Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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三巨頭会談  

「私はこう思う」「私の人生観」「私の提言」(池田大作全集第18巻)

前後
1  私の家では、三人の男の子がいる。長男は小学校五年、次男は四年、三男はまだ幼稚園に通っている。長男の背丈は、いつか女房を追い越してしまった。次男は五十二キロの体重で、学級第一、アダ名を大鵬とつけられた。三男の甘ったれは豆タンクさながら、すばしっこい。
 この三人の子供の世界は、眺めていると、最近、おどろくべき世界になってきた。
 旅行がちの私は、たまたま子供たちとゆっくり話したくなるが、子供の心は私の顔を見ただけで満足らしい。お小遣いとお土産を手に入れると、もうオヤジには用がなくなるほど、彼等は朝から晩まで忙しいようだ。
 お小遣いの投資は、模型と切手だ。戦艦やら航空機で機動艦隊の編成に懸命である。勲章がわりのワッペンも大事にしている。彼等の軍事予算の分捕りは、大蔵大臣の女房を悩ますこと甚だしい。お小遣いは、三人に格差をつけ、なるべく本を買わせるようにと、妻に言ってあるが、この政策は実行不能に陥っている。長男は最高額をせしめるのが当然と心得、三男は二人の兄と同額だと主張してやまない。不平等を唱え、要求貫徹を叫ぶ姿は、組合や議会もそこのけである。
 三人よれば、いつ一触即発するかわからない。戦闘開始は、いつも次男と三男との間で、豆タンクが、大鵬に機関銃をとられたり、大鵬が豆タンクの戦艦に触れてこわしたというようなことが直接原因である。怒気をふくんだ真剣な折衝に、長男がわざわざ参加する。談判決裂、はては三つ巴の喧嘩となり、ときには凄絶をきわめる。ガラスはこわれ唐紙は破れ、空襲をうけたベトナムの民家のようになる。女房の叱声など、耳に入るはずもない。女房は蒼い顔をして、このまま成長したら、いったいどういうことになるかと、行末を案じる。たいがい、大鵬は上下の挟撃にあい、泣いて、終戦をむかえる。
 長男と三男は仲がいい。大国と小国が協定しやすいあの原理だ。対等の国と国は、いつも勢力均衡が破れやすい。
 ある日、珍しいことに、三巨頭はしずかに懇談中であった。その日の卒業式の模様を長男が語り、「君が代」が議題になった。
 「『君が代』はどうもピンとこないなア、もっと勇ましい歌のほうがみんな喜ぶと思うよ」 長男のこうした提案に、大鵬は言った。
 「歌わなければいいじゃないか。そんなつまらない歌?」
 三男も巨頭のひとりである。
 「『君が代』って何さ。おしえろ!」と大鵬におそいかかった。
 甘ったれの豆タンクは、しばしば幼稚園を休む。園長先生から注意があって、女房が連れていくと、道の途中で豆タンクは動かなくなり、「ぼく、イヤだよ」と悠然と帰ってきてしまった。女房は賢母に早変わりし、縄でしばって、倉庫に入れようとしたら、豆タンクはニヤニヤ笑いながら縛につき、自分からすすんで倉庫に入っていった。一時間もすると、中で棒かなにかを使い、錠前をはずし、いつの間にか友だちとのんびり遊びくるっていた。――これでは賢母の面目、カタなしである。
 大鵬には苦手がひとつある。それは運動会のかけっこだ。重たい体で、いつも最終の生徒よりさらに十メートルぐらい遅れるらしい。女房も運動会だけは苦手だ、とこぼすが、昨年の秋は、大鵬は意気揚々と帰ってきた。転んだ子が二人いたので、ビリにならなかったというのだ。長男のいつもの一等よりも、大鵬はよほど嬉しかったらしい。
 夜になれば、わざわざ三人いっしょに風呂に入って、海国男子の面目にかけて騒ぐ。風呂桶は二度も底をぬいてしまった。
 風呂上がりの体にパジャマを着、ナイト・ガウンをひっかけると、レスリングの選手となる。蒲団は絶好のマットで、心ゆくまで技を競うのはよいが、狭いわが家は地震の襲来となる。
 連日連夜の鍛錬の結果か、このごろ、めっきり相撲が強くなってきた。絶対にオヤジを負かそうとする敢闘は、馬鹿にならなくなった。ときに、オヤジの心胆を寒からしめ、真剣にならなければならなくなった。
 ある夜、豆タンクがパジャマに、背番号14を書いてくれ、と甘えてくる。自分で書けば、ママに叱られることを承知している。
 「どうして、14でなければいけないのか?」と私が聞くと、大鵬が口を挟んだ。
 「パパ、そんなこと知らないの、あきれた」
 彼らの博識によると、巨人軍の死んだ沢村名投手の背番号であったというのである。目下雑誌『少年サンデー』の漫画で活躍中の九番打者、郷四郎という人物は、実はこの沢村投手をモデルとしている、と教えてくれた。
 大きくなったら、何になると聞けば、必ずといっていいほど、野球選手という。造詣の深いはずである。
 私は三人の現代っ子にお手あげの形であるが、健康であることがありがたい。いずれ成人し、社会に出たら、人に迷惑をかけず、平凡に暮らしてくれればよい。ただ一つの注文は、いかなる時代がきても、正義の人になってもらいたいことだ。
 豆三巨頭も、二十年後には、それぞれ自分の現代っ子を持つに至るであろう。若い父となった彼等には、時代は何をもたらし、何が待っているだろうか。

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