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日蓮大聖人・池田大作

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はしがき  

「価値の日々」「若き友へ贈る」「わが友へ」「友へ贈る」(池田大作全集第38巻)

前後
1  ”青春の夢に忠実であれ”とは、詩人シルレルの有名な一言である。短い言葉だが含蓄に富んでいるといえよう。青春の夢には利害、打算を越えて、何ものかを創造しようとする一途な気魄がある。
 その心に描く人生の軌跡は、現実の試行錯誤によって変転きわまりないが、自ら、世界に生きる一個の人間として、青春時代の創造の気魄だけは、生涯、色あせたものとしたくはない。人間の価値はそこにあり、その価値を放棄した瞬間から、人間の醜悪な面が露呈されてくる。
 ところが、不透明な、灰色の未来しか予測できない現代においては、青年が
 素朴な夢を抱くことさえ、打ち砕いてしまう非情な社会に化してしまったようだ。青春の夢などということが、いかにも陳腐な言葉に聞こえるのもそのためであろう。
 しかし、だからといって、青年の純粋な心が、近視眼的な現実主義者の前に、あえなく敗退してしまってよいのであろうか。自身と、人生と、社会と、世界を切り拓くには、再び新しい青年の勇気と信念と決断しかない。私は人類の未来を、そこに一切かけたい。
 私自身、青年をだれよりも愛し、尊敬しているとひそかに自負している。幸いにも、同じ使命の庭に立つ若き同志ばかりである。私にとっては、これらの青年達と語り合うのが楽しみで、時が経つのを忘れることもしばしばである。
 当然のことだが、わが友も多感な青年である。青春期にありがちな悩みをかかえて試練の道を歩んでいる人と遭遇することは少なくない。
 もとより平凡な一庶民にすぎない私に、人に説教することなど及びもつかないことであるが、人生の先輩として、若き友がなんとか悩みを打開し、失敗から立ち上がり、信念を貫き通す強い自己を確立してもらいたいというねがいから、思いつくままを書き贈ってきた。
 それは決して人を戒める言葉でもないし、また導こうとするものでもない。むしろ、まだ求道の過程にある未熟な自身への自戒の言葉とさえ思っている。一人称を用いたのもそういう思いからである。
 先に文塞春秋から「若き友へ贈る」と題して単行本を上梓したが、ここに収録されている短文は、それ以後に書き記したもので、いわば続篇ともいうべきものである。その「若き友へ贈る」を出版したいという要請があった時も、正直いって戸惑ってしまった。今回、続篇を文庫本として世に出すことは、恥の上塗りをするようで尚更、気がすすまなかったが、多くの友人、同志の方から、是非ともハンディな文庫本にとの要望があり、発刊に踏み切った次第である。
 この拙文が、未来を切り拓く若きわが友の自立の発条となれば、これに勝る喜びはない。
  一九七三年三月十六日  著 者

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