Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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新婚旅行――高校生が創った新しい送別の…  

「わたしの随想集」「私の人生随想」「きのう きょう」(池田大作全集第19…

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1  よく駅などで、新婚旅行の光景を眺めていると、なんとも華やいで楽しい。新しい人生の門出に、他人ながらも握手でもして、幸せを祝福してあげたくなる。
 ある佳き日、私の知人の結婚式があった。二人とも、同じ高校の若い教師である。生徒たちからも、たいへんに慕われていた優秀な先生であったことは言うまでもない。仲人は校長先生である。
 式も終わり、東京駅から花婿、花嫁の二人の先生は伊豆方面に晴れやかに新婚旅行に出発である。
 新幹線は窓があかない。もはや声の交換もできないので、やむをえず、友だちも親戚の人々も、窓ぎわで、ただ明るい視線を合わせている以外に方法がない。
 するとそのとき、教え子であろう、十人ほどの凛々しい制服を着た高校生が、礼儀正しく見送りにやってきたという。それは発車間際の三、四分前のことらしい。
 タテ50センチ、ヨコ30センチのボール紙に、九つのカタ仮名の文字と、感嘆符(!)と棒(―)の記号、合わせて十一枚を朱墨で書いて持参したというのである。
 彼らは混雑を心配していたが、さほどでもないと察知すると、左右の人々に会釈してから、そのカードを彼らがそれぞれ一枚ずつ持ち、言葉に従い移動したり、下におろしたりしはじめたのであった。すると六種類の言葉ができあがるようになっていた。「ガンバレ!」「アセルナ」「アバレルナ」「アレー!」「アガルナ」「ガターン」というふうに。
 一高校生のアイデアであったらしい。人々は、このほほえましい風景を見て思わずほのぼのとした思いに包まれた。ある放送局の記者は、ぜひこの模様を紹介したいと語っていたというのであった。
 よく雑踏の発車寸前、がやがやしながら窓をたたいたり、どなったり、喧騒にちかい新婚旅行の情景が見られるが、そのなかにあって学生らしい、新しいアイデアに感心したのである。
 いっさいの未来が、青年たちのものであるならば、なんでも古い形を踏襲する必要もないだろう。ただ、決して人々に迷惑をかけずに、真心のこもった愉しい送別のパターンを自由自在に工夫するのも結構なことではないだろうか。
 若い人の特権は、創造に生きることであろう。お金ばかり豪勢にかけた虚構には真実の思い出はない。淡泊な実像のなかに、思い出は深く残るような気がしてならない。

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