Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

北海道をおもう  

「私はこう思う」「私の人生観」「私の提言」(池田大作全集第18巻)

前後
1  北海道は、東京あたりからみると、憧れの大地である。本州では見られない壮大なる自然の景観、生い繁る原生林、広大な平野、牧歌的なサイロと、放牧の伸びのびとした牛や馬の姿がある。せせこましい都会から、一瞬でも解放されたいと願っている人々には、まことに詩情豊かな土地と感じられるにちがいない。
 先日、地元の人が聞かせてくれた話である。かつては北海道は夏にばかり、旅行者が集中していたという。それが近ごろでは、北海道の本当の味は、真冬であると悟ったのか、冬季に訪れ来る人が、年々に増えてくるようになったというのだ。それも、最果ての地を尋ねて、根室、稚内にも足が延びていると、付け加えて語っていた。
 最近、「知床旅情」がヒットしている。若者たちの、未知の新天地への憧れと大自然への回帰を心の一隅で願っている人間の情感が、微妙に交錯しつつ、一つのフィーリングを生んだのであろう。まさに、北海の地は、青春の夢が残っている、日本でただ一つの新天地である。
 私にとって、北海道は、つねに懐かしき故郷のような気がしてならない。私の恩師の故郷でもあり、父のゆかりの大地でもあったからでもあろう。恩師は、北海道を語るとき、実に楽しそうで、話はなかなか尽きなかった。そんな事実の真実もさることながら、心の真実の話に、いつしか胸はふくれあがり、北海道がわが故郷に思えてならなくなった自分に気がついたものである。
 鰊の話も、たくさん聞いた。名物のミガキ鰊も、あの生干しの歯ごたえ、したたるばかりの油をしみこませた味も、恩師の大好物であり、いつしか私自身の好物となって、身についてしまい、その味は今も忘れられない。それまでは、干からびて、コチコチになったミガキ鰊しか知らなかった。
 野菜も、魚介類も豊富で新鮮である。都会人にとっては、この新鮮さほど魅力のあるものはない。だから、北海道の印象は食べ物ばかりでなく、すべてが新鮮で、みずみずしさをたたえている。まさに青春の国土だ。この感触はいつになってもアニマル経済の犠牲にしてはならないと思う。
 しかし、北海道に住んでいる方々にとっては、そんなに生やさしい生活条件ではないと、お叱りをうけるかもしれない。たしかに、寒冷との闘い、厳しい現実生活のなかに、そんな悠長さはないかもしれないが――その厳しい環境があるからこそ、輝く新鮮さが保たれているといえまいか。
 長い冬をじっと耐えて、スズランも、桜も、菜の花も、さらにアマドコロも、花菱草も一時にパッと咲くのであろう。同じく、この人間性の開花を、北海道の方々がだれよりも知り、感じとっているのは、なによりもうらやましいかぎりである。
 いかなる財宝の持ち主よりも、名声の役者よりも、人間としての消え去ることのない財宝を持ち、さらにその名声よりも深く、気高い、舞台の幸福者であると思っていただきたい。

1
1