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日蓮大聖人・池田大作

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関西創価中学・高等学校三年生、関西創価… 民衆に幸福をあたえる「英雄」に

1995.11.24 教育指針 創価学園(2)(池田大作全集第57巻)

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2  「これだけは負けない」何かを
 郭靖は負けるものか、と誓った。そして六歳の時から、師匠のもとで武術を学んだが、もの覚えが悪く、上達はきわめて遅かった。十代なかばになって、やっと人並みのレベルに追いつけたほどであった。
 しかし彼は懸命に、自分だけの「一剣」を磨いていった。それは弓であった。
 ほかがだめなら弓で――ここに智慧が光っている。
 皆さんも、ラグビーがだめなら野球で、英語がだめなら数学で、ともかく何か「これだけはだれにも負けない」一剣を磨きぬいていただきたい。彼は、弓の達人である師匠に食らいついて、懸命に学び、比類なき名人となっていった。
 人生には「師」が必要である。人間だけが「師」をもつことができる。師弟の道によってこそ、人間は人間としての最高の宝を学べるのである。学校の先生方も「師」である。大切な存在である。
 今の日本は、指導者自身が「師匠」をもっていなかったり、大切にしていない。だから「基準」がなく、無軌道になっている。諸君が将来の日本、世界を立派に支えていく以外にない。
3  おもしろいことに、彼は、弓の上達とともに、苦手だった他の武術も向上していった。ひとつ得意なものをつくれば、万般に通じていく。これが人生の「妙」である。皆さんの勉学にもあてはまる道理であろう。
 弓の名人となった青年は、チンギス・ハンに見込まれ、彼の軍隊に入り、やがて中枢の一人となっていく。
 チンギス・ハンは、広大な大地を駆けぬけ、虐殺を繰り返した。その残酷さに、青年は胸を痛め続けた。青年の正義感が、思いあまって「庶民の命を救ってください!」と言わせ、わが身をなげうってチンギス・ハンの殺戮を押しとどめたこともある。物語のラスト。重い病に冒されたチンギス・ハンが、青年と対面する場面が描かれている。
 チンギス・ハンは青年を呼んで、こう語る。
 「私が築いた大国は、歴史上ならぶものはない。古今の英雄のなかで、私におよぶものがいるだろうか?」
 しかし、青年は答えた。
 「ただ大王一人の威風のために、天下は、どれだけ多くの白骨がさらされ、どれだけ多くの孤児や未亡人たちの涙が流されたことでしょう」
 勇気ある言葉であった。これを聞いてチンギス・ハンは激怒した。それでも青年は決然と続けた。
 「私は一つだけ大王におうかがいしたいことがあります。人が死んで地中に葬られる時、どのくらいの土地を必要とするでしょうか?」
 チンギス・ハンは、手にした笞で地面に円を描きながら答えた。
 「この程度の大きさにすぎないだろう」
 青年は言う。
 「そのとおりです。それなのに、あなたは、これだけ多くの人を殺し、これだけ多くの血を流し、そして、これだけ多くの国土を獲得しました。しかし、これを一体、何に使うのでしょうか?」
 この問いに、チンギス・ハンは答えられなかった。
4  諸君は生涯「正義の人」たれ
 権力を求め、富を求め、地位を求めても、「何のため」に使うのか。その根本の目的を忘れた人生は、欲望に振りまわされる、はかなき人生である。経済の高度成長だけを追い求めた日本の社会も同じであろう。
 青年は、さらに言いきった。
 「これまで英雄と仰がれ、後世からも慕われるのは、すべて、民衆に幸福をもたらし、庶民を大事にした人です。多くの人を殺したからといって、英雄とはいえないと私は思います」
 青年の鋭い一言に、大王チンギス・ハンはこう言い返すのが精いっぱいだった。
 「私は一生、天下をほしいままにし無数の国を滅ぼしてきたが、おまえの話だと私は英雄に数えられないというのか? まったく子どもじみた話じゃないか―」
 その夜、チンギス・ハンは、わびしく息を引きとる。うわ言のように「英雄……英雄……」とつぶやきながら。
 ―― こう金庸氏は描いている。
 ”民衆を苦しめ、庶民をいじめる権力者など、「英雄」であるわけがない。民衆を幸福にし、庶民を大事にする人こそ、真の「英雄」である”。
 これが、小説の結論であった。そして、それが、金庸氏の信念なのである。
 金庸氏自身が、「国賊」呼ばわりされ、さんざんにいじめられながら、国家は核兵器の開発よりも人民の生活を第一に考えなくてはならない、との正義の主張を断固として貫いてきた言論人である。
 だからこそ、私どもの平和と文化と教育の民衆運動に、絶大な信頼を寄せてくださっている。
 この物語の青年の魂に、深く深くきざみこまれた、お母さんの遺言がある。
 「人生百年、一瞬で過ぎさつてしまう。大事なことは、生涯、心に恥じない行動を貫くことだよ。この母の言葉を忘れてはいけないよ」
 皆さん方のお母さんも、同じ思いではないかと私は思う。
 どうか、わが学園生は「正義の魂」を決して忘れず、誇り高く、「二十一世紀の大英雄」に育っていただきたい。
5  良書に挑戦、世界を広げよう
 「勉学第一」「健康第一」「友情第一」である。
 授業は真剣に、遊ぶ時は楽しく、クラブ活動・スポーツも有意義に、青春を歩んでいただきたい。そして、良書を、文学を、大いに読んでいただきたい。読書は人生を深め、世界を広げる。
 読書には、人生の花があり、水があり、星があり、光があり、楽しみがあり、怒りがあり、海があり、世界がある。私も青年時代、徹底して読書に励んだ。戸田先生も亡くなる直前まで、「きょうは何を読んだか」と厳しい薫陶であった。
 そのおかげで、今、東西のいかなる学者、文人とも、縦横無尽に語りあうことができる。
 栄養をあたえるほど、木は大きく育つ。同じように、魂にも「滋養」をあたえることである。そうした人が伸びていく。十代、二十代に読んだ本は一生の財産となる。どうか、自身を育てる「読書」に、大いに挑戦していただきたい。
 「お父さん、お母さんに、くれぐれもよろしく」と申し上げ、お祝いのスピーチとしたい。

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