Nichiren・Ikeda
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昭和二十六年(四月)
「若き日の日記・上」(池田大作全集第36巻)
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1 四月七日(土)雨後曇
夜、青年部月例部会
出席者、約数十名。男女共に。愚かな、気ざな、幹部が気に入らぬ。町の青年会の、幹部のつもりでいる。軽薄なる二、三人の態度を、私は心から不満と思う。
先生は、青年部のことは、一切お委せの御様子。先生の真意を体した、優秀なるリーダーが、新しく、ぞくぞく出ねば、発迹顕本は出来得まい。
広宣流布、信心の事について、幹部より、指導、講演あり。
終了、八時三十分。
帰宅、十時。
2 四月八日(日) 曇
十時、起床。K君来る。弱い青年だ。人は実に良し。引き続き、Y君来る。三人して、食事にゆき、日光を浴びて、気持ち良いほど、朝風呂にひたる。
三人で勤行をし、大森駅にS氏を待つ。歓喜寮に、二時三十分着。読経、法話、五時まで。―――
S氏の御本尊送りを、Mさんと行う。一幅の御本尊送りの喜びは、筆舌に尽くせぬ、最高度の幸福感である。
九時三十分、N宅訪問。
「乙御前御消息」
いかなる男をせさせ給うとも法華経のかたきならば随ひ給うべからず、いよいよ強盛の御志あるべし、冰は水より出でたれども水よりもすさまじ、青き事は藍より出でたれども・かさぬれば藍よりも色まさる。
隣人は、吾等を指し、半狂人という。宇宙の根本基準より見れば、そう批判せし人こそ、狂人なることを知らぬ。本末顛倒の社会の、此の実相。―――吾れ、何をか云わんや。
帰宅、十二時。
3 四月九日(月) 雨
一日中、雨となる。
千葉浦安のN宅訪問。浦安の町は初めて行く。単調な、貧しき漁港。ここにも、妙法の灯は輝いているのだ。彼も、元気に成ってくる。嬉しい。―――
夜、K宅にゆく予定、実現出来ず残念に思う。
九時少々過ぎ休む。
4 四月十日(火) 曇
午前中、雨。昼過ぎ晴れて来る。
二時まで、先生と共に、雑談。将来の種々の計画を練る。
六時三十分、小岩にて、先生の「四信五品抄」の講義。青年部有志、十四名の会合なり。先輩欠席。
先生の、大哲学者には、唯々驚くのみ。知識に非ず。覚者の智慧より出ずる、泉の如き、斬新的な法理、道理、確信、信念、予見、理論なり。‥‥
帰宅、十時五十分過ぎ。―――
『ホイットマン詩集』(白鳥省吾訳新潮社)を開く。
勝てる名声を読んだ時
英雄の勝てる名声や偉大なる将軍の勝利を読んだ時、
私はその将軍を羨みはしない、
大統領のその統治や宏荘な邸内の富を羨みはしない。
然し愛人等の仲が、どうであったか、
危険や非難を通り、長く長く変らずにいかに生涯を共にしたか、
青年を過ぎ中年と老年とを過ぎて
いかに断乎として情深くそして誠実で彼等があったかを聞いた時、
その時とそ私は物思ひに沈む、
たまらない羨ましさに充されて急いで歩み去るのである。
(カラマス勝てる名声を読んだ時)
就寝、一時三十分。疲れる。温。
5 四月十三日(金) 快晴
若き夫妻等が夫は女を愛し女は夫をいとおしむ程に・父母のゆくへをしらず、父母は衣薄けれども我はねや熱し、父母は食せざれども我は腹に飽きぬ、是は第一の不孝なれども彼等は失ともしらず、況や母に背く妻・父にさかへる夫・逆重罪にあらずや。(一谷入道御書)
温暖の一日。桜の花も散りにき。吾が青春に悔いなきや。
戦時中、N鉄工所の作業所に、″散る桜、残る桜も、散る桜″という句があったのが、脳裡に鮮明に焼きついている。
青年らしい、日本人らしい、潔い句であり、生き方の表現である。けだし、仏法は、生命を最も尊ぶ。新たに、生き方、死生観を考えなおす。‥‥
戸田先生より、種々叱責受く。叱られる度に、奈落におちゆく感じなり。行き詰まってしまう。誰人も、激励し、助けて呉れる人なし。
明後日は、本山にゆこう。新しい、決意の出発を再びしよう。
昼休み、K君、Y女史と春の街を散策。四月の陽気は明るく爽やかだ。春夏秋冬の変化のある民族は、優秀であり、幸福だと、つくづく考えながら。―――
帰宅、十一時。
6 四月二十日(金) 小雨
末代の凡夫此の法門を聞かば唯我一人のみ成仏するに非ず父母も又即身成仏せん此れ第一の孝養なり。(始聞仏乗義)
朝方小雨。昼頃から晴れる。一日中、暖かな日であった。
午後より、神奈川方面に。M宅、N宅、S宅、Y宅、K宅訪問。―――訪問し、いやなことが有っても、強くいきたい。強く頑張らねば、勝者にはなれぬ。
夜、戸田先生の講義。「筒御器抄」。
一、我が地区に、折伏の聖火を上げたい
一、折伏が出来ずして、大聖人の弟子なりと思うことが苦しい
就寝―――十二時五十分。室、暖かし。
7 四月二十一日(土) 小雨
一日中、単調な日であった。
身体の調子、頗る悪し。残念なり。八時に帰り、早目に床に入る。
