Nichiren・Ikeda
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昭和二十五年(八月)
「若き日の日記・上」(池田大作全集第36巻)
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2 八月三日(木) 雨
社会は、全く厳しい。信用のいかに重大であるか、思い知る。
今日も、善戦。雨と、苦悩と、努力との激闘であった。
自分は、生涯、戸田先生を、お護りする使命があるのだ。他の部長等に、関係はない。
私の活動が、直接、先生に通じないことが淋しい。
今日ほど、戸田先生の、私に対する不満の顔をみたことは無い。悲しいことだ。
私は、忠実に、私の仕事に、全力を尽くす術しかない。一社員にすぎない。先生は、部長等より、私に、大きな期待を持っておられるのだ。困った存在だ、今は。
戸田先生、私が、必ず最後は、奮闘し、仕上げます。何卒、少々待っていて下さい。曲解をしないで下さい。‥‥私が、必ず大船の舵を取って、怒濤を乗りきってみせます。勇躍、出帆させてみせます。この池田が―――。
花を見るものは有る。花を感ずる人はない。
3 八月十日(木) 雨
苦闘の一か月であった。このようになった原因は、何処に有るのか。生涯、今日の日より、苦しいことは、少ないことであろう。
病気。職業の失敗。経済の破綻。信用の低下。
先生、実にお気の毒の様子。決起して戦う自分。而し、利あらずして、全く思うようにいかぬ。社員達の、不満が悔しい。
万難来るとも恐るること勿れ
地涌の菩薩なれば 汝よ
御仏の み前に誓う 若人の
使命は 重く 奮い立つのみ
吹かば吹け 起つならたてよ 荒波よ
汝の力と 吾れと試さん
4 八月十一日(金) 雨
戸田先生、全くお気の毒なり。先生、A氏よりひどく叱られる。自分も叱られる。なれど、みな、修行なり、社の実情、弥々苦しくなる。
先生を、唯々、なんとか護りたい。
余は、余である。余はあるが儘の余である。
余の名を、知らんとするものは、余を知らないものである。名を問わず、それ自身を触れよ。
5 八月十三日(日) 雷雨
夕刻、「観心本尊抄」の研究会。
先輩K氏と、戸田先生の様子、将来、再起等に関し、種々、談合。十一時三十分、失礼する。
吾れは、疲れたり。されど、意気、弥々盛んなり。
6 八月十五日(火) 快晴
敗戦記念日。感無量なり。
桜咲き、紅葉散り、富士の山に雪降り、太陽は、炎熱となり、早、茲に五年。
吾が社の状態、急迫となる。事、重大と期す。十時三十分まで、重役会議。人々は、再び去って行く様子。責任重大なり。重大なり。
次期の建設、次期の推進、次期の方途は、誰人の力に依るや。
トルストイの『懺悔』を読む。
大覚世尊は此一切衆生の大導師・大眼目・大橋梁・大船師・大福田等なり。(開目抄)
7 八月十九日(土) 晴
残暑、厳しい一日であった。
午前中、部長級にて、会談。
午後、更に重大会議の段階に入った模様。無事に完了することを祈る。
次第に、精神的、肉体的、経済的に、負担の蓄積を受く。
夜、「観心本尊抄」の読み合わせ。
いかに、事業難とはいえ、信心と教学だけは、忘れてはならぬ。
十二時、帰宅。月光輝く夜道を、一人歩む。思うこと多し。
8 八月二十日(日) 小雨
各各思い切り給へ此の身を法華経にかうるは石に金をかへ糞に米をかうるなり。(種種御振舞御書)
久しぶりに、ゆっくり休む。非常に疲れているらしい。明日の激戦のことを思うと、頭が痛む。
一、勉強をしたい
一、仕事に打ち勝ちたい
一、身体が丈夫になりたい
N宅に、午後ゆく。帰室、十一時。
感傷の湖に、遊びたくなる日がある。現実の葛藤の巷に戦う、感激を思う日もある。
信ずるのは、汝自身だ。その汝自身を、覚知させてくれるのが信仰だ。
9 八月二十二日(火) 晴
会社、業務停止が決定。
戸田先生と、最後の盃をかわす。先生より、先生の大願を、お聞きする。そして、敗れゆく、悲惨なる、覚悟をお聞きする。
ああ、吾れ、断腸の思い有り。無念、無念。
しかし、私は再び、次の建設に、先生と共に進む。唯これだけだ。前へ、前へ、永遠に前へ。知る人ぞ知る、吾が運命。
10 八月二十六日(土) 曇
御いのりの叶い候はざらんは弓のつよくしてつるよはく・太刀つるぎにて・つかう人の臆病なるやうにて候べし、あへて法華経の御とがにては候べからず。(王舎域事)
一日中、仕事に奔走。夜、会社に帰る。先生、お待ち下さる。遅くまで打ち合わせ。夜遅く先生宅に。奥様驚いて居られる。
大敗の中、悠々たる先生。夜中に、将棋を二局。終わって、一緒に俺の布団に寝ろといわれる。失礼して、一階の坊やの休んで居る中に、そっと入れて戴く。
思い出深き一夜。
11 八月二十七日(日) 曇
朝、先生と御一緒に勤行。朝食も、先生と二人で、食す。奥様も、お疲れの様子。先生は、厳然と、事業家の一度や二度の失敗で、落胆するとは、大なる過ちなりと戒めていらっしゃる。
御一緒に、電車にて、神田の事務所に。
思い出多いが、胸の中は、暗い日曜日。
会社の整理に、信心のことで、兄より忿懣の手紙受け取る。全く、不信用の的に、自分がなって来た。
身体の具合、全く悪い。肺病らしい。
夜遅く、理髪店に。
12 八月二十九日(火) 雷雨
義理の姉が食券、洗濯物を持って来て下さる。有り難いことだ。感謝する。家の者も、大変心配しているそうだ。全く済まぬ気がする。
戸田先生より「君を頼る」との力強き激励を受ける。誰よりも、信頼し、期待をかけられし自分を、心から歓ぶ。
先生の激励に応え、再び、世紀の鐘を、私が鳴らそう。先生より、離れる者は、離れろ。
若き戦士となり、若き闘士となって、先生の意志を、私が実現するのだ。
字が乱れる。字が乱れてならぬ。
13 八月三十日(水) 雨
一日一日、落ち着いて来ると、同時に、会社内の負債の、深刻なる動きが漂う。小生には、内容が、さっぱりわからぬ。
ただ、前途が、暗黒であることを感ずる。
先生の胸中、父母の心配を思うと、胸が痛む。
地に依って倒れた者は、地に依って起つ以外ない。
この現状を、再起させれば、最大の活躍の証明となる。先生に心から歓んで戴けることだ。阿修羅の如く、奮い起とう。
一、次期経済の樹立方法
二、企画徹底の成就
三、整理の方針の推進
なお、(1)O部長とは、一緒に仕事をせぬこと。(2)先生と直結で、出発すること。(3)W氏より、早く返金して貰うこと。(4)後続部隊の養成。
明日は、N氏と、国税庁にゆくこと。
『レ・ミゼラブル』を読み終わる。
14 八月三十一日(木) 晴
秋来たる。
月光に、虫の音に、詩人の胸は、泉の如し。
秋は、静かなり。
動乱と、激流に、詩人の意思は動ぜず。
秋は、尊し。
慈愛の思念と、正義の戦に進む、鏡の如き季節なり。
秋は、澄みたり。
善悪の、網の真中に、詩人の胸奥は、清らかなり。
秋は、思うこと多し。