Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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貧女の愛  

「随筆 人間革命」「私の履歴書」「つれずれ随想」(池田大作全集第22巻)

前後
4  母親の強さといえば、私は、スタインベックの『怒りのぶどう』を思い出さずにはいられない。このアメリカの世界的な名作は、ご存じの方々も多いにちがいない。
 生活の重みに耐えていくことができなくなった父親が、もう一家も終わりだ、と愚痴をこぼすと、“おっかあ”と呼ばれる逞しい母親は「終わっちゃァいないよ、お父さん」(大橋健三郎訳、岩波文庫)と、厳しくたしなめた。
 男というものは、断崖の節々で生きていくものである。しかし、「女ってものは始めから終いまでが一つの流れなんだよ、川の流れみたいにね、小さな渦巻があったり、小さな滝があったりするけど、それでも、川はどんどん流れていくのさ。女はそういうふうにものを見るんだよ。あたしたちは死に絶えやしない。人間は続いていくんだよ──」(同前)
 ここに母という、女性という偉大な哲学の叫びがあった。この文章を読むたびに、私は母というものの偉大さを、まことに絶妙の文章に残していった、スタインベックの深い洞察に、喝采を送りたくなるのである。

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