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日蓮大聖人・池田大作

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実社会は、あなたの人間学校  

「婦人抄」「創造家族」「生活の花束」(池田大作全集第20巻)

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2  身近なものへの関心と社会的な関心と
 少々、堅苦しい話になりました。そんなことは、どうでもいいではないか、また当然のことのようにも思われます。しかし、とくに若い女性にとっては、この二つの世界のあり方の違いを理解することは、その後の人生にとって、非常に大切だと思うのです。
 ウェブスターの小説に『あしながおじさん』というのがあります。皆さんも、読んだ方がいるでしょうが、大変愉快な物語です。
 細かい話は忘れてしまいましたが、そのなかで、主人公の女性が、女性は、服装、育児、編み物……なににでも興味をもてる。男性は、そういうことにはあまり関心がない。そこで、“なんて味気ないんだろう”と言っている個所がありました。
 これは大変興味深い個所です。それは、男女それぞれが、関心をいだく世界の違いを表しているように思われます。男性の関心は、政治とか、社会とか、外側のほうへ向きやすい。
 それに対し、女性のほうは、比較的身近なものに向けられやすいようです。もとより、これは相対的に比較しただけであって、個人個人にとっては、必ずしも当てはまらないでしょう。
 それに、現代は、女性の社会的な関心の広がりということが顕著です。女性の男性化、男性の女性化などという言葉も、そんなところから出ているのかもしれません。しかし、男女のそうした特質は、それほど変化しているとは思えません。
 お断りするまでもないでしょうが、社会的な関心と身近なものへの関心とには、決してどちらが優れているか、ということはないのです。ただ、あえて言うならば、若い女性として、その両方の世界に向ける眼をもってほしいと、私は思うのです。「社会に出る」ということ、また、職場の意味も、一つには、そこにあると考えられます。
3  仕事は権利であり、苦役ではない
 ところで、社会に出てから、最も大切なものは、仕事であることは言うまでもありません。男性にとっては、仕事は自分の社会での一生を左右する問題であり、その如何によって、ほとんどが決まってしまうといっても差しつかえないでしょう。
 この点、女性の場合は、男性ほどではないと考えられがちですが、これは誤解です。女性にとっても、仕事は生涯のことです。結婚すれば、大半が家庭を守ることに専念しますが、家庭に入っても、家庭での仕事があります。家事、育児というのは、女性にとって、非常に重要な仕事といえるでしょう。
 このように考えるならば、男性、女性を問わず、人間というものは、生涯にわたって、なにかの仕事に取り組む存在であるといってもいいでしょう。そして、その仕事をとおして、自分自身を磨き、人格の向上を図っていくところに、本能のまま生きる他の動物と、人間との根本的な違いがあるわけです。
 ですから、仕事に対し、どのように考え、取り組むかは、その人の人格を形成するうえで、大事な分かれ目になってきます。私は、これについて、よく言うのですが、仕事をするからには、権利と思うぐらい、能動的にやったほうが、楽しいだろう──と。
 レジャー時代で、最近では、余暇を楽しむ資金のために、仕事をするのだという、若い人も多いようです。私は、それを決して否定するものではありません。ただ、仕事に取り組む以上、それはそれなりに、厳しい姿勢が必要となるでしょう。
 職場とか、仕事とかを、固定して考える必要はないでしょう。しかし、職場はたんなる腰かけではないし、仕事は、与えられた労働──いわば苦役であってはならないのです。
 自分は今、仮にここにいるだけなのだ、将来の本当の生活のための手段なのだ、と考える人もあるかもしれません。しかし、現在の自分、現在の一瞬一瞬を、真摯に、充実して生きることなしに、将来はありえないはずです。
 また、将来ということを考えても、若い青春時代は、それこそ人生の土台を築く時であると思います。自分の与えられた課題、仕事を、自分の権利なのであり、自分を向上させていくための、かけがえのない機会だと考えてほしいのです。
4  誠実さから生まれる信頼
 仕事というものは、実際に取り組むということになれば、どんな仕事でも、決して華やかな派手なものばかりではありません。そこに誤解があってはならないと、私は思います。外見は、賑やかで、大変面白そうにみえる職業でも、実際は、地味な作業と苦労の積み重ねであることが多いのです。
 最近、「ペアー・システム」という言葉が注目されていると聞きました。男女の共同によって、仕事の進行を一層円滑化し、推進するという方法だそうです。すべての仕事に、そのまま応用できるものかどうか、またその実際の効果は別として、これは職場、仕事というものの関係を示しているようです。
 つまり、仕事、広く社会というものは、さまざまな人間関係によって構成されているものですが、その基本的な単位が「ペアー」(対)ということであるからです。
 そういう人間関係のうちで、最も大切なものは何でしょうか。平凡きわまる言い方ですが、私は誠実さだと思います。そこに生まれる相互の信頼ということではないでしょうか。これは、妥協しなさいという意味とは絶対に違います。小才は自分を、結局は苦しめてしまうものです。
 たとえば、約束を守るということです。家庭という自然の温かい世界では、それほど重視されなかったことも、他人と接触する世界では、最も重要なことになるのです。信頼で結ばれた人間関係ということも、所詮は、一つ一つの積み重ねによってつくられていくものといっていいでしょう。
 そこには、当然、失敗もあるでしょう。思わぬことで誤解を生んだりすることも、決して少なくありません。行き詰まって、悲しい思いをしたりすることもあるにちがいありません。しかし、心からの誠実さがあれば、必ず、どんな厚い壁でも乗り越えていくことができると信じます。いわば試行錯誤をしながら、相互の理解が深められていくものです。
 私は今まで、愛情とか、男性との交際とか、結婚の問題とか、皆さん方が最も関心をいだいているかもしれない問題には、ほとんど触れてきませんでした。
 それらも、この人生の学校で学ぶことになるわけですが、私が述べてきたことが、その場合にも、なにかの示唆になるかもしれないと思うのです。

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