Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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二本の蘆束(あしたば)  

「随筆 人間革命」「私の履歴書」「つれずれ随想」(池田大作全集第22巻)

前後
4  志賀直哉に『和解』という、半自叙伝風の佳品がある。
 父と子の確執と和解を描いた名作だが、そのなかに、子である主人公が、妻の出産を手伝う場面がある。夜明け前のことで、医者が間に合わず、妻の両肩を押さえ、泊まり込みの看護婦と悪戦苦闘、無事出産──。
 「赤子はすぐ大きい生声を上げた。自分は興奮した。自分は涙が出そうな気がした。自分は看護婦のいる前もかまわず妻の青白い額に接吻した。(中略)
 妻は深い呼吸をしながら、自分の目を見上げて力のない、しかし安らかな微笑を浮かべた。
 『よしよし』自分も涙ぐましい気持ちをしながらうなずいた。自分には何かに感謝したい気が起こった。自分は自分の心が明らかに感謝をささぐべき対象を要求している事を感じた」(岩波文庫) 一つの生命の誕生という厳粛な事実、その感動。夫と妻、親と子──。主人公は、ほどなく父との永年の不和にピリオドを打つ。父との和解は、それにもまして、みずからの心との清らかな和解であったであろう。

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