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日蓮大聖人・池田大作

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博物館――庶民文化の遺産保護が平和への…  

「わたしの随想集」「私の人生随想」「きのう きょう」(池田大作全集第19…

前後
1  大阪の“市立博物館”を、初めて見学する機会を得た。ちょうど開館十周年とのこと。短時間ではあったが、館長、学芸課長の、親切にして要を得た解説が、いまだに耳朶に残る。感謝にたえない。
 一階の第一室は、古代の大阪、第二室は中世、そして第三室は近世の大阪と、手にとるように調えられている。
 二階は、“大阪の文化”と題して、民俗資料室、美術工芸室、さらに美術資料室、歴史資料室と、まことに貴重なものが多い。
 三階は、特別展示場である。歴史上の重要文化財や、学問的には高度なものを時によって記念展示するという。
 明王が、豊太閤に贈った冊封文――その精密な文字、詩的な偈文、美麗な布。秀吉が、怒って破り捨てたというのはまったくの嘘である。史実に対する正確な裏付けの大切さを沁々と知る。
 文楽資料の収集は圧巻といえよう。幕末より、明治初期にかけて筆を執ったといわれる田能村順の“浪華大川眺望図”――北摂津の山々をはるかに、淀川と大阪の町を描いた見事にして精確なる掛け軸。西山完瑛の“桜ノ宮風景図”の優雅にして流麗、繊細にして悠然たる大画の前には、しばし足を止めざるをえない。
 決して、華やかな大博物館とはいえない。だが、今は緑の少ないといわれる大阪文化を昇華し、後世に保存しぬこうという洗練された努力が滲みでている。すべての室が、地味な陳列のなかに、生活の重厚さと、伝統美の光沢とをもって、全身を厳しく、そして温かく包んでくれた。
 大規模な、国立博物館もそれなりに価値はあろう――しかし、その地域ごとにこのような地方文化を中心とした博物館が、日本全国に幾千万と建設されたら、どんなに素晴らしいことかと、心ひそかに私は思った。
 戦争反対の売名的運動も、悪いとはいわない。しかし、遠まわりのようにみえても庶民文化の遺産を愛し、研究し、後代に伝えゆく活動のほうが、はるかに平和を守る近道になっているとはいえまいか。
 よく言われる――名君の時代に、文化が栄え、愚王の時代に、文化が滅ぶと。今の為政者は、名君であるのか、愚王であるのか、私は知らない。ともあれ、文化は平和と幸福と栄光への人間宣言の結晶である。
 せめて庶民につながる文化の保護に、大幅な予算を取ってもらいたいものだ。難波文化の、いっそうの開花を祈りつつ。

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