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日蓮大聖人・池田大作

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人生を劇のごとく  

「第三の人生を語る」(池田大作全集第61巻)

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2  すべての友を大切に
 松岡 ドラマといえば、池田先生の中部訪問がちょうど百回を数えたさいに開催された、第十三回中部総会での励ましのドラマが忘れられません。(一九九五年五月)
 席上、池田先生は、「だれもが、自分にしか果たせない大切な使命をもっている。ゆえに、すべての人を大切にし、すべての人に光を当て、皆がぞんぶんに活躍していけるようにするのが信心の世界であり、創価学会の世界なのである」とスピーチされました。
 佐々木 先生は、スピーチを終えるや、この指導の実践をそのまま、ご自分で示されましたね。
 場所は中部文化会館でした。会場の後ろのすみで、じっと聞かれていた年配の方を見つけて、丁寧に壇上に招かれて、先生が座っていたイスを勧められました。その場にいた人も、衛星中継で見た人も、大感激でした。
 池田 あの時のお二人ですね。女性の方は、浅井しずゑさん(八十三歳)で、ご主人と離婚された後、紡績工場で働きながら、四人のお子さんを育てられた。末の娘さんが難病で、ともに死のうと思い詰めたこともあったといいます。
 それが創価学会に入会して以来、蘇生の道を力強く歩んでとられたのです。現在も、お元気だとお聞きしていますが……。
 佐々木 はい。先生との出会いと信仰体験を語り継ぐために、今日は、ここの座談会、明日はあそこの座談会と、お元気にご活躍です。
 松岡 男性の方は、志村民治さん(七十四歳)で、同じくご健在です。副支部長として同志の模範の実践をされています。
 池田 うれしいですね。老いも若きも、皆さん使命があるのです。
 学会のなかで、世のため、人のために戦いぬけば、完璧な人生の総仕上げができる。そうやって今世で戦いきれば、三世永遠の幸福を決定づけることができるのです。そのための大切な一日です。
 「一日の命は三千界の財にもすぎて候なり」とは、そのことです。一日生きぬくことは、全字宙の宝を集めたよりも尊いことなのです。
 その貴重な一日一日を支えるのが介護であり、使命は重大です。
3  絶望から希望へ
 佐々木 東京・墨田区でホlムヘルパlをされて十年目というTさんを取材しました。明るくお年寄りに接しておられる方です。
 池田 人に心をとめて尽くす営為は、菩薩の行に通じます。しかし、在宅介護を支える家族のストレスは相当なものですね。
 その点、施設介護と在宅介護の中間として、施設に送迎してもらい、お年寄り仲間と歌やゲームを楽しんだり、日常生活の訓練をする「デイケア」や、一時的にお年寄りを預かってくれる「ショート・ステイ」などがあります。それらを上手に利用するなどして、ストレスから解放される時間をもつことも大切です。
 佐々木 Tさんが、訪問介護する一人に大塚秀子さん(六十九歳)がいます。墨田区の方です。約二十五年前に緑内障を悪化させ、以来、まったく視力を失われました。
 松岡 独り暮らしの大塚さんのお宅に訪問介護にうかがうと、玄関には、きまって季節の生け花が飾られているそうです。「きょうも、きれいですね」というのが、あいさつ代わりです。
 目が見えなくても、花の色具合を聞いて、茎の長さをたしかめながら、生け花の出来上がりを頭の中でイメージして、挿していきます。折り紙や編み物にも挑戦されています。
 池田 心の眼が見えているのですね。
 挑戦の心があるから、心が負けてないから、目がお悪いことも、年をとっておられることも、障害になっていないわけですね。
 佐々木 家の中もきちんと掃除されていて、みだしなみにも、お化粧にも、心を配っていらっしゃる。
 ヘルパーのTさんとの外出を楽しみに待ってくださり、流行のリュックサックを背負って、笑い声をあげながら、実の母子のように出かけるそうです。
