Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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急所――ある老練パイロットが体得したも…  

「わたしの随想集」「私の人生随想」「きのう きょう」(池田大作全集第19…

前後
1  物事にはすべて急所がある。
 最近、戦時中、ある爆撃機の操縦士だった人の経験を聞いた。 ──晴天に恵まれた秋の日、爆操(爆撃操縦訓練)に出かけた。隣のメーン・パイロット席には、滞空六千時間の勇士が搭乗してくれた。訓練であるから、めざす“敵”の駆逐艦は右に左に白波を立てて旋回、弾道を避けながら急行していく。操縦のコツは、いかにしてその艦の後方から(真横から狙っても絶対に命中することはないという)、艦の針路と同一の軌道をとるかにかかっている。
 “敵”は、二十二ノットの速力、こちらは、二百ノットのスピード。“敵”は海上。こちらは上空。しかも、発射される爆弾の海上着弾点が、ちょうどうまく艦の位置と重なるように操縦しなければならない。きわめてむずかしい技術を要求されるようだ。
 はるか前方に、駆逐艦が白波をけたてて航行している。訓練が始まった。ベテラン・パイロットが指示を与えてくれる。「右旋回」。鳥瞰した海面では、艦が真っ直ぐに進んでいる。本当に「右」にしてよいのか。一瞬ためらった。
 だが、上官の命に背くわけにはいかない。思いきって「右旋回」した。するとどうだろう。海上の艦も大きく右へ曲がりはじめた。
 ふたたび攻撃態勢に入る。こんどは「左旋回」と上官の大きな声が響いた。下は左折の様子など、まったくみられない。
 名操縦士と定評のあるメーン・パイロットの言に、半信半疑ながらも桿を強く引いた。すると海の“敵”は、左に針路を変え、飛行機の位置は、爆撃に最も適当な直線距離となっている。
 練習を終え、さっそく上官にたずねた。「どうして駆逐艦の針路を先取りできたのですか」と。答えは簡単であった。船尾にスクリューが左右に二つついている──その部分の泡立ちを見ていたのだ。針路を変更するときは、かならずどちらかが強く激しく回転する。これが急所である、と。──たとえ戦時中のエピソードではあれ、面白い話であると思った。
 私たちも、急所を把握したうえで、人生を歩み、社会生活を送りたいものである。急所を知らずに、努力しても、空転に終始する場合が多い。というと、要領よくということと勘違いされそうだが、決してそれとは違うはずだ。急所とは、つねに一〇〇パーセントの努力と、真剣な姿勢の人のみに体得されるものであろう。

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