Nichiren・Ikeda
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日蓮大聖人・池田大作
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貧女の愛
「随筆 人間革命」「私の履歴書」「つれずれ随想」(池田大作全集第22巻)
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「涅槃経」という経典に“貧女の愛”ということが説かれている。
──あるところに貧しい女人がいた。天涯孤独の身で、家すらない。病苦や飢えに責められながら、乞食をしながら諸国をさまよう。とある客舎で父なし子を産む。客舎の主人は貧女を追い払う。産後まもない身でありながら、嬰児を抱き他国へ向かう。その途中、風雨激しく寒さも厳しい。蚊や虻、蜂、毒虫のたぐいが容赦なく襲いかかる。河を渡ろうとしてみずから溺れかかるが、その期におよんでも子どもを手放そうとしない。ついに母子ともに溺れ死んでしまったという。
釈尊はこの例をとおして、正しい法を護持する精神は、死に臨んでもわが子を抱きかかえていた、貧女の愛念の心のようでなければならない、と説いている。無私の愛、あるいは無償の愛といってもよいだろう。そうした捨て身の生き方には、計算ずくではないある人生の真実、日蓮大聖人が「母の子を思う慈悲の如し」と仰せのように、仏法で説く慈悲の精神にも通ずる深さがうかがわれるようだ。
私が『銃後の婦人』を読んで感じたのも、そのことであった。
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母親の強さといえば、私は、スタインベックの『怒りのぶどう』を思い出さずにはいられない。このアメリカの世界的な名作は、ご存じの方々も多いにちがいない。
生活の重みに耐えていくことができなくなった父親が、もう一家も終わりだ、と愚痴をこぼすと、“おっかあ”と呼ばれる逞しい母親は「終わっちゃァいないよ、お父さん」(大橋健三郎訳、岩波文庫)と、厳しくたしなめた。
男というものは、断崖の節々で生きていくものである。しかし、「女ってものは始めから終いまでが一つの流れなんだよ、川の流れみたいにね、小さな渦巻があったり、小さな滝があったりするけど、それでも、川はどんどん流れていくのさ。女はそういうふうにものを見るんだよ。あたしたちは死に絶えやしない。人間は続いていくんだよ──」(同前)
ここに母という、女性という偉大な哲学の叫びがあった。この文章を読むたびに、私は母というものの偉大さを、まことに絶妙の文章に残していった、スタインベックの深い洞察に、喝采を送りたくなるのである。
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