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日蓮大聖人・池田大作

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ニシン――実質、世界一の漁業国というけ…  

「わたしの随想集」「私の人生随想」「きのう きょう」(池田大作全集第19…

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1  北海道のニシンは、春先と秋にとれ、それぞれ「春ニシン」「秋ニシン」といわれている。
 今年の「春ニシン」もどうやら不漁で終わったようだ。今年三月、厚田でニシン漁がわずかだがあって、一時明るい希望がもてたが、やはりその後は不漁だったと聞く。いささか寂しい思いがしてならない。直接、ニシン場の活況を見たわけではないが、広い大海原に漕ぎだして、ニシンの群れに挑む戦場のような光景は、さぞ勇壮なものであったろう。
 明治から大正にかけて、しばしば、北海道西海岸では、空前の豊漁、ニシンの群れで、海が真っ白になったというような話をよく聞かされた。積丹や余市には、ニシン御殿が建ったほどだから、その様子もしのばれよう。
 だが、最近は、年々減少の一途で、漁にならないという。かつては、漁期には、秋田、青森あたりから、続々と渡道した人たちも、今日では、すっかり方向転換して、京浜、京葉の工場地帯へ出かけていくようになってしまった。
 ニシンの不漁は久しい。それは、私たちの食卓から、その銀鱗が姿を消し、正月のカズノコが、黄色いダイヤにたとえられるほど、貴重品化したことだけで、すまされる問題ではないと思う。
 魚類は、日本人にとって、豊富で重要な蛋白質源である。昨年も、前年につづき、総生産量は、八百六十万トンと史上最高で、ペルーに次いで世界第二である。ペルーは魚粉生産を主力にしているから、実質的には、日本が世界第一の漁業国だという。
 自然に恵まれ、とり放題であった漁業は、さらに、勇敢と勤勉さをもって、ひたすら漁業区域を拡大し、世界の海へ乗り出していった。だが、もはや範囲の拡大だけでは、片づかなくなっている。
 また、沿岸は、工場排水や農薬、船舶による廃油の不法投棄で、すっかり海水が汚染してしまっている。プランクトンは減り、稚魚は育たず、産卵のために近づく回遊魚たちにも、すっかり嫌われて、逃避されてしまったようである。
 周囲を海に囲まれ、海の幸、山の幸に恵まれた日本という国土観を、もう一度見直さなければなるまい。巨大な海洋も、その浄化機能には限界があることを知らなくてはならない。ここでも、人工が、自然と人間の間に割り込んできた。この地球上の平和は、人類の共存共栄ばかりでなく、自然と人間の共存共栄でなければならないことを痛感している。

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