静養なき戦いは、敗因を作らん。明日の戦いに、今日は休むなり。されば、休むことも、戦いとならん。
8 四月二十二日(日) 曇
諸の国王・大臣・公卿・殿上人等の身と成って是れ程のたのしみなしと思ひ少きを得て足りぬと思ひ悦びあへり、是を仏は夢の中のさかへ・まぼろしの・たのしみなり唯法華経を持ち奉り速に仏になるべしと説き給へり。(主師親御書)
夜、大田区M宅の座談会に出席。
実に、盛況であった。一度に、数名の新人の入信をみる。堂々たる折伏をする。痛快である。
戸田先生の講義を休みしを、残念に思う。
帰宅、十時少々過ぎ。レコードをかけ、ホイットマンの詩を読む。
嵐の倣る音楽、
実に自由にその驀進を吹き起して、大草原を鳴り渡る、
森の梢の激しい唸り―――山々の風、
人に擬する朦朧たる形、匿された管絃楽の汝、
『自然』の律呂に諸国民のあらゆる言葉を交じへ、
神速の楽器を持てる幻像の夜曲の汝、
(秋の小川 嵐の傲る音楽=前出)
9 四月二十四日(火) 晴
暖、日一日増すアパート内も、活気を呈し、騒音誠にうるさし。
七時三十分、外出、食事、会社へ。
『寺田寅彦全集』を、電車中で読む。
夜、疲れ、遅くなったため、Y宅に一泊する。はじめての外泊。夜半まで、青年達と「開目抄」の読み合わせをする。
難解なれど、大聖人の御確信、胸に響く。乱世に、この貧しき家で、貧しき青年等が、大聖人の哲学を学びし姿、実に尊き哉。―――
皆、真剣である。皆、純情である。垢れなき青年達の心に、大聖人の大慈悲は、強く深く、入ることであろう。
皆して、読み合わせ終わり、月光の窓に出る。ある青年は、未来を語る。ある青年は、希望をのべる。ある青年は、意気を詩吟に託す。貧しき青年達ょ、貧しき革命児達ょ、前途に、祝福あれ―――。
穢れたドンブりに、タクワン少々にて、夜食とする。思い出とならん。―――邂逅十年後に。
10 四月二十五日(水) 晴
夜、Y宅、入仏式、M宅、入仏式。
先生と共に、参加する。
先生の決意、次第に厳然たり。何か深く思念されし様子なり。学会の前進も、先生の前進、決意にて、全部決定されゆくなり。
細井尊師、T尊師とお目にかかる。十年後の宗門を思惟すると歓喜生ず。
夜遅く、愚弟来る。涙が湧く。
就寝、一時半。
11 四月二十六日(木) 快晴
和らかに又強く両眼を細めに見・顔貌に色を調へて閑に言上すべし。(教行証御書)
此の法華経の本門の肝心・妙法蓮華経は三世の諸仏の万行万善の功徳を集めて五字と為せり、此の五字の内に豈万戒の功徳を納めざらんや。(教行証御書)
身体の調子全く悪し。謗法なるかを深く思う也。
立川にT氏訪問。悪い人だ。こんなにずるい人とは知らず、誠実に付き合っていた事を悔しく思う。学校の先輩という美名に―――。
夜、青年部会。「四信五品抄」。
先生より、二処三会の宿題を出される。
深く思索し、体系化した教学を学び、信心よりの教学を打ち立てねばならぬ。
吾れ、浅学を恥ずるなり。奮起あるのみ。
小岩駅にて、淋しそうにしている、弱き兄を激励する。嬉しそうな瞳が、脳裡に残る。
帰宅、十一時半。―――
12 四月二十七日(金) 晴
生涯、初めて、執行吏の様子を見る。法律の厳しさ、否、弱者の悲惨さをまざまざと見せつけられる。可哀想でならぬ。―――これが、現実か。社会の複雑さ、厳しさを、少々知って来た感じ。今まであまりにも、清純のみで、唯、理想主義であったことを知感せり。
学会の前進、次第に高まれり。吾が地区も頑張らねばならぬ。折伏精神と、組織の確立を根本原因とせねばならない。ともあれ、自分が頑張ることだ。自分が責任を持つことだ。
一日中風が吹く。
夜、『土田杏村全集』を少々読む。
「佐渡御書」に日く、
悪王の正法を破るに邪法の僧等が方人をなして智者を失はん時は師子王の如くなる心をもてる者必ず仏になるべし例せば日蓮が如し、云云。
就寝―――二時過ぎ。
13 四月二十八日(土) 曇
一日中、暑い暑い風が吹く。
何となく、身体調子悪し。空虚な一日であった。
T建設組合の総会、午前中有り。
夜、鶴見のS宅の座談会に出席。新人来たらず。活気なし。
日蓮御房は師匠にておはせども余にこはし我等はやはらかに法華経を弘むべしと云んは螢火が日月をわらひ蟻塚が華山を下し井江が河海をあなづり烏鵠が鷺鳳をわらふなるべし、云云。(佐渡御書)
読書。
三時過ぎ、就寝。
14 四月二十九日(日) 雨
十時まで休む。疲れた身体に、疲れが、あとからあとから出て来るようだった。ここ数年間の疲労の蓄積か―――。
N氏、B氏来宅。強く議論する。
久方ぶりに、バーバーにゆく。帰り、浴場にゆく。一日中、蒸し暑い日であった。身体具合全く良からず。
吾が地区の前進のため、なつかしの馬込地区W氏宅を訪問。W氏留守にて、二時間の無駄足をしてしまう。淋しく、粛々と帰る。
来月五日夜は、M宅に折伏にゆこう。先生、必ず吾が地区も前進させますから、お許し下さい。
読書。
就寝、二時過ぎる。