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日蓮大聖人・池田大作

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海外旅行――憧れの底流に確固たる目的観…  

「わたしの随想集」「私の人生随想」「きのう きょう」(池田大作全集第19…

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1  松の内も過ぎ、華やいだ正月もどうやら落ち着いてきた。
 それにしても、今年の「正月を海外で」という、日本脱出組の増加は驚異的であった。常夏の島ハワイが昨年の四倍で一万三千人。香港、台湾が二万三千人。グアム島が二千人。費用のかさむ欧州でさえ四千人と、占めて四万人を超えたという。この総額は、なんと百億円と聞く。
 レジャーブームも、国内から世界へと広がった。多くの若者に加えて、若い女性の、いとも簡単に海外へ飛び立つ姿も目立っている。社会の大衆化現象が、ついに海外旅行にまで波及したわけであろう。──終戦直後、その日の飯を求めて、寂しい片田舎にまでトボトボ歩いて買い出しに行った、あの暗い時代と比べると、隔世の感を禁じえない。
 科学文明の急速な発達は、交通機関を飛躍的に進歩させ、世界を年々に狭くさせていく。そして、海外旅行を経済的に庶民の手の届くところまで普遍化させてくれた。これは喜ばしいかぎりである。 電波の進展が、地球の裏側の出来事を、いながらにして──しかも同時点で知ることができる時代を招来させたこととあわせて、海外旅行の大衆性も、いっそう、世界の狭さを印象づけることになろう。
 裏返していえば、それは世界各国との親密な交流を濃厚にしていくものであり、この民衆と民衆との心の交流は、ある意味では、戦争のない平和な時代を積み重ねていくともいえまいか。 ひるがえって、何が若者の心を、それほど“海外”へ誘うのであろう──語学のため、見聞を広める等々、多々あるにちがいない。それよりも“公害列島”では、もはや失われた澄んだ大空をハワイに期待し、青々とした海原を緑の島グアムに夢みる気持ちは、わかりすぎるほどわかる。
 ただ、それが浮わついた付和雷同によるものであって、たんなる便乗的な優越感によるものであったとすれば、少々寂しさと、わびしさをおぼえる人もあるだろう。
 海外への憧れも、その底流にはなんらかの確固たる目的観があって然るべきだと思う。それなくしては、青春の輝かしい思い出になるひとときも物見遊山で幻影に終わってしまう場合もあろう。
 正月に海外に行くのも大いに結構。日本で静かに団欒し、思索し、読書し、散歩して暮らすのも結構。要はいかに価値ある正月を過ごし、価値ある青春を送るかである。それは、その人の人生をいかに歩むかという、人生観によるものである。

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