 松岡 ある夏の日、大塚さんから「一緒に私の水着を選んでほしいの」と言われ、Tさんは大丈夫かなと心配しましたが、次の訪問のときには、「神奈川まで海水浴にいったのよ。立ち泳ぎしたの。楽しかったわ」と、さらりと。
 ほかにも大塚さんは、ソシアルダンス、大正琴、コンサート、旅行と、学会活動のかたわら、幅広く取り組んでおられます。
 池田 頼もしいですね。
 「(法華経の題目を持つ者は)遊行して畏れ無きこと師子王の如くなるべし」と、日蓮大聖人は仰せです。
 師子王とは、信仰者の異名です。自身の宿業を悠々と見下ろし、むしろ、逆境をも楽しみとしながら、すべてを打開していけるというのです。
 人生の幾山河に苦難はつきものです。しかし、信心さえ負けなければ、なにも恐れることはない。絶対に勝っていけるのです。
 佐々木 ヘルパーのTさんが言うには、障害をもったりすると、どうしても、「なぜ、私だけが不幸なのか」「あなたには、私の気持ちはわからない」といった、うらみの気持ちがどこかに出てくるお年寄りが少なくないそうなのです。
 しかし、大塚さんの場合、前向きで、清らかな心が陰ることはなかった。明るく生きてこられた。
 Tさんは、大塚さんの「絶望から希望へと歩まれた十年間」をじっと見てとられて、平成十年(一九九八年)二月、晴れて創価学会に入会されました。
4  最悪の環境で最高の悟りを
 池田 戸田先生は、三畳の凍えるような冷たい牢獄で、肺病、喘息、心臓病、リウマチと万病に侵されながら、「地涌の菩薩」の使命を自覚された。広布実現のため、自分は悪世末法に願って出現したのだ――と。
 地涌の菩薩の私どもの使命は、そこにあるのです。
 戸田先生は、よく言われていました。
 「″貧之菩薩″や″病気菩薩″のように見えるが、それは人生の劇を演じているんだよ。正真正銘の地涌の菩薩なんだ。人生の劇なら、思いきって楽しく演じ、妙法の偉大さを証明してごらん」と。
 仏法では、苦しむ人々を救うため、あえてみずから業をつくって、同じ苦悩のなかに生まれてきたと説く。これが、「願兼於業」という菩薩の誓願です。苦難の道を歩むことで、同じ苦しみをもっ人々の心がわかる人になっていく。そうやって苦しみを達観できれば、試練に立ち向かっていく姿勢も変わっていきます。
 松岡 Tさんは、多くのお年寄りと出会ってきた実感として、「素敵な生き方をしているなと思う人は、皆さん、信心をされています!」と言われていました。
 池田 そうですか。全国の多宝会、宝寿会、錦宝会の皆さんにとっても、大いなる勇気の言葉ですね。
 佐々木 大塚さんのお宅は、座談会場です。大塚さんの存在が、周囲の皆に大きな影響をあたえています。
 たとえば、子どもは気兼ねもなしに、「大塚さんは目が見えないのに、どうやって勤行を覚えたの」と聞いたりします。それで、大塚さんが「目は見えないけど、お友だちから電話で教えてもらって、勤行を覚えたのよ。全部、覚えるのに、一年半かかったのよ」と話します。
 それに感動して、自分から勤行を覚えた未来部員もいるそうです。
 池田 哲人プラトンは、″年をとったら、若い人の生き生きとした姿に、あなたの若い日を重ね合わせながら、若い人の動きをエネルギーの源にしなさい″とアドバイスしたと言います。
 逆も言えるだろうね。
 老若男女が集う学会の座談会は、年配者が若者から、みずみずしい生命力を吸収する。反対に、若い人が年配者の経験や知恵を学んでいける。
 仏法にいっさい、ムダはないのです。高齢社会の先取りです。
 ともあれ、つねに希望に生きるのです。理想に生きるのです。命あるかぎり、この世で果たさん使命あり、です。
 アメリカの詩人ロングフェローは謳いました。
 「老いは、装いこそ違え、青春に勝るとも劣らぬ好機なり。あたかも、黄昏過ぎし夜空に、白昼隠れて見えぬ星の、満天に輝けるに似たり」
 ともどもに、星降るようなすばらしい満天の夜空ような総仕上げの人生を描いていきたいものです。

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