Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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土曜夜店の外人  

「私の人物観」(池田大作全集第21巻)

前後
4  戦火は、またたくまに中国全土に燃え広がり、国を挙げて果てしない泥沼に突っ込んでいった。それとともに、夜店の灯も、いつのまにか消えてしまった。
 あの外人は、どこへ行ってしまったのだろう――私は時折、その寂しげな笑い顔を思い出すことがあった。子供心に、スパイの疑いで捕まり、いじめられているのではないかと思つたりした。戦時下の社会は、外人にとっても住みにくくなっていったようだ。軍国主義の高揚するなかで、そんな外人が夜店を許されたこと自体、今思えば不可解である。昭和十二年の当時は、まだ外国人に幾分か寛大さが残っていたころであったかもしれない。
 近ごろ、さまざまな国の人びとと、交流する機会が多い。そんなときに、ふと、あの夜店の外人を思い起こすことがある。考えてみれば、あのときにいだいた「同じ人間ではないか」という子供ながらの叫び声を、今、自分自身に受けとめているような思いがするのである。
 路傍の思い出ではある。しかし、私にとっては簡単に打ち捨てがたい懐かしさがある。私の記憶の届くかぎり、西洋人との初めての出会いであった。そして、冷たい視線のなかで、にこにこと笑顔をつくりながら語りかけていた彼の言葉は、埋み火のようなぬくもりをもって心に響くのである。
 「ワタシ、ニッポン、ダイスキデス」――。

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