Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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東と西  

「わたしの随想集」「私の人生随想」「きのう きょう」(池田大作全集第19…

前後
3  つい先ごろ、この東洋の医術について、ある少壮の医学者と語ったときのことだが、彼の説明を聞くと、漢方医学では、人間の健康を、つねに十二カ月の季節の動きや宇宙全体の現象との関係においてとらえるとともに、人体構造についても、内部と体表との微妙な連関を考察しながら治療を進めるというのである。
 つまり、西洋医学は、人体を諸々の器官、組織に分解し、それを組み合わせたものと考え、分析的である。それに対し、東洋医学にあっては、人体とは、自然、宇宙の現象とともに、つねに変動するものであり、全体が複雑微妙に関連する総体としてつかんでいるというわけである。
 してみると、漢方医学が示す数多の驚異の事実も、その裏に、包括的な生命の哲理が潜んでいることがうなずけるであろう。
 「物とこころ」――西方は、それを対立的にとらえることにより、冷徹な合理主義と強靱な人間個性の醒起をもたらし、世界と自然を人間の支配の鎖につなごうとした。一方、東方は、それとの巧まざる連環に着目し、幽遠な大宇宙とともに静かに居座し、壮大にして悠美な自然的瞑想の世界をつくりだした。
 そして歴史は、ついに東西相まみえることなく、西方が東方を圧する形で近代の栄光と悲惨を一身に体現した。今、二十世紀の後半、その文明が病んでいる。この時にあたり、この文明病を克服する一つの鍵が、この「物とこころ」の正視にあると思うのは、私一人ではあるまい。

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