Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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王さまと靴直しの老人  

「随筆 人間革命」「私の履歴書」「つれずれ随想」(池田大作全集第22巻)

前後
4  仏典に“王さまと靴直しの老人”の逸話が出てくる。
 「その昔、あるところにサッピという王がいた。王はあるとき、ひまを得、そまつな服を着て裏門から城を出た。そしてその途中、一人の靴なおしの老人に会ってたわむれに言った。『世の中でいちばん楽なのはだれだろう』『それはあなた、言うまでもなく王様ですよ』」(前掲『仏教説話百選』31㌻)
 そこで王は、酒を飲ませ、正体もなく酔いつぶれた老人を城内に移し、立派な服を着せる。百官にもそのむね言い含め、王として仕えるように指示しておく。
 酔いが覚めた老人は、自分の立場をいぶかしがったものの、あるいは王になったのかも、と思って玉座に座る。しかし、ひきもきらぬ政務に休む暇もなく、疲労と激痛に襲われ、ぜいたくな料理も食べられず、からだも日に日に衰弱していく。潮時だと判断した王は、再び酒を飲ませて城下にもどす。数日して、おしのび姿の王が訪ねると、老人はこりごりしたように言う。
 「先日はお前さんの酒をいただいて酔ってしまって、王様になった夢をみましたよ。多くの役人の中で国政を裁いたり、いろいろわけのわからぬことを聞かされて、すっかりまいってしまいました」(同前33㌻)と。
 なにも階級制度を肯定する逸話ではない。人それぞれに使命があり、ほかからはわからない苦労もあるということだ。いたずらに他人をうらやんだりせず、要はそれに腰をすえて取り組むことだろう。その努力と挑戦のなかに、人生の前進の一歩一歩が、着実に刻まれていくと思うのである。

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