよ先生に対する感謝に満ちています。生涯をかけて、いな、永遠に戸田先生に、ご恩返ししていく決意です。
 戸田先生は晩年、よく牧口先生をしのばれて、「先生がいないと寂しい。牧口先生のもとに帰りたい」と言われていた。
 それを聞くたびに私は、師弟の姿の崇高さに、強く心を打たれました。
 私は、戸田先生によって育てられました。今の私があるのは、すべて戸田先生のおかげです。いくら感謝してもしきれないほどの、ありがたい師匠でした。ですから私は、毎日、「戸田先生、きょうも私は戦います」と心で語りながら、走り続けています。
 皆さまも「恩返し」の心で、子育てに、教育に、人材育成にと取り組んでいってほしい。今の自分に育つまでに、親をはじめ、たくさんの人から、どれほどの苦労、どれほどの励まし、どれほどの愛情が注がれたことか――その感謝を忘れてはいけません。こんどは自分が、その恩を、子どもたちや後の世代に返していく番です。
 親から子へ、先輩から後輩へ、師から弟子へ――そうした、世代から世代への大きな流れの先に、二十一世紀の輝かしい未来が開けていくのです。

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