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日蓮大聖人・池田大作

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ごまかせない晩年の顔  

「第三の人生を語る」(池田大作全集第61巻)

前後
2  キッシンジャー博士とビスマルク
 佐々木 キッシンジャー博士と先生が、アメリカ国務省で初めて会われたのは一九七五年の年頭でした。ワシントンは、朝から小雪がちらつき、白く装って印象的でした。
 その後も、キッシンジャー博士とは何度となくお会いしました。緊急の国際情勢のことから、人生哲学にいたるまで、幅広く語りあい、やがて対談
 集の出版(『「平和」と「人生」と「哲学」を語る』瀬出版社)となりました。
 博士が、老後の生きがい、死をどう考えるかという話になって、次のように言われていたのが印象に残っています。
 「私はドイツの宰相ビスマルクの言葉にいつも深い感銘を受けてきました。結婚生活五十年にして夫人が先立つのですが、その臨終の枕元で、ビスマルクは『始まったばかりだったのに、もう終わりなのだ』と言いました。
 私はそれが人生の厳しさであり、だれもがこの厳しさと取り組まなければならないのだと思います」
 松岡 ビスマルクの結婚生活五十年ということですが、先生と奥さまも、二〇〇二年五月三日には、ご結婚五十年、金婚式を迎えられます。
 池田 戸田先生が第二代会長に就任されてちょうど一年後に、本来ならば盛大にお祝いの総会をするべきところなのですが、戸田先生はあえてその日を私どもの結婚式に決めてくださり、その年は本部総会をされませんでした。
 この師の厳愛と厚恩は、片時も忘れたことはありません。
 松岡 以前、ある婦人誌の新年号(一九八九年)で、先生が、編集長のインタビューを受けられましたが、こんな会話がありました。
 「編集長――ご結婚後、三十七年になるとうかがっています。お目にかかって、奥様のお人柄の温かさを感じます。これまでをふり返って、奥様に感謝状をささげるとしたら、文面は、どんな言葉になるでしょうか」
 「先生――これはいちばんの難問です(笑い)。妻は私にとって、人生の伴侶であり、ときには看護婦であり、秘書であり、母のようでもあり、娘か妹でもあり、何より第一の戦友ですから。
 そうですね。あげるとしたら『微笑賞』でしょうか。(中略)まず金婚式(二〇〇二年五月三日)を二人して元気で迎えたいですね。
 『賞』の文面は、そのときまでの宿題にさせてください(笑い)
 佐々木 そのあと、編集長に「一言だけでもいかがでしょう」と言われ、先生は次のように答えておられました。
 「ウーン。私の真実をいちばん知っているのは妻ですし、妻の誠実とけなげさをいちばんわかっているのは、私だと思っています。
 妻との結婚は、私の人生にとって、かけがえのない幸せでした。その意味で『また生まれてきたら、次の世も、また次の世も、永遠にどうぞよろしく』というところでしょうか。感謝状ではなく、委任状になってしまいましたが……(笑い)」
 池田 シャープな質問を次々にされる女性の編集長さんで、追及の手をゆるめてくれないんです。(笑い)
3  一歩退くか、一歩踏み出すか
 松岡 さて、トインビー博士が、先生とのいっさいの対談を終えたさいに、対談に同行した人に″ぜひとも会ってほしい人物″を、そっと挙げられました。
 池田 もし、直接に名前を言ったら、押し付けになるかもしれないと、間接的にメモで渡してくださった。その心遣いには、今も感謝しております。
 佐々木 ローマ・クラブ創立者のぺッチェイ氏は、博士が名前を挙げられた一人でした。
 先生は、パリで一九七五年に初めて会われました。ちょうど緑の薫風さわやかな五月でしたので、パリ会館の庭で対談されました。
 池田 人類が経験した産業革命、科学技術革命は、すべて外側からの革命だった。次に人類がめざさなければいけないのは、内側からの人間革命である――との点で、完全に一致しました。
 佐々木 ペッチェイ氏とは、その後、何度もお会いされましたね。
 東京で、イタリアのフィレンツェで、ふたたびパリでと……。
 フィレンツェでは、ぺッチェイ氏は前日にロンドンからローマの自宅に戻り、対談のためフィレンツェへ車で四時間かけて、ご自分でハンドルを握って、駆けつけられています。
 池田 この時、ペッチェイ氏は七十二歳。じつに若々しく精力的でした。
 お会いした方々は皆さん、年齢を重ねれば重ねるほどお若く、さらに本格的に仕事に打ち込んでおられた。これでこそ、本物です。つねに満々たる前進の息吹をたたえていくことです。
 ともすれば、人間は年をとると「前進」の気概を失ってしまうことが多い。
 しかし、そこで一歩退くか、一歩踏み出すかは微妙な一念の差かもしれないが、「人生の総仕上げ」の段階にあっては、取り返しのつかない違いとなって表れてきます。

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